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あぁ、今までなんとなく君に話すチャンスがなかったが、娘には
あの日どうして君が恵子さんと会っていたかという話は家内からちゃんと
話してあるので、娘には君の潔白は伝わってると思う……ってそのことも
今じゃ、忘れてるか……参ったな」
「お義父さん、話に来てくださってありがとうございます。
今からすぐに迎えに行きます」
「おぉ、有難い。
すまないね、そうしてもらえると助かるよ。
君疲れてるだろ? 車は出さずに私ので行こう。
送迎は引き受けた」
「ありがとうございます、それじゃあ、お言葉に甘えて」
こうしても桃の父親の邦夫と夫の俊は、桃と奈々子の待つ家へと夜道、
車を走らせたのだった。
「ただいまぁ~。桃、俊くんが迎えに来てくれたよ」
「まぁまぁ、俊くんお疲れのところすみませんね」
姑の康江がすぐに出迎え労をねぎらってくれる。
「お義母さん、ご無沙汰しています」
俊は小声で挨拶を交わした。
そうこうしていると、桃と奈々子が三和土に現れた。
「俊ちゃん、遅くにごめんね。
迎えにきてくれてありがとう」
桃はそう言うと奈々子の手を引いて靴を穿き、帰る準備を始めた。
自分に向けられるやさしい桃の態度と言葉に、俊は感無量になるのだった。
この幸せな時間を一日でもいい、二日間だけであってもいい、昔のように
暖かな関係でいられる時間が訪れた奇跡のような時間。
このひと時を、ただただ感謝する俊なのだった。