表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーラーが辛すぎて  作者: すこーぴおん
1/2

魔法は等価交換なのでしょうか?


誰かが見つけた地下への入り口。

地下はとても魅力的な場所だった。

最初はおぞましい呪いの入り口、すなわち地獄だと言われていた。実際、中に入っていった人たちが二度と帰ることがなかった。

この洞穴は閉ざされたままだった。

だが、あるとき。

この世の中で見たこともないほど美しい宝石の原石、金の原石、古代の魔術書、浮かぶ炎の欠片。

それらが流通したのだ。

誰もが気になり調べてみれば、どうやらこの魔窟かららしい。

モンスターを倒せば毒と腐臭。そして出てくる宝石。

誰もが働くのが馬鹿らしくなった。

これさえあれば稼げる。

そう思った人たちはさっそく乗り出した。冒険へと。

まだ地図もない。道もない。モンスターの倒し方も生態も特徴もわからない。

どこに隠れていて、いつ襲ってくるのか。

実際に半数以上は死んだ。

それは死体さえ残らない末路だった。


そこで怯むような者たちだけではない。

それでも突き進む者たちを冒険者と呼んだ。

無謀の蔑視と憧れの敬意を込めて。






わたしが冒険者になったのは勇気があるからではない。なによりも金に飢えるほどに貪欲だからでもない。

魔法試験に落ちたからだ。

魔法の成績以前の問題だった。

わたしはその日、高熱を出して試験に出られなかった。

出席すらできなかったのだ。

大事な大事な試験。

熱だろうがなんだろうが這ってまで行くつもりだったが、気づいたときには日が暮れていた。

だからこうして冒険者なんかをやっている。

冒険者が嫌いではないけれど、魔法試験に受かって、のちのちは魔法書の研究を行いたかった。


否。撤回。


わたしは冒険者が嫌いだ。

なぜなら彼らの雰囲気が嫌い。価値観を理解できない。受け入れられない。

短期で横暴、大酒狂い、食事はぐちゃぐちゃと音を立てて食べる。


(今だけ…今だけだから今だけ耐えるんだ…)

(今日も頑張ろう)


そう思い生きている毎日。

一年間。一年間だけ。次の試験にさえ受かれば、わたしは魔法書の研究ができる…!!


「ぅわ…」


腰がひけた。

今日も日銭を稼ぐために冒険へと出た。

目の前で大きなモンスターが真っ二つにされた。びちゃ…と壁に緑色の血が飛び散る。

当然、わたしにもモンスターの血はかかる。皮膚がじゅわ…と焼かれる感触がする。

モンスターの血は毒だ。


「立てる…? マリー」と手を伸ばされる。

わたしはその手を躊躇したが、断るわけにもいかず、手にとった。

この人は邪気のないさわやかな笑顔を浮かべている。

この人はアイドルだ。冒険者なんかに合わないくらいのアイドルだ。

なにせ見た目がいい。美しさの暴力というほどに顔がいい。

そして、どの男もかなわないほどに強い剣士だった。

そしてついたあだ名が地上の姫、戦場の悪魔。

悪魔は言い過ぎだろうと思っていたが、彼女の容赦のなさを目の当たりにすれば、その表現も間違ってはいないとわかる(言い過ぎかもしれないが)。


わたしたちは最強パーティーの一角とされている。

わたしが優秀なのではなく、彼らが優れているだけだが。

わたしが彼らのパーティーに入れたのは、才能を認められたからではなく、ただ彼女ティーゼと出身が同じだからだ。


「だいぶ奥まで行ったな。ちゃんと地図は書けてるか?」


「大丈夫。だけど道が狭いから早めに帰ったほうがいいかも。ほかの冒険者とすれ違うと面倒なことになりかねない」とマッピング担当は言う。


「そうだな」とリーダーは頷いた。「今月のノルマは達成したし、そろそろ引き返すか…」


出入口へと向かった先に、戦闘を歩いていたリーダーは足を止めた。

わたしたちにしか聞こえない声量で鋭く囁く。

「税関だ。冒険者に変装してる…」


抜き打ちで冒険者の日銭チェックがある。

もちろん冒険者は荒くれものの集団でもあるので、そんなの関係ないとばかりに押し倒すものもいるが、わたしたちはそうではない。あくまで地主と争うのはよくないという考えだ。

たとえ、それが不公平で不平等な妥当でない統治であったとしても。


だが。

工夫くらいはする。

魔石の一部と価値の高いものは、魔法で見た目を石に変える。ただの重い石に変えるのだ。

そしてそれを適当にダンジョン内に隠す。

リーダーがあたりに注意を払い、誰にも見られていないことを確認する。

税関は毎日、ダンジョンの入り口で待機しているわけではない。

明日、明日がダメなら明後日に回収すればいい。


リーダーは聡明だった。

リーダーの名前はルアン。ルアンはわたしと年齢が変わらない。

幼さの残る顔立ち。だがまぎれもない知性が仕草、行動には宿る。

ルアンとわたし、そして地上の姫、戦場の悪魔と名高いティーゼは同じ村の出身だ。

ティーゼはルアンに恋心を抱いている。

ルアンは理想的な男の人だと思う。だけどルアンはただの冒険者でしかない。ティーゼほどの美貌であるならば、もっといい人とも縁があるとは思うのだが…。

人間関係、とりわけ恋愛心に疎い自覚があるマリーはあえて訊かないことにしている。しかも、マリーもティーゼのことを嫌いではないが、苦手…敵わないと思っている節がある。


いろいろ、不満や不安はあるが、そんなのどうでもいいのだ。

とマリーは開き直った。

なぜならマリーは1年後には、このパーティを去っているから。

今後どのような人間関係のイザコザが発生しようが、どうでもいいことなのだ。


否、撤回。


(ヒ、治療師ヒーラーがつらすぎる…!)


ヒーラーが辛すぎて。

ダンジョンでの疲労が一気に押し寄せてきた。

ダンジョン後の居酒屋で酒を煽るメンバー。

だけどマリーはもともと、こういうザ・パリピな雰囲気が好きではないのと、そもそも、疲れすぎていて起きているのが面倒。疲れ果てていたのだ。

彼らの底なしの体力が理解できない。共感できない。わたしを巻き込まないでくれ。


ヒーラーは体力・気力・魔力の補給と傷の治癒だ。

しかし考えてみてほしい。

人間が睡眠を何時間もかけて回復できる体力・気力・魔力を一瞬で回復させる。

擦り傷ですら何日もかけて治す必要があるのだ。それを一瞬で治癒する。

そんなことが可能だろうか?


(可能なんだけどさぁ~~~~~)


自分の倍以上のサイズ、倍以上の筋肉のあるモンスターを粗末な鉄の剣で切り伏せる人たちが現にいるのだ。いくらバグだからといって、おかしくはないはずだ。おかしくはないはずだが…


ほんとうに魔法は等価交換なのだろうか?

そんなことをマリーは頭の片隅で思いつつ、眠気に勝てずに意識を飛ばした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ