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別視点。コロコロ変わって申し訳ない。
今回は「不思議な声」の人の話です。
「もう後10年早く発掘できてたら、今頃きみはスターだったんだけどね〜」
それが、私を拾ってくれた小さな芸能事務所の社長の口癖だった。
小さな頃から歌うことが好きで、周りからも上手だねって褒められてた。
みんなの前で歌うことも大好きで村のお祭りのカラオケで歌ったりしてた。
だけど、コンビニどころかスーパーすらない山奥の田舎で多少歌がうまいと褒められたところで、なんになるというのか。
「大きくなったら歌手になるんだ」と笑う私に「ムッちゃんならなれるよ」と頭を撫でてくれた父母も、周囲の大人だって、よくある子供の夢物語だと思っていただろうし、正直、私だってそうだったもの。
少し大きくなったら、「なれっこない」って思ってた。でも、心のどこかで夢見たままだったんだと思う。
それも、中学になる頃に父親が事故で亡くなって母親と幼い弟妹の4人暮らしになるまでだった。
もともと裕福とは言えなかったけど、途端に貧しくなった家庭に、中学卒業後は進学せずに就職を選ばなければならないほど、我が家はギリギリだったのだ。
それでも。
自分はダメでも弟妹たちはせめて高校くらいは出してやりたいと必死に働いて。
弟に至っては大学まで行かせてやることが出来て、それなりに充実した日々だった。
だけど、弟妹たちが無事に就職して手を離れた途端、ポッカリと心の中に空いた穴をどうしたら埋めれるのか、分からなかった。
そんなとき、妹が「姉ちゃん、歌うまかったし、こういうのも良いんじゃない?」なんて戯れに歌のオーディションのチラシを持ってきたのだ。
魔が刺した、とでも言うしかない。
何を思ったのか、唆されるままに応募したカセットテープと書類。
一次審査を通ったと封書が来たときの震えを今でも覚えている。
複数会社の合同オーディションだった。
結論から言えば。
私は社長と社員2人他パートのおばちゃん、という小さな芸能事務所に拾ってもらい、歌手としてデビューまでできた。
その時、年齢30歳。
遅咲きにも程がある。
世の中はアイドル全盛期、だった。
若くて可愛い女の子たちがひらひらとした衣装で可愛い振り付けを披露する。
そんな中、容姿もパッとしないおばさんが売れるわけがない。
歌がうまいだけではダメなのだ。
事務所の社長によくデビューさせようと思ったな?と疑問をぶつけたことがある。
「いやぁ、ダントツ歌がうまかったし、奇跡が起こるんじゃないかなぁ〜なんて、夢見ちゃったよね」
明るく言い切る当時45歳のおっさん。
ダメでしょ。
だけど、夢を見たといわれて、一念発起した私は歌唱力を磨きに磨いた。
バイトしながらボイストレーニングに通い、R&Bからクラシックまで。
だけど言われる言葉は「歌は上手いんだけど花がないよね」
鳴かず飛ばずの15年。
流しの真似事をして日銭を稼ぎながら営業し、生活費のためにスナックでバイトをし、最終的には肝臓やって過労死しました。
だけど、まぁ、幸せだったと思う。
売れない歌手の姉に弟妹もその家族も優しかったし。
多分10代の時間を家族のためにつぶさせてしまった罪悪感もあったんだと思うけど。
甥姪抱っこして寝かしつけた時間は幸せだったし、何より、歌ってるだけで幸せだったんだよ、私。
結局そこに戻るのさ。
せっかく拾って最後まで見捨てなかった事務所には申し訳なかったけど、売れなくてどさ回りしたことも、有名歌手のバックコーラスやってた時も、誰が見てないその瞬間だって。
ただ歌ってられることが幸せだったから。
そう考えると、十代でがむしゃらに働いてた時だって、歌はそこにあったんだから、不幸ではなかったんだと思う。
まぁ、そんな歌漬けで、ある意味気狂いって呼ばれそうな人生をポックリ終えて。
そうして、次の瞬間、私は小さな女の子の中にいた。
というか、これはなんなんだろう?
生まれ変わった?というより、なんか守護霊?に近い気がする。
最初の記憶は「ああお腹空いた」って声。
次の瞬間、小さな女の子の生まれてからたった2年ほどの人生を「知って」、私はそこに産まれた。
ほんわりと暖かい場所から少女の様子を眺め、時折降ってくる質問に答える日々。私の教えることを次々吸収していく幼女の成長スピードは目を見張るものがあった。
明らかにネグレクトされている女の子の意識をどうにか生きていける方向に導きながら。
才能の塊みたいな幼女を英才教育?していく快感と言ったらなかった。
私の全てを教えてあげる。
『歌う』全てを教えてあげよう。
どんなジャンルの音楽も、それぞれに素晴らしさがあって。
歌うだけじゃない。楽器だって、弾くと楽しいんだよ?今はその環境がないから出来ないけど。
その時は、それも教えてあげる。
きっとすぐに上手くなるよ。だってあなたには未来が溢れてるんだから。
『音楽ってなに?』
それはね、世界を彩るとても素晴らしいもの。
読んでくださってありがとうございます。