表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

6. 書き間違いと読み間違い

 ※誤用から少し話が脱線しています。

「文字と言えば、『独壇場どくだんじょう』って元々は間違いだったみたいだな」


 ずっと声を抑えるようにして笑っていた相手だったが、ようやく笑いがおさまったようだ。


「へえっ?」


 そうしてオレがその言葉に驚いていると、指を伸ばした相手が、目の前の電子辞書を操作する。


 そのまま相手の操作する画面を眺めていると、説明が表示されたため、目に映った文字を読み上げた。


「……『独擅場どくせんじょう』?」


 辞書の説明によると、「独擅場」の「擅」を「壇」と書き間違えてできたのが、「独壇場」という言葉らしい。


「へぇ~……これは絶対、間違えるな……」


「な」


 まだ笑いが残っているのか、相手の同意する声には少し笑みがにじんでいるようだった。


「間違いと言えば、よく『雰囲気ふんいき』を『ふいんき』と読み間違える人がいるって聞くけど……あれ、本当なのか?」


 間違いという言葉から思い出した話をする。


「んー……俺もその話、聞いたことはあるけど……」


「『ふんいき』よりも『ふいんき』の方が言いづらくない?」


「まあ、今も言いづらそうだな」


「うるせー。お前も言ってみろってんだ」


「……ふ、いんき」


「言えてない……」


 ぷくく、と笑う。


「いや、言えてはいるだろ」


「たどたどしすぎる……」


 さっきまでの相手の笑いがうつったかのように、抑えても笑いがこみあげて来る。


「読み間違いの有名どころで言うなら『秋波しゅうは』とか……まだ笑ってんのか」


「っ……まって…………はー、笑ったー。……ん? 『しゅうは』?」


 ようやく笑いを抑え込み、相手の言葉を聞き返す。うまく漢字に変換できなかった。


「……これ」


 オレが笑っている間に調べていたのか、電子辞書の画面を示される。


「あー……これかー……」


 見たことのある文字ではあった。あったのだが――。


「何? 変な読み間違いでもしてた?」


「っいや!? ちゃんと読み方は知ってたぞ!?」


「あやしい……」


 さっき笑ったことを根に持っているのか、じっとりとした目を向けられる。


 一瞬、躊躇するが、まあ、さっき変な風に笑ってしまったことだし、こちらも多少はいいかという気持ちになる。


「いやー……なんでかさー、オレ、それ、『あきかぜ』って読んでたんだよな」


「…………『かぜ』、どっから来た?」


「わからん」


「わかんねーのかよ……」


 今日は随分と笑いのツボが浅いらしい。また声を抑えて笑い始めた。


「もー、いっそのこと、声出して笑え?」


「やだよ……っ……」


 うつむいて肩を震わせているそいつは、目尻に涙までためて笑っている。


 まあ、こんな日もある。


今回の話で言及した誤用(読み間違い):

独壇場どくだんじょう

・雰囲気

秋波しゅうは


補足:

・独壇場については、誤用が定着したとみなされていることが多いようです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  • 【注記】
  • ※言葉の使われ方は変わるもののため、当小説内に記載している内容について「正しい」「間違っている」などと主張するものではありません。
     執筆時点で「誤用と言われていた」「そう思う人もいる」くらいに考えてください。
    ※書いている人は、言葉について専門的に学んだわけではないため、正しい知識を得たい方はご自身で調べるなどしてください。
    ※あくまでも「小説」です。たまに脱線して誤用以外の話をすることもあります。
     誤用について学びたいという用途には適さないため、そういう目的の方は、他の方の書いた誤用についてのエッセイなどを読む方がよいかと思います。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ