無事に西に行く為にさらなる備えをします。
真田を振り切って西に向かう為にもう一つ備えます。
「どうやら、康政殿達は真田をしかと足止めしているようですな」
忍からの報告を聞いた正信さんはそう言って安堵の表情を浮かべていた。
「康政だけではなく仙石殿にも付いてもらったのだから当然であろう。それとも、二人が失敗して二段目の備えでそなたが出るのが望みであったのか?」
「いえいえ、ここで某の出番など…正面切っての戦など不得手でございます故」
「ならば、次の手を頼む。うまくいったならば後は手筈通りに」
「お任せあれ」
正信さんはそう言うと五千程の兵を率いその場を離れていった。
どうも、結城秀康です。とりあえず真田の相手は康政さんと仙石さんにお任せして西に向かっています。とはいえ、もしもに備えてもう一段備えをしようと思い、正信さんにそれをお願いしました所です。
「少々よろしいですか?秀康様」
「うん、どうした富正?」
正信さんが離れて間もなく側近の本多富正さんが話しかけてくる。
「榊原様と仙石様に待ち伏せを依頼された件ですが…某が思いますに、あそこは全軍で待ち伏せして一気に真田を潰す方が良かったのでは?」
まあ、普通はそう思うわな。だけど…。
「確かにこちらの方が大軍である故そう考えるのが普通かもしれないが、あくまでも地の利は向こうにある事を忘れてはいかぬな。粘られて日数を稼がれては結局真田の思う壺、あくまでもここは西に軍を進める事こそが重要。但し、敵中を進む為には後ろからの攻撃に備えて殿に強い者を配するが常道故、康政と仙石殿にそれを頼んだのよ。一万は…まあ、念には念をという所だな」
俺がそう答えると、富正さんは納得がいったように何度も頷く。
「なるほど…いや、秀康様のご賢察さすがでございます。さすがは家康様の御子という所ですな」
「つまらぬ世辞はよせ、そんな事をされても何も出せぬぞ」
「いえいえ、戦がうまくいった暁には少々褒美を上乗せしていただければそれで」
「よう言うわ」
俺と富正さんはそう言ってしばらく笑いあっていたのであった。
~次の日、真田昌幸の陣にて~
「榊原達め…我らが此処に来てから一日近く経つというのに、待ち伏せの位置から動こうともせぬ」
「おそらく我らが動くのを待っているものかと」
「分かっておる、そのような事は分かっておるが…奇襲が出来ぬ以上、この数では動いた途端にやられるだけじゃ」
真田昌幸は家臣とそのように話しながら苦虫を噛み潰したような顔をしていた。そこに…。
「申し上げます!本多正信が率いる軍勢約五千、城下に現れ稲を刈っているとの事です!」
駆け込んで来た使い番の言葉にその表情はさらに苦みを増す。
「何じゃと!?城に残った信繁は何をしておるか!」
「信繁様も撃退しようとすぐに兵を出そうとしたのですが…本多正信は軍を二つに分け、稲刈りの軍が襲われそうになると、もう一方の軍が城を攻撃しようとする素振りを見せる為、留守居の兵のみでは対応しきれず…しかもそのもう一方の軍を指揮するのは信幸様でございますれば兵達の動揺も大きく、苦慮されているご様子」
使い番のその返答に昌幸の表情の苦みはますます増していくばかりであった。
「昌幸様、どうされます?」
「どうもこうも…我らの方が動くのは危ういが、城に戻るしかない。夜になって敵に動きが無い事を確認したら、夜陰に紛れて城に引き返す!」
・・・・・・・
そしてその日の夜半。
「申し上げます。榊原の軍勢、最低限の物見のみでその他の動きはありません」
「よし、ならばこのまま城に退く。但し物音は控えよ」
昌幸のその号令と共に真田軍は城に引き返そうとしたのであったが…。
「わざわざこの夜半にご苦労!折角だから我ら仙石勢の槍の味を心ゆくまで味わっていかれよ!」
しばらく進んだ所で仙石秀久の軍勢が現れ、不意を衝かれた格好となった真田軍は算を乱す。
「うろたえるな!此処は我らが地、散って己が才覚で城まで辿り着け!」
昌幸のその命で将兵は思い思いに散って城に向かったのであったが、次の日の朝無事に辿り着けたのは千の兵の内八百弱、しかもその半分は手傷を負うという結果であった。
~さらに次の日、上田城下にて~
「ご活躍でしたな。仙石殿」
「いやいや、本多殿と信幸殿の働きがあったればこそ」
逃げる真田軍を追って上田城下まで来た康政と仙石の軍に正信が合流する。
「さて、真田の兵も随分疲れているようですからしばらくは動きもよろしくございますまい。これから如何されますかな、康政殿?」
「如何も何も…秀康様のお指図通り私と仙石殿はこのまま上田城を包囲する。我らの役目は、あくまでも秀康様が無事に家康様の許へ辿り着かれる為の抑え故に」
「さようで、ならばこちらからは手筈通り信幸殿と兵二千を置いてゆきます故、後はよろしくお取り計らいの程を」
「うむ、そなたも無理はせぬようにな。家康様の所に辿り着いても役に立てぬようでは、意味があるまいからな」
「まあ、ゆるりと参ります所存にてご心配に及びませぬ、では」
正信はそう言うと、三千の兵を率いて西へ向かっていったのであった。
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