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夜鳴鶯(ナイチンゲール)は朝を知らない  作者: 夜凪
出会い

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何か難しい顔で、カズは行っちゃったけど、大丈夫かなぁ?

お友達とちゃんと仲直りできたらいいんだけど。




カズと歌を歌うのはとても楽しい。

カズの作った曲を、あーでもないこーでもないと肉付けしていくのも。

昔からある曲の解釈をめぐって討論するのも、とっても楽しい。

音楽の話だけじゃなくて、テレビのCMや食べたご飯の話とかでも、不思議と楽しいんだよ。なんでかなぁ?


お母さんにもちゃんと許可を取ったから、私も安心してカズのお家に遊びに行く事ができるようになったの。

とは、言ってもカズはとっても忙しそうでいつでも一緒にいれるわけじゃない。


「こちとら貧乏学生だからな」

と、毎日のようにバイトをしてるんだよ。

当然、大学の勉強だってあるし、持ち帰ってくる課題?もたくさんあるの。


だけど、どんなに忙しい時でも、カズは、必ず1日2時間はギターに触るんだよ。

そうしないと、すぐに指が動かなくなっちゃうんだって。


そんなふうに真面目な顔で言ってたけど、カズは単にギター弾くのが楽しくてしょうがないだけだと思うんだけどな。

だって、どんなに疲れた顔で帰ってきても、ギターを手にした途端イキイキしだすんだもん。


曲の練習をしたり、新しい曲を作ったり、私とのセッションも。

楽しくてしょうがないって顔してるんだよ。

だから、私も1人で歌ってた時よりもっと楽しいんだ。


私、カズのギターの音が好き。


とても静かで、ひんやりと冷たい水の中に包み込まれているみたい。

かと思えば、突然その温度を上げ、爆発するみたいなドキドキをくれるの。


水と炎。

全然別のものを感じさせるカズの音は、とっても不思議な感じだけど、一緒に歌ってるととてもきもちいいの。


『感性が似てるんでしょうね。彼の音は睦月の声とも相性がいいし、言うことなしね』

そういって、先生はうれしそうに笑ってたなぁ。


それから、カズはお家の鍵を私にくれたの。

「睦月は特別だから。俺がいない時でも部屋に入ってていい」

そういって、鍵を渡された時はとても嬉しかったな。


カズの部屋はとてもシンプル。

2畳くらいのロフトがついた1Kで、私のお家とはちょっと違うんだよ。

狭い代わりに防音がついているんだって。

家でもギターを弾きたかったから、りべんせいや広さを犠牲にしたと笑ってたの。りべんせいってなんだろう?


確かにカズのお部屋は狭いんだけど、そんなに狭いとはかんじないの。


お布団や洋服なんかは全部ロフトの方に置いてあって、下にあるのは小さなちゃぶ台と大きめのラックが一つ。そこにはアンプや楽譜、CDなんかがずらりと並び、カズ君の目指す世界の地図みたい。


そして、その傍らにこの部屋の主のような顔をして、カズの相棒ギターが鎮座している。

とてもカズっぽい、部屋なんだよ。


小さなCDプレイヤーもあって、好きに使っていいって言われてるから、私は大抵気になったCDを聴いたり楽譜の読み方を先生に教えてもらったりして、カズが帰ってくるまでの時間を過ごしてるの。


お母さんの服やアクセサリーがいっぱいで、化粧と香水の香りに満たされたお家より居心地が良くて、悪いなあ、って思うけど、ついついカズの部屋に行っちゃうんだよね。


だって、この部屋には音楽が溢れてるの。

それは、私を絶対に傷つけないものなんだよ。


何より、帰ってきて私がいるのを見つけると、カズがふわりと笑ってくれるんだ。

「おかえりなさい」と「ただいま」が、当たり前のようにあるその瞬間に、いつもなんでか胸がキュッとなるの。


その胸のお痛みの正体を知るのは、もう少し後のお話なんだけど……。





「ねえ、先生。カズ、お友達とちゃんと仲直りできてるかなぁ?」

『どうかしらね?仲違いの原因を詳しく知らないから、なんとも言い難いけど………。一度無くしてしまった信頼を取り戻すのは大変でしょうね』


カズがお友達のところへ出かけた後も、いつもみたいに気になるCDを聴いてたけどなんだか落ち着かないし、先生と歌の練習をしててもいまいち集中できない。


結局、先生に呆れたように『今日はお終いにしましょう』って言われちゃって、今は、何をするでもなくぼんやりと座り込んでるんだけど……。


「信頼を取り戻す………?」

『そう。多分、そのお友達は自分の作ったものをメチャクチャにされたり粗末に扱われたのもだけど、そこまでされても、バンドのメンバーの方に着いてしまった嘉瑞君のことも、悲しかったんじゃないかなって思うの』

少し困ったような先生の声。


「むう………。むずかしいね………」


一応行く先々で学校には行ってたけど、長くても半年くらいで引っ越してたから、私、今までまともにお友達がいた事ないんだよね。

幼馴染って、すごっく小さな頃から仲良い子のことだって、聞いたことがある。


それって、すごく仲良しってこと?


ずっと一緒にいたお友達が、最近できたばかりのお友達とばっかり遊んでたら、確かにつまんないかも。


そういえば、何個めかの学校で仲良くしてくれた子がいたけれど、その子がいない時に他の子達に「独り占めは禁止」って怒られた事があったっけ。


『みんなそれぞれに考えや気持ちがあるの。自分の気持ちだけ押し付けても、うまくいかないのはわかるかしら?』

「………なんとなく」

先生の言葉は、いつもちょっとだけむずかしい。

だけど、大事なことな気がするから、頑張って聴くようにしてるんだよ。


『誰かと仲良くなりたいなら、相手の気持ちを考えてあげてね。いつも言ってるけれど、自分がされて嫌なことを人にしてはダメ』


うん。これは分かる。

先生が、私が小さな頃からいつも言ってることだからね。


『でも、だからと言って、相手の考えばかり優先して、我慢し過ぎてしまうのもダメよ?自分の気持ちも大切にしてあげなくちゃ、睦月が悲しくなっちゃうからね』


コレ!ここがよく分からないの。

だって、相手も自分もどっちもって言ってたら、ちっとも先に進めないじゃない?


思わず眉間に皺を寄せて、唇を尖らせた私に、先生が、少し笑った気配がした。


『そうね。まだ睦月には難しいわね。だけど、今はよく分からなくても、そういうものだって覚えてて」

先生は声だけの存在で、そんなわけないって分かってるけど、なんだか優しく頭を撫でられたような気がしたの。


『まあ、嘉瑞君なら大丈夫でしょう。そんなに言葉が上手な子ではないけど、嘘はつかない。幼馴染なら、そこのところはよく分かってるでしょうから………』

「うん……。カズ、早く帰ってこないかな」


ころりと床に転がって目を閉じ、さっきなんとなく流していた優しいピアノに耳を澄ます。

ピアノの音に合わせて、先生が囁くように歌いはじめた。

包み込まれるような優しい声にとろりと眠気がやってきて、思わずあくびがでちゃう。


それに抗うことなく目を閉じれば、どんどん体が重くなって、やがて私は何も分からなくなっていって……。


最後に『おやすみなさい』と囁く先生の声が聞こえた気がした。





むくりと、横になっていた体を起こす。

そっと意識して指を端から折り曲げて、確認。

よし、ちゃんと動かせる。


()に意識を向ければ、すやすやと気持ちよさそうに睦月が眠っているのがわかった。

「よし、今日も接続良好」

立ち上がり、大きく伸びをしてから台所へと向かう。


睦月の避難場所を提供してもらうお礼に、食事の準備をするのが、最近のお約束なのだ。


嘉瑞も睦月も、一応料理はできるけど、チャーハンとか焼きそばなんかの一品ドカン。

どうにも、弟妹育てた経験上、栄養バランスが気になるので、おせっかいを焼いているのよね。


睦月が寝ている時限定で体を動かせることに気づいたのは、実は結構前の事。

だけど、子供の大切な睡眠時間をあまり奪うわけにはいかないから、極力短時間で用事は済ませるようにしている。


せっかく寝てるのに、体動かしたら疲労感取れないだろうしね。


だけど、食事に手を抜くのはいただけない。

健康な精神は、健康な肉体に宿るのだ。

それを抜きにしても、2人ともまだ成長期だからね。

バランス大事。お野菜大事。


鼻歌混じりに主菜副菜作り置いて、元の場所に横になる。

その間、大体30分。

手際の良さには昔から定評があります!

そのまま体を睦月に返すと、眠る睦月の意識にそっと寄り添った。


さてさて、嘉瑞君は、うまくやってるかしらねぇ?


お読みくださり、ありがとうございました。

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