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8. 逆の意味なのに

「よし。誤用の話に戻そう!」


「まだ続けるのか」


 若干呆れたような返事だが、手元の本は閉じたままのため、変わらず話に付き合ってくれる気はあるらしい。


 意外と付き合いのいい奴なのである。


「てことで、『やおら』!」


「ああ。前に話した『おもむろに』と同じ感じで誤用されてるやつな」


「そうそう。本来は『ゆっくりと』って意味なんだけど、『急に』って意味だと思う人も多いんだよな」


「そういうお前は?」


「どっちの意味か分かんなくなる!」


 オレの返答を聞いて、相手はふっと顔を背けると、肩を震わせる。ツボにはまったのか、笑っているらしい。


「けどさー、なんでか逆の意味に思われている系の誤用ってあるよな」


 気にせず話を続けると、笑いはすぐにおさまったようで、同意の声が返って来る。


「ああ、まあ、たしかに。……最近だと『琴線に触れる』が誤用されてるの見るよな」


「あ、見る見る。感動したみたいな意味のはずなのに、逆の場面で使われてるの見たとき、ちょっとびっくりした」


「だよなー。なんか『逆鱗に触れる』と混同されたんじゃないかって説を見たけど」


「ああ、そういう。けど、本当に真逆の意味だよなー……」


 そう言いながら、ふと気になった。


「なあ、オレたちがつい使っちゃう誤用とかも、正しい意味の方を使い慣れている人からすると、同じ感じで違和感あるのかな?」


「……まあ、そうなんじゃないか? わからないけど」


「あー……こんな感じなのかー……これはたしかに、気になるなー」


「そんなに気になる?」


「うん。あれはなんか、見ててむずむずする」


「へー」


 真逆の意味で使われていた文章を思い出して眉を寄せているオレに対して、そこまで気にならないのか相手は平気そうな顔だ。


「むー…………あ、逆の逆になったっていうか、誤用ってのがよく知られるようになったのだと『情けは人の為ならず』とかあるよな」


「ああ。あれはたしかに『親切にするのは、その人のためにならない』ってのは誤用だってのが広まった感じはあるな」


「なー。逆の意味の誤用だけど、誤用ってのが広まったから、最近はもう誤用の方は見なくなった気もする……」


 あれはもう、誤用が誤用だと認知された結果、「人に親切にすると、いずれはめぐりめぐって自分のためになる」という正しい意味が定着したような印象がある。


 うなずいていた相手がふと眉を寄せた。


「それで気になるのだと、俺は『性善説』かな」


「うん? どういう誤用?」


 思い当たることがなくて聞き返す。


「『性善説』を『教育がいらない』って意味で使っているやつ」


「あー……見る、気がする」


「『性善説』も『性悪説』も、どっちも教育の重要さを説く話だろ? なのになんでか『性善説』の方は『教育がいらない』って意味で使われているのを見るんだよなー……」


「あれか、漢文で習ったやつ」


「そうそう」


 たしか、「性善説」の方は「人の本性は善だから、それを教育で伸ばすべき」って感じで、「性悪説」の方は「人の本性は悪だから、それを教育で正しくするべき」みたいな感じだったはずだ。


 どうにも気になるのか、相手の眉間に寄ったしわが深くなっている。


 気になる部分というのは、人それぞれらしい。


今回の話で言及した誤用:

・やおら

(・おもむろに ※4話で既出)

・琴線に触れる

・情けは人の為ならず

・性善説

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  • 【注記】
  • ※言葉の使われ方は変わるもののため、当小説内に記載している内容について「正しい」「間違っている」などと主張するものではありません。
     執筆時点で「誤用と言われていた」「そう思う人もいる」くらいに考えてください。
    ※書いている人は、言葉について専門的に学んだわけではないため、正しい知識を得たい方はご自身で調べるなどしてください。
    ※あくまでも「小説」です。たまに脱線して誤用以外の話をすることもあります。
     誤用について学びたいという用途には適さないため、そういう目的の方は、他の方の書いた誤用についてのエッセイなどを読む方がよいかと思います。
+注意+

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