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恵ちゃん♡

     4

 その次の日曜日。

 青木率いるおとぼけの7人とその女の子はプレアデス、いやいや、この日からはすばる360の練習場となる、いつもの河川敷のグラウンドに集合していた。

「あ~、監督兼キャッチャーの青木です」

「ええと、えへへ、あ~、不手際です。ええと、もしよかったら、今度、一緒に食事でも…」

「あんた、そげなことばっかしがばい手際の良かねぇ。ええと、あ~、山田みぃ太郎です。元々はピッチャーやったとばってん…」

「せやけど芸術的ノーコンな」

「ええい!やかましか!ああ、し、し、つれいしました。わし、サイドスローでシンカーば投げるとですたい」

「シンカーですか。私もシンカー、得意ですよ」

「へへへへへ…、へーくしょん」

「ええと、くしゃみさんですね」

「はぁ、よろぴくぅ、へへへへーくしょん」

「女が野球だと?あ~あ、世も末だ」

「怒りんぼうさんでしたね」

「いんや!おれは怒山だ!」

「そうでしたね。怒山さんですね。どうぞお手柔らかに」

「え、え、ええと…、ポジ介です。あなたが来てくれればもう千人力、いや、万人力、いやいや、グーグルプレクサス人力です。これでもう安心だ。もう優勝間違いなしだ!」

「そう言って頂けると光栄です。だけど責任重大ですね」

「久保田です。だけどみんな俺のこと『ボタ』って呼びますけど」

「ボタさんって、ボタ山のボタですか? 私、小さい頃、よくボタ山に登って遊んでいました。ボタ山の天辺からボタを投げて、麓まで届かすのが得意でしたよ」

「ええと、わてはネガ介だす。ええと、あのぉ、本当にピッチャー、出来るんだすかぁ?」

「そう失礼なこと言うんじゃねぇ。みぃ太郎のおっさんが投げるよりはずっとましだろ」

(みぃ太郎が前足で投げるくらいなら、サルが前足で投げる方がまだましである)

 で、一同は声を合わせた。

「で、あなたのお名前は?(^^♪」

「私、西尾崎です。西尾崎恵です」

「じゃぁ、恵ちゃんって呼んでいい?」

「もちろんいいですよ」

「で、西尾崎さんというと、もしかして、あの東京スバルのエースの…」

「ええ。私の叔父です」

「いやぁ、西尾崎さんですか。全盛時代は凄かったですたい。清川でん赤木でんばったばったと…」

「あの、赤木さんはピッチャーで、しかもチームメートだったんじゃ…」

「いやぁそうでしたか。よくご存じで。わっはっは。しかしその娘さんがねぇ」

「姪です」

「そうでしたそうでした。姪でした。わっはっは」


 で、挨拶も終わり、それから早速練習が…

「こら! でででででれでれすんな。さささささっそく、れれれ練習だぁ」

(青木が一番でれでれしていた)

 それから彼女、つまり恵は、アップのため3キロほどランニングした。

 他の連中も後に続いた。しかし100メートル付近で一人欠け、200メートル付近でまた一人欠け、で、600メートルでおとぼけの6人は絶滅。6人? あと1人は? いやいやそいつは後ろ足の肉離れで最初から滅んでいたし。

 もっとも青木はさすが野球経験者で、かなり善戦していたが、恵からは周回遅れとされた上でランニングを終了。

 それから恵と青木は入念にストレッチ。おとぼけの面々もストレッチの真似事。それからキャッチボール。恵のお相手は青木が勤めた。

 彼女は左投げ。

 最初は普通に投げたが、途中から見事なアンダースロー! それで青木は座って、ミットを構えると、構えたところにぴしゃり!

「じゃぁ、シンカーいきまぁ~す♡」

 で、このシンカーがキレッキレ。

(こいつは内野ゴロの山を築けるんじゃ…)

 捕球しながら、そのとき青木には、ある考えが…


 ともあれ何かが閃いた青木は、愛用の年代物のガラ携で、金剛ら、プレアデスの主力選手数人を呼ぶことにした。青木の頭にある「ある考え」が本当に実現可能なのか、確かめるため。

 それは、恵には内野ゴロを打たせるリードをし、おとぼけの7人は全て内野を守らせる。外野へ飛んだら? いや、それはホームランと思えばよい。だいたい彼女のピッチングなら、外野へは滅多に飛ばないだろうと、青木は推測したし。

 で、呼び出した主力選手には何をさせる?

 それは彼女の球によって、本当に主力選手に内野ゴロの山を築けるのか?を試す。 それプラス、おとぼけたちに内野守備の手ほどきもしてもらう…

 それはさておき、青木のガラ携からの着信に、主力選手たちは「ええ?おとぼけのお相手かよう…」と、豪快に渋ってはいたが、青木のガラ携から転送された、麗しき彼女の姿を見るや、彼らは自慢のスポーツカーや、クロカン四駆や、ばりばりのボバーカスタムのSRや、はたまた百万は下らないフルカーボンのロードバイクや、果ては空飛ぶ自動車なんかでぶっ飛び馳せ参じたのであった。

 まぁ何に乗って来たのかはさておいて、それから彼らは青木の指示で、早速彼女の投げる球を打ってみることになったのだ。

 で、彼女はマウンドから投げた。

 伸びの良いまっすぐと切れの良いシンカー。とにかくシンカーはまっすぐと同じ感覚で来て、それからすっと落ちる。主力選手たちは空振りしたり、あるいはボテボテのゴロ。ボテボテじゃなくても力のない、引っかけたようなゴロ。

 もちろん外野へ飛ぶこともままあったが、野低人7人で7点というハンディキャップを考えると、外野へ飛べばホームランと考えても、結構な強力打線でも(草野球の割に…、だけど)6点以内に収まりそうだな…、という感触を青木は持ったようだ。

 それでおとぼけの7人を内野の守備に着かせる。

 どうやって?

 それで青木と主力選手たちで話し合い、それからおとぼけたちの意見も交えて、そうして内野の守備体系を考えた。

 それはこんな感じ。

 つまりファースト、セカンド、マウンドに恵、ショート、そしてサードの順に、一直線に守る。これを内野の前衛という。

 そして本来は外野の三人は前衛のやや後ろで、即ちライトはファーストとセカンドの間のやや後ろ、レフトはショートとサードの間のやや後ろ、そしてセンターはピッチャーの後ろ辺り。

 それで、外野の3人は内野の後衛と呼ぶ。

 こうして8人で内野を守る。で、そこを抜ければ「ホームラン」と、潔くあきらめる。とにかく内野の8人は一塁から三塁まで連なる万里の長城のような壁となって、ゴロを堰き止めるのだ。

「で、堰き止めるとは良よかばってん、どがんしてファーストに投げるぎ良かかにゃぁ」

 するとみぃ太郎がこんなことを言い始めた。つまり、ファーストへ上手く送球が出来るか!という、野低人ならではの大問題について語っているのである。

 たしかに大問題だ。

 せっかく打球を「堰き止めた」ところで、ファーストへ送球を出来なければ…

 だけどこの重大問題は、青木、おとぼけの7人、主力選手数名と、恵の合計十数人で思い切り知恵を出し合い慎重に検討した結果、以下のような「解決策」が見出された。

 で、その内野守備の概要はこんな感じ…

「とにかく!ボールを捕ろうなんて、あんまり考えんでいい。ともかく堰き止めたら御の字と考えな」

「堰き止める?」

「そうそう。で、前衛のセカンドかショートが堰き止めた球は恵ちゃんが拾ってファーストへ投げる」

「サードが止めた球は?」

「ショートが拾って恵ちゃんにトス。恵ちゃんがファーストへ投げる。それから後衛が止めた球も、近くにいる誰かが拾って恵ちゃんにトス」

「これで内野守備はカンペキだね。やったぜ!これで安心だ!」

「いやいやいや、ファーストが送球を捕れれば…の話ねんけどな。どや、みぃ太郎はん、あんたがファーストやりおまっしゃろ?後ろ足傷めて動かれへんけど、まあ、ファーストしかあらへんしな」

「何ばいいよるか。後ろ足は痛めても左の前足でミットば持てるけん!」

「まぁ、みぃ太郎は曲がりなりにもピッチャーだし、キャッチャーからの返球なら捕れるみたいだし…」

「わしが曲がりなりにもピッチャー…」

「現実はそうだろうがよ。だけど、恵ちゃんが『ストライク』の送球をそこそこの強さで投げりゃ、十分捕れるんじゃねぇのか。キャッチャーからの返球みたいな感じで」

 とまぁこういう訳で、内野の守備は何とか形になりそうだ。

 で、外野に飛んだら?

 それは知らん!

 で、内野フライは?

 恵と青木が追う。

 あとは知らん!

 ともあれ、そういう訳で内野守備の練習が始まった。

 ところが、おとぼけの7人は打球が来ると「わぁぁぁぁ!」とか、「あひぃ!」とか言って顔をそらし、逃げ惑う。

 その様子を見て主力選手たちはおとぼけの7人に、「いいかい、内野守備では、捕れないにしてもまずは打球を体に当てて前に落とし、それから拾ってでも…」などという、彼らにとっては未体験ゾーンの話をするが、

「でもでもだってボールが当たったら痛いしぃ」

「鼻に当たったらくしゃみがへーくしょんとまらなくなるしぃ」

「ばってんどがんしてでんやっぱし打球が怖かもん」

 この期に及んで駄々をこねるおとぼけの腰抜けぶりに、とうとう青木が切れた。

「あああああ~~~もおおおおおぉ、ほんっっっとぅにもう情けねえ奴らだな!」

 そういう訳で、青木の発案で、おとぼけの7人全員、キャッチャー用のマスクとプロテクターを着けることとなった。

 青木や主力選手たちの尽力で、何とか7人分手配出来たようだった。

「うん!これなら鼻につん!と当たる心配もないし(^^♪」

 くしゃみも満足そうだ。

 顔をそらさなくてもいいし。

 そもそも守備が下手糞な原因の一つは「ボールが怖い」ということ。それを取り除いてあげればボールに向かっていける。強いゴロでも正面からボールに立ち向かい、プロテクターに当ててぽとりと落とし、それを拾って恵にトス。あとは恵がみぃ太郎に投げる。

 ところで、青木らが用意したプロテクターは、何故か全部緑色だった。これは単なる偶然だったのだが、ずんぐりとしたおとぼけの7人がこのプロテクターを着けるとまるで青虫!

 そしてボールを拾い、恵にトス。で、恵が一塁へというプロセスは何となくバケツリレーみたいでもある。

 そういう訳で、彼らの内野守備の様子を、いつしか人々は「青虫バケツリレー」と呼ぶに至ったのである。


     「ワイルドビート戦」へ続く 

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