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山田太郎の日常  作者: YK
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不意打ちのキス


はじめまして、こんにちは。

僕の名前は山田太郎。

モブとして生を受け、モブとしてつつがなく成長し、モブとして陰キャ・コミュ障街道を爆進中。

あ、心配しないで、それなりに人生楽しんでるから。

これはそんなモブの僕が、キラッキラな幼馴染に突然キスされてから始まったちょっと変な日常のお話。





*初めての投稿です。

拙い文章ですが、優しい目で読んでもらえると嬉しいです。



はじめまして、こんにちは。

僕の名前は山田太郎。

モブとして生を受け、モブとしてつつがなく成長し、モブとして陰キャ・コミュ障街道を爆進中。

あ、心配しないで、それなりに人生楽しんでるから。


地元の小学校をつつがなく卒業し、近くの公立中学をのほほんと卒業し、これまた地元の公立高校へと進学したところ。現役男子高校生。

ただ、僕にはモブ人生に不釣り合いなキラッキラの幼馴染がいる。キラッキラだよ。サングラス必須なくらい。

彼の名前は山本朔也。小学校4年生の時に僕の隣の家に引っ越してきた少年は、その頃からびっくりするくらいイケメンだった。

はじめまして。はにかみながら僕に手を差し出す姿は小動物みたいで、同級生の男子に対して『守ってあげたい』、なんてガラじゃないことを思っちゃうくらいには可愛かった。

山田と山本、出席番号の続く僕らは学校でも何かと前後になることが多く、あっという間に意気投合した。家も隣で母親同士も仲良くなって、ご飯を一緒に食べたりお泊まり会したり、それはもう兄弟みたいに仲良く過ごしてきた。

出会った頃は僕より小さくて人見知りで小動物みたいにオドオドしていたサクヤは、いつの間にか僕より背が高くなり中学から始めたバスケで筋肉もつき、どこで拾ってきたのか万全のコミュニケーション力まで装備した。しかもイケメン。当たり前だが、いつだってクラスの人気者だ。常にカースト上位ランクイン。

でもサクヤは身長が僕を越えても、クラスの人気者になっても、なんでか飽きることなく僕とつるんでる。

僕とサクヤの組み合わせはよく不思議がられるけど、別に気にしてない。モブがイケメンと親友になっちゃいけないなんて決まりはないし、サクヤの隣は居心地いいし。まぁモテモテのサクヤに彼女が出来たら、この場所はさっぱり譲ろうと思ってるけどね。

そして同じ小学校から中学校へ進み、さらに高校まで一緒に進学した僕らは、クラスも同じだ。山田と山本。席が前後なのも変わらない。

幼馴染の説明はこれくらいで伝わったかな。



じゃあ今現在の話をしよう。

なぜって、僕はとても混乱してるから。


高校1年の7月。少し気の早い蝉がうるさく鳴き始め、は?梅雨なの?猛暑なの?みたいな意味のわからない暑さで体力をガリガリと削られた僕は、学校から帰宅するなり冷房を効かせた自室でベッドに転がった。昼寝の体勢に入る。部屋には一緒に下校してそのまま部屋に上がり込んだサクヤもいたけど、いつもの事なので気にしない。飲み物も特に出さない。家族ぐるみで長い付き合いのサクヤは、飲みたかったら冷蔵庫からセルフで取ってきてスタイルだ。


あ〜外の暑さにやられた後の冷房って幸せ。文明の利器って最高。エアコン発明した人ありがとう。

目を瞑ってウトウトしながら体力を回復してたら、ふいに唇に違和感があった。

ふにっと。


………は?


僕が眠気を押し除けてゆっくり目を開けると、すぐ近くにサクヤの顔があった。

これはあれだ。

経験したのは初めてだけど、何されたかくらいはわかる。

こいつにキスされた。


………は?


された事はわかっても、なんでされたかがわからない。僕は必死に寝起きの脳みそをフル回転させた。その間、サクヤはじっとぼくを見つめてる。

えーっと、今日ってエイプリルフールだっけ?いや違う。蝉が鳴いてる。今は夏だ。

何かいつもと違う事あったっけ。サクヤ、変なもんでも食べた?

そこで僕は思い出した。そういえば今日、サクヤが告白されてたって安達が言ってたな。

しかもその相手がすごい。2年の中条ゆかり先輩。入学して3ヶ月ちょっとの僕でも知ってるくらい有名な学校のマドンナ。そんな相手に呼び出されて告白されるなんて、やっぱサクヤはすごい奴だと自慢したくなる。別に自分はなにもすごくないんだけどね。


ははーん。


僕の中で先輩からの告白とサクヤの突然のキスが繋がった。

つまりあれだろ。憧れのマドンナとの初チューで失敗したくないから僕で練習したって事だろ。気合い入りすぎて歯がぶつかったりしたら恥ずかしいもんね。さっきのはまぁ、及第点なんじゃない?知らんけど。歯はぶつかってなかったし、程よい柔らかさがなかなかよかった。って、なんで僕は幼馴染の唇の感触を思い返してるんだ。

それに寝てる間に勝手に済ませるのは紳士的じゃない。僕だってぬいぐるみじゃないんだ。意思もある。

と言う事で、僕はベッドに起き上がると異議申し立てをする事にした。

黙りこくって僕を見つめてたサクヤに指を突きつける。


「おい、サクヤ。練習したいならまず許可を取れ。人としての最低限のマナーだぞ」


僕の抗議に、サクヤは驚いたように目を瞬いた。そんなリアクションが返ってくるなんて想像もしてなかった。そんな感じ。

安心しろ、お前がなんでキスしたかはちゃんとわかってる。幼馴染として、胸を貸したと思って忘れてやるよ。ファーストキスだったけど。


「うん…勝手にキスしてごめん」


戸惑った表情のまま、それでもサクヤは謝ってくれた。素直でよろしい。頷く僕に、サクヤは納得いかない様子で距離を詰めてきた。

いや、近いよ。なんでお前までベッドの上に乗るんだよ。


「でも、練習ってなに?どういうこと?」


「は?だってさっきの、練習だろ?」


「なにそれ。俺は本気だけど」


本気?本気ってなんだ。


「タローが好きなんだ」


「僕も好きだよ?」


何を今更。好きでもないやつとこんな四六時中一緒に過ごすほど僕はお人好しじゃない。サクヤは大事な幼馴染で大好きな友達だ。


「違う。タロー…鈍いのも可愛いけど、行き過ぎはアホみたいだから気をつけて」


なんだそれ。ディスってんだろ。誰が鈍くてアホだ!

憤慨する僕に、サクヤはさらに難解な言葉を続けた。

なぁ、夏の暑さでこっちは脳みそ溶けてるんだ。放課後まで難しい課題を出すのやめてくれ。


「俺を男として見てって事」


「何言ってんだよ。お前が男だなんて会った時から知ってるって。それともなに、水をかけたら女になるの」


そんでお湯をかけたら男になるとか?


「違うよ、もう。真面目に言ってるのに…」


呆れたみたいにため息つくな。僕だって真面目に聞いてるぞ。


「俺を恋愛対象として意識してってこと」


レンアイタイショウ?

サンショウウオ?

全然違った。ごめん、忘れて。


「ちょっと…言ってる意味がワカラナイ」


「はぁ…だよね。タロー全然俺のこと意識してなかったもん。知ってたけどさ。好きなのは童顔巨乳でしょ」


やめろ!人の性癖を堂々と文字にすんな。

僕はまじまじと目の前の幼馴染を見た。明るめの茶色い髪はサラサラで、凛々しい眉の下にはクリッとした大きな二重の目と通った鼻筋に、少し薄めの唇。こいつは整った顔をしてるけど、この愛嬌のある目のせいかイケメンにありがちな冷たい印象はなくて、人懐っこい大型犬みたいな雰囲気。だからなのか、一般的なモブの僕でも緊張せず話せる珍しいイケメンでもある。ほら、ものすごく顔面偏差値の高い相手って、普通は緊張するじゃん?

いやー、でもなぁ。恋愛対象ってことはあれでしょ?恋愛したい相手ってことだよね?手を繋いだり、キスしたり、それこそ恋人としてのスキンシップとかもしたい相手ってことだろ?

僕の中に、至極単純な疑問が湧いた。


「…お前さ、僕で勃つわけ?」


「うわー、いきなり直球。引くわぁ」


「いや、引くなよ。お前が言い出したんだろ」


「恋愛対象って聞いていきなりセックスの話するの、デリカシーなさすぎ。だからタローはモテないんだよ」


黙れ、年中モテ男。告られ回数更新中のリア充め。


「お前の恋愛対象が女だって男だって、気にしないよ。でもさ、なんでよりによって僕なの。山田太郎だよ?」


モブとして生まれモブとして成長した、生粋のモブだぞ。自分でモブモブ言い過ぎてゲシュタルト崩壊しそう。


「俺は別に男が好きなわけじゃないよ。タローが好きなんだ。俺にとってはタローだけが恋愛対象なの」


「うへぇ、可哀想に」


対象狭過ぎだろ。ピンポイントで僕しか入ってないなんて、せっかくモテ男に生まれたのに不憫すぎる。

僕は憐れみの目でサクヤを見た。


「いや、俺いま結構いいこと言ったよ?もう少し別のリアクションがあるでしょ」


言いながらサクヤが僕を壁際に追い詰める。

気づいたら、狭いベッドの上、壁とサクヤに挟まれるようにして壁ドンされてた。少女漫画で有名なやつ!

まさか自分がされる側になるとは。しかも目の前にはものすごいイケメンの幼馴染。


「タロー。俺のこと、気持ち悪い?」


「え?別に気持ち悪くなんてないけど。お前はどう見たってイケメンだよ。」


どちらかというと美しいと思う。目も鼻も口も綺麗なパーツがこれまた綺麗な比率で綺麗な輪郭に収まってて、芸術品みたいだなと常々思ってるくらい。

誰が見たってイケメンだと答えるだろう。そんなお前を、誰が気持ち悪いなんて言ったんだ?僕が殴ってきてやろうか。

キョトンと聞き返す僕を見て、サクヤは深く深くため息をついた。なんだよ、その頭悪すぎる生徒にどうやって算数の解き方を教えればいいか途方に暮れる教師みたいな顔。

言っとくけど、僕はそんなに馬鹿じゃないぞ。学校の成績だって、3より4が多いくらいには優秀だ。5はほとんどないけど。


「タロー。見た目の話じゃないよ。全く意識してなかった幼馴染、しかも男にいきなり告白されて気持ち悪くないのかってこと」


「あぁ、そっち?それならそう言えよ」


「今までの流れでこっち以外の道ないだろ」


なんでだ。道はいつだって開けてるって、誰かも言ってたぞ。誰かは思い出せないけど。きっと誰かしら言ってるはずだ。


「それだって同じ。お前の大切な気持ちなんだろ。相手が僕なのは不憫だなとは思うけど、気持ち悪いなんて思わないよ。」


昨日姉ちゃんが見てたドラマの主人公も嘆いてた。好きになる相手は選べないって。落ちてしまうものは仕方がないのかもしれない。それが僕みたいなモブを絵に描いたような男だったのは、僕ではなくサクヤの不幸だ。ドンマイ。

可哀想にと同情してたら、不幸なイケメンは俺の肩に額を乗せて、体を震わせて笑ってた。やたら真剣な顔だったと思ったら今度はなんだ。情緒不安定か。


「ねぇ、タロー。俺は不憫なんかじゃないよ。やっぱりタローが好き。最高だ」


恋は盲目って言うけど、脳みそもおかしくなるらしい。


「はぁ、そりゃどーも。」


とりあえず褒め言葉にはお礼を言うのが僕のモットー。


「ねぇ、もう一回キスしていい?」


「は?」


「許可を取ればいいって言ったじゃん」


蕩けるようなと言う表現があるけれど、僕を見つめるサクヤの目はまさに蕩けてる。あれ、お前ってそんな目で僕を見てたっけ?そんなに熱くて、ドロドロしてて、甘い目で見てた?僕は急に恥ずかしくなって、壁に背中をこれ以上ないくらいピッタリくっつけ背筋を伸ばしてしまう。


「いや、あれはさ。練習だと思ったんだよ。お前、中条先輩に告白されたって聞いたから」


「………どういう意味?」


甘い声でキスを迫ってきたサクヤは、僕の返答にものすごく不機嫌そうな顔になる。おっと、なんか間違えた?だってさ、クラスのマドンナに告白されて、彼女ができたから失敗しないよう僕でキスの練習したと思ったんだよ。まさか自分が本命だなんて、あの時の僕は夢にも思わなかったわけだし。


「いや、だからさ、初めての彼女とのキスで失敗しないように僕で練習したかったのかと思ったから言った台詞であって」


「俺、断ったよ。タロー以外と付き合う気ないもん」


「あぁ、そうなの?それも初耳っていうか、色々行き違いがあったというか…」


僕が本命とわかった今、キスをオッケーするのはお付き合いをオッケーするのと同義語になるんじゃないか?

しどろもどろに続ける。


「そーいうのはさ、その、付き合ってる人としたいと言いますか」


「タローってそういうの、ちゃんと気にするんだね」


「は?」


当たり前だろ。僕の貞操観念をなんだと思ってる。


「わかった」


そうか。わかってもらえたならよかった。ホッと胸を撫で下ろすが、まだ終わりではなかったらしい。

サクヤがにっこり笑顔で、少し首を傾げて言ってきた。とびきりの提案ですって感じに。


「じゃあタロー。俺と付き合おう?」


「ん?なんで?」


「は?なんで?」


「なんでってなにさ」


「そっちこそなんで?」


なんで合戦。しかもお互いちょっとキレ気味ってなにこれ。僕、一応告白されて、お付き合いを申し込まれたんじゃないの。なんで怒られてるの。


「気持ち悪くないって言ったじゃん」


サクヤが口を尖らせる。いや言ったけど。


「好きとも言ってないだろ」


「なんで!」


また出た。なんで星人。いつもはイケメンで運動神経も良くて頭もいいサクヤだけど、今日はどうもポンコツ気味だ。頑張れ。


「お前はイケメンだし性格もいいし、大事な幼馴染だよ。でもそれと、恋人になるかは別だろ」


「えー、それならもう付き合ってもいいじゃん。じゃあさ、もう一回キスしてみようよ。気持ちよかったら付き合って。」


ついさっき僕に向かってデリカシーがないとかのたまった奴はどこだ。キスして気持ちよかったら付き合おうとか、完全にクズの口説き方じゃないか。


「嫌だよ。キスは友達じゃなくて恋愛対象として好きになった相手としたいもん」


「………可愛いな」


「お前はアホだな」


胸を押さえて言ってるサクヤに、僕はしみじみ同情しながら呟いた。

恋は人をアホにする。それはモテ街道を進んできたイケメンでも同じようだ。

イケメンはキリッと表情を引き締めると、すごく立派な目標を見つけたみたいに宣言してきた。内容が残念すぎて可哀想だったけど。


「わかった。じゃあこれから、タローに好きになってもらえるよう頑張る」


「おう、頑張れ。」


「タローが俺を好きになったら、キスしていいんだよね?」


「好きになればな。」


知らんけど。

とりあえず僕は、サクヤの胸を押して壁と胸筋の板挟みから脱出した。


「覚悟してね。俺、本気で頑張るから」


こそこそと逃げようとする僕の足を掴んで、サクヤが不敵に笑った。

ひぇっ。

不敵に笑うイケメン、怖すぎる。


「とりあえず、ゲームでもやらん?」


いつもの日常が恋しくなって、僕はそんな提案をしてみた。

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