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これ以上歴史を変えるのは嫌だったけど、やっぱり真田さん信用出来ません。

秀忠の代わりに徳川本軍を率いて中山道を進む事になった秀康。当然、その途中にはアレがいるわけで…。

どうも、結城秀康です。

ただいま軍勢を率いて中山道を進んでいます。やっぱ三万八千もの軍勢となると凄ぇなと思う今日この頃です。でも正直憂鬱です。折角、戦無しで左団扇な生活がと思っていたのに、よりにもよってこの大戦で一軍を率いる事になるとは…しかも、このまま進むって事は間違いなくアレと対峙しなけりゃならんわけです。ああ、面倒くさいなぁ。


「ほぅ、昌幸は降伏するというのだな?」

「はっ、兵数にこれだけ差があればさすがの父も降伏するしかないとの事で」

とりあえず信州の上田まで来ました。無論、此処は石田方に付いた真田昌幸さんの本拠地なのでさあ一戦と皆が思っていた所に、こちら側に付いた昌幸さんの息子の信幸さんが降伏勧告に行ってくれて、そのような回答を昌幸さんからいただいたとの事でした。

「さすがの真田昌幸もこれだけの徳川勢を相手に戦えないという事でしょうか」

「まあ、戦わずにすむならそれに越した事はないでしょうな」

榊原康政さんと本多正信さんはそう言っているのだが…絶対、そんなの嘘だし。これが真田の時間稼ぎだって事は本やドラマで散々見てるし。でも、このまま真田の手に乗って足止めされて関ヶ原に間に合わないようになれば一応史実に準じた形になるのかもしれない…いや、秀忠君は跡継ぎだから許されただけで、跡継ぎでもない俺が同じ事になれば間違いなくただ処罰されるだけだろうな。そうなったら大大名どころか今の領地すら失うわけで…そんなの無理!俺、この時代に一人放り出されて生きていく自信無いし!本当は歴史を変えるのは嫌だったけど、俺がこっちの軍を率いている時点でもはや俺の知っている歴史とは違うものになったと思う事にしよう!


「秀康様…如何されましたか?」

まったく発言をせずにじっと考えているように見えた俺を不審に思ったのか、康政さんがこちらの顔を窺いながらそう聞いてくる。

「ああ、すまない。少々考え事をな…真田昌幸の降伏に対する返事であったな」

「はっ、降伏するからには即刻城を明け渡して我らに従軍するよう伝えるべきと思いますが」

まあ、普通はそうなるだろうな。秀忠君はそうやって真田の手に乗っかったわけだけど…知っていて乗るなどとどう考えてもあり得ない。ならばもうひと押し…そしてその次の手もプラスだな。

「信幸、父御にこう伝えろ。『降伏するというのなら明日の昼までに城を明け渡せ。昼を過ぎても明け渡せぬ時は石田三成に味方したとみなし総攻めを仕掛ける』とな」

俺のその言葉にその場にいる全員がぎょっとした顔を見せる。

「お待ちください!いきなり明日の昼などと…父の言葉が信用出来ないというのですか!?」

「逆に聞くが、お主の父御に徳川がどれだけ裏切られてきた?そもそも味方に付くなら下野にいる時点で付けば良いのだ、お主のようにな。それをわざわざこれ見よがしに上田に戻って敵対行動を見せたと思ったらこちらの兵数が多いから降伏?そんな言葉だけで信用が出来るとでも?信用されたければ行動を以て示せと昌幸に伝えよ!」

信幸さんは俺の言葉に反論するが、俺がそう言うと押し黙って陣を出て行く。


「なかなかのお言葉でしたな、秀康様。某ではああは言えませぬ」

「ふん、俺は正信のように言葉をうまく選べぬ故、思った通りに言うだけだ」

正信さんの言葉に俺がそう答えると、正信さんは苦笑いで返す。

「されば秀康様、明日の昼から上田城を総攻めという事でよろしいのですね?」

「何で?」

康政さんの言葉に俺はつい素の言葉で答えてしまい、場が沈黙に包まれる。いかんいかん、俺は令和の大学生じゃなくて結城秀康。

「オホン、いやすまない康政。信幸にはああ言ったが城攻めはせぬ」

「…どういう事で?」

「我ら…というより父上にとって重要なのは真田か?石田だろう?」

「まあ、確かにそう言われれば…」

「ならば我らも一刻も早く上方へ向かうべきと思うが?」

俺のその言葉に康政さんも正信さんも考え込む。

「秀康様のお考え、ごもっともとは思いまするが…殿からはあくまでも真田を討つか従えるかした後に西に向かうようにと仰せつかっていますれば、それをせずにただ西に向かうというのは如何なものかと」

しばらくしてから正信さんがそう聞いてくる。まあ、普通ならそうなるよな。けれど、既に家康さんからは美濃に向かうようにとの使者が出ているはず…川止めだったか真田の妨害だったかでまだ此処に来ていないだけで。

「いや、既に福島正則殿達が岐阜城を攻略している以上は父上も一気に勝負を決めようとするはず。その時に徳川の本軍たる我らがおらぬでは父上もお困りになろう。責任は俺が取る故、皆に『明日の昼を以て上田を離れ西に向かう』と伝えよ」

俺がそう言うと康政さんと正信さんはそれ以上は何も言わず俺に従う意思を見せ、俺の命を伝える為席を立とうとしたのだが…。

「いや、ちょっと待て。その前に二人に頼みたい事がある。全軍で西にと言ったが、そのまま向かうだけではそれこそ真田の妨害に遭いかねない故…」

俺は二人にもう一つの考えを示し、それを含めて皆に通達に行ってもらったのであった。


~次の日の昼、上田城にて~

「結城秀康め…この儂が信用出来んとはっきり言いおったわ」

「徳川とは随分やりあってきましたからな」

真田昌幸と息子の信繁はそう言って笑いあっていた。

「まあ、良いわ。もうじき昼。向こうが攻め寄せて来たならば、たっぷり時間をかけて奴らが西へ向かえないようにしてやるだけよ」

昌幸はそう言って不敵な笑みを浮かべていたのだが…。

「申し上げます!徳川勢、全軍西に向かって進み始めております!」

使い番のその言葉に驚きの表情を見せる。

「どういう事だ!」

「まさか家康からの書状が届いたのでは…?」

「いや、それはない。そもそも関東から此処までの道は川の氾濫で塞がれている上に、書状を持った使者はまだ我が方の忍に追い回されていると昨日報告があったばかり。少なくとも今到着する事は出来ぬはずだ」

「ならば独断で…という事ですか?」

「分からぬ、分からぬが、西に向かうのを指を咥えて見ているわけにもいかぬ!地の利がこちらにある内に追撃をかけて足止めだ!」

昌幸は自分の思惑通りに進まない事に苦い顔をするも足止めさせる為に出撃を命じるのであった。


「まだそう遠くへは行っておらん、このまま軍の横合いに出て一当てすればさすがに無視は出来まい」

昌幸は一千余りの兵を率いて徳川勢が向かったであろう方向へ山間を進んでいたのだが…。

「申し上げます!この先に展開する軍勢有り!その数、およそ一万!旗印から榊原康政と仙石秀久と思われます!」

「何じゃと!?」

その報告に驚愕の表情を浮かべるのであった。


~榊原康政の陣にて~

「ほぅ…真田め、本当に来ましたな」

「おや、仙石殿は秀康様のお言葉を信じてなかったので?」

「はっは、こういう時はこう言うものですぞ」

榊原康政と仙石秀久はそう言って笑いあっていた。

「しかし、結城殿は慧眼であらせられる。真田の目的が足止めならば、我らが西に向かえば即座に妨害の為に追撃してくると読んで私と榊原殿を抑えに残すのですからな。しかも、ただ命じるだけではなく『もし真田昌幸が来た場合、あの者と正面切って一番にやり合えるのは二人だけ故、貧乏くじとは思いますが、どうかまげてご承知いただきたい』などと申されてはのぉ」

「いや、確かに。ですが仙石殿、従軍している者達の中で一番やり合えるのは間違いなく我らですぞ」

「ああ、此処は戦場を生き残ってきた古強者同士の場、でしょうとも」

二人はそう言って笑みを浮かべながら真田の軍の方を向いていったのであった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 足止めの役割を封じて逆に足止めを喰らわせるのはある種痛快
[一言] これ三方ヶ原の戦いの時徳川が浜松を素通りする武田に背後から攻撃をしかけようとして城から出たら待ち構えていた武田にボコられたのを今度は徳川がかって武田家臣だった真田に意趣返しみたいな構図にw
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