第34話『団地にいる天使たち』
前回は涙の誕生日サプライズでしたが、今回は一転して狂気と笑いの回です。
早くも再登場する、こどおじ杏の視点から見える「団地に舞い降りた天使たち」。
誕生日トークや妹・ともりの登場、そして楓の父・皆本慎太の衝撃。
団地という日常が、彼の妄想を通すとどんな物語に見えるのか──ぜひ楽しんでください。
団地117号棟の駐輪場。
コンクリ壁の隙間に、赤いポロシャツがめり込んでいた。
背中には「出前屋敷」のロゴ。
色あせて、“屋敷感”なんてもう微塵もない。
チャリの前カゴに顔を突っ込んだまま、ぶつぶつとつぶやいていたのは──
品川・ロドリゲス・杏、47歳。
ブラジョル人と日苯人のハーフ。
名前はキラキラ、人生はボロボロ。
団地生まれ団地育ち、いまはバイトで食いつなぐ、真性のこどおじだ。
母親の年金と、たまに貰える余り物が命綱。
さっきまで敗島から平和島の出前激戦エリアを電動アシストチャリで駆け回っていた。
「はぁ!?なんでバレてんだよ……」
「Lサイズのポテト、ちょっとMサイズまで減ったくらいでギャーギャー……」
「あれだろ?どうせあのデブババアだよ。あんな量全部食ったらさらにデブるだけなんだから、俺に食ってもらって感謝しろよ……!」
「むしろ俺、カロリー減らしてやっただけじゃん?善意じゃん?」
「Lなんてバカみたいに食ってたら太る未来しかないだろ……」
「それをMサイズにしてやっただけでクレームとか、マジで“自分ファースト”にもほどがあるだろ……」
「ほんとさぁ……なんでこんな世界に、俺ひとりだけ“やさしさ”を持って生まれてきたんだろ……」
早口な独り言がブツブツと繰り返される。
スマホには「出前屋敷本部」からの通知履歴。
《配達先より「量が明らかに少ない」との低評価レビューあり》
《至急、事実確認を行ってください》
「うるせぇよ本部。お前らも実際にあの家まで運んでみろってんだ」
「坂道、崩れかけてるブロック塀、犬のフン、全部避けてLポテト届けてやったんだよ俺はよ……」
チャリのスタンドを蹴りつける。
前カゴの配達バッグがガコンと揺れた──そのときだった。
視界の先に、動く影が映った。
団地の集会所の前。
制服姿の女子高生が3人。……と、ハクビシンが1匹。
その中心に──あの小さな後ろ姿。
「……あいつ……あのちびっこ……いのりだ……!!」
風張いのり。
団地の“自治会長”なんてありえない肩書を背負った、JKにして推定身長149センチほどの奇跡。
数日前に盗み聞きした名前が、杏の脳内に焼き付いていた。
その隣にいたのは、桜色の髪を揺らす美少女。
明るくて、笑顔がまぶしい。
スカートの揺れ方まで、アニメみたいだった。
「……なんなんだ……こんなかわいい子、団地にいたのか……?」
「誰だよ……知らねぇぞ……」
「髪、桜色……美しすぎるだろ……なんでこの世に実在してんの……?」
杏の早口な独り言が空に消える。
「──あずさが飾り付け頑張ってくれたから、可愛く仕上がったんだよ」
「え~、楓が持ってきてくれたスポンジが完璧だったからでしょ~?」
女子高生たちの会話が聞こえてきた。
「今……言ったな……“あずさ”……」
「こいつが“あずさ”か……なるほど、陽キャ感に名前が合いすぎてムカつく……!」
「てことは……もうひとりの落ち着いた美少女……あれが……」
「“楓”……!おいおい、団地でそのビジュアル、どう考えても設定ミスだろ……!」
「アニメだったら“お嬢様枠”で登場してくる系のやつじゃん……」
「でも今、名前呼ばれたってことは……! この3人、やっぱりセットなんだ……!」
杏は気づいてしまった。
団地に──天使が降臨していることを。
集会所の前では、JK三人とハクビシンのビシ九郎が笑いながら談笑していた。
夕陽の角度、スカートの揺れ、桜色の髪。
あまりに平和すぎる光景に、杏の脳が逆にざわついていた。
「ごめんね、いのり~。ほんとは4月1日に祝いたかったんだけどさ」
「ううん、私も返信できなかったし。こちらこそ気を遣わせてごめん」
「でも、お祝いできてよかった! 思い出になったし!」
JKとハクビシンが先日の誕生日会について語っていた。
「やっぱり……いのりの誕生日、4月1日だったのか……!!」
「それってつまり……学年カウントの境界線……!!」
「あと一日遅ければ学年下……運命の一日ズレ!!」
杏の脳内計算機の処理が確かだったことに安堵を覚える。
「ふふっ。わたしも今年やっと祝ってもらえたから、気持ち分かる」
「久しぶりの2月29日、あずさも4年ぶりだったよね!」
「え? それもめっちゃレアじゃん!」
杏に衝撃が走る。
「え!? え!? 今度は何!?」
「2月29日……!? うるう年!??」
「この子……さくら髪のやつ……2月29日生まれ……?」
「じゃあ……今年ようやく4回目の誕生日で、実質4歳ってこと!? マジか……」
「こいつも誕生日ズレてるだろ……!」
すると楓も乗っかってくる。
「私は12月31日。いつも年末モードで流されるんだ~」
「それもそれで可哀想だよね~」
「ま、もう慣れたけど」
JK達が楽しそうに互いの誕生日をネタにしていた。
「おいおいおいおい……!」
「12月31日って……あんたもかよ……!」
「こっちは年越しイベントで誕生日完全に消される属性!! ケーキじゃなくて年越しそばでお祝いするやつじゃん。 翌日のお年玉とセットでプレゼント端折られるやつ!」
「……ちょっと待て。この3人全員、誕生日バグってんじゃねーかよ……!?」
「どうなってんだこの団地!? 祝われにくい、気づかれにくい、人知れず年を取る運命──」
「つまり──この団地にいるのは……ズレた天使たち!!」
そのとき、遠くから元気な声が飛んできた。
「お姉~~! 帰ってたの!?」
ランドセルを片手に走ってくる、制服を着た女の子。
横には、学童帰り丸出しのチンパン系男子がついてくる。
制服の襟が少し曲がってるのも気にせず、元気いっぱいに走ってくる。
「ともり! けいじ!」
いのりがニコニコと声をかける。
「うわ……まさか、今の……」
「スタイルの良い女子中学生……たしか九潮学園の制服だよな…あれが妹か?」
「いのりの妹……名前は……“ともり”…って今言ってたか……?」
「で、その隣のチンパン顔が弟だな。絶対そう。声がバカっぽすぎる。正直どうでもいい」
けいじが集会所前にドスンと座り込んで、鼻をすすりながら言う。
「学童でドッヂボール3回勝った~。ともりねーちゃんが迎えに来てくれたから帰れたよ~。ただいま~」
「ともりありがとねー。まだ中1になったばかりなのに親代わりに送迎してもらって」
杏にまたも衝撃が走る。
「なんだって!? 親の迎えじゃなくて……中1の妹がガキの送迎!?」
「まって、それもう……天使っていうか……聖人やろ!?」
「てか、この子も制服姿……似合いすぎだろ…しかもガキのくせにスタイル良くて美人じゃねーか。たまらん…!」
「先月まで小学生だったってことじゃん…もはや背徳的な時間の圧縮だな……!」
──そして、ここで杏の“属性整理脳”が火を吹く。
「ちょっと待てよ…一旦…整理するぞ……」
「風張いのり:4月1日生まれ。16歳。境界線ギリギリ会長。かわいい系。俺の推しメン」
「あずさ:2月29日。うるう年。16歳だけど、実質4歳。今年ようやく祝われた系」
「楓:12月31日。年末消滅型。これも16歳なりたてゾーン」
「ともり:中学生。ついこの間まで小学生女子。既にセイント属性。スタイル良し。むしろ姉より良い。そして顔も美人ときた」
「けいじ:小1チンパン顔。まったく興味なし。どうでもいい」
「なにこれ。団地って、時間の境界で生まれた子ばっかじゃん……」
「誕生日がズレてる少女たちが集う場所、それが団地──」
「クズとニートと社会不適合者とこどおじの巣窟がJKの集うエデンって……」
「この設定、なろうに投稿したら即日バズるやつじゃね!?」
ともりとけいじが走って集会所に到着すると、
いのりがにこっと笑って言った。
「あっ、楓ははじめてだよね。紹介するね。こっちはうちの妹、ともり。中学1年生」
楓が目を合わせる。
「それと……弟のけいじ。今、小1」
「はじめまして~!」
「えー!ともりちゃん可愛い!」
「制服すごく似合ってる~!九潮学園でしょ?さすが会長の妹って感じする~」
「けいじくんは……うん、元気だね」
楓が挨拶を交わす。
「っっっっ……!!!」
「いま、言ったよな……!? “中学1年生”って……!」
「やっぱあのランドセル持ってる女の子、中1だったのかよ……!!」
「てか……え?……**姉より身長あるくない? 胸も……**え、マジで?おい……」
杏は震えた。
集会所のガラス越しに見えるその姉妹。
姉:風張いのり(高2)。推定身長149cm。童顔。細い。
妹:ともり(中1)。推定160cmはある。足長い。制服似合いすぎ。姉より大人びて見える。美人で胸もある。
「……え、なにこれ。妹の方が圧倒的に完成度高くない……?」
「姉がロリ枠で、妹がグラビア枠って、どんな神設定だよ…逆マリ〇ブラザーズじゃねーか…」
「てかこの2人、血繋がってんだよな……? おいおいおい……」
「……俺、50までにJKの嫁が欲しいって思ってたけど……」
「JCの嫁でもありじゃね?……って、正直、真剣に考えちまった」
「でもさすがにそれはマズイよな。うん、マズすぎる。いくら妄想でも表に出せない。」
「……でも、見ちまったんだよ。アレは人の姿をした何かだろ……完成度、異常なんだよ……」
杏がひたすら自問自答を繰り返す。
「ともりちゃんさー、お姉ちゃんより先に結婚しそうだよね?」
あずさが笑いながら言った。
「えっ!?それはないよ~!」
と、ともり(アタシ)慌てて手を振る。
「いやいやいや、もうスタイル出来上がってるもん~。身長いくつ?」
「161くらいかな。」
「中1ですごーい! いのりってどれくらいだっけ?」
「私はギリギリ149かな……引力で147くらいになるときあるし」
「それサバ読んで149なんじゃないの?」
「 うっ……言い返せない。でも完全にともりはお母さんのスタイルを受け継いだよね」
いのりが苦笑しながら答える。
「ちょ……!いま……なんつった……?」
「母親もスタイル出来上がってるのか!? 想像しただけで半端ないな」
「しかも、お姉ちゃんより先に嫁……!? おい、それは俺の妄想のセリフや……!」
「ってか、いのりは推定149センチ? なんなら147かも!? バグってるな。たまらん」
──そして。
「ともりねーちゃん、いのりねーちゃんより走るの速いもんね~! あと、おっぱいもデカい~!」
けいじが鼻水垂らしながら叫ぶ。
「こら、けいじ! やめなさいっ!!」
と、いのりが真っ赤な顔で止めに入る。
「……チンパンガキ、なかなか使えるじゃねーか……」
杏の脳内、限界突破。
「姉:誕生日4月1日で人生最初からハンデ。身長149cm。会長。ロリ属性」
「妹:見た目完勝。中1。制服が犯罪級に似合う。胸も大きめ」
「しかも姉より成熟……って、なにこの姉妹セット……」
「“俺だけが知ってる属性”が多すぎる!!」
ふと気づく。けいじはランドセルを背負っていない。
「ランドセルなんでともりが持ってるの?」
「けいじがランドセル置きっぱなしで遊んでたから、代わりに持ってきたの」
「ほんとにもう~、ちゃんと学童のロッカー入れなきゃダメでしょ」
「えら~い、ともりちゃん」
「しっかりしてるわー」
「私の弟、こんなに言うこと聞かないよ?」
と楓。
「……あのランドセル、けいじのだったのか……」
「つまり、ともりは中1……お姉よりも身長高くて、体つきも……」
「で、ランドセルをひょいっと片手で持ってくるあたり、生活スキルも高い……」
「なにこの中1にして完成された妹。姉の立場、どうすんだよ……」
──そして、事件が起きる。
「でも、ほんと昨日のケーキ美味しかったね」
「うん! 楓が持ってきてくれたスポンジ、完璧だったし」
「へぇ~、すごい。どこで買ったんだろって思ったもん」
「お母さんが焼いてくれたのよ」
「お父さんが車出してくれて、途中まで冷やしながら運んだの」
「お父さん優しい~」
「……で、結局どうだったの? 楓のお父さん、またテレビの仕事?」
「ううん、今日は解説じゃなくてGOTUBEの収録だったみたい」
「現役時代ほど忙しくないけど、帰ってきたら録画見て研究してるよ」
「さっすが~!皆本慎太はやっぱすごいわ!」
杏にさらなる衝撃が走る。
「……ん?」
「……皆本……慎太……?」
「えっ、楓さんのパパ、皆本慎太なの!? マジで!?」
「アタシ、野球とか詳しくないけど、それでも知ってるわ~!」
と、ともり。
「みなもとさんに野球教わったよ!たのしかった~!」
と、けいじ。
杏の脳内が爆発する。
「は????????」
「ちょ、まってまってまって!!」
「今、“皆本慎太”って言ったよな!??」
「元プロ野球のショートのレジェンド!? 日本代表!? 球界の至宝!?」
「引退後は民放とラジオでW解説!? 殿堂入りの守備職人!? 2000本安打!?」
「え、ちょ、じゃあ……あのしっとり系美少女──
制服の着こなしが完璧すぎて団地に似合わないやつ──
そいつが、“皆本慎太の娘”……!?」
杏、心の臓を押さえてしゃがみこむ。
いや、もともとしゃがんでいたけど、さらにめり込む。
「ふざけんな……こんな、こどおじしかいない団地に、プロ野球レジェンドの娘がいるなんて設定、おかしいだろ!!」
「天使じゃねぇ……もうこれは……天界からの刺客だ……」
「俺たちクズを試すために、この地に舞い降りた“監視者”だ……!」
杏のチャリが、後ろでギィィ……と音を立てて倒れた。
けいじが「うわ、倒れた!」と騒ぐが、
誰も赤シャツの不審者の存在には気づかない。
しかし──杏は確信した。
「この団地にいる天使たちは、誕生日がズレてるだけじゃない……」
「“現実の外側から来てる”──そういう存在なんだ……!!」
杏は、駐輪場の陰から息を殺していた。
さっきからずっと、ともりが笑っている。
制服を着て、けいじのランドセルを片手に、さりげなく弟をあやしている。
「……はぁ、マジかよ……中1であのスタイル、顔立ちも整ってて、挨拶できて、弟の面倒まで見て……」
「それで姉が“149cmの自治会長”って、どんなパラドックスだよ……」
ともりが髪を耳にかけるしぐさだけで、杏の胸に変な音が鳴る。
けいじが駆け回り、ともりが注意し、笑い、しゃがむ──
その光景のすべてが、「この団地には存在してはいけない完成度」だった。
「あー、ダメだこれ。俺、ついに踏み入れちゃいけないライン、見てるかも……」
「これは“妹萌え”じゃない。“妹という希望の化け物”だ……」
しばし静寂。
杏は天を仰ぐ。
「……でもな……」
「それでも……やっぱ……一番は、風張いのりなんだよな……」
脳裏に浮かぶ。
「たしかに、妹のともりは完成度が高すぎる…。…でも、だからこそ惹かれるのは違うんだ」
「いのりは、不完全で、だからこそ応援したくなる。小さくて、健気で、可愛くて、そして人が集まる。自治会長やりながら逃げ出したくなりそうでも、それでも前に立つ」
「その姿を、俺は──見ていたいんだよ!!!!」
杏は叫びそうになって、チャリのタイヤに顔を押しつけた。
「ああ、やっぱ俺はいのり一択だ……でも──改めて、ちゃんと見直しておこう……」
駐輪場の隙間から、いのりが話す姿を見つめ直す。
身長はやっぱり149cm。だけど──よく見れば、まったく貧相じゃない。
「スカートのライン、ちゃんと丸みがあって、細いのに女の子らしい」
「上半身も……うん。しっかりある。ちゃんと、ある」
「あれは“成長してない”んじゃない。バランスがいいんだ……!」
「ともりのほうが完成されてるのは、たぶん爆速で育った結果。だけどいのりは……慎ましくて、控えめで、でも確かに“育ってる”」
「だからこそ、あの制服のシルエットが……あの“上から下まで丁寧に着た感じ”が……
女の子としての魅力を最大限に引き立ててんだよ……!!」
「つまり──いのりは“小さい”んじゃない。“濃縮還元”なんだ……!!」
杏の鼻息がチャリのスポークに当たってビビビと音を立てる。
けいじがそれに気づいて首を傾げるが、すぐ虫に気を取られる。
「俺だけが気づいてる…。いのりの、このサイズ感とスタイルの神バランス…。…全男子に知られる前に、目に焼きつけておかなきゃならねぇ……!!」
──そのとき、会話が変わった。
「あ、そうだ。ケーキ、まだちょっと残ってたよね? 冷蔵庫に……」
「うん。いのり、あとで家で食べ──」
「それな、もう食うたで」
「……え?」
「ええ!? 全部!?」
「食べちゃったの!? ビシ九郎、容赦なさすぎ~!」
「お前らがデコったんやろ? スポンジの下に、うっすいシート挟んどったな。
あれ、たぶんお母さんが焼いたやつやろ? あれ神やったわ」
「よくわかったね」
「……あの味、市販ちゃうな。わい、あれ一生忘れへんぞ」
「ふふっ、全部食べられちゃった……」
「いのりの誕生日ケーキ……完食おめでと!」
「ビシ九郎、胃袋のブラックホールだな!」
杏の目がビシ九郎へ向く。
「うわ、あいつ……ハクビシンのくせに、めっちゃ空気読めねーのか読めてんのかわかんねーな……」
「つーか、食ってよかったの? 誰も怒ってねぇ……むしろ笑ってる……」
「あれか、“共犯で完食”ってやつか……やべぇ、あれも人間の輪ってやつか……」
杏の心にまた一つ、いのりを中心に広がる“人のつながり”の暖かさが刺さった。
チャリの陰で、47歳こどおじは顔を覆う。
──いのりの誕生日ケーキは、団地の笑いの中で食べ尽くされていた。
彼女は文句ひとつ言わず、ただ微笑んでいた。
その姿が、杏にはまぶしすぎた。
「……俺も、あんなふうに誰かにありがとうって言われてみたかったな……」
風張いのり。
ズレた誕生日を背負いながら、それでも人の真ん中に立ち続ける少女。
その背中は、こどおじ杏にとって、
まるで──神話の始まりのように映っていた。
杏というキャラクターは最低な行動を取りながらも、なぜか人間味があり、笑わせてくれます。
今回も「ポテト善意論」から始まり、女子高生たちを“天使”と呼びながら勝手に盛り上がっていく姿は、滑稽でありながらどこか切ないものがあります。
そして、ラストで彼がやっぱり「風張いのりこそ一番」と言う場面。
不完全だからこそ応援したくなる──それは読者の気持ちとも重なるのかもしれません。
笑いながらも、団地に生きる人々の孤独や渇望がにじむ。
そんな回になったと思います。
作者自身、書きながら何度も吹き出しました。
今後も彼はたびたび顔を出し、団地の日常を歪んだ視点から切り取っていく予定です。
いのりたちを中心に回る物語に、杏がどんな混乱を持ち込むのか──ご期待ください。