さあ、豊臣と戦います。
家康が倒れたので、代わりに秀康が指揮を執って豊臣との戦の始まりです。
「では軍議を始める。とは言っても、相手は大坂城に籠って出て来ない故、こちらは城攻めをどう行うかという事になるのだが…誰か意見のある者はいるか?」
どうも、結城秀康です。家康さんが倒れたので代わりに俺が大坂の陣の指揮を執る事になりました。軍議を始めたのでとりあえず定番として皆の意見を求めたのですが…誰も何も言いません。正信さんや十徳斎さんですらも大坂城の縄張図を見て渋い顔を浮かべるだけです。
「正信、十徳斎殿、そなた達からも何もないのか?」
「何かと申されましても…さすがは故太閤が心血を注いだ名城、全く隙が見当たりませんな」
「ああ、これだけ大きな縄張ならば何処かに綻びがあってもおかしくないんだが…見事というしかない」
知恵者二人に話を振ってみてもこの始末…しかしただ突撃すれば良いというものでもない。やはりあの方法しかないか。家康さんもおそらくそれしかないと思ってあれを用意したのだろうしね。
「ならば私に一つ考えがある…正確には私ではなく大御所様がお考えになった事だがな」
~次の日、備前島にて~
「大筒の配備はどうだ?」
「はっ、既に九割方は終わっております。撃ち込めというのならある程度ならばすぐにでも」
「いや、全て完了してからで良い。但し完了するまでに豊臣方に踏み込まれるような真似はするな」
俺は家康さんが用意していた大筒を備前島へ配備する事を命じ、その進捗状況を見に来ていた。まあ、此処から大筒を大坂城に撃ち込むのは本来の史実でも家康さんがやっていた事だし、今回も家康さんの命で大筒が運び込まれていた事を考えるとおそらくここでもこれをやるつもりだったに違いない。如何に秀吉さんが心血を注いだとはいえ、鉄砲の備えはあっても大筒の備えはほとんどされていないように見える。今まで大筒はあまり戦場に出て来なかったから当然といえば当然なのかもしれないが。
「兄上、わざわざのお運びありがとうございます」
俺が備前島へ到着してすぐに、この場の責任者となった松平忠輝君がやってくる。
「弟の晴れ舞台だからな。万が一にも失敗するわけにもいかないだろう?」
「ご懸念には及ばずとも、しっかり任を果たしてみせますとも。昨日の兄上のお言葉、この忠輝決して忘れませぬ」
「それは頼もしい限り」
俺と忠輝君はそう言って笑いあう。
えっ、何でこの場に忠輝君がいるのかって?まあ、本来では冬の陣の時は江戸の留守居役だったんだけど…この世界では秀忠君が死んでいる事で多少家康さんの心にも変化があったのか、そんなに嫌われているという感じではないので、今回も大坂へ従軍していたというわけです。そして今回の家康さんの事があったので、その辺も含めて忠輝君とは話をしたわけですが…。
~前の日の軍議後~
「すまないな、忠輝。わざわざ来てもらって」
「いえ、兄上のお呼びとあれば何をおいても…私の今日があるのも兄上のおかげと言っても過言ではございませぬ故」
軍議が終わった後、俺は自陣に忠輝君を呼び出した。
「おかげという程の事をした覚えはないがな」
「何を仰いますやら、私と大御所様との仲を取り持ってくれたのは兄上ではございませぬか」
「俺はただ血を分けた親子なのだから、多少なりともと思っただけよ…何せ、大御所様に疎まれている事については俺の方が先輩だからな」
そう言った後、俺と忠輝君はしばし笑いあう。
「此処に来てもらったのは他でもない、今後の徳川の事について少々話をしておきたくてな」
「今後の…と申されますと?」
「此度、大御所様がお倒れになられた。無論、無事に回復してくれればそれに越した事は無いのだが…年齢の事を考えると決して楽観視は出来ぬと思っている」
俺のその言葉を聞いて忠輝君は何度も頷く。
「当然、跡目は家直様がお継ぎになるのでそこは問題ないのだが…やはり幕府において徳川家康という存在はあまりにも大きい。家直様御一人では支えきれない部分も出て来るであろう。なればこそ、徳川家康の子の中で年長者である我らが重要になってくると思っている…正直、俺はあまり表に出て行きたくはないのだがな」
「またまた…徳川幕府は兄上があればこそここまで無事に成立したと言っても過言ではございませぬぞ。皆、兄上が将軍になれば良いと言っております。おそらくは家直様も兄上がそう言えばすぐにでも将軍職を譲りましょう」
「皆はそう言うかもしれないが、少なくとも『父上』はそう思っておらんかっただろうよ」
「それは確かに…先程の兄上のお言葉ではありませぬが、我らは『父上』にあまり好かれてはおりませんでしたからな」
忠輝君の言葉に俺は苦笑で返す。
「さて、話を戻すが…もしこれから大御所様無しで幕府の政を行うには何より徳川の結束を示す必要がある。その為には我らが家直様をお支えするというのが一番良いと思っている」
「成程…かの毛利の両川の如きに、ですな」
「家直様を輝元殿のようにしてはならぬがな」
俺の言葉に忠輝君は爆笑する。
「その為にもだ…この戦、家直様に自信をつけさせるのはもちろんの事、そなたの存在を皆に知らしめる事も重要となってくると思っている」
「それで備前島は私に…という事ですね」
「ああ、よろしく頼むぞ。秀忠だけでなく忠吉も信吉も既に亡く、義直達はまだ幼い…徳川のこれからの為にも我らの奮闘こそが重要ぞ」
「ははっ、お任せください」
忠輝君は感激したかのようにそう言っていたが…実際俺が忠輝君を引き込んだのは、俺の左団扇生活の成就の為に忠輝君に仕事を押し付ける為だというのは内緒の話だ。無論、家直君にも頑張ってはもらうわけだが、俺がこのままいる以上は俺への政務の比重が大きくなるのは避けられない。そこで忠輝君にも参加してもらって徐々にそちらへの比重を増やす、そして俺は左団扇生活、これぞ俺の人生の完璧なプランだ!さあ、その為にも忠輝君には頑張ってもらわねば!
~次の日~
「秀康様、備前島の大筒の配備完了との事です」
「よし、ならば忠輝に攻撃開始を伝えよ!」
俺がそう命じてしばらくしてから、備前島より大筒が大坂城に撃ち込まれる。しかも天守ではなく城門や石垣に重点的にである。これは忠輝君が言っていた事で『天守の方が狙いやすくはありますが、城門や石垣を狙って城の防御力を破壊する方が良いでしょう』という提案を受けてそれを実行に移したのであった。さあ、豊臣の者どもよ、大筒という攻城兵器の前に決して大坂城といえども盤石でないと知るが良い!