4. 誤用なのか、正しい意味で使っているのか、わからないやつ
とある日の放課後。
教室で二人きりになり、なんとなくまた誤用の話になる。
「そういえばさー。『発覚』って後ろめたいことがないなら使わない方がいいんだよな」
「ん? どういうことだ?」
お、これは珍しく相手は知らなかったらしい。
「調べてみ?」
にやにやとしながら促すと、若干嫌そうな顔をしつつ、電子辞書を取り出して調べ始める。
「隠していた悪事などが明るみに出ること、か……」
画面を見ながらつぶやく相手を見て、自分も画面をのぞき込む。わざわざこちらにも見えるように開いていた電子辞書の位置を調整してくれた。
「そ。悪いことをやったとわかっていて隠していたって意味が含まれるから、そういう意図がないときには『判明』とか、他の言葉を使う方がいいらしい」
「なるほどな。そういう理由がないときに『発覚』って使うと、変に悪意があったかのように思われるのか」
「そうそう。知らないと間違って使いそうだよなー」
「たしかにな。ニュースとかでも『発覚』って使われているのをよく見る気がするけど、あれは悪事が露呈したみたいなときか……」
思い出すように宙を見ながら話す言葉にうなずく。
「そういうのは正しい意味で使われているんだろうけどなー。なんとなくで意味がわかる分、改めて言葉の意味を調べることがないから、判明とかと同じ意味みたいに思って使っちゃう、という、な」
「んー……そういう系の話だと、『クライマックス』もそうか」
「へ? 何か誤用されてる言葉?」
きょとりと目を瞬かせると、ポチポチと電子辞書に文字を打ち込んで、結果を見せてくれる。
「……一番盛り上がった部分?」
特に思っていたことと違う意味が書かれてはいなかったため、首をかしげる。
「そう。最後じゃないんだよな」
「! ああ! そういうことか!」
話の最後の盛り上がる部分、という感じの意味と思っていたが、「クライマックス」の言葉自体には最後という意味は含まれていないようだった。
「んー、けど、たいてい最後の方が一番盛り上がる気がするけど」
「まあ、たしかに、最後に一番盛り上がる部分が来て終わるってのが多い気がするな」
使われている場面としては誤用がされていないことが多いが、意味としては間違って覚えられていることが多いパターン、と言えるだろうか。
「あ、そういうのだと『さわり』とかも似てるな」
「ああ。話のさわり、みたいな感じで使われるやつか」
「そうそう。本来は話の見どころの部分とかを指すんだけど、冒頭部分って意味で使われているところも見るよな」
「誤用の方の『さわり』かと思ったら、正しい意味の方で、ネタバレくらうやつとか」
「そこはネタバレ配慮してほしい」
「まあな。ネタバレは別問題か」
苦笑していた相手が、再び口を開く。
「ちょっと違うかもしれないけど、『やぶさかでない』もそれ系?」
「あー……あれの正しい意味ってなんだっけ」
そう言って思い出そうとしつつ、机の上に相手が出したままの電子辞書を勝手に使ってポチポチと調べる。
「喜んでするとか、することに努力を惜しまないとか、そういう感じが正しいのか……」
調べた結果を眺めながらつぶやくと、向かいにいる相手が首を傾げた。
「誤用は……なんだろう。いやいやするとか、仕方なしにするとかそんな感じで使われているところを見る……か?」
「してもいいけど、くらいの感じで使われているのを見るような……?」
お互い、誤用されている場面の記憶があいまいらしい。
「んー……それ系だとオレは『おもむろに』とか?」
「あー……それ、どっちの意味が正しいんだっけ」
ポチポチと代わりに電子辞書に文字を打ち込んでやる。
「ゆっくり動く、の方が正しい、か……けど、これ、小説とかで使われていても、他の部分と矛盾してなかったら誤用か正しい意味で使われているのかわからないよな」
出てきた結果を見せながら話すと、相手もたしかに、とうなずく。
「『おもむろに立ち上がった』って書かれているだけだと、正しい意味で使っているのか誤用の方なのか、わからないな」
結論。誤用されているのをよく見る言葉は、正しい意味で使っているのか誤用なのかわからなくなりがち。
なんて、な。
今回の話で言及した誤用:
・発覚
・クライマックス
・さわり
・やぶさかでない
・おもむろに