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冒涜的な幼馴染

初めて書いたクトゥルフもの。よろしくお願いします。

「……ここをこうして……」


「……」


「この薬を注射すれば……出来た!!」


 そう目を輝かせているのは俺、吉弔谷沖(きっちょうたに おき)の幼馴染にして恋人の和邇口稲(わにぐち いな)である。


 幼稚園の頃からの腐れ縁で、そこからは小中高までずっと一緒。大学生になった今でも同じ大学に進学して、同じ理系学科に進んだ。恋仲になったのは高2の夏休み明け。それからなんやかんや大学2年の今まで関係が続いている。


 恋心を意識し始めたのは高校に入った頃からで、その頃には稲と付き合っている彼氏がいたのだが、その彼氏と稲がとある事情で別れたのをきっかけに、なんとなく付き合い始めた。


 兎を思わせる白い髪と、赤い瞳が特徴で、顔もスタイルも上の上。ついでに料理も上手い。更に音楽の才能にも恵まれていて、将来はミュージシャンにでもなろうか、とうそぶいている。


 これだけなら、ほぼ理想の女性と言えるだろう。


 …………そう。これだけなら。


 問題は……。


「どう……? 水陸両用マウス。いい出来でしょう?」


「…………お、おう」


「身体にちょっと細工を施して、水中でも生きられるようにしたわ。さながらズゴ〇グやアッ〇イの様な水陸両用モビルスー〇」


 そう興奮気味に語っている瞳はとても楽しそうで、見ているだけで癒される。


 手に、魔改造されたマウスを持っていなければ、だが。更に言えば、彼女の背中から無数の触手が生えていなければ、だ。


挿絵(By みてみん)


 そう。我が幼馴染にして恋人は、マッドサイエンティストなのだ。


 ついでに、なんか邪悪な神様の血も引いているらしい。おかげで彼女には、収納可能な触手が生えている。


 ***


 彼女の研究テーマは水中に陸上の生物を進出させるというものだ。曰く、人間に陸上は狭すぎる、人類が海中に進出出来れば、もっと土地を有効に活用できる。また、彼女が個人的に崇拝している神が水中におわしますという事なので、それにより近づくためでもある、と語っている。その結果が、目の前の哀れなまでに魔改造されたマウスなのだが。


 今回の、鼠を用いた実験のレポートを嬉々としてまとめている幼馴染を、戦々恐々と眺める。本当に、この倫理観の著しい欠如と触手が無ければ理想の女の子なのに……。いや、彼女の場合、倫理観という概念自体はあるのだ。その一線を越えるのを、あらゆる意味で躊躇しないだけで。


 子供の頃は、変わった所がある子だな、という認識だった。活発な子で、男子たちに混じって虫取りをよくして遊んだものだ。そこで取った虫を、興味本位でバラバラに解体する事がよくあったが、まぁこの時点で、子供はこんなもんだろうと、そこまで違和感は感じていなかった。なんなら、時折触手も出していたが、不思議と恐怖や気色悪さは感じなかった。子供は純粋なのだ。


 中学生の時点で、事故にあったり、捕食された動物の死体をどこからか入手してきて、解体して喜んでいたが、この時点でも不思議と、やべー奴という認識は無かった。俺達の生まれた田舎では、動物や虫は身近な存在だった。だから、必然的にそうした死体を目にする機会は多かったし、なにより、彼女の仕草や言動自体は、時折触手が出ている時がある以外、至極まともで、裏でしている事の違和感を感じさせなかったのだ。


 問題は、高校生になった後の事。


 稲は、なんやかんやあって、クラスのチャラ男に告白され、付き合う事になった。俺は、長年一緒にいた相手を取られた事に寂しさを感じなかった訳では無いが、この時点で彼女を恋愛対象にはしていなかった事もあり、あくまで友人として時折話をする程度の関係になっていた。


 そんな中、高二の夏休みの最後の日、忘れもしない8月31日。泣きながら彼女が電話をかけてきた事、また、それに出てしまった事で俺の人生は、良くも悪くも、自分では思わぬ方向へ進む事になった。


「あぁ、沖君? 今ね、私、彼氏に振られたの……!」


 確か第一声はそれだったと思う。


 曰く、付き合っていたチャラ男の部屋に行ったところ、そういう雰囲気になって、ベッドに押し倒された。


 そこまでは良かったが、どうも、会う直前まで件の動物の死体遊びをしていた事で、死臭が身に染みこんでいたのと、興奮した結果、格納していた触手が何十本と背中から生えて蠢いた事。


 更に彼に


「避妊はしなくて良いよ。……流産した水子の霊ってとっても強力なんですって。それを使って色々実験をしたいと前々から思っていたの! 良い感じの水子霊って中々いなくてね。渡りに船だわ!」


 と宣った所、当たり前だが、百戦錬磨のチャラ男君の性欲も萎えた、というよりドン引きされて追い出されたらしい。


 ……むしろ、何故行けると思ったのか。あと、多分チャラ男は正気もぶっ飛んだのだろう。


 その時は、俺の家に呼んで色々話を聞いてやったが、むしろ、チャラ男は今までよく彼女の言動や奇行やチラ見えする触手に耐えたなと逆に感心したものだ。可愛い女の子を食い散らかす事で悪名の高い奴だったが、今回ばかりは少し同情した。


 翌日から登校し始めるとチャラ男経由で、稲の奇行や頭のおかしい言動、更に触手の存在が拡散されており、たちまちのうちに稲はクラスで孤立した。いじめというか村八分というか、誰も彼女に関わりたがらなくなった。まぁ、残念だが当然案件ではある。


 俺だけが幼馴染として、何となく不憫で、クラスで唯一、稲に構いにいっていたのだが、その選択肢を取った事で、恋愛ゲームでいうところの俺が進められるルートは、稲ルートに固定されてしまったらしい。


 凄まじい勢いで、稲は俺に依存する様になり、何となくダラダラとした関係を1ヵ月程続けた後、触手でがんじがらめにされた上で寝込みを襲われ、彼女に強引に関係を持たされ、名実ともに稲の彼氏になった。というか、されてしまった。


 幸い(?)な事に、前の彼氏が酷くてハードルが下がっていた事もあり、稲の実家の和邇口家の人達からは、俺の評価は良い。


 彼女の妹……歳が稲とは離れているので向こうは幼稚園児だが、彼女からはボロクソに罵られ、ガキ相手に本気の喧嘩をした事が何度かあるくらいで、おおむね歓迎ムードなのが救いである。これで、向こうの家族とも険悪だったら目も当てられない。稲の妹とは絶望的にそりが合わないけど。


 更に言うと、稲は手持ち無沙汰で始めた音楽の方向で意外な才能を発揮して、人気の方はある程度取り戻したのだから、大概彼女もただでは起きないタフな女性だと思う。


 長々と語ったが、こうしてなんやかんやで恋仲になった俺達は、同じ大学の同じ学科に進み、こうして研究でも切磋琢磨しているというのが現状である。彼女の言動や思考を少しでも理解したくて勉学方面にも俺の興味が湧いたのは良かったのか、悪かったのか。


「おーい、沖くん。SE〇しようよ!」


「情緒もへったくれもないな」


 ……目の前の頭のネジが数本どころかダース単位で外れた女の子の言動に振り回されるのは相変わらずである。

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