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93 淡井恵子の番外編3
◇社内異動で心弾む日々
その年の4月、支店には異動で若い独身男子社員が4人も配属され、
久しぶりに女子社員たちは色めきだった。
恵子の所属する部署にきたのは新井賢一27才で、仕事を通じて
すぐに親しくなった。
異動メンバーの中で好みのタイプが二人いたのだが、いかんせんもう一人は
部署が違っていて、親しくなるのに少し時間が掛かりそうだった。
それで迷うことなく恵子は婚活に向けて新井をターゲットに決めた。
たまたま恵子の部署は課としても一単位でまとまっていて、繁忙期など
課員総出で残業するため、日々遣り取りは多い。
そんなわけで話す機会も増え、課としてのお疲れ様の飲み会でカラオケバーに
行くことも多く、飲んで歌ってと緊張のほぐれた空間で新井と親しく
なるにつけ、恵子は新井も自分に対してまんざらでもないのではないかと、
自信をつけていくようになる。
これまで学生時代の友人たちの旦那にちょっかいを出した時も
自分を拒否した者は一人もいなかった、というところからの自負もあった。
恵子が新井と他の社員を横目に親し気に話をしている時、後輩の米本美晴が
いつの間にか混ざることがあった。
彼女の入り方が絶妙で束の間のスルーさえできないほど上手かった。
美晴は24才で恵子より7才も若いのだが、出しゃばり過ぎず先輩をたてる
ことを忘れない後輩で決して派手なイメージのない、それでいてそこそこの
お洒落さんでセンスも優れている。
恵子と新井がある話題について夢中で話し込んでいる時でさえ、気付くと
難なくスムーズに二人の会話に入っており、そしてまた気が付くと何気に
すーっと別の場所へと移動しているのである。
美晴は見事に上手く皆の中へ溶け込み、どこでも誰とでもそつなく
合わせることのできる人間力の高い女子であった。