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第二十八話 王都ティマイオ(3)

 スケイプ・G・クリティアス。


 彼に見つかったレッドたちは、彼が率いる近衛騎士団に兵に連れられてスラムを抜け、王城へと向かっていた。


 大通りからは離れているが、なにせ近衛騎士団を連れての行進だ。道沿いに住む王都の民が何事かとジロジロ見てくる。とにかく、目立ち過ぎだった。先ほどより一層フードを被り、五人は気付かれないよう必死になる。


 ――いや、六人か。


 レッドはチラリと後ろを見やる。

 アレンが肩を支える形で、一人の少女と寄り添って歩いていた。フードを被ったその顔は、きっと真っ青だろう。先ほども怯えきっていて、歯をカチカチ鳴らしていた程だったのだ。


「……ちょっと、レッド」


 そんな中、マータがコッソリとこちらに耳打ちしてきた。


「あの子、ホントに王族なの? そりゃ金髪碧眼だけどさ」

「――ああ、間違いないよ。第三王女様だ。この前の式典の時はいなかったがな」


 マータが知らないのも無理はない。なにしろアトール王国第三王女ベル・クリティアスは、ほとんど社交界にも儀礼の場にも登場しない『幻の姫君』などと称される少女なのだ。


 歳自体はアレンと変わりないだろう。透けるように白い肌に細く折れてしまいそうな華奢な体。社交界などに出ればまさに美しいビスクドールのようだと絶賛される可憐な容姿をしているのだが、何故か公的な場にほとんど顔を出さない。レッド自身、随分昔のパーティで顔を見た程度だ。


 彼女がどうして王城からほとんど姿を現さないのか。

 貴族たちは例えば病弱だとか病で顔が人に見せられぬ物になったとか、あるいは実はすでに死んでいてたまに出るのは影武者だとか噂を流しているが、どれも根拠のない妄想から越えるものではなく、事実は一切合切不明だった。


 まあ、この様子だと、顔が見るも無残に変わってしまったというのはデタラメらしいけど、などとマータに説明していると、マータは次の疑問をぶつけてきた。


「ふうん、幻の姫君ねえ。なるほど、そっちは分かったわ。じゃあ、あっちの方はどう説明するのよ?」

「……そっちはマジで知らん」


 なんて、指差された方を見てもそう答えるしかなかった。


 指先にいたのは、この近衛騎士団を率いているらしいスケイプ・G・クリティアス。アトール王国の第四王子である。それ自体はマータも知っていた。

 が、マータが聞きたいことはそんなことではなかった。


「知らんってどういうことよ? あいつ、あんたに敵愾心剝き出しじゃない。なんか恨まれるようなことでもしたんじゃないの?」


 そう指摘されても仕方ないレベルで、スケイプは殺気に満ち溢れていた。こちらに先行して背を向けているはずなのに、強烈なまでに怒りが伝わってくる。しかも、その対象は間違いなくレッドだ。


「……身に覚えが無いと言えば、嘘になるけどね」

「なんだ、やっぱりなんかしたんじゃないの。今のうちに謝っときなさいよ」

「いや、あそこまで恨まれる事じゃないはずなんだが……それに、下手に謝ったら逆に気悪くするよ。そういう奴だ」

「? あんたら、どういう関係?」

「……学友」


 としか答えようが無かった。マータはまだ納得していない様子だが、その点は間違いなく事実なのでどうしようもない。


 実際、スケイプ王子とは王都のプラトーネ王立学園に通っていたころの同学年生に過ぎない。一応は。


 あの頃の学園で、スケイプ王子を知らない人間などいなかった。

 王族の象徴の金髪碧眼というだけでも目立つのに、さらにあのイケメン具合。学園での成績も常にトップで、しかも剣の腕も抜群であり、将来は騎士として国を守ると常日頃から語っていた。まさに絵物語に出てくる『王子様』のような存在として、取り巻きやら狙いを定めた女子が常に周囲にいたくらいである。


 対して当時のレッドは、例の悪夢から来る不眠症対策として毎日の如く剣を習うか勉強か、学園という事で女を抱くのは控えていたが、まあたまには迫られて一晩共にしたくらいはあった。しかし疲れるための作業に明け暮れていたこともあり、基本的には一人だった。


 そんな二人が、いくら同じ学園の生徒とはいえ、交わるということは無かったはずだ。事実酒と遊びに狂っていた前回の自分は、スケイプ王子と交流を持つことは最後まで無かった。今回もそうなるはずだったろう。


 あの武術大会の一件さえ無ければ。


 ――まだ根に持ってるのかよ。こいつ……


 そんな風に愚痴を吐きたくなった。レッドとしてはもはや過去だが、この第三王子は未だに許せないらしい。正直弱ってしまった。


 そんなことを考えていたら、ポセイ城に辿り着いていた。勇者になる以前から大貴族であったレッドは、いつもなら正門から堂々と通れるはずだが、今回は裏手の方から入城させられた。


 先頭が殺気を放ち、緊迫した趣の中、皆が城へコッソリ入る。城内をしばし歩いていたが、やがて大広間に出たところでスケイプが振り返った。てっきりレッドの方に怒鳴り散らすかと思っていたが、相手は妹のベルだった。


「ベル、何度言わせる気だ。あんな場所に行くなといくら言ったと思う。城を抜け出して近衛騎士団まで呼ぶ大騒ぎを起こしおって。どれだけの者に迷惑をかけたつもりだ?」

「ご、ごめんなさいお兄様。でも私は……」


 兄の威圧に怯えつつも、何とか自分の意思を述べようとするベルだが、スケイプの方は聞く耳を持っておらず容赦なく撥ねつける。


「私は? 何をするつもりだったんだ? また例のボランティアとやらか? 下らん。あんな貧民街の連中になど施しを与えて何とする。流れ者や罪人や亜人、この王都の汚濁と呼ぶべき奴らなど、勝手に死ぬに任せていれば良いのだ」

「そんな……彼らだって人間よお兄様! 亜人の人たちだって……!」

「あんな者たちを人扱いなどするな! 亜人などケダモノに過ぎん、生かすも殺すも我々高貴な生まれの者が決めて何が悪い!」


 スケイプが放ったあまりにあまりの一言に、「な……っ!」と流石のアレンも癇に障ったらしく思わず詰め寄ろうとするが、レッドがそれを手で制する。


「あのー……お話のところ申し訳ないんですが」


 そう口を挟んだら、思い切り睨みつけられた。話遮られただけではない敵意が注がれるが、レッドは気にもせず続ける。


「そちらの事情がイマイチ理解できないので、非常に悪いとは思いますが、ご説明して頂けると有り難いのですが……」

「何だ貴様ら、まだいたのか。国王様のところに連れてこいとの命だったので連れてきたが、ここまで来たなら子供でも迷わんだろ。勝手に行け」


 ピキ、と青筋が立ったのを自分でも感じた。あまりの言い様にカチンと来てしまう。


 本当に相変わらずだ、とレッドは呆れる。


 思えば学園時代からこんな奴だった。今回は勿論、前回の自分ともまるで違うタイプの人間だが、あちらも悪い意味で貴族らしいところがあった。


 とにかく身分差別が酷いのだ。自分より下の階級の人間を下に見て無下に扱うことに何の疑問を抱いていない。王族の生まれだから、自分より下の人間とは、国王か王位継承権が上の王族以外の全ての人間ということだ。一応学園時代は教師に敬意を持って接していたものの、態度を見れば内心は軽んじているのが容易に分かる。


 取り巻きたちも寄ってくる女性も、友人や恋人の類ではなく従者程度の認識。もっとも前回のレッドと違い、とっかえひっかえ女性と遊んでいたなんてことは無いらしいが、それ以前にまともな人間と思っているのか疑わしいくらいだった。


 当然、公爵家とはいえ王族より下の身分であるレッドも、人として考えていない。一応はだが。


「これは失礼いたしました。私としてはお久しぶりに第四王子様のお顔を拝見頂きましたので、ご挨拶も含めてお話でもとも思っておりましたが、ご迷惑であるなら仕方ありませんね。では、失礼させていただきます」

「……なんだと?」


 くるりと振り返って去ろうとしたところ、明らかに一層機嫌悪くした声がしたので、心の中で舌を出しつつ笑ってやった。


 この程度の挑発に引っかかるとは、プライドばかり高いのもそのままだと失笑してしまう。あの一件以来、収まったかと思えば逆に悪化していたようだ。


「貴様、なんだその態度は、私を誰だと……!」

「第四王子様、ですよね? 私は聖剣の勇者になりましたが、スケイプ様は卒業後どうなされたのですか?」

「……なに?」


 また一段と目つきが鋭くなった。この男は、何事でも自分が下になるのが気に入らない。特に肩書きなど出されては、張り合いたくて仕方なくなる。そう思って出してみたが、正解だったらしい。


「――失礼しました。勇者様」


 そう謝罪すると、恭しく礼をする。


 ゆっくりと顔を上げながら、かつての学園主席の第四王子は、新しい肩書きを口にした。


「改めましてご挨拶を。アトール王国近衛騎士団の副団長を勤めさせていただいております、スケイプ・G・クリティアスと申します」


 そう言った彼は、顔だけは爽やかに笑っていた。


おかしいな、こいつこんな悪いキャラにする気なかったんだけど……なんてね。

筆が暴れるのは悪い癖だなあ。ま、いいか。

最近あんまり進んでないけど、次回辺りは展開早くしたいなあ

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