公爵令嬢でも改心した悪役令嬢でもない下級貴族の私が王子様と結ばれるまで
前作「公爵令嬢でも改心した悪役令嬢でもない下級貴族の私が王子様の心を掴みます」
https://ncode.syosetu.com/n8603ix/の続編です。
よろしければそちらをご覧いただいてからお読みいただくとより楽しめると思います!
よろしくお願いします!
ーーあの日のことが忘れられない。
ダンスパーティの後、辺りは混沌とかし騒然となっていたため、すぐに私は会場を後にした。
それ以降、学園に通うと周りが数奇な目で見てくることが非常に増えた。時折、嫌がらせをしてくる人たちもいる。それも突然だと思う。
だって、この国の王子様が私なんかのことを好きって言ってくれたのだから…。
ー・ー・ー
その日に行われる、学園での授業が全て終わった夕暮れ時。授業で使った道具を片付けながら私は自分の手の甲を見つめていた。
ーー「好きだ、リリア。返事はお互いのことを知った時に教えてくれ。また後で」ーー
あの時、ライン王子に言われた言葉とキスされた感触が蘇ってくる。
また後でって言ってたけど、ダンスパーティが終わってからは一度も会ってはいない。
…いつ会いに来てくれるのかしら。
「おーい、リリア。また口元が緩んでるわよ」
物思いにふけていると、横から同じ男爵令嬢であり親友のサリカの声が聞こえてきた。
「え!?うそ、口元緩んでた?」
「うんうん、凄く幸せそうな顔してたわよ〜」
ニヤニヤしているサリカを恨めし気に睨みつつも、自分の顔が赤くなっていることを実感する。
ダンスパーティでこの国の王子であるライン王子に想いを告げられた時は、私なんかでは王子の横に立つのに相応しくないと思い断ってしまった。
その思いは今も変わっていない。けれど、時間が経つにつれて、ライン王子のことをもっと知りたいという気持ちが出てきているのも間違いなかった。
「恥ずかしいからそんな見ないでよ」
「え〜、幸せそうなリリアを見てると私も幸せになるのにな〜」
「それでもダメ」
こんな会話も気の許した親友であるサリカとしか出来ないので楽しく感じる。それにしても、外から見ると私はそんなに顔に出ているのだろうか…、改めてとても恥ずかしく感じるわ…。
「そういえば、あのダンスパーティの後から数日経つけど、その…他の子達から嫌がらせとかはなかったの…?そこが凄く心配で…」
私がまた1人羞恥心に悶えていると、サリカが今までの楽しそうな顔から一変した心配そうな顔をしていた。
本当に優しい子ね。サリカは。
「公爵令嬢のラビーナ様や元悪役令嬢の…、じゃなかった辺境伯令嬢のフリーア様達の派閥の方々からは少しちょっかいはあったわ」
「え、やっぱりあったの!?」
「ええ、でも大丈夫よ。ちょっと炎系の魔法を手に浮かべさせて睨みつけたらすぐに退散したわ」
私はそんな優しい親友に対して、安心させるように冗談めかして伝える。
ま、魔法で脅かしたのは本当だけどね。
「そ、それはちょっかい出した相手が逆に可哀想ね…。でもリリアが大丈夫そうで本当に良かったわ…!私じゃ力になれないかもだけど、もし何かあったらすぐに頼ってよね…!」
真剣な眼差しをしているサリカを見て、私も真面目な顔で頷き返した。
「ありがとう、サリカ。サリカも何かあったらいつでも言いなさいよ。絶対助けになるから」
「うん、わかったわ!…あ、そしたら早速リリアに1つお願いがあるの!」
「え、早速あるの!?もしかしてあいつらサリカにまでちょっかい出してるの?」
私が驚きつつ怒気を含んだ声で質問すると慌ててサリカが答えてくれた。
「あ、勘違いさせてごめんね。私はちょっかいとか出されてないから大丈夫よ。……実はね、こないだのダンスパーティで彼に告白されたの」
「え、ほんとに!?おめでとう!もう、なんでそんなおめでたい話もっと早く言ってくれなかったのよ」
「ごめんごめん、だってリリアは王子様のことで頭いっぱいそうだったから」
「む、それを言われちゃうとぐうの音も出ないわね…。でも本当におめでとう、サリカ。ずっと彼のこと好きだったものね。私も自分のことのように嬉しいわ」
「ありがとう。やっぱりリリアにはずっと好きだったのバレてたのね。なんだか恥ずかしいわ…」
恥ずかしそうにそれでいて、とても幸せそうなサリカを見て私も幸せな気持ちになる。
それにしても本当に驚いたわ…、私から見てもとてもお似合いな2人だったから、いつ付き合うのかなって思っていたけど…。そっか、こないだのダンスパーティで一緒に踊ったことで関係性が進んだってことね。良かったね、サリカ。
「次はリリアの番よ!ライン王子とはその後どうなのよ?」
「え、私!?ライン王子とはあれから特に何もないよ…!」
「あ、そうなの!?てっきり一度ぐらい会ってるのかなって思ってたわ…」
突然、私の話題になったから思わず驚いてしまったわ。
でもあれからというものの、ライン王子とは一度も会えていない。やっぱり、一時の気の迷いだったのかしら…。
なんて、ウジウジしても仕方ないわよね。この世界にはいくらでも優しくて素敵な男性はいることだし、前を向いて頑張ろう私。
「そうなのよね、私も何かあるかなって思ってたけど、やっぱり王子様は素敵な人だしきっと一時の気の迷いってやつだったのよ!だから私も気にしてないし平気よ」
「え、でも「良い心がけですわ、リリアさん」
「ちょっと、今私が…あ、ラビーナ様、、」
サリカの声を遮るような形で私達の後ろから声が聞こえてきた。振り返るとそこにいたのは公爵令嬢であるラビーナ様。
話を遮られたサリカは文句を言おうとしていたけど、相手が公爵令嬢のラビーナ様とだとわかると不服そうにしながらも言いかけた言葉を飲み込んでいた。
「リリアさんの言うとおり、ダンスパーティでのライン王子は気の迷いであのようなことを言ったにすぎないですわ。リリアさんが勘違いされてないか一応確認に来たのですが杞憂でしたね。」
「…そうですね。ご心配いただきありがとうございます。私などの下級貴族がこの国の王子様と添い遂げれるとは思っても居ませんので」
言葉を発するたびに胸の奥がズキズキと痛んでるのがわかる。
痛みの原因が何なのかも…。
「わかっていれば良いのです。私のライン王子にこれ以上色目を使うと、私もちょっかいをかけるどころではなくなるので。......まあもうそろそろ貴方はこの学園から居なくなりますが」
そう言いながら、ラビーナ様は近くの取り巻き達と一緒に颯爽とどこかへ行ってしまった。私のって、ライン王子は誰のものでもないのに、強調しているところに悪意を感じてしまう。
それにしても最後にボソッと言った言葉が気になるわね...。おそらくサリカには聞こえてなかったとは思うけど、私がこの学園から居なくなるってどういうことかしら。しかもさりげなく脅しもかけてるし。前世の時に居た、何でも思い通りにいかないと気がすまなくて嫌味をよく言っていた上司に似てるわね。
「本当に嫌な感じよね。私、ラビーナ様があんな人だなんて今まで知らなかったわ」
「そう?私はなんとなく外見は清楚で綺麗だけど内面は腹黒そうだなって思ってたわよ」
「そうだったの!?よくわかってたわね!」
そりゃあ、前世で散々ああいう人をよく見てたからね、なんてことは言えるはずもなく、『直感だよ』なんてありきたりな答えをして上手く会話を流した。
たまに前世のことを言ってしまいそうになるから気をつけないと…。
そろそろ帰ろうかと、サリカに声をかけようとしたタイミングで廊下から男性の声が聞こえてきた。
「おーい、サリカいるか?」
「あ、カイネル。ごめん、リリア。今日はカイネルと一緒に帰ってもいいかな?」
「もちろんよ。お二人ともラブラブで羨ましいわ〜」
「恥ずかしいからやめてよ〜」
「さっきの仕返しよ。また明日ね」
「もう〜、うん!また明日ね、リリア!」
照れながらサリカの恋人であるカイネルの手を繋ぎ2人で教室から出て行くのを見送る。
2人が顔を見合わせながら楽しそうに話しているのを見て、さっきまでラビーナ様のせいで嫌な気持ちになっていたのがほんわかな気持ちに変化していく。
いいな…、私もサリカみたいに恋人と一緒に過ごしたいな…って思う。
前世の時は、顔は良いけど中身が最低だった男に騙されたり、今世ではそもそも恋愛をしてこなかったのもあってサリカ達を羨ましく感じている自分がいる。
「あ、一つだけリリアに伝えたいことがあるわ」
「ん、どうしたの?」
教室から出る直前、サリカが振り向き声をかけてきた。なんだろう、伝えたいことって。
「恋人になってからお互いのことを知るって方法もあると思うわよ。じゃあ今度こそまた明日ね!」
バタンとドアが閉まる音が聞こえる。
え、それってまさか私とライン王子のこと!?
今は知らなくても恋人となってから知ればいいよってことをサリカは言いたかったのかしら…?
確かにあの時に返事をしていたら、私もライン王子と2人で笑いながら一緒に過ごしていたかもしれない。
いや、あの時の決断は間違っていないわ。ライン王子のことを思えば、私なんかよりもきっと素敵な人はいるはずだし。
あの時の決断を少し悔いてしまう自分に嫌気が出そうになったので、慌てて過去の自分を肯定した。
ー・ー・ー
自問自答を心の中で繰り返しながら1人、夕焼けに染まる学園の廊下を歩いていると、ふと何人かの生徒が私を囲んでいることに気づいた。
「おい、ちょっとこっちに来い」
囲んでいた中の1人である男が声をかけてきた。近くにある普段は舞台稽古とかを行う広めの教室へ案内される。
「私に何か御用で?」
私はつとめて毅然とした態度を取る。
正直な話、複数人に囲まれてるこの状況はものすごく怖い。でも弱みを見せると付け込まれるため、恐怖をおくびにも出さないようにする。
すると奥の方からまた別の人の声が聞こえてきた。
「あらあら、自覚がないのかしら。貴方がしたことに」
その人物が奥から現れると周りにいた人達が一斉に一歩後ろに下がった。現れた人物は辺境伯令嬢のフリーア様。
はぁ…、予想はしていたけど、やっぱりフリーア様か。ラビーナ様が現れるといつも決まって、その後に現れるからまさかとは思ってたけど、、、。
「私が何かしましたか?……ライン王子のことに関しては、おそらく王子の一時の気の迷いかと思います。あれから一度もお会いはしておりません」
「ギリッ、、わかっているではありませんか。そうですわ、ライン王子のことです。あれから一度もお会いしてないのは周りにいる彼女達から教えてもらっています。私が言いたいのは、貴方のせいでライン王子がおかしくなってしまったことですわ」
顔に怒りを滲ませているフリーア様。
さりげなく、取り巻きの人達に私のことを調査させてるって言ってるわね。
…それにしても、私がライン王子をおかしくしてるって一体どういうことかしら…?
「その顔だと本当に分かっていないってわけね。ダンスパーティが終わった後にライン王子が貴方に会いに来れない理由が」
「え、会いに来れない理由ですか…?」
「はぁ、ほんとにムカつくわね…。ライン王子は男爵令嬢である貴方と関わる機会を増やすために自分の父親である王様を説得するのに忙しかったって訳よ。身分の差があって普通は関わる機会がないからね。私言いましたよね?身の程をわきまえて行動するようにって」
その言葉を合図に周りにいた人たちがそれぞれ魔法を演唱を唱えだした。炎や水、風など色々な属性魔法が私の周りを彩り出している。
「リリアさん、貴方が居るとライン王子に悪影響を与えてしまいます。この学園を辞めてくださいませんか?もし断るというなら、この魔法がどこに飛ぶかはわかりませんことよ?それに公爵家と辺境家が組めば男爵家なんてすぐに潰せるのをお忘れなく」
元悪役令嬢の本性が出た直接的な脅しってわけね...。そもそも”元”じゃなくて、今すでに悪役令嬢って感じだけど。しかも公爵令嬢のラビーナ様も関わっているってわけね。だから、さっき私が学園から居なくなるみたいなことをボソッと言っていたんだわ。
それにしても、ダンスパーティーの後からライン王子が会いに来てくれなかったのは、私のために王様を説得してくれてたからなんだ。
そうだったんだ、...正直凄く嬉しい。
何だろう。言葉では言い表せない気持ちが私の心の中で渦巻いている。
こんな状況なのにどうしようもないほど嬉しく感じてしまう自分は変なのかな?
「ちょっと、ちゃんと聞いてますこと?貴方の方から身を引きなさい」
あ、やばい。色々と考えていたらフリーア様の質問に答えてなかったわ。
周りを人に囲まれていて、自分よりも圧倒的に身分の高い人から脅しを受けているこの状況にも関わらず、何故だか心にすごく余裕を感じる。
ーーそれは、きっと私の中で答えが出来たから。
「ごめんなさい、すぐに答えなくて。私はどんな脅しを受けてもこの学園を辞めません。それと、ライン王子ともう一度会いたいと思います」
「……え!?貴方、私の話を聞いてましたの!?断るということは貴方の家も無くなりますし、そもそもこの場から無事に帰れることはなくなりますのよ!」
「ええ、話は聞いてました。話の内容を理解した上で先ほどの答えが私の答えです。……ライン王子が私のために動いてることを知って、とても嬉しく思いました。それと同時に気づいたんです。私は、王子にはもっと相応しい人がいるからと自分から身を引きました。でも私自身がライン王子のことをもっと知りたい、一緒に居たいんだって。だから、私は引き下がれません」
「…そう、わかったわよ。貴方のその言葉後悔させてあげますわ。貴方達やっておしまい!」
フリーア様の号令の元、一斉に魔法が私に迫りかかってくる。
ーーでも覚悟を決めた私は強いわよ?
「《ブローク》」
「うそでしょ!?」
「な、これだけの魔法の攻撃を一つの魔法でガードするなんて!?」
「く、伊達に魔女の異名で呼ばれてることはあるわね…、あなた達もう一度よ」
諦めはしないってわけね。持久戦だけど、何度でも防いで魔力切れを起こさせるしか方法は無さそうね。
「おい!ここで何してるんだ!」
覚悟を決めてもう一度魔法を唱えようとした時、1人の人物が私たちの間に入ってきた。
その人物は、今私が一番会いたかった人。
「ラ、ライン王子…、こ、これは」
フリーア様や周りの人たちがすごく怯えている。特にフリーア様なんて顔が青ざめていた。本来はここでざまぁと思うのかもしれない。でも私はそんな周りの人が気にならないぐらいライン王子を見つめてしまう。
「言い訳なんか聞きたくないよ、フリーア。君は、昔はちょっと度がすぎたことをしてたけど最近は優しくいい子になったと思っていたのに…」
「ち、違うんです!ライン王子!この子がライン王子をおかしくしたから私は…!」
必死に懇願しているフリーア様をライン王子は冷ややかな目で見ていた。
ああ、こんなことを思ってしまうのは不謹慎だと思うけど、冷ややかな目をしているライン王子をかっこいいと思ってしまう。
なんか、私自覚してから変だ。今も心臓の音がとても煩い。
「僕をおかしくさせた?どこがおかしくなったんだ?僕からすると君や君たちのしていることこそおかしく感じるよ。もういいよ。これ以上僕を失望させないでくれ」
「まっ、待ってくださいライン王子。私は貴方のことを思って…!」
ライン王子は、フリーア様の言葉には耳を貸さずに私のところまで来た。
「リリア、大丈夫かい?怪我はしてない?」
「あ、はい。大丈夫です」
「良かったぁ、心配したよ。とりあえずここから出よう。身体にちょっと触れてもいいかい?」
「え、ええ。大丈夫ですよ…?」
心配してくれるライン王子がカッコよくてぼーっとしていたから、あまり話を聞かずに頷いてしまった。
え、待って。身体に触れてもいい?って言ってなかった!?
「あ、やっぱり「よいしょっと」ええ!?」
私がやっぱり断ろうとする前に、ライン王子は私の腰と足を優しく持ち上げて、まさかのお姫様抱っこをしてくれた。
私は恥ずかしさのあまり素っ頓狂な声をあげて手で真っ赤な顔を覆い隠してしまう。
「あ、あのどうしてライン王子はここに…?」
お姫様抱っこをしながら、廊下を歩いているライン王子に話しかけてみる。
ああ、まだ帰っていない子達もいるから、かなり注目を浴びているわ。前世も含めたら結構いい歳なのに、こんなことされてとても恥ずかしいわ。
でもそれ以上に幸せな気持ちが優っているけど…。
「父にここ数日お願いしてたことがやっと終わったからね。久しぶりにリリアに会いたいなって思って探していたんだ。そしたら、リリアがさっきの教室に複数人で入っていくところを見たって人に会ってね。急いで来たんだ。」
あ、父ってことは王様のことよね?それじゃあフリーア様が言ってたことも本当だったんだ…。
ふと、お姫様抱っこをしてくれたライン王子の足が止まった。
「よし、着いた。怪我はしてないって言ってたけど一応ね」
ライン王子が連れてきてくれたのは保健室だった。保険医さんは席を外していて、この部屋には私と王子の2人だけしかいない。
この2人だけしか居ない今こそ、さっき自覚した私の思いをライン王子に伝えるいいタイミングかもしれないわ。
いざ伝えようと思うと、今までの比じゃないぐらい緊張が襲ってくる。ここまでの緊張は前世の時でも味わったことはないわね…。頑張れ、私…!
自分を奮い立たせて声をかけようとした時。
「リリア、少しいいかい?」
「は、はい。大丈夫です」
ああ、緊張しすぎて声をかけるのが遅くなってしまったわ。
「リリア、僕がダンスパーティで言っていたことは覚えてる?」
「もちろん、覚えています」
その、好きって言ってくれたことよね…。
「ありがとう、そう、僕は君のことが好きだ。それは今も変わらない。」
「あ、ありがとうございます。その嬉しいです…」
ダンスパーティの時もそうだったけど、あまりに真っ直ぐに伝えてくれるから照れてしまう。
「だから、君と仲を深めるためにあの時君が言っていた、お互いのことを知っていくためにはどうすればいいのかをあれからずっと考えていた」
確かにあの時に私は、出会ったばかりでお互いのことを知らないから、王子が抱いている私と現実の私は違うみたいなことを言ったと思う。
「それで僕は思ったんだ。まずはお互いを知るために、僕と友人になってくれないかい?」
「え、友人ですか…?」
「そう、そこから友人として接する中でお互いを知った後に告白の返事を聞かせて欲しい」
友人…、確かに友人だったらお互いのことを色々と知っていけるわ。でもライン王子に対する自分の本当の気持ちがわかった今、それだと物足りなく感じる私がいる。
以前、自分が言ったこととは少し矛盾してしまうかもしれないけど、今はこの自分の気持ちに正直になりたい。
「ライン王子、その申し出断ってもよろしいですか…?」
「え、友人になるのもダメか…、そこまで嫌われているとは…」
あ、やばい。これは勘違いさせちゃってるわ。私は慌てて王子に声をかける。
「い、いえ!そういうことではありません!そ、その友人としてではなく…、」
ダメだわ、緊張して上手く話せない。でもここでしっかり自分の想いを告げないと一生後悔してしまう気がする。
「えっと、私は友人としてではなく、それ以上の関係になりたいです…」
「え…!?それってつまり…?」
そりゃあ驚くわよね、前と言ってること違うし。
私の想いを話さないと。
「実は、私もダンスパーティが終わってから、ライン王子のことをずっと考えていたんです。今までの人生であそこまで真っ直ぐに想いを告げてくれた人は初めてだったなって」
自分を落ち着かせるために一度言葉を切る。深呼吸をした後にゆっくりと自分の想いの続きを紡ぐ。
「それで親友に言われたんです。恋人になってからお互いを知る方法もあるって。その言葉を聞いて、私も恋人として貴方のことを知りたいって思うようになったんです」
前世も含めて、ここまで私のことを思って行動をしてくれる人は初めてだった。しかも相手はこの国の王子であり顔もイケメンで性格も優しい、そんな素敵な人が他の人に見向きもせずに身分の差も気にせずに私なんかのことを好きでいてくれることがすごく嬉しかった。
「だからあの時の返事を今ここで伝えます。ライン王子、私も貴方のことが好きです」
自分の顔が信じられないくらい赤くなっているのがわかる。でもそれと同じくらい目の前にいるライン王子の顔が赤くなっていて、なんだかおかしくなってしまう。
「ありがとう、リリア。返事が聞けてとても嬉しいよ。それと改めて言わせて欲しい。愛してるよ、リリア」
すぐに彼の両手が優しく私を包み込む。
自然と身体が動いていた。両手を彼の背中に回し、同じように抱きしめる。
言いようのない幸福な気持ちが溢れてくる。
顔を上げると愛しい彼の顔が目の前にあった。
「リリア、僕たちはお互いのことをまだほとんど知らない。だからこそ、これからお互いを知りながら2人の思い出を一緒に作っていこう」
「はい、これから末永くよろしくお願いしますね、ライン」
ラインは、優しく微笑むと私のことをさらに抱き寄せる。
「リリア、目瞑って?」
ドキドキしながら、私は目を瞑る。すると、私の手がゆっくりと持ち上げられてるのがわかった。その後すぐに手の甲に優しい感触がくる。きっとキスされたんだろう。でも…、
ーーちゃんとキスして欲しいな。
ちょっと残念だなって思ってしまう。少しぐらいおねだりしてもいいわよね…?
「え、手の甲だけなーーっ?」
「目はちゃんとつぶらないとダメだろ?リリア」
今度こそ正真正銘、唇にキスをされた。あまりの柔らかさに気が遠くなる。
ー・ー・ー
その後、しばらく私達は抱きしめ合った。初めて見る幸せそうな顔をしているラインを見て、新たな一面を見れたことに嬉しさを覚える。
こうやって、お互いのことを知っていくんだなぁと思った。
しばらくして、ラインが動き出した。
「名残惜しいけど、そろそろこの部屋から出ないとね。いつ保健医さんが戻ってくるかわからないし」
「あ、ここが保健室だって忘れてたわ」
お互い微笑みながら、手を繋ぎ一緒に部屋から出る。
「少し落ち着いたら、リリアのご家族にも挨拶に行かないとな」
「あ〜、私の家族どんな反応するんだろう。驚くだろうなぁ、今まで浮いた話なんて一つもなかった私が、急に王子様を連れてきて恋人ですなんて言ったら」
「それは確かにびっくりするだろうね。僕の方は一筋縄ではいかないと思うけど、絶対に僕がなんとかするよ」
「ありがとう、ライン。でも1人で全部抱え込まないでね。私もできることあったら手伝うわ」
私だって前世では、一応バリバリのキャリアウーマンだったし上の立場の人と話すのは慣れてる。王様に会うのはかなり緊張するけど、ラインにだけ苦労をかけさせたくないわ。
「ありがとう、リリア」
「え、ライン王子!?」
「どうして、あの2人が!」
「手繋いでるけど、もしかして…!?」
しばらく2人で手を繋ぎ話しながら歩いていると、何人かに見つかってしまった。
「バレちゃったけど平気?」
一応、王子の立場ということもあり聞いてみる。
「全然問題ないよ。そもそもこんなに堂々と歩いてたらバレると思ったし」
笑いながら話すラインを見てそれもそうかと思った。
「それに、僕がリリアと恋人になったってことは皆んなに知ってもらいたいし。僕はリリアのものだぞって」
思わず聞いた私が恥ずかしくなってしまう。こういうところが女性を虜にするのかしら?
「…ラインって結構恥ずかしいこと普通に言えるよね?」
「え、そうかな?」
「うん、そう思うわ。じゃあ私も周りにアピールしちゃお」
「え、どういう…っつ…!?」
「さっきのお返しよ、フフ」
背伸びをして彼の頬に手をおきながら、私はラインの唇にキスをした。真っ赤な顔をしながらラインがこっちを見てくる。さっき不意をつかれてのキスをされたから、それのお返しよ。
「きゃー!」
「え、今キスしたよ!」
周りがすごく騒いでるのがわかる。そりゃあこの国の王子様だし、こんなところでいちゃついてたら騒いだりするわよね。
「リリア、君も大胆なんだね。新しい一面が知れて嬉しいよ」
恥ずかしそうにそれでいて嬉しそうな顔をしているライン。私は、そんな彼の腕に抱きついた。
「これからもっと色々と私のことを知ってね。私だけの王子様」
「ああ、もちろんだよ。リリア」
ー・ー・ー
これは、公爵令嬢でも改心した悪役令嬢でもない男爵令嬢の私が王子様と結ばれ、幸せに暮らしていく物語。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
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