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第14話


 七月初旬。

 俺は近所のファミレスを訪れていた。


 期末試験に向けた勉強をするためだ。

 別に家でもできるが、外でやった方が捗る……気がする。


「……失敗だったな」


 そして家を出て五分で後悔した。

 こんな暑さの中、外出するんじゃなかった……。


 汗を掻きながら、何とか俺はファミレスに到着した。


 空いている席を探していると……。


「あ、早乙女じゃん」

「あぁ……氷室君」


 早乙女がいた。

 テーブルの上に参考書を広げている。

 彼女も勉強中らしい。


「……座る?」


 早乙女は参考書を少し退けて、テーブルにスペースを作った。

 勉強するためなら、一緒にいない方が集中できるだろうけど、それを理由に断るほど俺の社交性は低くない。


「では、失礼する」


 俺は早乙女の前に座ると、タッチパネルを手に取った。

 とりあえず、ドリンクバーを選択する。

 あとは……。


「フライドポテト。頼んだら、食べるか?」

「……別にいらないわ。勉強中だし」


 早乙女は僅かに躊躇した様子を見せてから、首を横に振った。

 早乙女が食べないなら、小さいサイズで良いか。


 注文を終え、適当な飲み物を持って来てから、俺は勉強を開始する。

 

「……」

「……」


 俺たちの間に私語はない。

 ……時折、話したそうにしている早乙女の視線を感じるが、我慢する。


 まだファミレスに来たばかりだ。

 早乙女は十分に勉強をして、飽きてきているのかもしれないが、俺はまだほとんど勉強が進んでいない。


 そして十五分ほど経ったころ。

 フライドポテトがテーブルに到着した。

 

 俺はフライドポテトを摘まみながら、勉強を続ける。

 食べ始めてから五分が経過した頃だろうか。


 俺は少しだけ視線を参考書から、上に上げた。

 早乙女と目が合った。 


「……」

「……」


 彼女は気まずそうに目を逸らした。

 だが、すぐに視線が俺に……ではなく、フライドポテトに注がれる。


 とても物欲しそうな表情をしている。

 何度か口を開こうとするが、堪えるように口を噤む。


 “いらない”と言った手前、欲しいとは言えないらしい。

 相変わらず、変にプライドが高い。


「食べたいか?」

「べ、別に? ……食べたくないけど?」


 試しに聞いてみたら、謎の意地を張って来た。

 素直に食べたいと口にすればいいのに……。


「そうか。なら、いいや」

「……でも、氷室君が食べ切れないなら、食べてあげないこともないわよ?」


 “察してよ”。

 と、そんな表情だ。


 別に俺は追加で頼めばいいだけなので、半分くれてやるのは問題ない。

 が、しかし面白いのでもう少し揶揄うことにする。


「いや、このくらいなら食べ切れる」

「……」


 睨まれた。

 “そんな意地悪言わないでよ”という顔だ。


 確かに意地悪が過ぎたか。


「食べたいなら、食べて良いぞ」

「べ、別に食べたいわけじゃないけど……」

「いらないなら、俺が全部食べるけど」


 俺は早乙女を見つめながら、そう言った。

 すると早乙女は気まずそうに目を逸らす。


 そして僅かに赤らんだ顔で頷いた。


「……食べる」


 そして拗ねた表情でフライドポテトに手を伸ばした。

 一本、口に入れる。

 

「……」


 それから二本、三本とドンドン口に入れて行く。

 もうやめられない、止められない様子だ。


 ……これだと俺の分がなくなるな。


 フライドポテトを追加してもいいが、せっかくだし別の物にするか。


「ピザ、頼もうと思うんだけど。食べるか?」

「……氷室君が、頼むなら」

「ポップコーンシュリンプは?」

「……少しだけなら」


 早乙女は参考書で顔を隠しながら、頷いた。

 パンツを履いていない時よりも恥ずかしそうだった。


 ……どういう倫理観しているんだ? こいつ。 

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