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✿ 桜の華 ― *艶やかに舞う* ―   作者: 設楽理沙


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80  ◇妻の手料理



 妻や娘と別居するようになってからは、会社の帰りに弁当を買って帰ったり、スーパーで刺身やお惣菜を買ったりと、平日自炊することはあまりない。


 土日は簡単なモノで自炊してはいるが。


 時間も食材も限られた中での、焼き魚と豚肉と茄子を焼くという簡単なもの 

だったが、自分のために誰かが……世話を焼いてくれるというのは、有難いもの だなぁ~と改めて実感した。



 孤独感に囚われた寂しいばかりの日々に、いきなり思いもかけずパッと

明るく暖かい光に照らされたような気分である。



 妻の記憶が戻ればあっという間に失くしてしまう危うい至福のひと時で、

期間限定になるかもしれないことが少し哀しい。


 それでも、この時間がなかったほうが良かったとは思えない。


 薄氷を踏む思いではあるが、だからこそ、家族揃ったこの生活を心から

堪能しようと、俊は強く思うのだった。


 何もかもが急な展開で、うっかり布団が揃ってないことに気付かず

俊は焦ったものの──。


 だが今が夏でよかった、そう思うのだった。


 普段はダブルベッドを使っているのだが、真夏はここのところ毎年和室の

畳の部屋を使っていて、実は昨夜も和室に薄い敷布団を敷いて寝ていたのだ。


 今夜のところはそこへ奈々子を寝かせバスタオルを掛けてやった。



 そして自分たち夫婦はダブルベッドを使うことにした。


自分()と娘の布団がないことに桃がいつ気が付くとも限らない。

 何と説明すればいいのか。


 明日姑か舅に連絡をして相談しないと、などと、俊の脳内はせわしなく、

あれやこれやと考えなければならないことに囚われ続けた。


 今のところ突っ込みが桃からはない。

 おそらく記憶が抜け落ちたそのことで手一杯だからだろう。



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