【1】全ての始まり
今、私は昼なのに堂々とベッドに寝そべっている。
…なんでか、って?だって!今日は!日曜日だもの!
…とはいえ、さすがに寝すぎなので起きることにする。
床に降り立ち、スマホを持ち、階段を下り、1階へ向かう。
途中から、テレビの音が耳に入ってきた。
『自動プログラムAIが、ついに商品化の一歩手前まで──』
──自動プログラムAI。
それは、自分そっくりの見た目をした人型のAIだ。
国が開発していて、日本国民はロマンやら不安やらを語ったり、「自動プログラムAI所持の義務化がされるのでは?」なんて言う人もいる。
ともかく、国を騒がせている、ある種の爆弾。それが、自動プログラムAIというものなのだ。
「羽月ちゃ〜ん!日曜日だからっていつまでも寝てないで…ほら、さっさとごはん食べちゃって〜!」
わかったー、と我ながらすごく棒読みで返事をする。お母さんの表情が(´・ω・`)←こうなっていた。
弟の優真は朝からずっとゲームしているらしい。優真らしいが、その集中力は尊敬もするが心配もしてしまう。
少しキッチン寄りに置かれた、3人ならばちょうどいい大きさのテーブル。
そこに、椅子が3つ置かれている。私と優真が片側に並んで座り、反対側にお母さんが1人で座る構図だ。
いつもの位置に腰を下ろし、スマホを横に置いてから、用意されている昼ごはんを食べる。
ちなみに、優真の方は雑に食べ終わった食器が放置されていた。いや、こわ…
…ただご飯を食べるのもつまらないので、ずっとついているテレビの音を聞いてみる。
『──自動プログラムAIの試験に、国民の方に協力してもらうとの事です。』
起きた時にもテレビから流れてきた声がそういう。
なんか、大規模なことしてるなぁ…
『国民の中から、さらに12歳以上35歳未満で、犯罪の前科や未遂がない人の中でランダムに100人選び、テスターとするようで──』
100人…
正直、自動プログラムAIとやらに興味を持ってないかといわれたら否定できない。
AIってだけでわくわくじゃん。しかも指示出したらちゃんと命令どうりに動いてくれるし、AIだから学習能力もあるから機械と違って無駄な行動になることも少ないし。
「…でも…100人とか…無理だよなぁ…」
思わず声に出る。諦め半分、ここで自分がテスターです!ってならないかな、って期待半分の声。
その時だった。
ピンポーン
インターホンの音が家中に響いたのだ。
「お母さーん、インターホン鳴ったよ?」
インターホンが鳴ったらお母さんが出るのが、1種の暗黙のルールなのだ。我が家では、の話だが。
「あ〜、お母さんちょっとお菓子作りたいから、羽月ちゃん出てくれな〜い?」
あれ、ルールどこいった?
…とにかく、もうインターホン鳴ってから1分くらいたっている気がする。まずい。
優真は気にせずゲームしてるし、お母さんに名指しされちゃったし、走って玄関へ向かう。…まって、優真の集中力化け物すぎん?天才め。
さて、玄関までの短距離走の開始だ。
扉は予め開けておこう。
れでぃー…ふぁいん!
記録!6秒!
…じゃなくて、早く出ないと…
ガチャッ
…
……
目の前には大柄な男2人。
そして私は玄関に1人。
…これって、あれじゃないです?誘拐ってやつじゃなくなくなーいですか?
私これから監禁されるんですかね??
「…木下 羽月さん、で合ってますか?」
と、片方の大男が話し始める。
こやつ、誘拐犯にしてはやけに丁寧だ…
「あ、そうです〜!ええと、ご要件をお伺いしても…?」
真面目に対応した私偉い。羽月偉い。
…そんな呑気なことを考えていたら、いい意味で信じられない言葉が耳に飛び込む。
「では、木下 羽月さん。自動プログラムAI、ご存知ですね?」
「あなたは、そのテスターに選ばれました。おめでとうございます!」
思わずそういった大男を2度見する。
なにかの詐欺だろこれ。天才羽月さんは騙されないですよ。
…そう思っていたのだが、家の中からうっすらテレビの音が聞こえてくる。
『──テスターは──さん、木下 羽月さん──』
え、え、は?ガチかよ。
なろうの主人公くらい幸運じゃね私?あー人生最高…
「今、テレビでも流れましたが、間違いなく、あなたは正式にテスターになるのです」
いやこいつあのテレビの音聞こえてんのかよ。こっちもこっちで怖いわ。
「と、いうことで…あ、肝心のAIは3日後にお送りします。それでは!」
…2人居たのに片方契約書出す以外なんもしてなかったなぁ
いや、その前に、私テスター?夢じゃないよね?誰かほっぺつねって?あっ自分でつねるか。めっちゃいたい。
…危機(?)は去ったし、家の中戻ろう…
廊下とリビングを繋ぐドアを開けた瞬間…
「ねーちゃんねーちゃん!自動なんたらかんたらのテスターになったって!?」
「もしかして、さっきのインターホンもこの事だったのかしらね〜?」
…優真は目を輝かせながら道を塞ぎつつ私に問いつめてくるし、お母さんもニコニコで勝手に自己解釈を始めてる。
いや、そんなことよりも…
テーブルの上に置いた自分のスマホが、マッサージ機並に振動している。
まさか…
「ちょっ、優真通して!スマホが!スマホがぁぁ!」
はい、そのまさかでした対戦ありがとうございました。
えー、状況報告を致しましょう。
まず、うちのクラスのチャットグループ…"2-4の楽しい楽しいグループ♡"には私のテスターの話が…1秒に7つ通知が増えるレベルのハイスピードで行われている。えぐいって。私が見た時にはもちろんカンストしていた。
そして学年チャットグループ、"俺らズッ友だYO!"は1秒に3つのペース。クラスチャット見たあとだとしょぼく感じるけど、これはこれでやばい。
そして個チャ…個人チャットもまあもちろん大惨事。
同じ学年ってだけでほぼ話したことないようなやつからもLINEきてる。こわ。
おめでとう!って内容も見えるし、妬みが籠ったのも見えるし、謎のスタ連…スタンプ連打もある。何故?
この先にやることを考えたら目眩がしそうだ。いや、目眩してくれ。今だけはぶっ倒れたい。
嫌になる前に、1つのチャットをタップする。
私の親友…奈央との個チャだ。
奈央も案の定メッセージを送って来ていたのだ。
《自動プログラムAIのテスターオメデトウ!れれ!!》
《前髪から興味あるって言ってたし、めっちゃよかったじゃん!》
《AI触らせて寝(物理的に!)》
こんな…えっと、個性的なメッセージ送るのは奈央くらいである。
…誤字が酷い。うん。もっとスマホに慣れて欲しい。
《ありがとー!!》
《実はテレビのやつテスター発表前まで聞いてて「あーテスターなれたらいいなぁ」なんて思ってたんだよねw願いかなったり!》
《ちなみにまだAIうちに無いからね!》
こう返しておこう。
あともうひとり…今年から転入してきた、凛音の個チャをタップする。
凛音も最近仲良くなった。天才である。
《羽月、おめでと》
簡潔過ぎてコワイデス。
とりあえず返しておこう…
《ありがと?ちょっなんか冷たくない!?》
よし、あとはスタンプでも返しておこう!
その後はソワソワしまくってて、とりあえず優真とゲームしてたら寝る時間になっていた。
着替えて、歯磨きして、部屋に戻って、布団に入る。
目を瞑っていると、色々考えてしまうのは私だけでは無いはずだ。
…あれ、明日…学校…
『ねーちゃんねーちゃん!自動なんたらかんたらのテスターになったって!?』
…まさか、まさか、ね。
学校の人達まで優真みたいなことしてくるわけ…ない、よね?
……………
うん、よし、考えたら負けか!寝よう!おやすみなさい!
こうして、羽月はテスター生活を送ることになるのであった…
楽しんでいただけたでしょうか…!!
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