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02話 英雄、ギルドを目指す


 一度叫んでみたら、少しすっきりした。


 この世界、ゼレスには魔王討伐のために送り込まれた。


 でもその魔王が、転生前にやられているなんて誰が想像できるんだ。


 こんな物語、ゲームでもラノベでも売れないだろ。


 そんなことを考えていると、目の前の男の子が視界に入った。


 男の子は驚いた表情でこちらを見ている。


「あ、すまない、急に叫んだりして。少しイヤなことがあったんだ」


 「そ、そうなのか。おっちゃん、苦労してるんだな」


 しかし、本当に魔王が倒されるなんて。


 物語本編が終了したじゃないか。


 例えるなら、回転寿司屋からサーモンが無くなったようなものだ……。


 いや待て、まだサーモンが無くなっただけじゃないのか。


 まだタイやハマチ、エンガワだって残ってるんじゃないのか。


「なぁ坊主」


「俺はボウズじゃないぞ。ボオスだ」


 名前を言ったわけじゃないんだが。


「あぁボオスか、すまないな。いい名前だな」


「おうさ。なんたって、俺の名前だかんな」


「ところでさ、魔王は倒されたけどよ、他にも世界の脅威ってのは存在するんだろ? 凶暴な龍だったり、ナントカ秘密結社だったり、世界的な指名手配犯だったりさ」


「んー、そんなのは聞いたことないぞ。魔王を倒すために、人種が手を取り合ってるんだって親父や周りの大人たちからは聞かされたけど」


「そ、そうか……」


 魔王以外の脅威がないなんて、この世界はどれだけ平和なんだよ。


 いや、それだけ魔王が強大だったってことか。


「そんなに魔王や危険なやつが気になるなんて、おっちゃんは冒険者かなんかか? なんか不思議な格好してるし」


 不思議な格好? 


 ランニングの途中だったからジャージを着ている。


 確かにここの人達は、テンプレ異世界って感じの服装をしている。


 冒険者……か。そういえばギルドカードとか門兵が言ってたな。きっとお決まりの冒険者ギルドとかがあるんだろう。


「あぁ、そんな感じだ。それでおっちゃんさ、ギルドに行かなくちゃいけないんだが、何処にあるか教えてくれないか?」


「冒険者ギルドか? 冒険者ギルドなら、居住区じゃなくて商業区の方にあるぞ」


 商業区。さっきの賑わっていた辺りか。


「そうか、ありがとなボオス。助かった」


 俺はボオスの頭を軽く撫で、歩き出した。


 後ろから、俺は子供じゃない、と聞こえたが、俺は振り返らず手を振りその場を後にした。




 また商業区へとやってきた。


 魔王の討伐祭ってだけあって、行き交う人でごった返している。


 さっきは、魔王討伐を聞いた動揺であまり周りを見ることが出来なかった。


「さぁさぁ、寄ってっておくれや! 魔王が討伐された記念だ! うちの商品全部三割引きだ!」


「お、そこのお姉さん。うちのこの商品なんてどうだい? 今なら半額で売ったげるよ!」


 異国情緒溢れる街並み。


「おっちゃん。串焼き三本な!」


「聞いたか? 隣国バルカンが国境付近の街に物資を集めてるって」


 日本とは違う格好。


「また第三兵隊の奴らが揉め事を起こしたらしいぞ」


「パーティー、またクビになっちゃった……」


 さまざまな人達。


 お、ケモ耳。獣人がいるのか。


 そういえば、ボオスは人種って言ってたな。


 てことはエルフやドワーフとかと居るんだろうか。


 本当にここは異世界なんだな……。


 魔王は倒されてしまった、でも此処、この世界は俺の憧れた異世界だ。


 だったら、楽しまないともったいなくないか?


 この世界に連れてきた女神には不満を抱かないことはないけど、夢を叶えてくれたのは事実。


 いや、やっぱり魔王の件は許せないな。


 だが今はそんなことを考えてる場合じゃない。


 少しでも、俺が夢見た異世界ライフを楽しまなくては!


 最強の冒険者になって世界中を旅するのだってありだし、商いを初めて地球の知識で稼ぎまくるのだって良い。


 例えサーモンが無く、じゃなくてメインイベントが無くったって、この異世界を楽しみ尽くしてやるんだ。


 なんて考えながら、当初の目的の冒険者ギルドを目指す。


 適当に歩き冒険者ギルドに向かう最中、あることに気が付いた。


 この世界に来たばかりの俺は、まだ宿を取っていない。


 このままでは、野営か路上で野晒しで寝ないといけない。


 冒険者ギルドが先でも良いかも知れないが、もしそれで宿が取れなかったらと思うと、宿のことしか考えられなくなってくる。


 と言っても、俺は何処に宿屋があるか知らない。


 適当に行き交う人に聞こうかと思ったが、俺はある屋台へと向かった。


「おっちゃん、串焼き一本」


「おう、毎度あり! ちょっと待ってくれな」


「あぁ、最高に美味いやつを頼む。なぁ、おっちゃん。この辺りで良い宿屋ってないか?」


「ん? 兄ちゃん宿を探してんのか。だったらこの大通り少し先にある『蒸したジャガイモ亭』って宿屋がおすすめだな。あと、さらに先に進むと『黄金のタマゴ亭』って宿屋がある。そこはそこそこ値が張るがそれだけの価値はあるな。だが今から宿を取るとなると……いや、なんでもない。ほら、串焼き一本お待ちどっ!」


 串焼きを受け取った俺は、さっきの串焼き屋のおっちゃんが言いかけた事が気になりはしたものの、とりあえず教えてもらったジャガイモ亭って宿屋を目指すことにした。


 屋台の並ぶ大通りを少し進むと『蒸したジャガイモ亭』と書かれた看板を見つけた。


 てか、異世界の文字読めるんだな。これも説明されてないおまけってやつか。


 有り難いから良いかと思い、ジャガイモ亭の扉を開けた。


「いらっしゃいませ」


 中に入ると、受付の女の子に声を掛けられる。


 15歳くらいか? きっと宿屋の娘だろう。


「宿を取りたいんだが」


「申し訳ありません。今は満室で、お食事だけならお通しできるのですが」


「そうか、なら他の宿屋を当たってみるよ」


「あ〜、お客さま。今はもしかすると、何処の宿屋もいっぱいだと思います」


「そうなのか?」


「はい。今は魔王討伐祭が開かれているので、王都の外から人が沢山入ってきてるので何処の宿屋も取るのは難しいかなと」


 またしても魔王か。


「今でも空きがあるとすると、おそらく高級宿屋かおんぼろのくたびれ宿屋くらいだと思います」


「わかった。教えてくれてありがとう。とりあえず手当たり次第当たってみるよ」


「いえ、何もおもてなしができずすみません。またのお越しをお待ちしております」


 ジャガイモ亭を後にした俺は、とりあえず串焼き屋に教えてもらったもう一つの宿屋へと向かう。


 大通りをさらに進んでいくと『黄金のタマゴ亭』と書かれた看板を見つけた。


 早速中に入ってみる。


「いらっしゃいませ」


 こっちでは若い青年に迎えられた。


「宿を取りたいんだが」


「申し訳ございません、お客様。只今満室で御座います。食堂の利用は可能ですが、如何なさいますか?」


「いや、なら大丈夫だ。もし空いていそうな宿屋があったら、教えてくれないか」


「そうですね、今空いているとするなら『白銀の旅亭』『黒曜の輝き亭』、あと『イモムシ旅館』ぐらいだと思います」


「それはどういう宿屋か教えてくれないか」


「はい、では『白銀の旅亭』からご説明させて頂きます。『白銀の旅亭』はこの『黄金のタマゴ亭』より少し値の張る宿屋となっております。サービス等はそこまで大差はないですが、一部屋ごとの大きさが少しばかり『白銀の旅亭』の方が広くなっております。次に『黒曜の輝き亭』でございますが、この王都一の高級な宿屋となっております。サービス等は凄まじいものと聞き及んでおりますが、一泊する毎に金貨が飛んでいきます。そして『イモムシ旅館』ですが……」


「ですが?」


「泊まるぐらいならば、野宿の方がマシだと聞いております」


「え、そんなことあるのか」


「なんでも、料金こそ安いものの屋根や壁に大穴が開いており、外で寝るのと大差はないらしいのです。ならばお金の掛からない野宿の方がマシと」


「おぉ、そうか……」


「何もおもてなしができず申し訳ございません。本当は当宿屋に泊まって頂きたかったのですが……」


「いや、他の宿屋のことを教えてくれただけでも感謝してるよ」


「そう言って頂けるなら幸いです。またのお越しをお待ちしております」


 黄金のタマゴ亭を出た俺は、次の宿屋を目指した。




 結論から言うとダメだった。


 教えて貰った『白銀の旅亭』と『黒曜の輝き亭』、あと目についた宿屋っぽいとこを何軒か入ってみたものの、何処も空いていなかった。


 もういっそ『イモムシ旅館』でも良いんじゃないかと思えてくる程、何処も空いてない。


 でもこのままの勢いで『イモムシ旅館』に行くのは躊躇ってしまうため、当初の目的だった冒険者ギルドへ向かうことにした。


 周った宿屋でギルドの場所も聞いておいたから、あまり迷うことなく着くだろう。


 冒険者ギルドに向かうため、宿屋で聞いた近道を通るために大通りから脇道に入る。


 入ったところで通行人と肩がぶつかってしまった。


「あぁ、すみま──」


「いでぇ、あぁ痛えよぉ、肩が折れちまったよ」


「おいおい兄ちゃんよー、相棒の肩がひしゃげちゃったじゃないかよー、どうしてくれんだー?」


「あぁこれは慰謝料がいるなぁ。とりあえず有り金全部出してもらおうじゃねぇか」


 どうやらチンピラに絡まれたみたいだ。


 一人は筋骨隆々な体でスキンヘッド。もう一人は細身でサイドを刈り上げたモヒカンだ。世紀末風な漫画に出てきそうなチンピラだ。

 

 異世界に来て初めてのイベントだ。


 脇道に入ったから人目にも付きにくいし、女神から貰ったギフトも試してみたかったから丁度いい。


 初めての異能はコイツらに味わってもらおう。


「鑑定!」


 ギフト【鑑定】を使うと、スキンヘッドの横にゲームで出てきそうなメニュー画面のようなものが表れる。


[なまえ]ごり・らんばー


[しゅぞく]ひと


[つよさ]ふつー


[ぎふと]きんにくきょうか


[びこう]あたまがまぶしい


「……」


 え、なんだこれ。


 なんかもっとこう、ゲームとかであるようなレベルや攻撃力防御力などの数値なんかを事細かに記載されてるもんなんじゃないの?


 なにこれ? 子どもの感想みたいなやつ。


 いや、まだ一回使ってみただけだ。


 もう一人はのモヒカンにも使ってみよう。


「鑑定っ」


[なまえ]さるろ・ぺさろ


[しゅぞく]ひと


[つよさ]そこそこ


[ぎふと]ないふのこころえ


[びこう]かみがたのせっとにいちじかんかかる


 なんなのこれ。


 いや、ギフトとかわかるのは良いんだけどさ。


 なんで全部ひらがななの?


 あと強さそこそこってなに? そこそこって。


 わかんないよ、数値で出してよ、定量的に出してくれないとどうやって比較すんのさ。


 普通とそこそこってどっちが上なのよ。


 ……いや、まだ二人しか見てないから、完全にはわからないな。


 この二人がバグってた可能性もあるわけだし。


 そう思って、自分にも鑑定を使ってみる。


[なまえ]はなぶさゆう


[しゅぞく]ひと(いせかいじん)


[つよさ]まぁまぁつよい


[ぎふと]きようびんぼう、かんてい


[びこう]ちきゅう、にほんしゅっしん


 どうやらバグではないらしい。


 ひらがな表記と強さの曖昧表現はこれが正しいようだ。


 普通よりまぁまぁ強いの方が流石に上だよな?


 鑑定を鑑定する能力が欲しいわ。


 まぁでも、異世界人ってのがわかるなら、同郷の人間も探せるってことだ。そこは大きいな。


 日本出身者を見つけられれば、情報交換なんてのもできるだろうし、これから先どうすれば──


「おいおい兄ちゃんよぉ、人にぶつかっておいて無視するなんていい度胸がねぇかよぉ、なぁ」


「ちょーっと痛い目みないとわかんないんじゃないかー、どうやらこの辺の奴じゃねーようだしなー」


 何か言いつつこっちに近づいて来る。


 なんか不安だが、【器用貧乏】もどんなもんなのか試しておくか。


 俺は異世界ものでよくあるファイヤーボールを想像し、チンピラどもを睨みつけた。


 するとチンピラどもが何かを感じ取ったのか、近づくのをやめ、その場に止まる。


「おいおい兄ちゃんよぉ、何しようとしてるかは知らねぇがよ、やめといた方がいいぜ」


「おー、そうだぜ、なんたって俺らは第三兵隊所属、この国の軍の人間だからなー。何かしちまうと、指名手配されちまうかもなー」


 ギャハハと笑い合うチンピラども。


 俺はそれを聞いて手を出せなくなってしまった。


 異世界に来た初日に指名手配は笑えない。


 ここで手を出せないとなると取れる手段はひとつだけ。


「そうそう、何もしない方がおめぇさんのためだぜ」


「諦めて持ち金全部出しちまえば良いだけだからなー」


 俺が動きを止めると、俺を挟むようにチンピラどもが横に並ぶ。


 そして完全に舐め切った二人が隣に来た瞬間──


 俺は勢いよく走り出した。


 猛ダッシュだ。


 いきなりのことで理解できなかったりチンピラどもが、時間が経つにつれて状況を理解し始める。


「おいテメェェエ! 待ちやがれクソがぁ!」


「とっ捕まえてぶっ殺してやる」


 追いかけて来たチンピラどもを撒くために、大きい道に出ては脇道に入り、また出ては脇道に入りを繰り返す。


 冒険者ギルドの場所も、今ここが何処なのかもわかんないが、相手を撒くためにいろんな道を通る。


 10分ぐらい走っただろうか。


 後ろにはチンピラどもの姿は見えない。


 どうやら撒いたようだ。


 だが、俺もここが何処なのかもわかんない。


 わからないならわからないなりに楽しむことにする。


 少しぶらぶらと歩いて、この異世界の景観を楽しむことにした。


 街並みはヨーロッパとかそんな雰囲気の建物が多い。


 日本から出たことがないから何となくそう思っただけだが、日本とは全く違う景色だ。


 周りを見て歩いていると、目の前に教会が現れる。


 決して大きくはないが、綺麗ではある。


 細かい作りで、装飾物も凝っている。


 俺がそんな教会を眺めていると声を掛けられた。


「これはこれは、旅人の方ですかな」


 振り返ると初老の男性が立っていた。


「初めまして。私はこの教会、キラキラ教で筆頭司教を努めていますパムパウムと申します」


「キラキラ教?」


「はい。キラキラ教は女神キラキエル様を祀る教徒の集まりでございます」


 キラキエル……、俺の前に現れたのは確かヨクエルとヴィヴィエルって女神だった筈だから、知らない女神だ。


「キラキエル様は、最近女神になられた六名の内のお一人で、我ら下々の人間に最も神託を与えて下さる慈悲深き女神様なのです」


 へぇ、神託なんてくれる女神がいるんだな。


「キラキエル様はどんな人の祈りも聞いて下さいます。ここに貴方が来たのも何かの縁。どうでしょうか、一度教会で祈られてみては。貴方が今悩んでることも、聞いて下さるかもしれませんよ」


 女神に祈るねぇ……。


 女神が居るのはもう知っているが、どうしても信じきれない。


 だって、ヨクエルとかいうのに騙されて、この異世界に来たからな。


 でも、そのことを他の女神に愚痴を言ってやるのも良いかもしれないな。


 女神の愚痴はやっぱり女神に言わないと。


「そう言って頂けるなら、一度祈らせてもらってもいいでしょか」


「はい、歓迎致します。ようこそキラキラ教へ」


 そして筆頭司教パムパウムと名乗ったこの初老男性に案内してもらい、教会に入れてもらう。


「そうですか、ハナブサさんと言うのですね」


 少し雑談をしつつ歩き、教会に近づく。


 教会を近くで見ると圧倒されてしまう。


 遠くでは見えなかった細かい作りまで見ることができる。


 凄く繊細で手が込んでいるのがわかる。


 中に入っても圧倒される。


 凄く、凄く美しいステンドグラスだ。


 真ん中には金髪の女神が描かれており、その周りには大小様々な花と植物達が描かれている。


 ステンドグラスは見たことはあるがこんなに美しいのは初めてだ。少しの間、見惚れてしまう。


「どうですか? キラキエル様を模して作らせたステンドグラスは」


「とても、とても綺麗ですね。年甲斐もなく見惚れてしまいました」


「それは良かった。少しでもキラキエル様の魅力が伝わったのなら、我々信徒も嬉しく思います」


 へぇ、新興宗教って聞いたけど、信心深いんだな。


「それではこちらでお祈り下さいませ」


 教会の奥、祭壇前まで案内された俺は、祈りの形式なんてわからないからとりあえず片膝を付き、両手を胸の前で組んで祈ってみる。


(女神キラキエル様。私は日本からの転生者です。貴方と同じ女神、ヨクエル様に転生させてもらいました。転生自体はとても嬉しく、私の夢が叶うことができました。ですか、魔王が居る世界と言われ、それを楽しみにしていたわたしはがっかりすることになりました。何故なら魔王はもう討伐されていたからです! この世界に来てすぐそのことを知り、絶望することになりました。ですが長年の夢であった異世界転生をすることができ、感謝もしています。人である身では女神ヨクエル様にこの愚痴を言うこともできません。ですから、女神キラキエル様にこの愚痴を聞いて頂き、もし叶うのらば女神ヨクエル様に少しでもいいのでこのことを伝えて頂ければ幸いです)


 よし、言うだけのことは言っ──


「その話まじぃ?」


 耳元で女性の声がした。


 ばっと声をした方を振り返るが、そこには誰もいない。

 

 不思議に思ったパムパウム司教が声を掛けてくる。


「どうかなさいましたか?」


「いや、今女性に声を掛けられたような」


「おぉ、早速キラキエル様にご神託を頂いたのですね。何という幸運なのでしょうか」


 そう言ってパムパウムは身廊側へと振り返り、教会内に居た信徒や修道女達に伝える。


「皆さん、今日はとても素晴らしき日です! ここに居られるハナブサさんがキラキエル様からの神託を頂きました。彼は今日キラキラ教を知り、そして初めての祈りで神託を授かったのです。何という幸運! そして、下々の我等の言葉も聞いて下さるとわかった我々も、何と幸運なんでしょうか。我等の言葉はキラキエル様に届いでいるのです! キラキエル様は聞いて下さるのです! さぁ、これからも共に祈りましょう。キラキエル様は我々と共にあるのです!」


「はい! 共に祈りましょう!」


「キラキエル様万歳!」


「キラキラ教に幸あれ」

 

 教会内に居た信徒達が興奮したように声を上げる。


「ハナブサさん、本当におめでとうございます。きっと貴方はキラキエル様の加護がお守りして下さいますよ」


「そ、そうですか、声を掛けられただけのようにも思いますが」


「そうそう、キラキエル様から何とお声がけがあったのですか? 差し支えなければ教えて頂けると」


「なんかさっき体験したことを報告したら、それ本当に? みたいな感じに言われました」


「そうなのですか。では、それをキラキエル様が解決して下さるのかもしれませんね」


 解決してくれる、ねぇ。


 解決って言っても、起きたことを愚痴っただけだから、どうこうできることでもないような。


「どうですかハナブサさん。神託を頂いた貴方なら、キラキラ教に入信した暁には、司教の地位にすぐ就けると思われますが、入信なさいませんか?」


「いや、まだ自分がこれから何をするかも決めていないので、直ぐにそれを決めるのは」


「そうですか、残念ですが無理強いは致しません。入信したくなったならば、またこの今日へとお越し下さいね」


「はい、その時はお願いします」


 では今日はありがとうございました、とそう言う、俺は入信を強要される前に足速にその場を後にした。




「パムパウム筆頭司教、何やら騒がしいのう」


 パムパウムは、自分が呼ばれたので振り返る。


「これはクロノワール様。これはですね、先程旅のお方、ハナブサユウさんと言う方が祈りを捧げたところ、なんとキラキエル様から神託を授かったのです」


「おぉ、それは本当か!」


「はい、なんでも直近で起きたことを報告したところ、本当か、とお聞きになられたようです」


「そうかそうか、神託を授かるとは、さぞ興味深い内容だったのだろうな」


「そうですな、内容は気になりますが、それはあくまであの方の悩み。それにキラキエル様の興味を引く内容なら、我々には荷が重いと思われます」


「まぁそうよな。我々が無理に首を突っ込めば、キラキエル様の邪魔になるやもしれぬしな」


「はい。ですので今回のは、神託を受けた旅人として信徒達を煽り、より信仰が厚くなるようにしました」


「良い判断なのじゃ。これでキラキラ教はまた少し大きくなるのぉ」


「我々もより一層信仰を厚くしなくてはですね」


「旅人に神託があり筆頭司教に神託が無いなぞ、他の信徒達や近隣住民達に、サボっていると思われるやもしれんからのぉ、かっかっか」


「それはマズイですね、ははは」


 ひと通り話すと、パムパウムは自分の仕事へと戻っていった。


「シロ、何やら面白そうなことになりそうじゃのう」


「……」


「ハナブサユウ、か。かっかっか、これからどうなるか、楽しみなのじゃ」




 教会を後にした俺は、今度こそ冒険者ギルドへと向かう。


 道は通行人に聞いた。


 少し離れてしまったが仕方がない。


 着くまで景観を楽しむことにする。


 そしてもうすぐ冒険者ギルドというところで、女の子が男達に囲まれているのを見つける。


 16〜18歳ぐらいの女の子が、さっき俺にいちゃもんを付けてきたチンピラ二人を含めた男達に囲まれているのだ。


 俺に絡んだ後、今度は女の子一人を相手にしているらしい。


 俺は、これがこの国の兵士なのかと呆れ、そして女の子を助けるべく近づく。


 すると女の子が俺の方を向く。


 助けを求めてるんだなと思い、足を速める。


 するとこっちを向いていた女の子の目付きが鋭くなり、


「何見てんだゴラァ、ブチ転がすぞ!」


 !?


 女の子の予想外の言葉と口の悪さに、頭が真っ白になる。


 女の子のその発言で、他の男達も俺の方を向く。


 そして、それは男達の内の二人、さっきのチンピラどももこっちを向くわけで。

 

「あぁ? こいつはさっきの」


「姐さん、こいつぁーさっき言った男ですぜ」


 チンピラどもの言葉を聞き、女の子の目付きが更に鋭くなる。


「あん? てめぇらはこいつに逃げられたのってのか? あ?」


「す、すいやせん姐さん!」


「面目ないですっ」


 女の子の言葉にチンピラ二人は頭を下げる。


 90度の綺麗なお辞儀だ。


「おいてめぇ」


 女の子がドスの効いた声で言い放ち、こっちに近づいて来る。


「てめぇは何だ? 何で第三兵隊の周りをうろちょろしてやがる?」


 別にうろちょろしてるわけでわなく、行くとこ行くとこで出会ってしまうだけだ。


「てめぇ、さてはあれだな……」


 この流れはマズイ。


 きっとテロリストか犯罪者か何かに仕立て上げられ、しょっ引かれるやつだ。


 逃げなくては、と思った矢先、女の子に肩を組まれる。


「第三兵隊に入りたいんだろ」


 へ?


「なんだよ、そうならそうと早く言えよ。照れ癖ぇ奴だなぁー」


「え、いや」


「まぁまぁ、恥ずかしがんなって、そうと決まればてめぇもあたし等ん仲間よ、ようこそ第三兵隊へ!」


 違う違う、軍に入りたいとかじゃなく──


「聞けぇてめぇ等! こいつは今日から第三の仲間だ、仲良くしてやれ!」


「「「「「おう!」」」」」


「そうと決まればまずは兵舎に案内すっか。おいお前等、行くぞ!」


 そういうと女の子は歩き出す。


「まさかてめぇが第三に入るとはなぁ、だが入ったからには仲間であり兄弟よ! よろしく頼むぜ兄弟」


 スキンヘッドに肩を組まれ連行される。


「てめぇは新入りだ、まずは俺等を見て第三を学ぶことだなー」


 モヒカンに声を掛けられる。


 スキンヘッドに連行され、気付けば冒険者ギルドは通り越していた。


 戻りたくてもガッチリと肩をホールドされている。


 無理やり剥がせば抜け出せることはできるだろうが、それで指名手配されては元も子もない。


 俺に今できるのは、スキンヘッドに連行されることだけだ。


 どうして、どうしてこうなったんだ……!?



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