58 ◇サバイバルナイフ
両端左右に分かれてセッティングされたテーブルとイスのセットが、
奥までそれぞれずらーっと並び、右側の列に並べられている席の手前から
二つ目に、恵子の顔が見えた。
辛うじて、横顔が少し見えるのは俊だ。
彼らの姿を目の当たりにした桃の顔には、表情が消えていた。
そして、先ほどの心の持ちようである心得みたいにものも
あっさりと消えてしまっていた。
そう、先ほど自分に言い聞かせていた気持ちなど嘘八百だったのだ。
心の奥深くでとっくに結論は出ていて、準備は整っていた。
だから……、恵子が自分に気付き笑っている姿を視界に捉えながら
歩を進めた。
一歩二歩とふたりに近づく。
そして恵子の反応で、自分に気付き、振り向きながら立ち上がった俊の側に
素早く近づき、ポケットに忍ばせていた刃渡り約10cm のサバイバルナイフで一撃刺した。
最初何が起きたのか分からなかったようで、俊はすでに刺されている自分の腹を見て驚きの表情をし、縋るようにして桃の両肩に手を掛けた。
そして無残にも桃の目の前で床に崩れ落ちていった。
この間、全身全霊己が憤怒をナイ フの刃に乗せた桃は、微動だにせず、
ただ黙って立っていた。
すでにこの時、桃にはなんの感情もなかった。
まばらに点在する他の客はまだ気づかない。
恵子だけが震えながら恐怖の声なき悲鳴をあげた。
倒れた俊をそのままに、桃は恵子のほうへと近づいた。
どうやら普段の物言いからは考えられないほど恵子はヘタレだったようで
腰が抜けたのか、はたまた気が動転してなのかは分からないが、椅子に
座ったままだった。
『逃げればいいのに、馬鹿だなぁ。
それじゃあ遠慮せずいっちゃうねー』




