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03話 英雄、入隊する


 スキンヘッド達に連れられて到着したのは、塀に囲まれた大きな建物だった。


 大きさは学校の校舎ぐらいはあるだろうか。ヨーロッパ風の建物だから、まぁ違うと言えば違うが、そんな感じの建物だ。白い壁が夕日で赤く染められている。


 この世界に来た時はまだ日が高かったのに、色々あってもう夕方だ。


 そして此処、敷地も広い。


 塀がぐるりと敷地を囲っているのだが、端が確認できない。


 門塀には第三兵隊兵舎と書かれていて、女の子は開かれていた門扉を通り中へ入っていく。


 他の連中も後に続き、俺もスキンヘッドに連れられそれに続く。


 建物の前まで女の子が振り返る。


「ここが第三兵隊の兵舎だ。そして、今日からてめぇの住処だ」


 まだ入隊するとも言っていないのに、入隊する流れで話が進んでいる。


 寝泊まりする場所ができたのは良いが、軍に入るのは避けたい。


 軍に入るということは規則を守らないといけなく、行動が拘束されるということだ。


 更にこういう場所は、上からの命令は絶対遵守。守らなければ首が跳ぶんじゃないだろうか、物理的に。


 やっぱり、今からでも断って冒険者ギルドに行くべきじゃないか。


 せっかく異世界に来たんだ。自由の象徴である冒険者になって、自由気ままに異世界ライフを楽しむ方がいいだろう。


 そうと決まれば、早めに今回の件は誤解なんだと伝えた方が穏便に済むかもしれない。


 俺は入隊するつもりはないと伝えるため、女の子の前にでる。


「ん? なんか聞きてぇことでもあるのか?」


「実はその、入隊するって話なんだが……」


「あぁん? なんだ? まさか今更入りたくないですって言うんじゃねぇよなぁ?」


 女の子は三白眼の鋭い目つきで睨め付けてくる。彼女の口調と金髪、十代ぐらいの見た目も相まって、ヤンチャな学生にしか見えない。


 女の子の目つきが鋭くなるにつれ、何かバチバチという音が聞こえる。


 コンセントにプラグを挿す時や、ニットなんかを脱ぐ時に聞く音に似ているような。


 そんなことを思っていると、女の子の体から電気が弾けた。


 そしてそれを機に、幾つもの電気が女の子から弾ける。


 女の子をよく見ると、どうやら女の子は電気を纏ってるようで、体全体に電気が走っている。


 あ、これなんかマズいんじゃ、そう思い【鑑定】を発動する。


[なまえ]れおな・いーりん


[しゅぞく]ひと


[つよさ]つよい


[ぎふと]しっぷうじんらい


[びこう]かわいいものがすき


 あー、これ、戦っても勝てないは。


 強さのつよいって、俺のまぁまぁつよいよりかは強いよね?


 それにギフトの【疾風迅雷】っていかにも強そうな名前をしている。


 そういえばスキンヘッド達に姐さんって呼ばれてたな。


 この第三兵隊って所の上の人間なんじゃないか? それなら強いのも頷ける。


 なんて考えてるとレオナという女の子の眉間の皺が深くなり、人を殺せそうな位に目つきが鋭くなる。


 ヤバイ、とりあえず此処は何とか誤魔化すしかっ。


「喜んで入隊させて頂きますっ! よろしくお願いしますっ!」


 人生で初めて90度のお辞儀をしたよ。


 するとレオナは鋭どく細めていた目つきを緩めニカっと笑ってくれた。


「何だ何だ、てっきり入りたくねぇって言うんじゃねぇかと思ったじゃねぇかよ。びっくりさせんなってよぉ。おう、改めて自己紹介しといてやる。第三兵隊の頭張ってるレオナ・イーリンだ。下からは姐さんって呼ばれてるが、気軽に呼んでくれて構わない。なんか困ったらオレを頼ってくれて良いぜ」


 良い笑顔でバシバシと肩を叩かれたよ。


 何とか危機は去ったみたいだ。


 安堵し息を吐くと、前からくぅぅっと可愛らしい音がした。


 さっきまで笑顔だったレオナの顔は少し紅潮し、彼女の目付きが鋭くなる。


「んだよ! 食いしん坊とでも言いてぇのか? 今日はゴタゴタしてて昼飯食ってねぇんだよ! はぁ、まぁいい。とりあえず飯食いに行くぞ」

 

 こっちを向いていたレオナが振り返り、兵舎の扉を開け中に入っていく。


 兵舎の中からついて来いっと言われ、兵舎の中へと入る。


 中に入ると、廊下が左右に分かれており、前の中央には上へと続く折り返し階段がある。


 レオナは左側の廊下へと歩みを進めている。


 そんなレオナの後をついていくと、レオナから名前を訊かれた。


 俺は名前を答えつつ廊下を歩いていると美味しそうな匂いが漂ってきた。


 そして廊下の突き当たりまで進み、端の部屋に到着する。


 扉の上には室名札あり、食堂と書かれていた。


 良い匂いがしたから在るだろう思ってはいたが本当に在るとは。流石は国軍の兵舎。


 レオナはそのまま食堂へと入っていき、恰幅の良いおばちゃんが居る注文窓口へ歩みを進めた。


「ユウ、こっちだ! 此処で食べてぇモノを頼むんだ」


 レオナに呼ばれ注文窓口へやって来ると、受付のおばちゃんに声を掛けられる。


「初めて見る顔だね。新入りさんかい?」


「そう……ですね。今日からお世話になります」


 そしておばちゃんに自己紹介をした。


「これはご丁寧に。私はこの第三兵隊の兵舎の食堂で働いているコクモだよ。食堂のおばちゃんとでも呼んでおくれ」


 異世界ものの小説なんかに出て来る宿屋や食堂のおばちゃんって逞しい登場人物が多いけど、この食堂のおばちゃんもそんな感じがする。


 そんな食堂のおばちゃんがレオナに声を掛ける。


「そんでレオちゃん。食堂に来たってことは何か食べに来たんじゃないのかい? 今回は何にする?」


「んー、んじゃ、オーク肉のタレ焼きにライス中で」


「そんだけで良いのかい? いつもみたいに大盛りじゃなくてお腹空かないかい? 食べ盛りの女の子なんだからいっぱい食べないと大きくならないよ」


「んな!? べ、別に、もう大人なレディだしっ。そんないっぱい食べれねぇしっ」


 レオナは顔を赤らめ否定する。


 すると後ろの方で他の隊員ごひそひそと小声で話している。


「姐さん、新入りの前だからって見栄張って少食アピールしてるな」


「あぁ、どうせ直ぐボロが出てバレるのにな」


 クスクスと笑い合っていた隊員達がこちらに目をやると、表情を変え固まった。


 レオナが人を殺せそうな程に鋭くした三白眼で、隊員達を睨め付けていたからだ。


 レオナは隊員達を睨め付け、睨め付けられた隊員達は固まり、何だか動いてはいけない雰囲気になってしまい俺も動けないでいると、食堂のおばちゃんが助け舟を出してくれた。


「ところでユウは何にするんだい? 一応メニューはあるけど、こんな料理を作ってほしいっていうのがあったら言ってくれたら作ってあげるよ」


 食べたいのを作ってくれるのはありがたいが、この世界にどんな食材が有るのかわからない。


 下手にお願いして、ゲテモノなんかが出てきたら目も目も当てられない。


 ここは無難にメニュー表に載っているものから選ぶのが安牌か。


 意外とメニューが多いな。全てに目を通すのは時間が掛かりそうだな。


 飛ばし飛ばしでメニューを流し見し、なんとなく想像できるメニューを注文する。


「この牛肉の炙りにライスの中でお願いします」


「はいよ、出来たら呼ぶから座って待ってておくれ」


 注文を終えたレオナと俺は、注文口の一番近くにある席に着いた。


 他の隊員達も注文を終えた者からその周りの席に着いていく。


「ユウはなんで第三兵隊に入ろうと思ったんだ?」


 レオナの唐突な質問になんて返そうか悩む。


 レオナの勘違いで無理矢理入らされました、なんて口が裂けても言えない。


 そんなこと言ってしまったら、またレオナの周りに電気が纏わりつくかもしれない。


 鑑定で見たレオナの強さは、俺のよりも高かった……気がする。


 というか、あの鑑定の内容はなんなんだ。


 見にくいしわかりにくい。


 強さはもっと具体的に表してくれよ。


 備考も特に大事なことは書いてないし、というか全部ひらがなは読みにくい。


 あんなのじゃラノベやアニメでオタクを鍛えた俺は、いや、オタク文化発祥の日本人は納得しない。


 今度また教会に文句言いに行こうかな電気…。


 なんて考えてる場合じゃない。


 レオナから質問されているんだった。


 とりあえず当たり障りの無い様に答えるか。


「王都に来て直ぐ、第三兵隊の噂を聞いて興味を持ったからです」


 まぁ噂は噂でも、悪い方の噂なんだけどな。


 レオナはそんなことは露知らず、そうか、と笑いながら答えてくれた。


 その後も料理が出来るまで少し会話をした。


 そして食堂のおばちゃんから料理が出来たと大きな声で呼ばれ、出来たばかりの料理を受け取り、同じ席へと戻る。


 どんな料理が出てきたかというと、塩胡椒で味付けされた牛肉とキャベツの千切り、平皿に盛られたご飯という、割と普通の料理だ。


 食べてみると肉って感じだった。まぁ普通に美味しいし、満足ではある。


 レオナが食べてるオーク肉のタレ焼きも、豚肉をタレに漬けて焼いたようにしか見えないから、味も豚肉みたいな感じなのだろう。


 オーク肉に少し興味があったせいで少し見過ぎたのか、レオナが怪訝そうにする。


「なんだ? これが食べたいのか?」


 そう言うレオナがオーク肉を掲げて聞いてくるので、丁重にお断りした。


 まだオークを食べる心構えが出来ていないからな。


 この第三兵隊の空気感に慣れてきたのか、俺も気付けば料理を食べながら和気藹々と会話することが出来た。


 レオナや隊員達と会話をしていると、新たに来た人物が会話に割り込んできた。


「隊長、お帰りになられたのでしたら、先ず帰還したことを伝えに隊長室までお戻りになって下さい。私や他の隊員達も隊長の帰りを待っていたのですから」


 声を発した人物の方に目を向けると、そこに眼鏡を掛けた男が姿勢良く立っていた。


 歳は30〜40てところか。


 眼鏡の奥にある鷹のように鋭い目が、獲物を見るが如くレオナに向けられている。


 なんというか、仕事ができる堅物って印象だ。日本にいた時に働いていた会社の、就活時に面接を担当した面接官みたいな雰囲気だ。


「わりぃわりぃ、新入りにちょっくら案内してやってたんだ」


 レオナは悪びれる様子もなくさも平然と言う。


 それを聞いた眼鏡の男は、レオナに向けていた猛禽類のような険しい目をこちらに向ける。


「コイツが新入りのユウ。そんでコイツが第三兵隊の副隊長オメガ・ネストだ」


 この眼鏡が第三兵隊のトップ2とのこと。


 いや、説明それだけ?


 名前も役職も伝わりはしたが、もっと何か言うことあるんじゃないの。


 なんて事を考えてたら、副隊長がこちらに体の正面を向ける。


「王国軍第三兵隊副隊長を任されているオメガ・ネストだ。隊長に巻き込まれて入隊させられたのかもしれないが、入隊したからには務めは果たしてもらう。先ずは他の先輩隊員達と行動し、第三兵隊のいろはを学べ。……では隊長、私は先に隊長室に戻っておりますので、後ほど今日の報告をお願いします」

 

 副隊長はレオナに目的の内容を伝えると、足早に食堂を後にした。


 副隊長が去った後、レオナも報告をしに行く為に食事を急いで取り、その場での解散となった。


 そして俺は兵舎の中が全くわからない為、スキンヘッド達に連れられ個人の部屋へと案内された。


 どうやらこの兵舎は数人で一部屋を割り当てられるらしいが、急な入隊だった為に部屋がまだ用意されていないらしい。


 ので、とりあえず今日のところは来客用の部屋に案内された。

 

 部屋に入った俺は、何をするでもなくベッドへ倒れ込んだ。


 そして溶けてベッドの一部になりそうな勢いで、俺は意識を手放した。




 気が付けば朝になっていた。


 そりゃそうか。仕事が終わって、夜にトレーニングをしている時に異世界に来たのだ。


 この世界に来た時はまだ日が高く、日本に居た時と合わせて、オールして更に数時間は起きていたことになる。


 そりゃ泥のように眠るよね。


 とりあえず起きたことだし、どこに向かえばいいかもわからないから、食堂に行くことにした。


 食堂には数多くの隊員達が朝食を取っている。その中にはスキンヘッドやモヒカン達も居た。


 食堂のおばちゃんに朝食を頼み、手頃な席に座り、見ない顔だと何人かに声を掛けられ挨拶し、朝食を取る。


 ちなみに食べたのはパンとコーンスープにサラダだ。パンはバゲットだった。普通に美味しかった。


 朝食後、スキンヘッド達に連れられて第三兵隊の兵舎内や倉庫などの各所の説明を受けた。


 ひと通りの案内を受け兵舎に戻ってくると、第三兵隊の隊員達に招集が掛かっていた。


 スキンヘッド達と共に、中央階段の隣にある多目的ホールとして使われるという部屋に入っていく。


 中に入ると多くの隊員達が既に集まっており、ぎゅうぎゅうとまではいかないが、あまりスペースは余っていない。


 王国軍と聞いていたからそれなりの人数はいると思っていたけど、これほど多いとは思わなかった。この部屋だけで数百人は居るだろうか。


 招集を受け少しすると、隊長のレオナと副隊長のオメガが入室してくる。


 二人が隊員達の前に立つと周りは静かになり、レオナが口を開いた。


「今朝早くに王城から緊急の招集が掛かり、各兵隊の隊長副隊長、軍の幹部達が集められ、ある報告を受けた。その内容だが、王都近郊の森にドラゴンが現れたらしい。そして、それを第三兵隊が対応することになった。要するにドラゴン討伐をすることになった。てめぇらぁぁあ! 大きな大きなトカゲ狩りの時間だ! さっさと支度しろノロマ共! 楽しい楽しい狩りの始まりだぁあ!」


 入隊した翌日、ドラゴン討伐に行くことになった。


 どうなったらそうなるの?




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