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桃は舞の核心をつく質問に心臓が早鐘のように鳴り出すのを止められず、
コクコク頷くことしかできなかった。
「そっかぁ~。
田中さんのときのことを鑑みてみると恵子と旦那さんの最初の接点は
そこかもね。その時産院で旦那さんと鉢合わせとかなかった?」
「あった……うそっ」
この時絶望が桃を襲った。
「うっわぁ~、頼むよ恵子ぉー。
何もなかったと言ってくれぇ~。
私、夫と一緒のときは外で恵子に会ってもシカトする。
絶対スルーするわ。
桃! とにかく恵子を旦那に近づけないようにね……」
舞のダメ出しのような台詞に桃は言いようのない不安に襲われた。
そのあと、舞が何を話していたのか……ただの音声としか捉えられず
自分がどんなふうに舞に別れの言葉を掛けたのかさえも朧気で、今まで
輝いていた自分の周りの世界が頭の中と同じように色を失くしてしまい、
平穏で幸せな今の暮らしが音をたてて崩れ落ちていく様が見えるようで
桃は自分の足元がグラグラと不安定に揺れるのを感じるのだった。