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第四十三話 綻び(1)

 ミノタウロス討伐及びアトラスの杭回収任務は、予定通り二日後に行われた。

 予定通り、アレンを呼び戻し、勇者パーティは充分に準備と静養を行い出発した。

 移動は予定通り、最寄りの停泊地までワイバーンで向かい、後は鉱山まで山道を歩くというコースになっていた。

 そうして今は山道を歩いていた。現在のところトラブルやアクシデントは一切なく、予定通りに運んでいた。


 そう、全てが予定通りに滞りなく進んでいた。

 たった一つを除いてだが。


「――ちょっと、レッド」

「――何だよ」


 行進中、マータに小声で話しかけられたレッドは、内容が想像ついて嫌になりながらも、同じく小声で応じた。


「なんであいつら付いて来てるのよ。聞いてないんだけどあたし」

「……奇遇だな、俺もだ」


 チラと後ろの方を見やる。

 そこには、勇者パーティの他に五人ほど、鎧姿の男たちがいた。


 全員がロイと同じ――そう、近衛騎士団の鎧を着ていた。

 そして、その一番前に陣取っているのは、スケイプ・G・クリティアス。


 そう。今回のミノタウロス討伐任務には、何故か彼ら近衛騎士団が同行していた。


「――だいぶ無理言って、同行を許可させたらしい。俺だって出発の朝聞かされた時は仰天したよ。近衛騎士団の団長も悪いけど頼むって言ってたけどさ」


 さあ出発だとワイバーンの停泊地に向かった、レッドたちの前にスケイプたちがいた時は、開いた口が塞がらなかったものだ。同行させろなんて言った時は耳を疑った。同じくこちらを待っていた団長であるガーズから、事情を耳打ちされて仕方なく了承したのだった。


「んなこと言っても、あんな奴ら連れてきたら迷惑よ。入り口のところで待機してもらったら?」

「――それであいつらが納得するとは思えないけどね」


 マータの懸念も充分理解できる。

 ただでさえ上級の魔物相手。しかも場所は鉱山という狭く閉じられた穴の中。

 そんな奴相手に、そんな逃げ場も無く身動きが取り辛い場所で、連携どころか実力も分からない奴らと一緒に戦うなど無謀どころか愚行だった。足を引っ張るだけでなく、最悪無駄な横槍のせいでパーティを全滅させかけない。そんな懸念もあった。


 レッドとしても無論送り返したかったものの、彼らを戒める立場である団長自身から頼まれれば断りようが無かった。


「――ま、今回は回収任務もあるし、荷物持ちとして使えばいいんじゃないの? 団長さんもそう言ってたよ」

「そりゃ、そうだけどね……」


 マータもそう答えた。


 そう、今回も任務は単なる魔物討伐ではなく、魔道具アトラスの杭の回収も含まれていた。

 このアトラスの杭は三メートル以上ある高さだけでなく、かなり重たい代物だそうで、一人や二人で運べるレベルではないという。

 ラヴォワの魔術で浮かせるかアイテムボックスに入れるかというアイディアも考えられたが、ラヴォワ曰くアトラスの杭のように魔力を阻害させる効果を持つ魔道具は、魔術が効きづらかったりアイテムボックスに入らないことがあるという。

 どうしたものかと頭を悩ませていたところ、来たのがアレンとその取り巻き――ではなく、近衛騎士団の方々だった。


「しょうがないから、戦闘では邪魔にならない――いや、なるべく安全な場所にかくまう形で下がらせるようにしよう。出張ってきたら……ロイに押さえつけてもらうか」


 結局、そんな結論しか出せなかった。机上の空論と分かっていたものの、追い出せない以上そうするしかない。


「あーやだやだ。ったく、迷惑なお坊ちゃんよねえ。近衛騎士団なんか入ってダラダラして、あげく目立ちたいからってこんなとこまで押し入ってきて。遊びたいなら場所選んで欲しいわ」

「……そうだな」


 マータの愚痴に、レッドは一瞬癇に障る物があったが、口出しせずそのままにしていた。


 ――昔はあんな奴じゃなかったんだけどな。


 プライドが高く身分差別が激しい部分はあったが、周囲を見返してやりたいという気持ちで剣に励んでいたのは本物だった。

 しかし、そんな彼の希望も夢も、そしてプライドもレッドが無残にも砕いてしまった。


 では、今の彼に残されている物はなんなのだろう?


 ――どうして、近衛騎士団なんか入ったんだ――?


 そう考える事も増えてきていた。


 あの一件から騎士の夢も剣も捨てるというのなら、理解できる。剣の腕なんか上がっても意味が無いと悟ってしまうのは当然と思う。


 だが彼は、コネを使い強引に近衛騎士団に入ってしまった。

 遊び惚けているという話だから、本気で騎士として戦ったり国を守るだの民を守るだの考えてはおるまい。

 では、どうして近衛騎士団に入団する必要があったのか?


 そしてもう一つ。スケイプはどうして魔物使い(ビーストテイマー)の資格など取得したのか。

 テイマーとはなろうとしてなれるものではない。生まれ持った才能が必要になる。

 しかし逆に、才能があれば簡単になれるわけでもない。きちんとした教育と訓練を経て、ようやくなれるものなのだ。


 レッドと交流があった頃は、そんなテイマーの資格の勉強などしている様子は無かった。あの一件の後から勉強したのだとすれば、わずか数か月で取得したことになる。相当な苦労と努力があったはずだ。


 ひたむきに剣の道を歩んできた男だ、目的の為にあらゆる努力を惜しまない心はあるだろう。

 だがどうして、それで目指すのがテイマーだったのか? そこが一切不明だった。


 実はテイマーは、世間一般では大した資格ではないと言われている。

 一番の理由は、そもそも才能でなれるなれないが決まるため絶対数が少なすぎるせいだが、他にも使役(テイム)出来る魔物には制限がある、というのも大きい。


 テイマーといっても、あらゆる魔物を自在に使役できるわけではない。所詮魔力で操っているだけに過ぎないので、その魔力で縛れる以上の魔物には全く効かないのだ。そしてその操れる魔物の限度にも、個人差がある。低級のスライム程度しか使役できないテイマーなど珍しくも何ともない。これも使えないと言われる一因だ。


 中級のグリフォンを使役出来るのだから、そんな無能ではないのだろうが、かと言って自慢するようなものかと言われればノーだ。テイマーが一度に使役可能な魔物の量も限度がある。流石に何十匹も扱えはしないだろうから、戦闘で役に立つとは思い難い。


 自分を冷遇する世間の奴らを見返すのが目的のはずのスケイプが、そんな大して使えもしないテイマーなどという資格を手にしたのか? 皆目見当がつかなかった。


「――ま、これ以上考えても仕方ないか……」

「おや、こんな時に悩み事とはずいぶん余裕ですな勇者様は」


 頭をポリポリ掻いていたら、不意にからかわれた。後ろを見ると、やはり相手はスケイプだった。


「……いえいえ、別に悩み事など無いですよ」


 こんがらがっていた頭が、今度はふつふつと沸きあがってきた。こっちはテメエの事で悩んでいるのに、なんでその当人にからかわれなきゃいかんと言いたくなった。


「ほう、悩み事が無い? これは驚いた。勇者様の非常に気楽なようで」

「……だから、別に勇者様でなくて構わないと言っているでしょう第四王子様」

「ああ、そうでしたね。ではレッド様とでもしましょうか」


 こちらとしては争っても仕方ないため早々と話を切りたいのに、向こうはまだ嘲笑の手を止めようとしない。自分の何が気に入らないかは知らないが、自分が何が気に入らないかはレッドにも分かった。その不遜な態度である。


 行進の歩みを止め、本格的にケンカしようとスケイプに向き直る。


「それと、気楽ではないですねえ。世界中あちらこちらと回されて大変ですよ。どこの軍隊の方も苦労してますから助っ人に散々呼び出されまして……ああ、そんなお忙しい軍隊で、日がな遊び惚けている方もいるそうで。羨ましい限りですな」

「なんだと……!」


 案の定怒り出した。プライドが高過ぎるのは分かるが、挑発に乗りやすいのはお前の馬鹿さの証だと言ってやりたかった。


「貴様、どの口で言っているんだ!」

「口の位置ぐらい見りゃわかるだろ、頭どころか目も悪いのかテメエは!」


 とうとう怒りが頂点に達した二人は掴み合いになる。スケイプは取り巻きの近衛騎士団が、レッドはアレンが止めようとする。ちなみに他の勇者パーティたちはくだらないと思ったか我関せずを貫いている。


「止めてくださいって、落ち着いてレッド様――!」

「止めるなアレン、こいつは一発殴らないと終わるような奴じゃ……」

「待ってくださいっ!!」


 抱きついていたアレンが一際大きな声を張り上げる。その叫びに、レッドもスケイプもビクッと固まった。


「――アレン?」


 抱きついたままのアレンは、こちらを向いていなかった。

 全身の毛を逆立て、先ほどまで進んでいた方角を見ている。つまり、目的地の鉱山がある方角だ。


「アレン、どうした?」


 明らかに様子がおかしいアレンに聞いてみると、アレンは振り返らずにそのまま「……レッド様」と言ってきた。


「向こうから……血の匂いがします」

「っ!?」


 皆が息を呑む。レッドたちには血の匂いなど全然感じないが、アレンは犬族特有の鼻で嗅ぎ取ったのだろう。

 レッドが「ラヴォワ!」と指示を出すと、彼女は言われるまま索敵魔術を展開した。


 彼女の周辺を覆うように青白い魔力の輝きが生まれ、それが輪になって周囲へ広がった。光の輪が皆の体をすり抜け、一瞬でいずこかへ消えてしまう。


 消えてすぐ、ラヴォワの驚愕に目を見開いた。


「そんな……今まで何も感じなかったのに……」

「ラヴォワ、何処だ!?」


 そう聞くと、ラヴォワは一つの方角へ指を伸ばした。

 間違いなく、鉱山のある方だった。


「馬鹿な……あそこは今近衛騎士団で固めているんだぞ!?」


 スケイプの言う通りだった。今鉱山は閉鎖されているが、ミノタウロスが出現した時などに備えて監視役の兵及び結界魔術を使える魔術師を配備していたはずだった。もしものことがあれば連絡が来る手筈となっている。

 それが何の連絡もなく襲われているなどあり得ないことだった。


「おい、とにかく行くぞ!」


 レッドに急かされ、全員が走って鉱山へ急行した。


更新だいぶ遅れてごめんなさい……orz

今日は本気で更新無理かと思った。才能ここで枯渇したかなと思ったくらい。

明日更新は難しいかなあ。ま、出来る限り頑張るつもりですが

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