プロローグ
「はぁ、はぁ、はぁ」
気が付けば走っていた。聞こえてくる楽しそうな会話や笑い声、そういった喧騒が今は煩わしかった。
大通りから脇道に入り、人がいない場所を求めて彷徨った。
此処、王都ビュティニアでは祭りが開かれている。何処へ行こうと人で溢れており、静かに休める場所など殆ど存在しない。
だが、そのことを知らない俺は道の奥へ奥へと歩を進める。
数分走った俺は、少なからず人が減っているのを感じた。
大通りのような店が並んでいるのとは違い、住宅のような外観になっている。
どうやら住宅区域に入ったみたいだ。
少し疲れた俺は走るのをやめ、歩くことにした。
周囲を見渡しながら歩いていると、此処の住民だと思われる女性陣にクスクスと笑われた。
どうやらお上りさんと思われたらしい。
無性に恥ずかしいくなった俺はすぐ横の露地に入りった。
少し行くと、住宅の裏口に上がる三段ぐらいの階段があり、そこに腰掛けることにした。
「はああぁぁぁぁぁ」
少し落ち着いたのか、これまで吐いたことのない程の大きなため息を吐いた。
これから先、どうしたらいいのか、何をすればいいのか、考えがまとまらない。
正常に稼働しない頭を回転させようと唸っていると、不意に声を掛けられた。
「なぁおっちゃん、大丈夫か?」
顔を上げると10歳ぐらいの男の子が立っていた。
「あぁ、大丈夫だ。少し考え事しててな」
「ふーん。そっか。他のみんなは明るいのに、おっちゃんだけなんか暗いから気になってさ」
「……」
「今、祭りやってんだぜ? 楽しまなきゃもったいないじゃんか。しかもこんなにでっかい祭り、王様の生誕祭だってやんないよ。なんたって」
……そう。
なんたって。
俺が転生する前日に【魔王】が討伐されたのだから。
「なぁ、女神さまよぉぉ」
「今さら転生したってもう遅いんだよおおぉぉぉぉぉぉぉ!」