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✿ 桜の華 ― *艶やかに舞う* ―   作者: 設楽理沙


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71 ◇感謝してはいるが──



 嘘よ……。

 私は夫の裏切りを許さないと今の苦しみから解放されないっていうの?


 何もしてない自分がどうしてこうも理不尽な目に合わねばならないのか。


 涙枯れるほど泣き続けた桃の瞳から、残されていた最後の光までもが

すっかりと影を潜めてしまった。




 退院してからの第1回目の診察では思いもかけないことを女医から指摘されたため、取り乱してしまった桃だったが、2回目の診察では落ち着きを取り戻し、素直な姿勢で女医の言うことに耳を傾けた。 



 ……というより、そのように振舞ったというほうが正しいかもしれない。


 違うと異論を唱えて嫌な雰囲気になるより、自分の意見を強く主張せずに


『そうですか、そうですね。分かりました』

と無難に診察をやり過ごし、早々と病院との関わりを断ち切って

しまいたかったのである。



 女医には感謝している。

 だが、桃はこれ以上苦しい思いをしたくなかった。




 相手はプロの精神科医である。

 桃は診察時には、心からそう自分は思っていると暗示をかけて臨んだ。


 そのことが功を奏したかどうかは不明だが――――。


 実際女医が自分の言うことをどこまで真面(まとも)に受け取ったかは

分からないが、3回めの診療を受ける指示はなく、無事女医の元から

本当の意味で退院できたのである。



          ◇ ◇ ◇ ◇




 両親との暮らしも半年を過ぎた頃、桃は、先々で経済的に余裕ができれば、

奈々子を連れて実家を出ていこうと考えるようになる。


 だが、あんなに最初は桃が出戻ることに難色を示していた母親が、この話をした折に、すっかり娘と孫のいる暮らし向きに馴染み(慣れ親しんだ結果)居心地がいいらしく、『奈々子もまだ小さいし、家に帰って誰も居ない鍵っ子にするのは可哀そうだ、その点ここなら私がいるのだから、奈々子が小学生の間はここにいればいい』と勧めてきたので、桃はそうすることに決めた。



 今は夫からの婚費もある。

 また、家のことは娘の自分がしているので、母親の都合の良い時に孫と関われて、母からすると今のこの生活が楽なのだ。



 だが、実際に自分()が働きに出るようになれば母親の気持ちにも

変化が起こるかもしれない。



 いくら奈々子を保育園に預けるといっても、送迎や病気の時、自分()が仕事から

帰るまでの間の子守など、小さな子がいるとどうしたって手を取られるのは目に

見えているからだ。



 その時は今度こそ、桃は奈々子と一緒に実家を出ていく心づもりでいた。



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