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第七十五話 真相(2)

「は……?」


 レッドは、絶句せざるを得なかった。


「聖剣と、魔剣が……なんだと?」

「だから、言ってるだろ。聖剣も魔剣も、原料は魔物さ。殺した魔物の一部から作っているんだよ」

「な、なに……?」


 こちらが困惑している姿に、枢機卿長は心底楽しそうなのが癪に障ったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。


 にわかには――いや、全然信じられることではない。


 まあ、仮に魔剣が魔物から出来ていると言われても、さしたる驚きは無かったとは思う。あれが禍々しい物であることは、実際使ったレッド自身が一番理解していることであるからだ。


 しかし、その中に聖剣も含まれていれば話はまるで変わってくる。


「どういう意味だ。聖剣は、初代勇者が太陽神ラルヴァから送られたものじゃなかったのか?」

「はっ、そんな馬鹿みたいな話、君とて信用して無いんじゃないの?」

「それは……まあ……」


 言い返せないレッドに、さらに枢機卿長は畳みかける。


「聖剣も魔剣も、魔物が無尽蔵に魔力を吸収する特性を、利用するために造られたものさ。勿論、神様じゃなくて人間がね。心当たりはあるでしょ君だって」

「心当たり、って……」


 言われてみて思い返すと、確かにそのような節は多くあった。


 この半年ほどの戦いのうち、魔物を次々現れても平気に倒していたし、疲れとてよほどの相手でなければ感じるものでもなかった。

 一番決定的なのは昨晩のベヒモス戦の折、倒れたベヒモスの体をよじ登る際に、剣を支え代わりに刺していたら不思議と体力が回復していった。あれは、もしかしたらベヒモスの魔力を聖剣が吸っていたのかもしれない。


 そんな風に考えを巡らせていると、「――それが聖剣の特徴だよ」と枢機卿長が口を開いた。


「魔物を斬ると、いや斬らずとも戦っているだけでも相手の魔力を吸い取っていく。無論、魔物が使う魔力攻撃にもね。肉体のほとんどが魔力で構成されている魔物からすれば、これほど面倒な敵はいない。相対しているだけで力を奪われるんだからさ。だから、魔物に対抗するための武器としてこれ以上の物は無い。五百年前も、この剣の力があったからこそ魔王に勝てたってわけ」

「――じゃあ、その特性を利用して魔物から作った聖剣と魔剣は、実は似たような物って事か」

「そもそも、聖剣も魔剣も無いよ」


 へっと鼻で笑う枢機卿長は、この世界の住人たちが信じている伝説を根本から否定する。


「単に、そういう名前で呼ばれてるってだけさ。聖剣も魔剣も、魔物が原料で、魔物の魔力吸収能力を利用する目的で製造された、そこに違いは無い。

 あるとすれば――色が白と黒であることと、デザインぐらいかな?」


 などと軽々しく告げられたレッドは、もはや頭を抱えたくなってしまった。


 あまりにも嘘が多すぎる。レッドが今まで常識だと、当然と認識していたことが全部ひっくり返されていく。昨晩も自分の全てが壊され踏みにじられた衝撃を味わったが、今はそれ以上かもしれない。


 何より恐ろしいのは、その衝撃がまだまだ続くだろうということだ。


「――じゃあ、あれは何なんだ」

「うん? あれって何?」


 にこやかに応じる枢機卿長は、明らかにレッドの次の質問を予想付いているようだった。

 その姿にますます苛立ちを募らせるものの、今は尋ねることを優先した。


「お前らが――いや、聖剣が俺を選んだって話だよ。太陽神ラルヴァが聖剣を与えたってのがデマなら、俺が勇者――聖剣に選ばれし勇者ってのは、いったい誰が決めたんだ」


 そう、それが最大の問題である。

 レッドが勇者として旅に出て、そして偽勇者として破滅させられる悲劇。

 それはそもそも、彼が聖剣を引き抜いて勇者と認められなければ起きなかった事態なのだ。


 しかし、その聖剣が選んだというのがデマならば、レッドを聖剣の勇者などと言って選んだ者が別にいるということになる。その相手が、レッドをこんな痛々しい姿に変えた張本人であろう。


 そんな彼の、怒りと憎しみが混じった問いに、枢機卿長は顔色一つ変えず、至極当然な様子で言い切った。




「決まってんじゃん、この僕さ」




「……っ!」


 レッドは一瞬で頭に血が上り、影から魔剣を取り出した。


「てめぇっ!!」


 その勢いのまま、魔剣を目の前の枢機卿長に突き刺そうとする。しかし、


「落ち着きなさい、君」


 と言って、枢機卿長が指先一つをチョンと突き出すと、


「がっ……!?」


 レッドの身は、テーブルに叩きつけられる。

 いや、叩きつけられるというより、レッドの体を見えない手が抑えつけているような感覚だった。何事か分からず、とにかく引き剥がそうとするがビクともしない。


「まだ話の途中だよ。怒る気持ちも理解できないとは言わないけどさ、短気は損だよ?」


 なんて、まるで子供をあやすように宥める枢機卿長に怒りを強くするものの、確かにここで話を終わらせる訳にはいかない。やむを得ないということで、ここは一旦冷静になることにした。


 枢機卿長も大人しくなったと判断し、指をしまうと、抑えつけていた力は一瞬で消えてしまう。何の魔術か知らないが、確かに恐ろしい奴ではあった。


 座り、質問を再開することにした。


「――じゃあ聞かせてもらおうか。何故俺だったんだ? いや、そもそも俺である必要はあったのか?」

「無いよ、そんなの」


 ニヤニヤしながら返答する枢機卿長にまた襲いたくなったが、さっきの二の舞に過ぎないのでぐっと堪える。まだこいつには聞きたいことが山ほどある。


「――そうか。なら聖剣に選ばれし勇者なんて、いないって事か」

「勿論だとも。聖剣なんて使おうと思えば誰でも扱える。――聖剣なら、ね」


 そこで言葉を区切った枢機卿長は、左の人差し指で目元を覆う布をスッとずらした。

 その内に隠された。血のように赤く輝く二つの瞳が露わになる。


「――っ!」


 その両眼に睨まれた時、レッドは一瞬凍りついてしまう。

 かつて、前回も見たにもかかわらず、その瞳から来る怖気は強烈だった。


「――鎧は別だ」


 それだけ言うと、枢機卿長はまた布を戻して自分の目を隠した。


「……鎧?」

「そ。君も分かってるんでしょ? 聖剣なんて、単なる前座でしかない。

 聖剣の本当の力は、鎧――『白き鎧』の方さ」


 それは、レッドも無論理解していた。


 あの白く、光り輝く鎧の騎士。

 聖剣とは比べ物にならない――レッドが絶対に出せなかった、圧倒的な力。

 あれこそが聖剣の、選ばれし勇者の力だと、確信して言える。


「あの白き鎧はね、聖剣と違って誰でも呼べる、誰でも扱えるって代物じゃない。普通の人間には纏う事、鎧着だって無理だ。

 資格――いや、条件ってものが必要なのさ」

「条件――? なんだよ、条件って」

「簡単だよ、正義の心さ」


 思わず「は?」と言ってしまった。呆気に取られる。

 そんな彼がやたら面白いらしく、枢機卿長はクスクス笑いながら続ける。


「正義の心。悪を許さず不正を許さず腐敗を許さず、他者を苦しめ傷つける者を一切許さず、我が身を省みずに倒そうとする心。

 人々を愛し、弱い者や困っている者を救おうとする慈愛と慈悲の心。

 私欲は一切なく――そうだな、いわゆる七つの大罪と呼ばれる傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、怠惰、暴食を決して抱かない澄み切った青空のような広い心。

 そんな、悪意のない純白な心の持ち主こそが、白き鎧の使い手にふさわしい」

「……何言ってんだ、そんな聖人みたいな奴居るかよ」


 レッドは呆れてしまう。

 馬鹿馬鹿しくて仕方なかった。そんな自己犠牲心と友愛精神に溢れた輩など、それこそ御伽噺の王子様辺りだろう。


 しかし、そんなレッドに対し、枢機卿長は恐ろしい事を告げる。


「居ないだろうね。だったら――作れはいいだけさ」

「はぁ? 作るって、どうやって……」


 そこで、息を呑んだ。

 レッドは、まるで極寒の海に放り込まれたような冷たさを感じてしまう。

 理由は、頭にあるものがよぎったからだった。


 よぎったのは、一人の男の顔。

 悪を憎み、どんな強き者や偉き者でも腐敗や悪事を決して見逃さない心。

 優しく、慈愛に溢れ、どんな人物でも助け救おうと思える心。

 己の身を危険にさらそうとも、絶対に挫けず他者の為に戦える心。


 そんな、御伽噺の王子――いや、伝説の勇者のような純白な心を持った少年の顔が、レッドの脳裏によぎったからだ。


「――気付いたね? その通りだよ」


 こちらの目を見張った姿から、誰を思い浮かべたか把握したのだろう。

 枢機卿長は口元を歪めつつ、一言こう言い切った。




「アレン・ヴァルドは、聖剣の勇者にするために僕らが作った人間だよ」


はい、というわけで衝撃の事実が次々と上がってきます。

ダークファンタジーの本領発揮です。いやダークファンタジーてこういうのじゃない気もするけど。

次回も驚きの事実が山ほど明らかになる予定です。説明ばっかだけど許してorz

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