第4話 救世主
ふんわりと花の香りをさせた春風が、少女の、靡かせるには少し短い銀髪を微かに揺らす。
その風に打ちつけられた花びらは、軽やかに浮かび上がると、やがて揺蕩いながら落ちてゆく。
羽衣を纏ったかのような彼女の姿は、まるでいつか夢見た女神のようだった。
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「おーい、起きて」
少女の呼びかけに、ふと夢から覚めた。
それと共に、目の前に光が宿る。
「…あ」
「おはよう」
最初に目に飛び込んできたのは、先程の薄暗い路地裏であった。
そして、次に視界に映ったのは、羽を広げた銀髪の少女だった。
そのコントラストに、思わず目眩がする。
「起きたばっかで申し訳ないんだけど、もうさっきの連中がそこまで来てるから」
まだ意識が朦朧としている。
とりあえず脳を覚醒させるため、頭を動かす。
まず、先程の路地裏にいるという事実から、俺は生きているはずだ。
とはいえ、あの状況で死を回避できる訳はなかった。
あそこから連中の気が変わることなど、到底想像できたものではない。
となれば。俺は恐らく、この少女に助けられたのだろう。
羽を生やしていることからも恐らく…この少女は天使だ。彼女の持つ異能力が、俺を救ってくれたのだろう。
「あの…聞いてる?」
とりあえず感謝を伝えなければならない。
「ああ、本当にありがとう、助かった」
そう感謝を伝えると、その女はこちらに向かって思いきりビンタをしてきた。
「っ…!?なんで…?」
「あなた、意識がどっか行ってたみたいだから。頭は冷えた?もう一度言うけど、さっきの連中、もうそこまで来てるの」
その一言で、遠のいていた意識がふと現実に戻る。
「なんだって?」
助かったのだとそう信じたいがために、無意識下でもう自分は安全であると認識していた。
横になっていた体を起こしながらバッグを脱ぎ捨て、体勢を整えて改めて彼女の方を向く。
「んで、見たらわかると思うけど私は天使。さっきは私があなたを助けた」
「あ、ああ。本当に助かった、ありがとう」
「うん。私が助けた。」
何やら恩着せがましさを感じる。が、命の恩人にそのような感想を抱くのは流石に失礼かと思い、頭の中で訂正する。
「本題に入るね。まず、私はあなたを助ける義理はない。だから、このままだとあなたは連中に殺される。」
唐突にそう突き放され、言葉に詰まる。
だが、既に状況が理解できるようになった頭は、それにうなずいている。
「…だな。それで?俺はどうすればいいんだ」
「…それは生きたいってこと?」
「あ、ああ。」
あまりに当然すぎる問いに、かえって言葉が詰まる。
「そう。なら、私と契約して」
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