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第五十四話 ベヒモス討伐作戦(3)

 レッドがその異様に言葉を失っていたその時、闇夜に次々と光が走った。


 それと共に、ベヒモスの巨体に激しい爆発や閃光が同時に巻き起こる。レッドの目が確かなら、見えない刃のようなものでベヒモスの皮膚が切られた気がした。


「なんだ……?」


 そうレッドが動揺していると、突如後ろから首根っこを掴まれてしまう。


「ぐえっ!?」


 物凄い力で引きずられ、あっという間にベヒモスからの距離を離される。


 何事かと思えば、ロイのその巨腕にむんずと掴まれて運ばれていた。


「な、何すんだロイ!」

「何すんだじゃねえ馬鹿! あのままだと攻撃に巻き込まれるぞ!」


 馬鹿に馬鹿と言われた。軽くショックを受けるレッドだったが、確かにその通りである。


 さっきの、というか今もなお行われている爆発の閃光は、魔術師による攻撃魔術だろう。恐らくは炎系魔術、雷系魔術、あと風系魔術ぐらいか。他にもいくつもの攻撃が加えられているはずだ。

 魔術攻撃の担当は、教団直属のエリート魔術師たちの集まりでもある浄化部隊、そして近衛騎士団の魔術師たちのはずだ。近衛騎士団と言っても魔術師を相手取る場合も多いため、魔術師も多く在籍している。


 さらに、攻撃するのは魔術師だけではない。


「放てぇっ!!」


 誰かの号令と共に、弓兵たちが一斉に炎の弓を放つ。その全てがベヒモスへ向けて撃ち込まれた。


 大水に流された近衛騎士団たちも、ようやく戻って来れたらしい。流石にあの巨大な魔物に剣や槍で戦うのは難しいので、弓兵や対魔物用の大型兵器などが主体となる。先ほど倒された投石器やバリスタもなんとか使えそうなので、順次放たれていった。


 あの巨体が、攻撃が外れるなんてあり得ない。全ての攻撃は吸い込まれるように命中し、ベヒモスにダメージを与えている、と思う。


「すげえ……」


 思わずそう呟いてしまう。


 レッドは、こうした軍隊の戦闘は初めて見る。前回も今回も、演習などは親に連れられて見に行った経験はあるが、大して興味もなく真面目に見なかった。当然、軍に入り実戦を見たことも無い。


 こんな組織だった戦闘は初めてだった。流れるようにそれぞれが連携し淀みなく動くことで、敵に対し攻撃している。思わず感嘆の声を漏らしてしまった。


 だが、感激しているわけにもいかなかった。

 攻撃が行われているからと言って、それが良い事とは限らないからだ。


「……効いてるか、あれ?」

「……多分、効いてない」


 レッドの疑問にラヴォワがバッサリ言い切った。


 実際、攻撃は絶え間なく繰り出されているが、どうにも効いている様子が無い。先ほどの咆哮以降、ベヒモスは何もせずただ突っ立っているだけで反撃どころか身じろぎ一つしない。苦悶の叫びもしないことから、さほどダメージを喰らっていない可能性が高い。


 これじゃダメだろう。そう判断し、レッドは聖剣を抜いて自らも向かうことにした。


「――アレン、支援魔術をかけてくれ。俺も行く」

「え、レッド様でも……」

「このままじゃ勝てそうにない。俺の聖剣の力でもどうなるか分からんが、無いよりマシだろ。あの巨体じゃロイとマータは不利だ、後方へ待機してくれ。ラヴォワも遠距離から攻撃魔術を頼む」

「お、おう……」

「はーい」


 ロイとマータの返事が聞こえた。ラヴォワも返事はしなかったが、首をこくんと頷いてくれる。


「……?」


 レッドはまたしても違和感を覚えた。

 

 ロイが、素直過ぎる。

 普通この男だったら、自分が戦えないことに憤慨するか「俺も行くぞー!」とか無謀に突撃しそうなのに、こんなにあっさり従うとは予想外だった。


 それにマータも、緊張感が無さ過ぎる。この戦況、いくら相手が動かずにいるとはいえ、油断していい場面ではない。敵もブルードラゴンを圧倒的に上回る巨体。そして未知の能力を秘めている可能性が高い。気を抜いて良い相手では決して無いはず。

 普段は飄々としているが、一流の冒険者として仕事の際はキッチリやる女だとこの半年で思っていたのに、様子がおかしかった。最近感じていた奇妙な意識が、また一つ強くなる。


 などと混乱していたら、ラヴォワに肩を叩かれる。


「……先行して。真っすぐ進んで、何かあったら私が対処するから」

「あ、ああ、分かった」


 そう促され、ラヴォワに言われるまま進むことにした。こちらも普段こんな積極的でないから変と言えば変だが、気にしている余裕はない。


 今は、ベヒモスを討伐することを優先しよう、そう決めた。

 聖剣を構えると、力を込める。


「――行くぞ」


 そして走り出すと、聖剣から光が溢れ出した。いつもの状態だ。


 全力疾走でベヒモスとの距離を詰めるレッドの後ろから、ラヴォワの詠唱が聞こえてくる。


「――獄炎の炎よ、我が敵を焼き尽くす槍と成れ……!」


 かつてブルードラゴンの時のように、ラヴォワが詠唱するのは、よほどの上級魔術のみである。

 つまり、今放とうとしている魔術は、相当高難度の魔術に違いなかった。レッドもそう悟れた。

 何故なら、こうしてどんどんラヴォワから距離を取っているにもかかわらず、後方からの炎の熱さが感じ取れるのだから。


「今ここに炎獄を作らん――ボルケイノ・ランスっ!!」


 その一瞬、放たれた二つの炎の槍は、


 レッドを一瞬で追い抜き、ベヒモスへ真っすぐ突っ込んだ。


「うわっ!!」


 強烈な勢いに思わず立ち止まってしまう。それほど脇を抜けていった衝撃は強かった。

 その威力のまま、炎の槍はベヒモスの身を穿った。


「んな……っ」


 深々と突き刺さった槍は、一瞬でベヒモス全体を包む炎へと様変わりし、その巨体を焼いていった。

 まるで天を貫かんばかりの、火柱が高く上がる。


「おいおいおい……」


 思わず走るのも忘れ、呆然とその光景を拝むしか出来なかった。


「これ、俺いらないんじゃないのか……?」


 などと言いたくなるのも無理はない。実際、目の前の怪物は火だるまになっているのだから。


 ところがその時、突然レッドの頭の中から声がした。かつて使った念話である。


(……ダメ)

「ら、ラヴォワ? ダメってどういうことだ?」

(……あいつ、健在)

「なに!?」


 驚いたレッドがベヒモスを見直すと、なんとあの大きな火柱がもう消えつつあった。


 そうして完全に燃え尽きた火柱の後に残ったのは、特に何の変化もないベヒモスの巨体。

 焼け焦げすら特別確認できない、その異様さが変わらず残っていた。


「嘘だろ……」


 目を疑ったのは、何もレッドだけではなかった。

 淀みなく流れるように連携していた各部隊が、凍りついたかのように動かなくなってしまった。


 誰もが我を失っていた時、一番先に動いたのは、他ならぬベヒモスだった。


 炎が消えた後、少しボケっとしていた魔物は、その大きな大きな瞳をこちらに向けた。

 まるで、今しがた自分を焼き払おうとした不届き者に、敵意を定めたように。


「ひっ……!」


 ラヴォワが息を呑む声がした。己に向けられた殺意に竦んだのだろう。


 ゾッとした寒気を感じたレッドは、咄嗟にラヴォワの壁になるような場所に立つ。


 その瞬間、ベヒモスの顔がこちらへ向けられる。

 そして、ゆっくりと巨大な口を開くと、


「……!?」


 ガバッと開いた口から、膨大な緑色の霧が噴き出した。


「……やばっ!」


 何か分からないが、とにかくまずいと思い、聖剣を地面に突き刺し盾代わりにする。

 それと同時に、緑色の霧がレッドを含めたその場に居た者たちを襲い掛かる。


「ぐっ……!」


 聖剣を盾にしたレッドは、その加護の力とアレンの結界魔術の力が働いたのか、なんとか無事であった。

 しかし、それ以外の者には地獄が待っていた。


「これは……!」


 結界魔術の壁の外を見たレッドは、信じ難い光景を目にする。


 緑色の霧が触れたものが、どんどん溶けていく。

 残された木々、投石器など対魔物用兵器の類。そして勿論、逃げ遅れた人々も。

 ありとありゆるものを滅ぼす霧が、目に映る全てを溶かしていった。


「なんだ、これ……!?」


 自分の目が信じられないレッドだったが、その時またラヴォワの念話が響いた。


(アシッドブレス……! 伝承通り、ベヒモスは全てを溶かす毒の霧を吐き出す……!)

「っ! ラヴォワ、そっち無事か!?」

(こっちは全員無事……! レッドは!?)

「ああ平気だっ! ラヴォワ、この毒霧どうする!?」

(任せて……!)


 すると、毒霧に満たされたその場に、一陣の旋風が走った。

 旋風はやがて強い竜巻と化して、すぐさまとんでもない威力となる。


(天へ昇れ、我が身を蝕む牙よ……スカイ・フォール!!)


 竜巻は強烈な勢いで毒霧を空高く吹き飛ばし、そして散り散りにしてしまった。


(これで大丈夫……毒霧は一度撃てば十分は使えないはず!)

「よし、じゃあ今がチャンスか!」


 そう思い、聖剣の輝きを強くさせると、レッドはそのまま駆け出そうとした。

 しかし、その彼に、突然巨大な何かが突っ込んできた。


「っ!?」


 危うくぶつかりそうになったが、聖剣でなんとかはたき落とした。

 その物体はビジャッという音を出して弾け、地面に落とされる。


「これは……!?」


 飛んできたのは、泥のような粘性を持った、緑色の水のようだった。

 ただし、その水が落ちた地面をドロドロに溶かし、酷い悪臭で壊していった。

 聖剣の加護で守られたレッドも、当たれば一溜まりもなかったろう。


(それはアシッドボール……ベヒモスが放つ毒の球!)

「ええい、意外と多才だな伝説の魔物!」


 などとヤケクソ気味に褒めたところで、状況は変わらない。ベヒモスはレッドだけでなく、周囲に次々と毒の球を放っていき、各所から悲鳴が上がる。


「っ! ラヴォワ、周囲の奴らに下がるよう伝えろ! 俺が囮になる!」

(えっ……!? でもっ!)

「いいから、さっさとしろ!」


 ラヴォワの返事も聞かず、レッドは聖剣に力を込め光を増すと、その刃を大きく振り上げた。


「おらぁ!」


 振り上げられた刃の軌跡は、そのまま光の刃となってベヒモスに向かっていく。


 ベヒモスに光の刃は刺さったが、表面に少し傷をつける程度だった。


「っくそ……効いちゃいない……」


 そう悪態をつくが、目的は果たしたようだった。


 ベヒモスがこちらへ、敵意の目を向けたのだ。


「おうよ、お前の相手はこっちだ!」


 そう叫ぶと、レッドは再び突撃した。


 ベヒモスもレッドに対し、反撃のアシッドボールを次々と穿つ。


「おらぁ! うらぁ!」


 その大量の毒の球を、聖剣で弾き落としながら、走るのを止めない。


 五百年前にあったという、聖剣の勇者と伝説の魔物との戦い。


 今ここに、それが再現されていた。


遅くなって大変申し訳ございません……orz

なんとか書けました。次くらいでベヒモス討伐作戦終わる……といいなあorz

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