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第三話 使えない魔法

魔獣討伐。主にそれは最高位護衛魔法使いのエリアナに課された重大任務であった。


普通、魔獣討伐では護衛魔法使い達を「国内護衛区域班」と「国外護衛区域班」、「他国護衛区域班」の3つの班に分けて討伐を行う。

今エリアナが所属しているのは「国外護衛区域班」である。これは3つのどの班よりも大変な任務を行う班であるらしい。主に行うのは魔獣が国内に入る前に討伐し終えることだった。


もともとリーフテイル王国では魔獣の出現個体数も多く、それに加えてそれぞれの個体の一匹一匹が上位魔獣ほどの力を兼ね備えているのだ。他国とは全くと言ってもいいほど、魔獣の勢力は比にならなかった。


そのため、通常は国外護衛区域班には護衛魔法使いの中でもトップクラスの数名を配属して、班全体の指揮を国のトップ、最高位護衛魔法使いに行わせるという決まりであった。


しかしエリアナは国王に言った。


「一人でやらせてください。」と。


もともとあった決まりを変えることは本当は難しいことだったが、エリアナは国王からのお墨付きということもあり、国王はすぐにそれを承諾した。

しかしそれは、もしものときに援護の魔法使いが出せるようにそれぞれ4つの西門、東門、北門、南門の前には数人、魔法使いを配置しておくという条件のもとで決められた新しい決まりだった。

だが、今までに、エリアナが魔法使いに援護を頼むようなことは一度もなく、他の魔法使いから遠く、見えない場所まで魔獣を追いやって討伐後はさっぱりとした顔でいつも帰って来るのだ。

そこまでしてエリアナが一人で国外区域の魔獣討伐をすることには理由があった。


ーー闇魔法の使用がバレないようにするため。


闇魔法を魔獣討伐で使用していることはリンネには言っていない。言ってしまえばリンネとの使い魔契約での約束を破ってしまうことになる。


”魔獣に闇魔法を使わない”という約束を。


エリアナは小さい頃から闇魔法が使える体質だった。そして、闇魔法が一番うまく扱えた。その集落はリーフテイル王国内にあるわけでもなかったため闇魔法は別に禁断魔法ではなかったが、やはり世間から”魔族の魔法”と呼ばれるほどなので集落の人々は皆、エリアナを気味悪がって避けていた。

しかし、この魔法のお陰で集落に来た魔獣を倒したりして集落を守ることが出来たのだ。そこで闇魔法は他の魔法よりも早く魔獣を殺すことができることも知った。


※ ※ ※


エリアナ自身も約束を破るということはすごく罪悪感も残るもので出来たらしたくないと思っていた。

しかし、リンネとの契約の時からその要望には答えられないとわかっていた。だからリンネにはその時だけ「うん。」頷き、約束をしたフリをした。


本当はもう、リンネと契約した後も、契約をする前からもずっと闇魔法を使って魔獣討伐を行っている。

エリアナは自分がどれだけ卑怯なことをしているのか重々、承知していた。だが、リンネと出会う前のエリアナはずっと引きこもっていたし、召使以外の誰かが会いに来てくれるわけでもなかった。それがたまらなく寂しかったのだ。


だから、リンネと出会ったとき本当に嬉しかった。友達になりたい。一緒に話したい。一緒に戦ってほしい。いろんな欲望がエリアナの心を支配していき、結局リンネと嘘の約束を交わすこととなってしまった。


そのため、エリアナは自分が闇魔法を使っているところを他の魔法使いに、そしてリンネにバレないようにするために、闇魔法を使用する際は人目のつかない少し遠くで魔獣討伐を行ったりした。また、闇魔法の応用で少しだけ性質を変化させて無理やり闇魔法特有の黒色を消し、火属性の色の赤色に色を変えたりと闇魔法の隠蔽は徹底して行っていた。


しかし、それはリンネにバレていたということが最近になり判明した。

いつからバレていたのだろう。そしてそれを知ったときリンネはどんな気持ちだったのだろう。

リンネが「闇魔法を魔獣に使わない。」という約束をエリアナに持ちかけてきた理由に関してはあの時、聞いても答えてくれなかったので分からなかった。しかし、何か事情があるのだろう。


その事情を持ちながらも、闇魔法を使用する私に付いてきてくれたリンネの優しさ、そしてその約束を破っていたと気付いたこともをずっと言わずに我慢していたリンネのことを考えると胸の奥が縛り付けられるように悲しい気持ちが溢れ出てきた。


「私、どうしよう...。」


エリアナはリンネとの約束にずっと嘘をついてしまったことを後悔した。

しかし、もう闇魔法しかエリアナにはないのだ。

当然、闇魔法が手っ取り早く魔獣を倒せるなどという理由でない。


エリアナにはもう一つ、闇魔法を使う真の理由があった。


※ ※ ※


「エリアナ様!」


大きな呼び声とともに勢いよく部屋の扉が開かれる。


「大変です!超大型魔獣が東門付近に出現しました!龍型の魔獣です!城の出口に馬車を用意しておりますので、準備が出来次第、至急東門へ向かってください!」

「はい!了解しました!」


エリアナは急いで馬車に乗り込む。

ここ最近、龍型の魔獣と戦うのは久しぶりなので少し緊張する。


ようやく東門へ着くとそこからは確かに大きな赤い龍の姿が見えた。

エリアナは魔法を出そうと杖を構えた。そう。闇魔法以外の魔法を出そうと。

「きっと、大丈夫...大丈夫なはずです...。」

しかし、エリアナの杖から魔法は出ない。

エリアナは杖に魔力を流し込み全意識を集中させた。


すると杖からは炎魔法のような赤い火が出てきた。

「やった...!」

エリアナは喜んだ。

しかし、そう簡単にはいかなかった。

「...っ!ごほっ...。ごほっ...!」

エリアナは急に咳き込みだした。エリアナは口元に当てた手のひらを見る。そこに見えたのは真っ赤な液体が手のひらを覆い尽くしている光景だった。

まずい。

もう一度エリアナは杖に魔力を集中させて今度は水魔法をだそうとした。しかし、またもや出るのは真っ赤に染まった赤い血だけ。


エリアナはもう、闇魔法以外の魔法が使えなくなっていた。


なぜだかはわからない。闇魔法の使いすぎで使い方を忘れてしまったのか、あるいはまた他の理由があるのかーー。

エリアナは他の魔法も出そうと奮闘する。ここで闇魔法を使ったら本当にリンネが離れていってしまうと思った。


エリアナが魔法を出そうと奮闘していると視界の中に一つの影が見えた気がした。よく見るとそこには一人の少年が走って東門に向かっているのが見えた。


エリアナが少年に気づいた瞬間、龍も少年の方を向いた。そしてそちらに向かっていった。


「やばいっ...!」


エリアナは慌てる。ここで他の魔法を出そうとして時間をかけたら少年はそこで死ぬ。

少年を助けるには闇魔法を撃つしかない。でも今エリアナがいるのは東門からすぐの場所だったためここで闇魔法を撃てば誰かにバレるかも知れない。色を変えて誤魔化すにも近くで見られてしまうと他の魔法とは異なった闇魔法特有気配も、色を無理やり変えた不自然な色もきっとすぐにバレてしまうだろう。

しかし、援護の魔法使いがいるのは東門の内側、援護の魔法使いがそこから出てくることがなければ見られることはない。


しかし、そんなエリアナの願いは虚しくエリアナが魔法を撃つ音が聞こえず、緊急事態だと判断した魔法使いたちは東門から勢いよく出てきてしまった。


「エリアナ様!大丈夫ですか!」

魔法使いたちは血を吐いたエリアナを見て驚いたように目を見開く。

「...!エリアナ様を援護しろ!攻撃開始!」

魔法使いたちは一斉に魔法を撃ち始める。しかしその魔法が硬い龍の皮を撃ち抜くことはなかった。

エリアナにとってはここから龍を撃ち抜くことは簡単だったが、他の魔法使いにとってはこの距離から魔法を撃つことは至難の業だった。

そんなことを考えているうちに龍は一歩ずつ一歩づつ少年に近づいていった。


ここでやらなければ、少年が死ぬ。


エリアナは耐えられなくなりついに杖を力強く握りしめて魔力を流し込んだ。

杖から出る黒い光を出すその魔法は一回り、また一回りと大きく膨らんでいった。


そしてついにエリアナは杖からその魔法を撃つ。

撃たれた魔法は瞬く間に龍の胸を打ち抜き、龍を倒した。

そして少年は目を丸くしてその場に座り込んだ。


倒れた龍を見た魔法使いたちはびっくりしたように目を見開いた。そしてエリアナを見る。

エリアナの杖からは白い煙がもくもくと上がっていた。そしてエリアナは咳き込みながら血を吐いた。そしてエリアナの目からは一粒の涙が頬を伝った。


「エリアナ様...。あ、あなたはっ...!」


※ ※ ※


「エリアナ・シルバーリーフ、お前をこの国から追放とする。」

エリアナはあの翌日、国王からそう告げられた。


最後の最後でエリアナがニートになりました!やった話が進む、、、。次回もよろしくお願いします。

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