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もうひとつの世界へ

国際連邦は国際連合をモデルとしていますが、現実世界の国際連合とは何の関係のないフィクションです。


「2028年8月11日。我々国際連邦は今、宣戦布告を―――」


第二次世界大戦後、国際連盟の後継として”国際連邦”と言う組織が発足された。

国際連邦は国際の平和及び安全を維持することを目的とした組織である。その超大規模な組織である国際連邦は一体どこの国に宣戦布告をすると言うのか?否、相手は国では無い。


相手は 異世界 である。


2020年にとあるアメリカの研究所が初めてもうひとつの世界の観測に成功した。

観測されたその世界は異世界と呼ばれ、人類の新たな希望になりつつあった。


地球温暖化などの環境問題や人口の増加ににより、地球の限界が近いことは誰もが悟っていた。

火星や月の移住も多く考えられてきていたが、研究をすればするほど不可能であることがわかっていたのだ。


異世界は地球とほぼ同じ環境であり、自然もほぼ手付かずの状態で残っている。

そしてこの世界には魔法もあるし魔物がいる。まさに異世界という名前が似合う世界だ。

文明レベルは中世ヨーロッパと言ったところだろう。


国際連邦は異世界とのコンタクトを取るために莫大の資金を研究所に投資し、異世界と現世界を繋ぐゲートを開発させることに成功した。

そして国際連邦は異世界の中枢であるアリスフィア連合との接触に成功した。


もちろん色々な王国の人々や国王は、突然現れた現世界の人間に対して警戒をしていた。

異世界(現世界)から来たなんて言われても信用はできないだろう。

だが、長い期間をかけてアリスフィア連合を通して良好な関係を築く事が出来た。


国際連邦は異世界に技術提供をする代わりに、一部の土地を国際連邦の領土にする条約を結び、アリスフィア連合から譲渡された領土に現世界にある工場などを移すことで現世界の二酸化炭素を削減、分散することになった。


しかし、工場の大量建設などが異世界の住民の反感を買ってしまい暴動が起きた。

その暴動によって国際連邦の主要国の首相が殺害されてしまった。


そして国際連邦はこの暴動を口実に宣戦布告をし、異世界侵攻を開始した。


―――――


「物騒ねぇ...」


母親は困ったようにテレビを見ている。物騒所の話では無い。世界VS世界の戦いなのだ。

しかし戦場は異世界の方である上に、異世界に行ったことある一般人など誰一人としていないし、テレビでは異世界の映像に規制がかかっているため、異世界はまだ現実味がなく、他人事である。

もちろん母親だけでなく世界中の人がそうだろう。


「行ってきます」

「あら海斗、もう行くの?」

「今日日直だし、早く行かなきゃ」

「そう、行ってらっしゃい」


いつも通りのなんてこと無い会話。戦争は別の世界の話で自分には関係ないと思っていた。


通学路を一人で歩いていると不思議なものを見つけた。

ツタや、コケに覆われた近未来的な機械だ。その奇妙な機械は扉や門のような形をしていて廃墟の中で青白く光っていた。

いつもなら無視して近寄らないだろう俺は、不思議とこの日は恐る恐る近ずいていく。


「なんだこれ...」


思わず声が漏れる。その機会の目の前にたった瞬間その機械に吸い込まれるように力ずよく引っ張られ、抵抗虚しくその扉の中に入った。その扉の中は文字通り 空 に繋がっていた。

空中に全身が投げ出される。


「うわぁぁぁ!!」


今まで出したことない情けない大きな声で叫んでしまった。生身で空中に投げ出され、空中でジタバタと体を動かす。


(俺死ぬのか…?)突然目の前に現れた死の可能性に絶望することしか出来ない。

少しづつ迫ってくる地面。残り地面との距離が50mを切った辺りだろうか?


「精霊よ、ルティエンスが命ずる。かのものを風の力を持って救え」


俺の体の落下スピードは一気に減速して、ゆっくり、ゆっくりと落ち葉のように落下していく。そしてそのまま着地することに成功した。


「大丈夫ですか?」


声のする方に目を向けると、そこには少女がいた。15歳ほどだろうか?

髪色は黒にインナーメッシュの赤のボブヘアだ。


緑の木々に囲まれたその森の風は暖かく優しく体を包み込む。小鳥がさえずり、木漏れ日が地面に生えた小さな花をスポットライトのように照らしている。


「あ、ありがとうございます。あなたが助けてくれたんですか?」

「うーん、そうと言えばそうだけど、精霊が助けたと言った方が妥当かな」


彼女はたしかに今精霊と言った。間違いなくここは今までいた世界では無い。

精霊がいる世界というのは誰もが憧れるだがしかし。異世界は今戦争の真っ只中である。戦争に巻き込まれるなんて真っ平御免だ。


「そうだっ戦争!ここは大丈夫なのか!?」

「戦争?今戦争なんてしてないよ?」


彼女は驚き目を丸くしている。


「ここまでまだ戦線が来ていないのか?ここはどこだ」

「ここはアリスフィア王国だけど…どしたの?」


彼女は少し心配そうにこちらを見ていた。アリスフィア王国はアリスフィア連合の本拠地がある異世界のアメリカのようなところだ。

戦争が繰り返されないようこの世界でアリスフィア王国が結んだ組織のようだ。あまり異世界の情報は現世界に入ってこないので俺あまり詳しくは無い。


「うーん…アリスフィア王国が最後に戦争をしたのは今から70年前の戦争が最後だけど」


少し考えたような素振りを見せたあと彼女はなるほどと手を叩いた。


「わかった!君あっち側の人でしょ!それで間違えてこっち側に来ちゃったわけだ」

「多分その通りだ、ところで今は何年?」

「龍暦532年」


なるほど、全て把握した。宣戦布告した西暦2028年は龍暦535年だ。つまり、海斗は3年前の異世界に転移してしまった訳だ。 3年、この期間にこの世界から脱出しなくては戦争に巻き込まれてしまう。


「えっとまだ名前聞きてなかったな…俺の名前は柊 海斗だ、よろしく」


とりあえず警戒されないために全力の笑顔を作る。基本的に学校では仲がいい特定のグループとしか関わらなかったため、作り笑いの仕方がぎこちなくなってしまっていた。


「私はリーア=ルティエンスよろしく!海斗」


彼女は屈託のない笑顔で握手を求めてきた。握手文化があまりない日本人的には少し おぉ… とたじろぐ。


もしここで3年後に戦争になるからこの世界から帰りたいなんて言ってしまったらどんな反応されるか分からない。ここは穏便にいこうとしっかりとその手を握る。


久しぶりに女の子の手を握った、小さい。なんて思ってしまった気持ちの悪い自分に自己嫌悪をする。

このままだど自己肯定感が低くなりそうなので話を変える。


「俺は事故に巻き込まれて間違えてこの世界に来てしまったんだ…」


深刻そうな顔をしながらそう言うと、リーアは同情したように口を両手で覆うように隠す。


「大変…事故に巻き込まれてこの世界に来た挙句さっき落下死しそうになっていたんだね」

「そうなんだ、災難だったよ…俺は意図してこの世界に来た訳ではないから帰らないと…帰かる方法を知っているか?もしくは知ってそうな人は?」


俺は同情を誘い、自分の協力を促して自分に協力させる大作戦を実行した。


リーアは少し間を開けてうーんと人差し指を額に当てて考えている。


「私は知らないけど、王国学校の叡智の図書館の主なら知ってるかも…」


聞きなれない単語がどんどんと出てくる。叡智の図書館の主、聞くからに多くのことを知り尽くしとそうない雰囲気だ。


続けて彼女はしゃがみ近くに咲いている花を優しくつつきながら言った。


「叡智の図書館は王国学校の生徒と上流貴族しか入ることが許されないんだ。」


生徒と貴族しか利用できない図書館の利用者数はとてつもなく少なそうだな。


「王国学校は全国民の満15歳の人に平等に入学権利が与えられるの」


少しばかり時間がかかるが3年以内に、ここを抜け出せれば問題は無い。その学校に入学して図書館で脱出方法を調べたら後は憧れの異世界ファンタジーを堪能しながら、ゆっくりこの世界から帰ればいい。


「なるほど、俺もそこに入学すれば良いのか。所でそれ全校生徒で何人になるんだ?」

「大した人数じゃないよ。昔まで王国学校は貴族だけが行ける高等教育学校で、今でも王国学校は貴族が行く所っていう認識の人が多いんだ。ほとんどの庶民は中等教育を卒業したらか家業を継いだり、就職したりがほとんどだね」


確かにこの雰囲気の世界ではあまり学歴に固執するような習慣は無さそうだ。


「とりあえず街の方に行こうよ案内するよ!」


リーアが指さした方向を見ると青く透き通った綺麗な海に面した、レンガ造りが基調の西洋建築が並ぶ大きな都市が広がっていた。

この森は都市より少し高い位置にあるためかとても見晴らしがいい。


彼女は街の方に着いてこいと言わんばかりにどんどん歩いていく。

白いワンピースを緩やかな風になびかせながら歩くその姿は今にも空に溶けてしまうんじゃないかと思うほど儚く美しい。


「私も今年から王国学校に入学するつもりなんだ」

「もしかしてリーアって貴族なのか?」

「貴族っていう柄じゃないんだけどね…今日もお父様と喧嘩してこの森に来ていたの」


彼女は先程の元気いっぱいの声色から少し暗い声色になった。貴族には貴族の悩みがあるのだろう。


「私のお父様は伯爵でね…私に…いや、いきなりこんな事言っても重いか、気にしないで!」


気にしないで、と言われると逆に気になってしまうものだが、彼女は気を使って言わなかったと言うよりも、言いたくなかったという雰囲気だったため深入りはしない。


そんな話をしながら歩いているともう街の前まで来ていた。

近くに来るとこの街の大きさ、そして美しさが際立つ。


美しい。

明るい色のタイルが敷きつめられた道。その道の先にある噴水。何より住んでいる人みんなが笑顔で活気づいている。

今の日本はどこも空気が薄汚れていて、美しいとは言えない。さらに皆はスマホとにらめっこで、まるで操り人形のように毎日同じことを繰り返しているだけだ。


この美しい街を見ながら悲しい気持ちに浸る。


日本人がみんなスマホとにらめっこなのが悲しいのでは無い。


今から3年後この街からどれだけの笑顔が消えるのか、考えてしまっただけなのだ。


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