夏の陣です。
家康は死にましたが、夏の陣が始まります。豊臣は勝利の為に秀康の首を狙ってやってきます。
「やはり豊臣方は討って出てきたな」
「どうやら狙いは完全に秀康様のようです」
どうも、結城秀康です。夏の陣が始まりました。当然の事ながら大坂城は堀も城門も碌に残っていない状態なので、勝利の為には討って出て俺の首を取る以外の手段などあるわけもなく、予想通り軍の大半がこちらに向かって進んできている状況です。参陣している皆様方が止めてくださっているので、途中で壊滅してくれてたらいいなぁなどと思っています。
「しかし、さすがでございますな秀康様」
「何が?今の所まだ何もしてないぞ?」
「明らかに秀康様を狙って敵が押し寄せて来ようとしているのに、顔色一つ変えずにおられる事でございまする」
「向こうが俺の首を狙って来る事などとっくに予想済な話、今更狼狽える必要性も無いわ」
富正さんが俺を褒めてくるので、そう言って笑い飛ばしてはいるのだが…正直、内心ビビりまくりです!だって何万もの人間が俺を殺そうとやってくるんだよ?逃げていいんだったら即行逃げてるし!!でも、戦場で上に立つ人間がそんな事したらダメだし!!とりあえず大将はどれだけ想定外の事が起きようとも『想定内です』って顔をしてないと士気に関わるし!!だから我慢していっそ顔は薄ら笑いを浮かべてみたりなんかしてます!さあ、来てみやがれってんだ!!
~一刻後~
「秀康様、豊臣方の兵が陣の二里先まで迫って来ております!その数およそ一万五千!!」
一万五千…大坂城を出てこっちに向かって来た時は三万余りだったはずなので、半分には減ったのだがまだそれだけいるのか…頼むぞ、味方の衆!何とか後一里以内位で壊滅させてくれ!!
「秀康様、俺が喰い止めてきます」
「勝成…大丈夫なのか!?」
「ふふん、俺を誰だと思っているんです?全てはこの鬼日向にお任せあれ!一瞬で敵を蹴散らしてご覧にいれましょう!」
俺の陣の真ん前にいた水野勝成さんは、そう言うと手勢と与力の軍勢を引き連れて敵に向かっていく。
仕方ない…ここまで来てビビりは無しか。
「信繁、鉄砲隊を引き連れて勝成の援護に向かえ!頼宣、頼房、お前達は四千の兵と共に後方へ下れ!残りの軍はここに集え!そして結城家の軍を中心にして陣は方円だ!」
俺がそう指示を出すと皆が素早く動いて軍を展開させるのだが…。
「兄上!私も前線に行かせてください!」
頼宣君がそう直訴してくる。この世界でも血気盛んなのは変わらずか…暴れん○将軍の祖父なだけの事はあるようだ。
「ダメだ、お前と頼房にはまだ早すぎる!直次、頼宣を下がらせろ!!」
「はっ!頼宣様、ここは大人しく秀康様に従ってください!」
「直次、お前は誰の家来だ!」
頼宣君は言っても聞きそうには無いので、傅役の安藤直次さんに連れて行くように命じたのだが、頼宣君は暴れて抵抗する。おいおい、今はそんな駄々をこねてる時じゃないんだけど…しかも、直次さんは家康さんに命じられて頼宣君に付けられただけで、少なくとも現時点では頼宣君の家臣ではないのだが。
「頼宣、これは遊びではないのだぞ!」
「そのような事、言われなくとも分かっておりま…ひっ、あ、兄上、何を…?」
頼宣君が尚も口答えをしてくるので、俺はその面前に槍を突き出す…無論、寸止めだが殺気は十分過ぎる程に込めて。そうしたら頼宣君はさっきの勢いは何処へやら、その場にへたり込んでしまう。
「分かったか?あそこに行けばこんなのが無数に襲ってくるのだぞ。お前が子供だからといって誰も何一つ手加減などしてくれぬ。それでもお前は行きたいか?」
俺がそう聞くと、頼宣君は何も言えなくなったようで涙目で俯いていた。
「…直次、頼宣を連れて下がれ」
「はっ、秀康様もお気をつけて」
頼宣君が直次さんに連れられて下がっていくのを確認した後、俺は改めて前線に目を向ける。
敵は勝成さんと信繁さんの参戦によりその勢いと数を大分失ったようだが、まだこちらへの進軍は続いている。俺の首を諦めるという選択肢は…まあ、この期に及んであるわけないわな。
「皆、気を引き締めよ!敵は我らが駆逐するつもりでいろ!」
『応っ!!』
俺の号令に陣の将兵達は一斉に構える。さあ、来い!…出来れば来て欲しくは無いけどね。
~さらに一刻後~
「そこにおわすは結城秀康殿とお見受けした!我こそは毛利勝永なり!いざ、尋常に勝負!!」
俺の願いも空しく遂に豊臣方の軍は俺の陣の前までやって来た。まあ、さすがに兵は数百位に減ってはいるが。それにしても毛利勝永さんか。信繁さんも又兵衛さんもいないから誰が来るのかとは思っていたのだが…まあ、他に来れそうなのは長曾我部さんか薄田さんか木村さん位しかいないだろうしな。さて、こちらとしては尋常に勝負してやりたい気持ちもないではないが、それは御免蒙る!という事で悪いが、そっちの射程に入る前に死んでもらう!!
「投石器、放てぇ!」
俺の号令で後方に構えておいた投石器から一斉に大岩が毛利さんの軍の場所に降り注ぐ。ちなみに何個かは焙烙玉も混ぜての攻撃だ。本当は大筒でもかましたかったのだが、この時代の大筒ではこんな近距離はさすがに味方に誤爆しかねないのでそれはやめておいた。
「続いて鉄砲隊、弓隊、放てぇ!!」
次の号令で陣の前方に構えていた鉄砲隊・弓隊が一斉に射撃を開始する。
さすがにこれだけの攻撃の前には毛利勝永さんとてどうしようもない。そこに後方から勝成さんの部隊が追い付いて来て攻撃を仕掛ける。
「攻撃やめぃ!槍隊前へ!そのまま守備隊形!!」
俺はそれを確認すると鉄砲隊と弓隊を下がらせて槍隊を前面に防御態勢を取る。さあ、どれだけの軍がこっちに来るのか…と思っていたら、
「水野勝成!毛利勝永を討ち取ったり!!」
勝成さんのその声と共に敵の進軍は止まる。さすがに将を討ち取られてまでこっちに来ようとする者はいないようで、残った敵兵は次々に討ち取られていったのであった。ふう、ようやく終わった。
~それから二刻後~
「兄上、ご無事で何より」
大坂城近くに進んだ俺達の所へ忠輝君がやってくる。
「そちらも無事なようで何より。長曾我部と木村と薄田がそちらへ向かったと聞いたが?」
「はい、ですが向かってくる前に大筒を二発程ぶち込んでやったら進軍が止まったので、後は我が舅殿が蹴散らしてくれました」
成程、俺はやめておいたが、忠輝君は大筒を使ったのか…しかも伊達政宗さんも活躍したようだ。おそらくは今更伊達政宗さんが野心をどうこうはしないだろうが、まだまだ要注意だな。
「さて、秀頼殿達は?」
「はっ、既に天守は放棄して奥の山里曲輪に立て籠っている様子…既に従う者は百ばかりのようですが」
「そうか、ならばここまで来てかける慈悲もなし!一気に引導を渡してしまえ!」
『応っ!』
俺の号令と共に兵達がなだれ込もうとしたその瞬間、山里曲輪始め大坂城の各所から轟音が響いたと同時に一気に火の手が上がる。
「兄上、あれは!?」
「どうやら秀頼殿達はこちらから引導を渡すまでもなく、城と運命を共にする道を選んだようだな…父上、ようやく戦が終わりましたぞ」
燃え上がる大坂城を見上げながら、俺はそう呟いたのであった。
この暑さによる脱水症状で腎臓を傷めてしばらく入院していたので、更新が遅れました。まだまだ暑い日が続きますので、皆様もお気をつけてお過ごしください。