01話 英雄、異世界へ行く
「今、異世界転生ものがアツいんだよ」
前の席の野田丸吉に、いきなりそんなことを言われた。
野田丸吉はオタクだ。だが内向的ということはなく、外向的な性格だ。高校に入学して、一番最初に会話したのが野田だった。
「なんだよいきなり。異世界転生もの?」
「そう。最近人気が出てきたライトノベルのジャンルだよ。主人公が異世界へと転生し、冒険者になったり無双したりハーレム築いたりするんだよ」
「転生? 生まれ変わるってことか?」
「生まれ変わったり変わらなかったりするかな」
生まれ変わらないのに転生? それは転生と言うのだろうか?
「まぁ、読んでみたらわかるよ。この面白さに」
はいこれ。と言われ一冊の小説を渡される。表紙には「雨の日にトラックに轢かれた私、転生して愛用の傘1本で異世界無双」と書かれていた。
……ん?
「このクソ長いのがタイトル?」
「そうそう。最近のラノベは、タイトルで全てを説明してくれるから」
なるほど。説明してくれるのか。それは優しいな、とはならない。
「いや、それだったら中身は必要なくないか? それに、内容わかってるのに読んで面白いのか?」
「当たり前だろう。あくまでタイトルが教えてくれるのは、大まかなことだけ。その物語にどれ程の熱量が、感動があるかは、読んだ人だけが知ることができるんだよ」
まぁ、それはそうか。漫画だって、表紙のイラストだけじゃ面白さはわからないしな。
「この前、漫画の話したじゃん。結構趣味が一緒だなって思ったからさ、きっとこのラノベも気に入ってくれると思うんだよね」
確かに、週始めに野田と週刊誌ホップステップで連載中のヒーロー漫画やスパイ漫画の話で盛り上がったな。主人公が敵を倒したり、逆境に立ち向かうのは、アツい展開が多くて心躍る。
「明日から休みだからさ、試しにそれ読んでみてよ。布教用の一冊だから、それはプレゼントするから」
ここまで言ってくれてるのに、突っぱねるのも何か悪いか。土日に何か用があるわけでもないしな。
「わかったよ。お前がこんなに勧めてくるんだ。ありがたく読ませてもらうよ」
野田に礼を言いつつ、貰ったラノベをカバンに仕舞う。
キンコンカンコンと昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。立っていたクラスメイト達は席へと向かい、俺と野田も会話を終わり授業の準備をし始めた。
放課後になり、教室で野田に別れを告げた俺は帰宅部なこともあり、そのまま家路に就いた。
家に帰ってきた俺は部屋着に着替えて、カバンから今日貰ったラノベを取り出す。そしてそのまま、ベッドに寝そべる。
読む始める前に、再度表紙を見る。
そこには傘をさした満面の笑みの女の子が描かれている。
そしてその横に、
「雨の日にトラックに轢かれた私、転生して愛用の傘1本で異世界無双」
そう書かれたタイトルを見て、苦笑してしまった。
やはりこのクソ長タイトルにはまだ慣れない。
だけどタイトルで面白さが決まるわけじゃない。
俺は覚悟を決め、読み始めることにした。
主人公の女の子が雨の日に交通事故に遭う。
死んだはずの女の子は真っ白な空間に居る。
そこで神様から異世界へ転生させてあげると言われる。
眩い光に包まれ、異世界へ飛ぶ間際、神様からオマケしたからと言われる。
目を開けると知らない景色、そして右手にお気に入りの傘。
頭に「傘を強化しといたから試してみてね」と、神様の声がした。
強化?
わけもわからず、とりあえず傘を振ってみる。
ごぉぉおおお!
傘を振ったとは思えない爆発音に似た轟音が鳴り響き、空気が揺れる。
ハンドルにトリガーがあるのに気付く。
トリガーを引く。
ぱぁぁああん!
すると石突きから煙が出ていて、地面に穴があいている。
女の子は一度考えるのをやめ、人が居るとこを目指すことにした。
街道と思しき道を歩いていると、襲われている馬車を見つけた。
護衛のような人が4人。盗賊のような人達が10人。護衛の人達が押されている。
気付けば体が動いていた。
駆け寄りながら傘を構えてトリガーを引く。
狙いを定めてなんかいないのに、盗賊の1匹に当たり、崩れ落ちる。
またトリガー引く。それを繰り返す。
盗賊を5人倒して、傘で殴れる距離まで詰める。
盗賊も切り掛かろうとするけど、それより先に傘で殴る。
盗賊が弾け飛んだ。
びっくりしたけど、次のに殴り掛かる。
残り1人になり、それは護衛の人達が倒した。
護衛達は、怪我はあれど重傷者はいない。
馬車から着飾ったおじさんと、かわいい女の子が降りてくる。
どうやらこの先の街の領主の伯爵とその令嬢らしい。
伯爵からお礼がしたいと屋敷に招待された。
伯爵令嬢から、友人になってほしいとお願いされた。
この世界初めての友人。
女の子は快く承諾した。
暫くはこの街に居ることにした。
数日後の雨の日、伯爵令嬢に会いに行くと伯爵家が慌ただしかった。
なんでも、寝台に令嬢の姿がなかったらしい。
伯爵が言うには誘拐ではないかと。
女の子は、令嬢の部屋の外を確認する。
不審な足跡が、窓から塀に向かっている。
塀の外へ行き、不審な人影がなかったか、通り行く人に声を掛ける。
すると、空き家に人が入るのを見たと言う人が。
その空き家へ行き、ドアを傘でぶち破る。
中には怪しいおっさん達が2人いた。
気が付けばトリガーを二回引いていた。
まぁ、仕方ないよね、怪しかったんだもん。
転がるものを通り越し、階段をみつける。
二階へ上がり、ドアをぶち破る。
部屋には縛られた令嬢と、クロスボウを構えるおっさんが居た。
あ、やばいかも。
咄嗟に傘を開いて身を隠した。
すると傘が矢を弾いちゃったよ。
そしてそのまま、呆気に取られているおっさんに石突きを向け、トリガーを引く。
あ、殺してないよ、足を撃ったから。
だって情報を吐かせないと。
のたうち回るおっさんは放置して、まず令嬢の縄を解く。
泣きながら抱きつかれたから、背中をぽんぽんと優しく叩き、落ち着かせた。
疲れてたのか、そのまま寝ちゃったよ。
そして、なぜか阿鼻叫喚するおっさんから情報を得て、隣街の領主が雇い主だと言う。
あ、これは……
令嬢が起きないように静かにおっさんを始末した。
その後、伯爵家に令嬢を送り届けた。
お礼を言われたが、することがあるとその場を後にした。
それから数日、この街で女の子を見かけなくなった。
事件から一週間後、女の子は伯爵家に訪れた。
そして令嬢に「もう大丈夫だからね」と言った。
その時の令嬢は何のことかはわからなかったが、後日伯爵から、何故か隣街の領主が亡くなったことを聞いた。
「お……」
「おもしれーーーっ!」
何だこれ!?
すごくアツくないか! ダークヒーローてきな⁉︎
最初は疑っていたものの、異世界転生ものがこんなにもアツいだなんて。
それに小説っていうのも良いな。漫画ではわかりにくい心情なんかも書いてあって、登場人物に共感しやすい。
なるほど、野田があれ程勧めてきたのが今ならわかる。
もう読み終わったのが惜しい。もっと読みたい。ずっと読んでおきたい。
時計を見ると時針が22時を指している。
今日はもう出かけられない。
だが、まだ土日が残っている。
明日、朝一に出かけてラノベを買い漁ろう。
今日の残りはネットで異世界転生ものについて調べよう。
お、さっきの「天傘」、四巻まで出てるのか。
お、ラノベランキングってのもあるのか、ふむふむ。
お! 異世界転生ものが流行った切っ掛けとはだと!
「なになに、現実逃避や非日常を味わいたいなどの理由。主人公や仲間たちの無双の爽快感。苦しい時も諦めずに突き進むアツい展開」
なるほど、色々な理由があるのか。
「他には、異世界転生ものが流行ると同時期に発生している神隠し……、神隠し?」
神隠しってあれか? 人が消えるって言う。
なんでも異世界転生ものが流行り出して、月に10人前後が行方不明になっているらしい。
いやいや、そんな馬鹿なことあるわけない。
どうせ迷子とかそういうのだろう。
と、考えていると、見ていたサイトが更新される。
(『また1人行方不明になったらしい。友達と下校していた女の子が、振り返ったら友達が忽然と消えてまだ見つかってないらしい』)
本当なのか、これ……
これが本当なら
凄いことじゃないか!
だって異世界転生が本当にあるってことだろ!?
そんなの行ってみたいよ、いや行くしかないよな!
どうやったら異世界にいけるんだ、全然わからないし、想像もできない。
でもやれることはある。
まずは異世界についての知識をつけよう。
どうやって知識をつけるか。
そんなの先人たちの智慧、ラノベがあるじゃないか。
ネットで明日買うラノベを見繕い、興奮が冷めないままにその日は寝ることにした。
目が覚めた俺は外出の準備をし、近場の本屋ではなく、少し遠出をして大きい本屋に行くことにした。
手にはレジ袋いっぱいに入ったラノベを持っている。今月のお小遣いがすっからかんになったが、悔いはない。
その翌週には筋トレを行うようになった。
異世界には賊や魔物が出るので、肉体を強化しなくてはならない。
今は独自の筋トレしかできないが、その内ジムなんかも行きたいと考えている。
そして俺のルーティーンは読書とトレーニングで埋め尽くされるようになっていた。
それから15年が経った。
高校は卒業し、大学進学、そして就職していた。
30歳になった俺は、今でも読書とトレーニングのルーティーンは続いている。
内容は少なからず変わっているが、毎日欠かさず行っている。
だが、最近はそれもキツくなってきた。周りの目がツラいのだ。
会社の人間からは
「いい大人がなにやってんだか」
「顔は悪くないのに頭がおかしいから婚期逃してる」
「会社辞めてトレーナーにでもなったら?」
親からもチクチクと言われる始末。
俺だって本当はわかっているんだ。
15年経っても何もないんだから。
でも、俺がやめれば今までの俺を否定することになる。
もやもやした気持ちなった俺は、ルーティーンであるランニングに出た。
夜の町を走り抜け、近所の神社へとやってくる。
この神社の階段を駆け上がる。
段数が多く勾配が急な為、トレーニングには向いている。
階段を上がり切り、本殿へ拝みに行く。
今の俺が何を拝めば良いかわからないが、とりあえず拝むことにした。
いつものように鈴緒に手を掛ける。
すると急に、目の前が光に包まれた。
あまりの眩しさに、咄嗟に目を瞑る。
少しずつ目が慣れてきた俺は、ゆっくりと目を開ける。
するとそこは真っ白な何もない空間だった。
「こ、ここは」
「ハナブサ、ユウさんですね?」
いきなり声を掛けられ、慌てて振り返る。
そこには垂れ目で巨乳の、清楚なお姉さんが立っていた。
髪は腰まであり、薄紫色でウェーブがかっている。
美しい見た目に見惚れてしまう。
「私はヨクエル、女神をやっています。ハナブサユウさん、貴方はお亡くなりになりました。いや、このままではお亡くなりになります」
俺が、死ぬ?
「え? それはどういう」
「貴方は神社で鈴緒を引きましたね。それで鈴が落下し、貴方の頭の上に落ちてくるのです」
「わかっているならどうにかすることは?」
「無理です。この運命は変えられません」
なっ……
「貴方に選べる道はふたつです。ひとつ目はこのまま戻って鈴が当たり亡くなるか。もうひとつは異世界に転生することです」
「!?」
「いきなりの話ですから困惑するのはわかります。異世界への転生、想像できないとは思いますが、貴方が行く予定の異世界には魔王がいます。その魔王が悪逆非道を働き、人々を苦しめているのです」
「……」
「その魔王を討伐するため、多くの地球人をその異世界、ゼレスに送りました。ですがまだ達成されていません。そして今回、亡くなる予定の貴方を異世界へ送り、魔王討伐を引き受けてほしいのです。魔王討伐、すごく恐ろしいこのなのはわかります、ですが──」
「いやっふぅぅぅおおおおおお!」
「!?」
「異世界転生しないか? するに決まってんでしょうがぁ!」
「ほ、本当に引き受けて下さるのですか?」
「えぇ、行きます、行かせて下さい、是非行きたいです!」
「おぉ、何と勇敢な人なのでしょう。わかりました、それから、引き受けて頂きありがとうございます」
あぁ、もう諦めかけていた異世界が、目の前に。
それにテンプレで有名な魔王までいるなんて。
今日この時まで苦節15年、長かったな……
今までの日々を思い返すと、うぅ、涙が。
「それでは異世界転生について説明を、え、どうなさったんですか?」
「ずびまぜん、ついに、づいに異世界へ行げると思うと、うぅ」
「はあ、なるほど、楽しみにされていたのですね。では、その楽しみにしていた異世界についての説明を──」
「先輩っ! 大変ですー! 先輩ーっ!」
新しい声が聞こえ、聞こえた方に目を向けると、女神ヨクエルに女の子が駆け寄っている。
「ヴィヴィエル。私は今、魔王討伐に異世界へと向かって下さるユウさんに──」
「で、ですから先輩っ、そのことで──」
ヴィヴィエルと言われたのも女神なのだろうか。ヨクエルと比べると、なんか普通の女の子って感じだ。
ヴィヴィエルがヨクエルに耳打ちをしている。
なんかヴィヴィエルの話を聞いて、ヨクエルが焦ってるように見えるけど。
今度はヨクエルがヴィヴィエルに、またヴィヴィエルがヨクエルにと、交互に耳打ちをしている。
なんか言い争ってるよう見えるけど大丈夫か?
「あの、女神さま、顔色が余り良くないように見えますが大丈夫でしょうか?」
「っ。大丈夫ですよ? 全然問題なんてありませんから!」
まぁ、女神が大丈夫って言うなら大丈夫か。
「それで、俺はいつ異世界へ送ってもらえるのでしょうか?」
「そ、そのことなのですが、貴方で異世界転生、千人目記念の特典があります」
「せ、先輩っ!?」
「しっ! それで特典なのですが、まず、異世界ゼレスには異能が存在します。神の贈り物、その名もギフト」
異能、ギフト、やばい、わくわくしてきた。
「ギフトとは、ゼレスに生を受けた時に一つだけ与えられるのですが、転生者の方は転生する時に与えられます。しかも転生者は魔王討伐のためにゼレスに行って頂くので、リストの中から一つご自身で選んで頂きます」
「自分で選んでいいんですか!?」
「えぇ、更にユウさんには特典としまして、ギフトを二つ選んで頂きます」
「え? 二つも」
「はい、記念特典ですので。それにそれ程までも魔王は強力ということです」
なるほど。それに千人も送り込んでも倒せない魔王、ギフトが一つじゃ足りないからってのも頷ける。
「わかりました。ありがたく、二つ選ばせて貰います」
「はい、それでは早速、ギフトをお選び下さい」
女神ヨクエルがそういうと、何もない空中にたくさんのギフト名が書いたリストが現れる。ざっと百以上はあるだろうか。
この中から二つ選ぶ……ふふ、これは面白い。ラノベを読んで鍛えたこの頭脳で、最適解を出してやる。
俺がギフトを選んでる間、ヨクエルとヴィヴィエルはまた何かを言い合っている。
そんなことはどうでも良い。今はギフトの方が大事だ。
異世界転生ものをたくさん読んだ知識があるため、一つ目に選ぶ能力は既に決まっている。
それは【鑑定】だ。
この能力があれば、自分や相手、更には植物や道具まで詳しく知ることができる。
問題は二つ目の能力だ。
どの能力も魅力的だ。
例えば【ウェポンマスター】全ての武具を使いこなせる能力だ。
次に【マジックマスター】大方の魔法を使うことができる。
更に【エレメントマスター】元素を操作し火や水、雷なんかも操れる能力。
どの能力も魅力的だ……、決まらない。
ん? リストを眺めていると、ある能力が目に留まる。
【器用貧乏】全てのことをそつなくこなす。但しどれも一流にはなれない。
これは、悪くないかもしれない。
この書き方だと、武器も扱え魔法も操れる。
決定打には欠けるかもだが、それは【鑑定】で相手の弱点を見て臨機応変に対応すればどうとでもなるだろう。
よし、これに決めた。
まだコソコソと話し続ける女神2人に声を掛ける。
「女神さま、ギフトを二つ選びました」
「!? そうですか、わかりました。それで、何を選びましたか?」
「【鑑定】と【器用貧乏】です」
「わかりました。それではそのギフト二つを、貴方に与えますね」
そう言われ、俺の体が輝きだした。輝いたのは数秒で、すぐその輝きは消えてしまった。
「ギフトの付与が終わりました。それでは早速、貴方をゼレスへと送り届けますね」
遂にこの時が来た。
やっと異世界へいけるのだ。
興奮冷めやらぬ中、女神ヨクエルが詠唱を始めると、俺の足元が青く光る。
きっと転移の魔術か何かだろう。
それを見たヴィヴィエルが、また慌てだしている。
「せ、先輩っ。本当に送るんですか!?」
「もう後には引けないんですっ。ヴィヴィエル、ここに居た貴方も同罪ですからねっ」
「えぇ!?」
何か不吉な単語も聞こえた気がするが、もう何だって構わない。
だって念願の異世界転生なのだ。
この先、どんな苦労があれど、この俺なら全て乗り切ってみせる。
そして、魔王を討伐してみせる!
そう決意を固め、俺は光に包まれた。
目を開けると、知らない場所にいた。
木に囲まれている。森の中か?
街道と思われる道があるため、それに沿って進んでいく。
すぐ森からは出ることができた。
そして、それを目にした。
城壁に囲まれた大きな街。
真ん中には大きなお城がたっている。
きっとここは王都か主要都市だと思った。
門へ近づき、入門の列であろうところに並ぶ。
俺の番になり、門兵に止められる。
「入国か? なら身分証かギルドカードの提示を」
「俺どっちも持ってないんだが」
「どっちも? その見た目でか?」
「あぁ、どっちも要らないような田舎に住んでたんだよ。だが、一生を田舎で終わらすのが嫌になって飛び出して来たんだよ」
「なるほど、ど田舎の出身か、なら持ってなくてもおかしくはないか」
「そうなんだよ、恥ずかしいから早く入れてくれるとありがたい」
「あぁ、わかった。だが身分証なしで入る場合は、銀貨5枚ひ払ってもらう」
銀貨……
そんな物、貰ってないけど。
慌ててポケットに手を突っ込んでみると
ジャリッ
ポケットには小さな袋が入っており、それには「選別」と書かれている。
こういうのも説明しておいてくれよ!
どれくらい硬貨が入っているかはわからないが、とりあえず銀色の硬貨5枚を門兵に渡す。
すると門兵は「あぁ、ちょうどだな」と言い、門を通してくれた。
「ようこそ、王都ビュティニアへ、ちょうど祭りをやっている。楽しんでくれ」
最後にそう声をかけられた。
王都か、だからこんなにも人で溢れているのか。
いや、祭りをやっているって言ったな。それの影響力か。
とりあえず、宿も取らなきゃいけないし、王都や近隣の情報もほしい。
適当に旅人の振りをして、少し聞いて周るか。
まずは目の前を歩いているおっちゃんに話しかることにした。
「すまない。俺は旅人なんだが初めて王都に来たんだよ。随分と王都とは賑わってるね。祭りか何かなのか?」
「ん? なんだ兄ちゃん、そんなことも知らないのか。いいぜ、教えてやるよ。これはな、魔王の討伐記念のお祭りさ!」
「え……?」
「だからよ、昨日、勇者様の活躍で魔王が討伐されたんだよ。これはそれを祝う祭りってね!」
おっちゃんの言葉が、すぐには理解できなかった。
俺は理解しようとフル回転している脳を止め、何も考えずに走り出した。