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閑話 ヴィヴィエルの憂鬱


 私はヴィヴィエル。


 女神をやっています。


 女神というのは天使の憧れの職業で、憧れる職業ランキングでは常に一位を取っている、誰もが就きたい職業なんです。


 そんな人気の職業に、普通の私が就職できました。


 特に何かに秀でているわけではないのですが、天界学校では勉強を頑張り、私は主席で卒業することができました。


 別に働く所はどこでも良かったのですが、ここに受かりたい理由があったため、頑張って勉強しました。


 これは、そんな私の女神のお仕事と、そして私の大切なものについてのお話です。




 今日も私は雑用をしています。


 私のメインの仕事は、女神の先輩であるヨクエル先輩の補佐なのですが、ヨクエル先輩からのお使いや頼まれごとで、歩き回っていることが多いです。


 今もお使いの最中で、ヨクエル先輩の提出物を私が他の部署へ持って行っているところです。


「すみませーん、先週分の転生者の報告書を持ってきました」


「あ、ヴィヴィエルちゃん、いらっしゃい。今日もヨクエルちゃんの代わりに?」


「あ、はい。先輩は次の転生者候補を選ぶのに忙しいって」


「まぁまぁ、ヴィヴィエルちゃんは良い子ねぇ。管理している世界はそう多くないから、候補者を選ぶのなんてそんなに時間は掛からないのに。ヨクエルちゃんに次は自分で来なさいって伝えておいて」


「あ、わかりました。先輩に伝えておきます」


「よろしくね。あ、そうそうヴィヴィエルちゃん、ゼレスのこと聞いた?」


「え、何がですか?」


「ゼレスの魔王が遂に倒されたって」


「え?」


「なんでも、昨日に勇者パーティが魔王城に挑み、魔王を討ったんですって」


「そ、そうなんですか」


「うん、それでね、ヨクエルちゃんにゼレスへの転生者の派遣は終了だって伝えておいてほしいのよ」


「は、はい、わかりました」


「じゃあよろしくね」


「あ、はい、失礼します」


 ゼレスへの転生者の派遣は終了。  


 びっくりしたけど、幾つか管理している異世界の内の一つが無くなっただけだ。


 別にそれだけ……。


 あれ? 


 そういえば、先輩どこの転生候補者を選ぶって言ってたっけ。


 確か、ゼレ……。


 頬を一滴の汗が伝う。


 もしかすると、少しマズイかもしれない。


 もしかしなくても、少しマズイかも。


 いや、少しどころか大いにマズイかも。


 もし先輩が候補者を選び、ゼレスに転生者をもう送っていたのなら。


 私は急ぎ先輩のとこに戻る。


 先輩! いつもみたいに適当に仕事していてっ!


 私は普段走ることなんてないから、息がすぐ上がる。


 少し休んでは走り、すぐに止まり休憩し、また走り、それを繰り返しやっと先輩の仕事部屋の前に着いた。


 そして、気配ですぐにわかった。


 今、転生者候補をここに招いていると。


 私は急いで仕事部屋に入る。


「先輩っ! 大変ですー! 先輩ーっ!」


 私が慌てて声を掛けると、先輩が怪訝な顔でこっちを見てくる。


「ヴィヴィエル。私は今、魔王討伐に異世界へと向かって下さるユウさんに──」


「で、ですから先輩っ、そのことで──」


 私は先輩の横に行き、耳元で小声で話す。


「せ、先輩っ。ゼレスっ、ゼレスの魔王が討伐されたそうなんですっ。それで、ゼレスへの転生者の派遣は終了だって、事務のカナエルさんが教えてくれて」


 ここまで言うと先輩は焦ったようにこちらを向くと、


「そ、そんなの聞いていませんよっ。もう候補者の方を招き入れてしまったではないですかっ」


「まだ大丈夫です先輩っ。今ならまだ、謝ったら帰ってくれるかも知れないですよっ」


「帰ってくれませんよあの人はっ。異世界って伝えたら、凄く喜んだんですよっ。それを今更、こちらのミスですって言って、はいそうですか、とはきっとならないですよっ」


「ですが先輩、このままこの人をゼレスに送るわけには」


「くっ、ぬぅぅぅ、ば、バレなければ、大丈夫ですっ」


「せ、先輩っ、それは流石に、それにもし前任者のラファエルさまにバレたりしたら……」


 ごくりっ。


 バレた時の想像をしてしまい、唾を飲み込んでしまう。


「だ、大丈夫ですよ、あんな頭の栄養をおっぱいに吸われたやつには、私の隠蔽工作はバレたりしませんっ」


 それを先輩が言うのか……。


「それに、いつも目を細めて微笑んでいるんですから、あんなほっっっそい目じゃ、何も見えませんよっ」


「あの、先輩、流石に言い過ぎでは」


「と、とにかく大丈夫です、この私に任せなさい」


 私と先輩が話していると、候補者の男性が話し掛けてくる。


「あの、女神さま、顔色が余り良くないように見えますが大丈夫でしょうか?」


「っ。大丈夫ですよ? 全然問題なんてありませんから!」


 問題大有りなのですが、それを言えたりはできません。


「それで、俺はいつ異世界へ送ってもらえるのでしょうか?」


「そ、そのことなのですが、貴方で異世界転生、千人目記念の特典があります」


「せ、先輩っ!?」


 先輩はゼレスに送るだけでなく、とんでもないことまで言い出した。


「しっ! それで特典なのですが、まず、異世界ゼレスには異能が存在します。神の贈り物、その名もギフト」


 異能やギフトと聞き、男性の目が更に輝いている。


 どんどん後に引けなくなってきている。


「ギフトとは、ゼレスに生を受けた時に一つだけ与えられるのですが、転生者の方は転生する時に与えられます。しかも転生者は魔王討伐のためにゼレスに行って頂くので、リストの中から一つご自身で選んで頂きます」


「自分で選んでいいんですか!?」


「えぇ、更にユウさんには特典としまして、ギフトを二つ選んで頂きます」


 えぇ!? 


 せ、先輩っ、それは流石にっ。


「え? 二つも」


「はい、記念特典ですので。それにそれ程までも魔王は強力ということです」


 その魔王はもう居ないのに。


 でも先輩は止まることはない。


「わかりました。ありがたく、二つ選ばせて貰います」


「はい、それでは早速、ギフトをお選び下さい」


 先輩がそう言うと、何もない空間にギフトのリストが表れる。


 このリストに書かれているギフトは、ゼレスに生まれる人は手にできない、転生者のために女神が作り出した特別なギフトだ。一般的なギフトに比べ、遥かに強力なものばかりだ。


 そして先輩はこの男性に本当にギフトを与える気だ、しかも二つもっ。


「先輩っ、今ゼレスに送るだけでもマズイのに、ギフトを二つも与えるのは度が過ぎてますよっ」


「う、うるさいですよヴィヴィエル、ここまで来たらもう突き進むしかないのですっ、そんなことばかり言っているから、貴方はビビリエルなんてバカにされるのですよっ」


「そ、それは今は関係ないじゃないですかっ。今はどうやってあの男性に帰ってもらうかを考えないと」


「行く気満々のあの方に、どうやって説明しろと言うのです? そんなことするくらいなら、特典を与え魔王が居なくても満足してもらうしかないじゃないですか」


「せ、せめてゼレスに送るとしても、ギフトを二つも与えるなんて前代未聞ですよ先輩っ。もし、もしこのことがラファエルさまだけでなく、統括にまでバレてしまったら……」


 ごくりっ。


 今度はヨクエル先輩が唾を飲み込む。


「も、もしバレたらクビ、堕天は免れないでしょうね……」


「じゃ、じゃあ!」


「ですか、ここで引いても結果は──」


「女神さま、ギフトを二つ選びました」


 男性から、ギフトを決めたと声を掛けられる。


「!? そうですか、わかりました。それで、何を選びましたか?」


「【鑑定】と【器用貧乏】です」


 そのギフトは確か、最近キラキエル先輩とココちゃんが作ったギフトだ。


 初めて選ばれた、ゼレスではまだ誰も持っていないギフト。


「わかりました。それではそのギフト二つを、貴方に与えますね」


 すると先輩は、本当にギフトを二つ男性に付与した。


「ギフトの付与が終わりました。それでは早速、貴方をゼレスへと送り届けますね」


 そう言い、先輩はゼレスに男性を送るため詠唱を始めた。


 男性の足元が青く光り、転送するための準備が始まる。


「せ、先輩っ。本当に送るんですか!?」


「もう後には引けないんですっ。ヴィヴィエル、ここに居た貴方も同罪ですからねっ」


「えぇ!?」


 先輩がとんだもないことを言いだす。


 そんなことを言っている間に、男性はゼレスへと旅立って行った。


 あぁ、行ってしまった。


 もうどうすることもできない。


 後は本当に隠し通すしかなくなった。


「ヴィヴィエル、ここであったことは他言無用です。いいですね?」


 ここまできたらもうどうすることもできない。


 だから私は、頷くことしかできなかった。




 男性をゼレスに送った後、先輩から書類の提出を頼まれた。


 ゼレスへの転生候補者選別の業務完了の書類だ。


 その書類にはもちろん、最後の男性のことは書かれていない。


「はぁ……」


 ふとため息が出る。


 こんなことをしてしまってバレないだろうかと不安はあるが、やり切るしかない。


 私はこの書類を堂々と提出し、そしてすぐに戻る。


 それが今私にできる最善手。


 よしっ。そうと決まれば急ごう。


 ここで誰かに出会っては、バレるリスクが上がるだけだ。


 私は早足になった。


 そしてその時、右の通路から声を掛けられる。


「やっほぉヴィヴィちゃん、おひさぁ」


 右を見ると、そこには手を胸辺りで振っているキラキエル先輩ともう一人。


「え……」


 そこには今出会いたくない人のうちの一人、ヨクエル先輩の業務の前任者であるラファエルさまがこっちに、私に向かって来ている最中だった。



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