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第五十二話 ベヒモス討伐作戦(1)

 ベヒモス討伐作戦は、予定通りに深夜に開始されることとなった。


 参加する者たちはそれぞれ時間をずらし、集合する。全ては王都及び周辺に作戦を露呈させないためだった。


 しかし、いざ始まってみると、とても隠蔽が上手く行くとは思えなかった。


「すげえ……」


 開口一番、レッドが放ったのはそんな台詞だった。


 深夜のヘスペリテ湖に、周囲を取り囲むように集められた近衛騎士団、浄化部隊、そしてレッドたち勇者パーティ。

 その全ての戦力は、一応少数精鋭ということにしてあるが相当な規模になる。

 しかも真夜中なので、灯りとなる松明や魔道具は各所に設置され、爛々と輝いている。

 いくらヘスペリテ湖の周囲が接近禁止とはいえ、これほど大規模に活動していればバレないのは不可能だろう。王都の方でも、少し高いところから見れば光が見えるに違いない。


 こんなもので情報統制できるとは、到底思えない。

 静かな水面を晒す湖が、酷くやかましくなってしまった。


「ま、やらないよりはマシってところなんだろうけど……」


 そう納得させるしかない。むしろ、少なすぎるくらいなのだ。

 伝説の魔物、世界を滅ぼす『沼地の魔物』ベヒモスを討伐する戦力としては。


「何独り言呟いてるのよ、気持ち悪いったらありゃしない」

「――随分辛辣だな、マータ」


 なんてぶつくさ言っていたら、マータに突っ込まれた。言う通り過ぎて否定する気にもならない。


「そうなこと言うがな、緊張の一つ二つして当然だろ。何しろ勇者パーティ結成してから、これほどの魔物と戦うなんて初めてだからな。マータの冒険者時代は知らんが……」

「あっはっは。流石に伝説に出るような魔物とは戦ってないって」

「そうか。ま、そうだよな」


 なんて二人で笑い合う。いつものような雑談、いつものような会話だった。


 だからこそ、違和感が強い。


 ――こいつ、俺相手にここまで笑ったっけ……?


 マータは、平素と変わった様子が無い。

 むしろ、変わりなさ過ぎるくらいだ。

 大事な決戦の直前だというのに、少しも緊張やら不安など感じさせない。そういう風に装っているとも少し違う。普通過ぎて逆に気味が悪かった。


 そして、逆に様子が変過ぎるのが、アレンとロイだった。


「――おい」

「は、はいなんでしょうレッド様!」

「いや、別に呼んだだけだけど……」


 アレンはいかにも怪しいといった感じ。どうにも落ち着きがなく、こちらと目が合うとパニクってしまう。あからさま過ぎて逆に問うのが躊躇われてしまった。


「しっかりしろよ。なあ、ロイ」

「…………」

「ロイ……ロイっ!」

「……ん? どうした?」


 何か上の空だったらしい。随分こちらに気付くのに遅れた。


「どうしたじゃない、ボケっとしてどうしたんだ? こんな大事な時に」

「ああ、いや別に……」


 それだけ言うと話を終わらせてしまった。


 ロイの場合、様子が変と言うのあるが、どうも酷く不機嫌な感じがある。それも、レッド本人に対しての反応が冷たいのだ。レッドはますます混乱してしまう。


 唯一特に変わらないのはラヴォワだが、こちらも何故か突然渡されたペンダントのこともあるし、様子が変だと言えば変である。


 けれども、仮に変なのが彼らだけならば、レッドもここまで気にしなかったかもしれない。


 しかし、様子がおかしいのは、アレンたちだけではなかったのだ。


「…………」


 今まさに、戦闘が始まらんとして、湖を囲って状態で、皆が合図を待って待機している。


 その緊迫した空気、ではあるが、レッドはそれだけではない気配を感じていた。


 ――見られてる。絶対に……


 そう、様子がおかしいのは、この場にいる者たち全員なのだ。


 ここに来た時から、いやそれ以前からかも知れないが、どうにもこちらに対する態度が変なのだ。やたら避けられているというか、挨拶一つしてもいやに反応がおかしい。恐れられている、あるいは警戒されているという雰囲気が漂っていた。


 レッドは大貴族の息子であるが故、下手に関わっていたり気を悪くすると危険だということで距離を置かれるのは、別に珍しくも何ともない。それなら特に気にするようなことではなかった。


 しかし――今回は、それとはまた別に感じたのだ。まるで、ベヒモス討伐作戦だというのに、全ての注目がレッド自身に注がれているような……


 ――ダメだ、こんな時に。


 頭を振って考えを切り替える。決戦の直前ということで、ナーバスになっているのかもしれない。そんなおかしなことがある筈ないと、不自然さから目を逸らすことにした。


 いずれにしろ、今は目の前の敵に傾注すべきと判断した。そんな気が散った状態で勝てるような相手では無いのだから。


「……ん?」


 などと考えていたところ、レッドの前を一つの荷車が通っていった。


 布に覆われているものの、少し剥き出しになった白い部分と、三メートル近くある大きさから何かは容易に分かる。今回の作戦の要、『アトラスの杭』だった。

 そして、その荷車を先頭で運んでいたのは、近衛騎士団副団長であるスケイプ・G・クリティアスだった。


「――アトラスの杭を突き刺す作業、スケイプたちが行うのか……」


 実際、近衛騎士団が担当する役割となっていたし、不自然でも何でもない。


 だが、彼は王族の直系、第四王子である。しかも副団長という立場だった。今回の作戦でもっとも危険な役割に抜擢するには、ふさわしいと言い難いのではないか。

 それにスケイプは、騎士団の義務を果たさず放蕩三昧しているという評判の良くない男。とてもこんな大役を引き受けられる器とは思えない。少なくとも、騎士団以下他の者たちでもそう判断するだろう。


 また強引に役目を奪い取ったのか、としか考えられなかったが、どうにもそれだけとは思えない。


「…………」


 通り過ぎる一瞬見た、スケイプの顔。

 どこか張り詰めたというか、思い詰めたというか、そんな異常な気配を醸し出していた。


 やっぱり、あいつおかしい、とレッドは改めて思う。

 どこか様子が変な者たちばかりのこの地で、一番変なのはスケイプだった。


 作戦前にしたあの話。どういう意味があるのか、何を言いたくてわざわざこちらに来たのか、レッドには皆目わからなかった。


 まるで――スケイプ自身が、自分を怪しめ、警戒しろと言っているような態度。


 何故そんなことにしなければいけないのか、レッドには到底理解できなかった。


 ――ダメだ、やっぱり分からん。


 もう何を考えてさっぱり答えが出ず、頭が痛くなってきたところ、突如空に光が昇った。


「あ……!」


 今での悩みを一旦脇に置いて、レッドも身構える。

 先ほど上空に昇った光は、作戦開始の合図となる花火だった。


 その花火と同時に、ただ天空の月や星を写すだけで静かな水面を晒すだけだった湖が、その全体を少しずつ赤色に輝かせていった。


 作説明であった、超大規模結界魔術を解除し、ベヒモスの魔力を体外へ放出させる魔術を展開する作戦の第一工程。


 ベヒモス討伐作戦が、始まったのだ。


というわけでベヒモス戦始まりです。いや始まって無いけどorz

戦闘を次に回したので今回短めです。ごめんなさい。

明日はきっと長く……なるといいなあ(ぇ

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