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◇さくら、さくら


挿絵(By みてみん)



◇さくら、さくら


        ―――――――――――

さくら~さくら~

やよいのそぉらぁは……

みわたすかぁぎぃり~

かすみか、くぅもぉかぁ

においぞ……いずぅる


いざや~いざや~

みに……ゆぅかぁん~……


        ―――――――――――


 病院のベッドで目覚めた桃は知らず知らず童謡唱歌である

『さくらさくら』を呟くように歌っていた。

 

悲しい歌だなぁと思うも……どうしてだか眦から涙こぼるる。


 左手方向に視線を向けると窓越しに頭上高く浮かぶ白い雲と

薄いブルーの空が見える。

 どこも痛みは感じない。

 自分はどうしてここに?

頭の中にモヤが掛かっているようで疲れを感じる。


 考え始めると、自分の名前も出て来ず少しパニックになる。

 仕方がないのでナースコールで人を呼んでみた。


「目が覚めたのですね」


にこやかな表情で入室してきた看護師が話し掛けてくれる。



「私……は、あの……私自分の名前が分からないのですが」


「水野桃さんと言いますよ」


「どうしてここにいるのでしようか? 

 悪いところはどこにもないように思うのですが」



「水野さん、後で先生から説明させていただきますので少しお待ちくださいね」

そう言い残し、その(看護師)は出て行った。



『水野桃』って言うんだ、わたし。



 夕方になってやっと一人の女医がやってきた。

 


 彼女は記憶を亡くした自分に入院に至るまでの経緯を掻い摘んで説明してくれ、

そこで私は自分がここにいる理由(わけ)を知った。



 明日か明後日には家族に面会に来てもらう、というような話をして

その医師は部屋を後にした。



 私は自分の仕出かしたことを話に聞き、心底驚いた。

 自分という人間がそんなにおそろしい人間だったとは。


信じられないけれど、あの医師が嘘をつく必要もないと思われ……。



 刃物のような、きれっきれっのすごい女なのだ、自分は。

 身内が面会に来るらしいのでその内記憶も徐々に戻るかもしれない。


 クソおそろしい自分の有り様を教えられたため、瞬間、動揺が走った

けれど、全ては己の記憶が戻ったときに、身の振り方というか

どのように考えて生きていけばいいのか、というようなことを

決めるしかないわけで。




 記憶が戻らない間、悲観して過ごすことは()めることにした。


 何故か、自分が何者なのかも分からない中、本能がそう告げる。


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