第84話:2度目の魔力測定
自己紹介が終わった医務室、その中で次のステップに進もうとしていた。
テクノがカチャカチャと弄っていた表面がフラットな薄型の電子端末染みた機器、それを椅子横のテーブルに置いた。
「もう、いいかな。ボクちゃん達は久しぶりの面会。クロムちゃんはここでの初めてのお仕事。うん、無事に終わったようだね」
部屋の面々を見回しニッコリ笑うと、パリピグラスをグイっと指で押し上げ位置を正し、視線をアリアへと向けた。
「では、ボクちゃんのスーパーな診察を始めようか!!アリアちゃん、こっちの椅子に座ってくれるかな」
そう言い、テクノの前にいつの間にか用意されていた椅子を指し示した。
テクノのはっちゃけた雰囲気が一気に締まった風に感じられたアリアが、緊張の面持ちでその椅子へと座る。そして、固唾を飲んでテクノを見上げた。
「おお~う、ちょっと緊張しているのかな、アリアちゃん!!大丈夫、大丈ヴィ!注射なんてしないから、安心してよ、ハハハ!ボクちゃんとお話するだけだからねぃ!」
テクノはニヤリと笑う。
そして、腕を高く上げて指をパチンと鳴らす。
すると、シアンによって沈黙していたスピーカーから爆音とまではいかないが、それなりの音が流れ出した。更に、それに続いて、ミラーボールが回り出し、カラフルな光が部屋中に広がった。
「あはぁ!やっぱり、こっちの方がボクちゃんには似合うね!辛気臭く診察してもつまらないだけだからね!!」
満足に頷き、テクノのサイドに置かれたテーブルから先程まで何やら弄っていた機器を手に持った。アリアも一度使った事がある魔力測定器だ。
「じゃ、アリアちゃん。ボクちゃんがアリアちゃんのためだけに作った世界に一つだけの魔力測定器に手を乗せてくれるかな」
そう言った後、シアンに視線を送り、アリアの魔力測定をお願いする。
頷き、シアンがテクノから受け取った測定器をアリアの前に持っていく。
そして、音程が外れまくりの歌を自信満々にテクノが歌う中、アリアの測定が始まった。
「それじゃアリアちゃん、雑音は無視して、ここに手を置いてくれるかしら」
「・・・ごくり。分かりました」
生つばを飲み込んでから、“深く”頷き、アリアはシアンの差し出す魔力測定器の上に手を乗せた。
アリアになった初日以来の魔力測定である。
(・・・お願い。少しは増えていてくれ)
ここまで努力してきたことを思い返しながら、心の中で必死に願って、きつく目を瞑った。
(じゃないと、俺の、いや、アリアの為に愛想を尽かさず付き合ってくれた、皆に申し訳ないから)
一度は心が離れたアリアに、また付き合ってくれた本当に心優しい皆の為、結果を出さなければと強く胸に抱く。
ドキドキと心臓がうるさく鳴り響く中、必死に、必死に、結果を祈る。
(前の男の時には実らなかった努力が、今度は実る、違う、せめて芽が出るぐらいにはなってくれ。お願いだ。一度でいいから、成功を教えてくれよ!!)
ぎゅっとしわが出来るほどきつく目を瞑り、空いている方の手が白くなるまで握り込む。
そして、測定結果を待つ、アリア。
だが、そんなアリアの脳裏にふと不安が過った。
もしもの光景が浮かぶ。
それは、全く成長していなかった未来、ここにいる皆に失望される未来、そして、失望されて見捨てられて独りぼっちなる未来が次々に浮かび上がった。
(大丈夫。俺はきっと成長してる・・・はず・・・)
不安を打ち消そうと自身を宥める。だが、どうしても自信を持つことが出来ない。
そんなもしもの不安に怯えるアリアに、ダメ押しの過去の記憶が鮮明に蘇ってきた。
前の男の時の、努力をしても何もかもが上手くいかなかった無味乾燥な人生が浮かんだ。その中で、兄妹と比べて出来損ないだった辛い過去がありありと思い出されていった。でも、笑ってくれた両親の顔がもっと強くアリアの脳裏に浮かび上がってきた。
(ごめん)
一言、心の中で零れ落ちた。
いつしか身体か震えていた。
目をきつく瞑って、過去も現在も自身の心を苛む中、懸命に結果を祈るアリアの耳に審判の時の声が届いた。
「アリアちゃん、終わったよ。ゆっくり目を開けて見てみて」
優しく語り掛けられた看護師のシオンの声は確かにアリアの耳に聞こえていた。
怖い怖い怖い怖い怖い。結果が怖い。
いつの間にか、瞳から溢れる涙に気付かずに目を開けていく。
開いた世界は歪に歪んだもの。
呼吸は浅い息が続く。
手を置いた先には、未来の暗示。
ぐちゃぐちゃの世界の中、見なければならない現実が待つ。
見よう。見なくちゃ。見ないといけないんだ。見ろ、見ろ。早く見ろ。・・・・、でも、怖いんだ。変わらない数字(世界)を見るのが怖いんだ。
それに、もしかして、初日より下がっているかもしれない。
弱気、臆病が邪魔をして、勇気が振り絞れない。
(俺が本当にアニメみたいに主人公に転生していれば、きっとこんなに弱くなかったんだろうな。でも、俺は主人公じゃないから・・・)
今一歩を踏み出す、勇気が出ない。
体感時間で既に30分くらいは過ぎている気がする。
その30分で自分は何も出来ていない。
たった目を開けて結果を見るだけの簡単な行為が出来ない。
生来の卑怯さが嫌になる。
アリアの意識がどんどんネガティブな感情のスパイラルに嵌まりゆく。
そんな内向的志向に陥っていくアリア。
悔しさなんてポジティブな感情を心のどこからも感じられなくなったアリアに、纏わり付く暗闇を払うことを諦めたアリアに、微かなきっかけが届く。
1つ、2つではない、あまたに感じられる、望んでも一人では決して得られない、温かなきっかけが負の壁を穿つ。この身にアニメ、マンガの様に天から授けられた能力はないかもしれない、なした努力が倍以上になって帰ってくることもないかもしれない、でも、アリア自身の努力で手に入れたものはしっかりとあった。それが届く。
「アリアちゃん、気にする必要なんてないわよ。アリアちゃんはまだ子供なんだから。大丈夫大丈夫、成長はまだ始まったばかりなんだよ。これからもっともっと強くなるから、心配はいらないわよ。さ、目を開けて見て。これからの本当の楽しみを」
「お嬢様、スイはありのままのお姿を見ています。ひたむきに努力なさっているお姿を見ております。娘達もお嬢様の人柄に惹かれて慕っているのです。強さなどは関係ありません。私達はどのようなアリアお嬢様であろうとも、お傍を離れることはありません」
「良いんだぜ、お嬢。可愛い方が、あたいらも頑張れるってもんよ。男勝りの女子になって、お転婆に過ごしてくれよな、お嬢。それによ、元気で可愛い方が男にモテるぜ。尻に敷ける男でも探していこうぜ!」
「お嬢様、男はまだいりませんよ!早すぎますよ!ローズの戯言など右から左に流してください!止めて下さいね、お嬢様!ある日突然、『シオン、わたくしの彼氏ですよ、ふふ』なんて絶対やめてくださいね!!腕を組んで親しく歩かれて、ティータイムの時には『あら、ほっぺが●●様のおやつをお取になられていますよ。お行儀の悪いほっぺですこと。ふふ、●●様、動かないで下さいね』って仰って取ったものをペロなんて微笑んで召し上がることなんてやめてくださいね。『シオン、今日まで本当にありがとう』と涙ながらに申された後にライスシャワー降り注ぐヴァージンロードなんて歩かないで下さいね。・・うう~、シオンを置いていかないで下さい、アリアお嬢様~~!!」
皆の声を聞いたアリアは、目を開けて視線を測定器の方に向けた。
1人頓珍漢な事を話していたが、それもそれで普段通りで、きつく結ばれていた口元が小さく綻ぶ。
マジ泣きのシオンが一度離れたアリアに縋る様に取りつく中、大丈夫と心の中で唱えた後、測定結果を見た。
(・・・・・?)
でも、文字が読めないので、結果が分からなかった。
「ふふっ」
思わず漏れた笑い。
「あの、どれが測定結果になるのでしょうか」
折角の覚悟が無駄になった締りの悪さの中、普通に、測定器を持つシアンに訊ねた。
「あっ!そうよね、ごちゃごちゃ出てるもんね。えっと、これがアリアちゃんの魔力の量よ」
シアンが黒い画面に文字列が沢山浮かぶ中から、一ヶ所をアリアに示してくれた。
(コマンドプロンプトにしか見えないんだよな、こう改めて見ると)
前の男の時に大変お世話になった、嫌という程見てきた画面が脳裏に浮かび上がる。
浮かんだ光景に苦笑しつつ、アリアは今一度自身にきっと大丈夫と声を掛けた。
それから、目を瞑り、ゆっくりと開いた後に、シアンが示してくれた箇所に目を向けた。
数値はどれだと、確認する前に、シアンが優しく読み上げてくれた。
「分かる、アリアちゃん。今ね、闇が3、光が9って出てるのよ」
その声を受け止めた瞬間、馬鹿みたいに呆けた。
そして、読み上げてくれたシアンに顔を向けた。
本当なのかと、訊ねてみたかった。
けれども、上手く口が動かない。
口が震えて言葉が出せない。
瞳をいっぱいに広げたまま、シアンの顔を見続ける。
そしてシアンが、訊ねられないアリアに代わって、口を開いた。
「冗談、なんかじゃないわよ。真剣な答え。これが今のアリアちゃんの数値よ」
先程まで浮かべていた優しい微笑みを消した、真剣な表情の、シアン。
アリアの瞳にも映るシアンの顔は真剣そのもの。嘘や冗談が一切入る余地のない本気の表情。
そこでようやく、心の底から、実感が湧きおこってきた。
今まで、もしかしてと抱いていた不安が瓦解した。その瞬間、なんと表していいのか分からない、心の底まで震える感情が胸一杯に溢れ出した。
ちゃんと成長しているんだと、分かった。
チートがなくて、平均100の所の絶望的な数値が並んだあの闇2、光8から、シオン達に励ましてもらって頑張っていこうと前を向いて、諦めなかった結果がアリアの目の前に現れていた。
「よかった」
それだけを零し、安堵が瞳から形となって零れ落ちた。
非凡な才能の持ち主なら微々たる数値の増加であろう。たかがそれくらいかと、鼻で笑う人もいるかもしれない。でも、ずっとずっと兄妹との劣等感で前の男の時からもがいてきた凡人アリアには、膨大な数の増加に思えるのだ。
アリアはこの場にいるシオン達に感謝の言葉を贈った。
(だって、シオン達が傍にいつもいてくれたから、俺は挫けなかったんだから)
「ありがとう」
そっと抱き締めてくれたシオンの胸の中で、成長の喜びを噛み締めていった。




