第89話『今度の新会長は融通が利かない』
団地の暮らしの中で、誰かが声を上げなければ進まないことがあります。
たとえ嫌われても、筋を通す覚悟が必要な場面です。
今回は、そんな「自治のリアル」を描きました。
総会という日常の一コマの中に、
人の思いと衝突、そして静かな決意を込めています。
5月第3週の日曜日、午前10時。
九潮団地の集会所には三十人ほどの住民が集まっていた。
これは団地の運営に欠かせない住民総会。
新役員の承認や予算案の説明を行い、終了後には議事録をまとめて地域センターに提出しなければならない。
公的にも必要とされる手続きであり、自治会の一年間を方向づける大切な場だった。
開始直前まで、いのりは副会長の哲人と資料を突き合わせていた。
名簿に並ぶ出席者、集められた委任状の束、そして委任状を出していない欠席世帯の数。
総会の成立要件はすでに満たされている。
いのりは何度も確認を繰り返し、哲人とうなずき合った。
「大丈夫、成立はしてる」
その確信を胸に、壇上へと向かう。
右隣には副会長の哲人。
左隣には、当然のように腰を下ろしているビシ九郎。
誰も気に留めることなく、空気のようにそこにいる。
いのりは横目でちらりと見て、小声で囁いた。
「……ビシ九郎、なんでいるの?」
「ワイはいつもこういうの参加しとるやろ。それにな、今日は荒れる予感や。楽しみやで~」
「……やめてよ」
いのりは思わず苦笑し、喉を潤すように配られたペットボトルのお茶に口をつけた。
緊張はしている。
足は小さくプルプル震えていた。
だが、逃げる気持ちはなかった。
マイクを握り、会場に向かって声を出す。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。これから新役員の承認と、予算案のご説明、そして運営に関する課題についてご報告します」
そのとき、前列の高齢女性が声を張り上げた。
「まずは出席状況の確認でしょ!? 総会が成立してるかどうか発表しないと!」
会場がざわつき、咳払いが混じった。
いのりの足がさらに小さく震える。
だが焦りはなかった。
成立要件を満たしていることは、すでに副会長と確認済みなのだから。
「はい。なので、これから順番にお伝えしますから、よろしいですか?」
淡々とした返しに、高齢女性は一瞬ポカーンとした。
(……あれ? 普通ならタジタジして従うはずなのに……)
自分が余計な口を挟んだような空気が流れ、頬を引きつらせる。
「ふ、ふん! 分かってるならいいのよ!」
そう言い放ち、背もたれに体を預けた。
その様子に広報のママさんは思わず息をのむ。
(今日の会長……ただの可愛らしい子じゃない。強い……?)
いのりは冷静に告げた。
「それでは、成立要件のご報告から始めます」
成立要件の確認と予算案の読み上げが終わり、会場は少し落ち着きを取り戻した。
いのりは次の議題へと進む。
「次に、集金についてご報告します」
その一言で、会場の空気が再び緊張を帯びた。
「本来は毎月、それぞれ集金当番の住民が担当する部屋を回って集め、会計係に持っていくというルールになっています。ところが最近、このルールを無視して、勝手にまとめて払おうとする住民が出ています。そのため会計係が大変困っている状況です。まとめ払いは認めません。今後もしないでください」
はっきりとした言葉に、どよめきが広がった。
その瞬間、前列に座る2階住人の老夫婦が身を乗り出し、机を叩いて声を張り上げた。
「なぜいちいち上の階まで集金に行かなきゃいけないんだ! 足も痛いのに、そんなの無理だ!」
一斉に視線がいのりに集まる。
緊張で足は小刻みに震えていたが、声は落ち着いていた。
「風張家も、エレベーターのない最上階の五階に暮らしています。同じように最上階に住む高齢者の方もいらっしゃいます。その方々は毎日の生活で階段を上り下りしています。それに比べたら集金当番なんて、実際は年に数回です。甘えないでください。そのときだけ上の階へ行くのが嫌だという理由でルールを崩すと、会計係に余計な負担がかかります」
いのりは一呼吸置き、さらに言葉を重ねた。
「しかも、勝手にまとめ払いをすることで、本来回ってくるはずの集金当番を逃れている側面があります。“うちはまとめて払ったから当番を飛ばして”と勝手に役割から外れる住民がいます。結果的に、真面目に当番をこなしている住民が割を食って、当番の回数が増えて困っているんです。しかも“まとめ払いしてる人がいるなら、自分もそうしよう”という流れも生まれています。この連鎖が広がれば、制度そのものが崩壊しかねません。だからこそ、勝手なことをするのは絶対にやめてください」
老夫婦は顔を紅潮させ、さらに声を荒げた。
「若いからそんなことが言えるんだ! 足の痛い人の気持ちが分からないんだ!」
いのりは一度視線を落とし、呼吸を整えてから顔を上げた。
「足が痛いというのは、理由にはなりません。“足が痛いから”といって毎月の家賃を払わないことは通用しませんよね?それなら、自宅まで集金を持ってきてもらうように担当の住民さんへお願いしてください。会計係のところに直接持っていくのも大変なら、会計係に事情を伝えてください。会計係から回収に伺います。これは住民同士のコミュニケーションの問題です。そういった努力をしていただければ、まとめ払いを押しつける必要はありません」
場内に一瞬の静寂が走った。
返す言葉を失い、老夫婦は顔を見合わせる。
その隙を逃さず、いのりはさらに強調した。
「繰り返しますが、集金当番は年に数回しか回ってきません。小さな負担を嫌がってルールを壊すことは、住民全体を苦しめる結果にしかなりません」
ざわざわと小声が広がる中、ビシ九郎がぼそりとつぶやいた。
「いのすけ、ええ返しや。こういう連中は感情で押し切ろうとするけど、現実を突きつけられると詰むんや」
副会長の哲人も冷静に補足した。
「会長の言う通りです。まとめ払いを個人の事情で認めてしまうと、会計係の負担が増えるだけでなく、今後の役員を避ける人も増えてしまいます。公平に続けるためには、ルールを守るしかありません」
広報のママさんは目を丸くし、心の中でつぶやいた。
(会長って、ただの可愛らしい女子高生じゃない……。場数を踏んで、冷静に人を黙らせる力が備わってきている……)
会場のざわめきは完全に消えはしなかったが、いのりの言葉で流れは確実に変わりつつあった。
会場の空気が少し落ち着きを取り戻しかけた、そのときだった。
奥の席から、年配の男性が立ち上がった。元会計役員の経験がある人物で、まとめ払いを推進している一派のひとりだ。
「私は別に大変だとは思わない。会計なんて、お金を分けて管理しておけばいいだけだ。昔からそうやって工夫すれば済む話じゃないか!」
その声に、待っていたかのように数人の住民が一斉にうなずいた。
「そうだ、負担なんて大げさに言ってるだけだろ!」
「若い子がわかってないんだよ!」
「認めてやればいいじゃないか、ちょっとくらい融通をきかせても!」
ざわめきは次第に大きくなり、前列の老夫婦が再び机を叩いた。
「そうだそうだ! 足が痛いのに上の階に行かされるなんて酷い仕打ちだ!」
「役員だからって偉そうに言うな!他人の苦労を知らんだろ!」
怒声に押されるように、事なかれ主義の住民たちまでが口を挟み始めた。
「まあまあ、事情がある人には認めてあげてもいいんじゃないか……」
「会計係だって慣れればどうにかなるだろう」
収拾がつかない。
会場の熱気が一気に荒れ模様へと傾いていった。
いのりは机の下で手をぎゅっと握りしめた。
足はまだプルプル震えている。だが目は逸らさなかった。
その時、副会長の哲人が静かに口を開いた。
「大変かどうかは個人差があります。現に今の会計係は負担を感じて困っています。“私は平気だった”と押しつけるのは違います。もし私が会計係だったとしても、正直まとめ払いをされると管理が面倒で嫌ですね」
その冷静な言葉に、一瞬だけ場が静まった。
だがすぐに別の住民が立ち上がる。
「面倒くさい? そんなの役員なんだから当然の仕事だろ!」
「嫌なら役員なんてやらなければいいんだ!」
「自治会長だって子供じゃないか! そんな子に何が分かる!」
次々と浴びせられる言葉。
老夫婦も負けじと声を張り上げた。
「私たちは毎月の掃除にも出てる!総会にもこうして顔を出してる!全く出てこない連中だっているのに、なんで私たちばかり責められるんだ!」
場内の怒号が飛び交い、椅子を引きずる音まで響いた。
空気は完全に荒れていた。
その瞬間、ビシ九郎がふっと鼻で笑い、小声でつぶやいた。
「いのすけ、論点ずらしやで。本質を見誤ったらあかん。こういう連中は行き場を失うと、こうやって論点をすり替えて攻撃してくるんや。まともに反論してたら時間がいくらあっても足りん」
哲人も冷静に補足する。
「つまり、ちゃんと相手にダメージが伝わっているということです」
いのりは深くうなずき、話を元に戻すように口を開いた。
「掃除当番と集金当番は別の問題です。掃除当番については、これまで通りきちんと回していきますし、守られていない部分があれば別途告知を出します。ご意見ありがとうございます。では、話を戻します」
会場の空気が再びざわめく中、いのりは正面を向き直した。
その瞳は震えていなかった。
「……役員は、住民全員のために公平に仕事をしています。ですが、一部の方が勝手にルールを無視して負担を増やし、そのツケを自治会に押し付けるのはやめてください。その結果、団地全体が困ることになるんです。また“自分ができるから、他の人もできるはずだ”という考えは通りません。会計係が困っていると言っているんですから、本来必要のない余計な仕事を押し付けるのはおかしいです。」
冷たい声が響き渡り、会場に一瞬の沈黙が走った。
そのとき、ビシ九郎がにやりと笑ってつぶやいた。
「いのすけ、ええぞ。その調子や。……“俺は平気やった”なんて言い分は、ただの武勇伝やからな」
言葉の刃が場を貫き、住民たちは一瞬押し黙った。
いのりは頷き、会場を見渡した。
「ここは皆さんの意見を尊重して、できるだけ譲歩も考えました。ですが、個人的な感情や経験を根拠にルールを崩すことはできません」
しかし、まとめ払い推進派の文句は消えなかった。
「……わかりました」
いのりはざわつく会場の中で、一呼吸置いて言葉を紡いだ。
「話がここまでまとまらないことは想定していました。ですので、副会長と相談して、自治会として譲歩策を考えてきました」
住民たちの視線がいのりに集中する。
空気がピンと張りつめる。
「まとめ払いを希望する方には、“まとめ払いグループ”を組んでいただきます。その中から代表者を一人決めて、その代表が毎月、人数分の集金を期日通りに会計係へ届けることを条件とします。それ以外のまとめ払いは認めません」
驚きや戸惑いの声が上がる。
「なんだそれは……」
「代表者なんて誰もやりたがらないぞ……」
いのりは続ける。
「このグループは自治会役員とは異なる“非公式”な存在です。代表になっても役員報酬はありません。まとめ払いグループのルールは自由に決めていただいて構いませんが、紛失や内部トラブルが起きても自治会は関与しません。また、まとめ払いグループに参加する方は、今後の自治会役員選出から除外します。理由はルール違反をする住民と同じ扱いだからです。グループからの支払いが遅れれば即刻グループは解散させます。そして、その後はまとめ払いを一切認めません」
静寂。
老夫婦が口を開きかけたが、言葉は出なかった。
いのりの声は震えていたが、その意志の強さは部屋の隅々まで届いていた。
「では、まとめ払いの代表を引き受けてくださる方。今、この場で手を挙げてください」
しかし、誰一人として手を挙げない。
会場の時間だけが重く流れる。
「“事情があるなら認めてあげたほうが良い”、“まとめ払いをしても会計の負担にならない”と発言された方が責任を持って代表をしていただいても構いませんよ。いかがですか?」
哲人が当該住人に話を振る。
だが、誰もが目をそらして責任から逃れる。
沈黙の後、いのりはきっぱりと告げた。
「……誰もいないようですので、この話は無かったことにします。なので、今後もまとめ払いは一切認めません」
その一言が、会場に重く響き渡った。
誰も反論できず、ただの沈黙が降りた。
その場を覆っていた熱気が一瞬で冷たく沈む。
住民たちは口を開きかけては閉じ、ただ椅子をきしませる音だけが残った。
しかし、まだ議題は残っている。
いのりは深呼吸し、机の上に置かれたお茶のペットボトルを一口飲んでから、マイクを握り直した。
「続いて、自転車とバイクの駐輪場についてご説明します」
その言葉に、再び会場がざわめいた。
「現在、許可を出している駐輪台数は、駐輪スペースを大幅に超えています。このままでは駐輪場が機能せず、完全に無法地帯になります。したがって今後は一世帯につき自転車一台までとします」
途端に怒声が飛んだ。
「子どもの数だけ必要に決まってるだろ!」
「通勤や通学はどうするんだ!」
「不便を分かってない!」
「今まではそれで上手くいっていたのに!」
次々と浴びせられる反発に、いのりは淡々と返した。
「私も気持ちとしては、希望する方全員に許可を出してあげたいと思っています。ですが現実的に見れば、駐輪場はすでに飽和しています。許可シールが貼られているのに、行き場を失って駐輪場から溢れたバイクが邪魔になって苦情の元になったりもしています。これ以上許可を出せば完全に機能しなくなります。物理的に不可能なことは、不可能なんです」
一呼吸置いてから、さらに言葉を重ねる。
「私の家庭も、自転車は母がパートに使う一台だけです。私は学校へ通うとき、徒歩とバスを使っています。出かけるときは電車を乗り継いでどこへでも行けます。湾岸とはいえ、ここは東亰。地方の田舎に比べれば圧倒的に便利です。バスも電車もありますし、団地の中にはシェアサイクルのポートも複数あります。どうしても必要なら近隣の民間駐輪場を借りてください。タクシーだって無数に走っています。団地の中には大型のショッピングモールもあります。買い物ができないということはありません。だから“自転車がなければ生活できない”というのは理由になりません。それはただの甘えです」
「甘えだと……?」
「なんて口の利き方だ!」
怒りの声がまた飛ぶ。
だがいのりは、まっすぐに住民たちを見据えた。
「私は意地悪をしたくて言っているのではありません。感情ではなく事実を伝えているだけです。実際に、一世帯一台の制限を設けている団地や、駐輪場自体が存在しない住宅もあります。私たちは一台分を認めてもらえるだけでも恵まれているんです。もし駐輪場から自転車があふれて無法地帯になるでしょう。近隣から苦情が来たとき、代わりに対応していただけますか?できないのであれば、どうか感情的に物を言わないでください」
沈黙が落ちる。
いのりは最後の釘を刺した。
「また、現在無断で駐輪している自転車は、防災係と協議のうえ、すべて撤去対象とします。ルールを守らない方のために、他の住民が迷惑を受けることはこれ以上認められません。ご理解とご協力をお願いします」
広報のママさんは固唾をのんだ。
(……甘やかしてくれると思ってたら、ここまでバッサリ切るなんて。この子……ただの可愛い会長じゃない)
ざわめきの中、いのりは冷静に宣言した。
「私のやり方が気に入らない方、新役員として承認できないという方は、今ここで手を挙げてください。代わりに、この場で今年度の会長を引き受けていただきます。私が会長をやらなくて済むなら、それはそれで構いません。責任を持って声を上げられる方がいるなら、どうぞ」
会場に緊張が走る。
だが、誰一人として手を挙げる者はいなかった。
顔を見合わせるだけで、誰も
「やります」
とは言えない。
「どなたもいらっしゃらないようですね。……では皆様、ご理解のほどよろしくお願いします。私を自治会長に選んでくださった以上、責任をもって全うします。住民の皆さんも、この方針に従ってください」
その冷たい響きが、会場を圧した。
しんとした空気の中、大矢相談役が立ち上がった。
「全部会長の言う通りじゃ。ワシは従うぞ」
その言葉に続くように、ゆっくりと手を叩き始める。
ためらいがちに一人、また一人。
拍手はやがて大きな波になり、会場全体を包んだ。
納得でも諦めでもなく、女子高生会長への驚きと、一目置かざるを得ない感覚。
住民たちの胸に刻まれたのは、『甘く見ていたら足元をすくわれた』という衝撃だった。
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総会が終わり、住民たちが引き揚げた集会所には、しんとした静けさが戻っていた。
机の上には、開けられたままのペットボトルや折り目のついた資料が散らかっている。
さっきまで荒れ模様だった空気が嘘のようだ。
副会長の哲人が資料を片付けながら、ため息まじりに笑った。
「結局、“まとめ払いグループ”って名前をつけただけで、実質禁止と同じだよな」
ビシ九郎が椅子の背もたれにのそりとかかり、ニヤリと口角を上げた。
「せやな。毎月ちゃんと会計のところに持ってこさせるんやから、まとめ払いなんか認めてへんのと同じや。けど“絶対ダメ”って正面から突っぱねるより、こうやって譲歩の形に見せるほうが角が立たんのや。住民の感情も少しは和らぐ」
いのりは机に両肘をつき、深く息を吐いた。
まだ心臓はドキドキしている。けれど、不思議と後悔はなかった。
「そう……実は認めてないのと同じ。でも、私は行動で示したかったから」
哲人は苦笑しながら頷いた。
「ただの武勇伝どころじゃないです。今日の会長は本物でした」
「いのすけ、ええぞ。こういうのは荒れたほうがおもろいからな」
ビシ九郎の低い声が、がらんとした集会所に柔らかく響いた。
いのりは小さく笑い、プルプル震えていた自分の足をそっとなでた。
「…総会…終わったんだ」
その小さな肩に、哲人がそっと手を置く。
「お疲れ様です。住民の反発も全部受け止めて、筋を通した。俺も横で支えていて、頼もしかったですよ」
「……ありがとう。副会長が隣で支えてくれたから最後までいけた」
いのりが照れくさそうに笑うと、ビシ九郎が大きなあくびをして言った。
「ワイも隣で見とったで。感情剥き出しの高齢者相手に、よう言い切ったな。居酒屋でクソ客相手に接客してきた店長みたいやったで」
「……ふふ。ありがと、ビシ九郎」
三人の会話だけが、片付けの音に混じって集会所に残った。
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数日後。
団地内で買い物をしていた母・きよのが、住民から耳にした噂をいのりに伝えてきた。
「いのり、『今度の新会長は融通が利かない』って、結構言われてるみたいよ」
「……やっぱり嫌われたんだ」
小さくため息をつくいのり。
だが、母の次の言葉に目を見開いた。
「でもね、逆に『わかりやすくていい』って言う人も多いんだって。何を言っても通じないくらい筋が通ってるから、凄く信頼できるって」
「……そうなの?」
意外な反応に、いのりはしばし言葉を失った。
嫌われることを覚悟していた分、その評価は胸にじんわり響いた。
窓の外に広がる湾岸の空を見上げ、いのりは心の中でつぶやいた。
(よし、しっかりと頑張るぞ!)
あの日、震えていた足はもう静かに落ち着いていた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
会議や総会というのは、一見地味で退屈に見えるかもしれません。
でも、その裏には暮らしを支えるための葛藤と責任があります。
いのりはまだ若く、完璧ではありません。
けれど、彼女なりに真剣に考え、行動する姿を通して、
“正しいことを貫く勇気”を少しでも感じてもらえたら幸いです。
次回はまた少し違った空気でお届けします。
これからも応援よろしくお願いします。




