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第十六話 ブルードラゴンという魔物(4)

注意:今回は一部性的な描写があります。

直接描写は控えていますが、あらかじめご注意ください

「ふう……」


 足の下から首元まで、温かさに体が溶けていくような快感に包まれ、レッドは思わず息を漏らした。

 全身の疲れも何もかもが湯の中に流れていく感覚が支配し、裸身を包み込まれる喜びに身を任せたくなる。

 そう、レッドは今風呂に入っているのだ。


「ああ……いい気分だ」


 そうして顔も何度も拭く。聖剣の癒やしの力があるとはいえ、激しい戦いを繰り広げれば肉体にダメージは残る。食事、睡眠、傷の治療、そして入浴は欠かせないのだ。


 と言っても、そんな風呂なんてものが、各国の都市にある公衆浴場でも無い限り当たり前に存在しない。村の風呂を借りたりすることもあったが、旅の道中などは無理に決まっている。

 それでも風呂に入りたい時は、ラヴォワ&アレン特製簡易浴場の出番となる。


「ラヴォワの奴には感謝しないとな……こんなデカくていい風呂即興で作れるんだから。アレンも色々魔術かけてくれるし、こんな効用抜群の風呂貴族ご用達の保養施設でもないよ」


 満天の星の下、レッドはそう感謝の意を述べる。


 この特製露天風呂はまず、適当な場所を選んでラヴォワが土系魔術で地面の一部変形させ、ゆったり入れる湯船に変える。

 さらに水系魔術で水を注ぎ、炎系魔術で水を沸かし丁度いい温度にする。そこからはアレンの出番となる。

 アレンの回復魔術、支援魔術の効果をお湯に与え、入るだけで疲労回復体調改善の効果を与える癒やしの湯とする。さらに彼の持つ薬草などの知識で同様の効果を持つ薬草を入れれば、どんな疲れも傷も治してしまう特製温泉の完成だ。

 これは旅の途中であまりに強い魔物と戦った時や、行軍に疲れ果てて嫌気が差した際などにやる恒例行事であった。ちなみに前回の旅の時はやっていない。そんな疲れるような戦いなど駄々こねて拒絶していたから。


「……ま、こんな時に風呂なんかって言い分も分かるけどね……」


 実はこの特製温泉、今日作れと言ったら四人から反対された。

 というのもたまにやる特製温泉ではあるが、作る機会は魔物討伐した後か安全な場所に行った後と決めていた。理由は勿論、入浴中に魔物に襲われたらたまらないし、急ぎの討伐依頼の場合、風呂なんぞ入ってる余裕が無いからだ。

 ましてや今回のようないつ魔物が襲撃するか、あるいは村人が襲撃するか分からないという場所で作るなど自殺行為である。反対されるのが自然だ。


 しかし、今回はレッドがほぼごり押しの形で製作させた。その理由は簡単である。


「……アレンの奴、ちょっとは気が楽になったかね」


 ふと、湯船に星の光を反射してプカプカ浮かぶ、小さな針のようなものがあった。

 何の気なしにレッドがそれを手で取り上げると、それは銀色に輝く毛だった。


「……あいつ、魔術で奇麗に洗浄するって言ってたのに失敗してやんの」


 そう言って、特製温泉の先客の顔を思い浮かべニヤリと笑う。


 この特製温泉だが、入る順番は決まっている。

 最初にマータ。次がラヴォワで、三番目がロイかレッド。最後がアレンだ。

 これは始めて特製温泉を作った際、マータが筋肉ダルマのロイや亜人のアレンの次など嫌とごねたためだった。ロイはともかく、亜人の次に入ったら毛だらけになるでしょ、という言い分はレッドも理解できなくはなかった。

 ラヴォワは風呂の順番など気にしなかったが、マータが一番ならとついでに二番風呂を担当することとなった。ちなみに当然覗きは厳禁である。


 ところが今回は、レッドが強制的にアレンを一番風呂に入らせた。アレンは当然断ったしマータは散々嫌がったが、勇者パーティのリーダー権限で無理やり入浴させることに。


 そうしてアレンを先に入らせたのは、昼の一件でだいぶ参ってしまったアレンの気を晴らそうと思ったからだ。まあ、アレンは早々に出てしまったが、少しは楽になったようだからこれでいいと思うことにした。


「ふう……俺もそろそろ出るか」


 レッド自身だいぶストレスが解消されたので、そろそろ上がることにした。マータとロイは先に入ったので、残るはラヴォワしかいない。ラヴォワは解析が忙しいということで断ったが、少し休憩して入れと言うべきだろう。


「……変な気分だな」


 自嘲気味に呟いた。気が付けば、パーティの皆の事を考え行動している自分が居る。それが非常に奇妙に感じられた。


 昔の、前回の自分は、勇者でもないし、パーティのリーダーでもなかった。ただ傲慢で尊大で、ひたすら愚かな子供でしかなかった。ただ我が儘放題振る舞うだけで、パーティメンバーのことなど一度とて考えたことなど無い。今にして思えば、アレン追放後のパーティ崩壊も当然、どころか自業自得でしかないと言える。


「……ま、今もいい勇者でもリーダーでも無いけどね。なにしろ……」


 そう独り言を言っていたら、ギイィ……と音がした。ドアが開く音である。


 この特製露天風呂は、外側は土系魔術で造られた壁が一面に張られ、外からは見えなくなっている。しかしそれだと入れないので、いつもは布でも被せた入り口を用意するのだが、今回は壁の一部にそこら辺に転がっていた倒壊した家屋のドアを、一部拝借して使っていた。


 そのドアが開けられたので、相手はロイかアレンだと判断した。この時間に入ってるのがレッドだとは全員に伝え済みだからだ。


「なんだ、忘れものでもしたのか?」


 そう言って振り返った、のだが、


「ええ、あんたと入る機会を作ってなかったって」


 などと言って、タオル一枚だけで裸体を隠したマータが恥ずかしげもなく入ってきた。


「!?!?!?」


 レッドは驚愕して湯船を揺らしてしまう。波が荒れくれ外へ流れる。

 そんなレッドの滑稽な姿にマータはぷっと吹き出すと、レッドの隣に身を沈め風呂に浸かる。タオルも外してしまい、胸の先や股間の翳りまで全て見せつけてしまう。


「なによ、あんた童貞じゃあるまいし。あんたが女散々食ってるて話、知ってるわよ」

「いや、まあそうだが……」


 実際、経験人数なら三桁はゆうに超えている。女の裸など見慣れてると言っていい。

 しかし、あれは不眠症対策という理由で抱いていただけで――ずいぶん失礼な話だが――別に女好きというわけじゃない。快楽は勿論感じていたが。


 第一、記憶を取り戻してから不眠に悩まされることが無くなったため、実は女を一度も抱いたことが無い。各国へ向かった時大きな街に訪れたり、貴族の屋敷に招待されることはあったが、娼館にも行ってないし貴族の娘に誘惑されたのも拒否した。後者は絶対面倒が起こるからでもあるが。


 まあ、前回の自分は不眠症とか無かったが女を食いまくっていたし、言われても仕方ないのは重々承知しているが――とレッドは、なんか理不尽なものを感じていた。


「冒険者ギルドにいた頃から噂は有名だったわよ。カーティス家の三男はとんでもない女好きで屋敷に亜人のメス飼って喰いまくってるだけじゃ飽き足らず、王都でも学園でも女を襲って遊びつくして捨ててるって」

「……おい、流石にそれは身に覚えないぞ」


 理不尽どころじゃなかった。どうも噂に尾ひれが付きまくっていたらしい。

 だいたい貴族なんて口さが無くて退屈しきっており、変な噂や悪い噂を好んでまき散らしたがる。ましてや大貴族の、馬鹿息子の悪口なんていい酒のつまみである。真偽関係なく騒がれれば、市井に知られるのは当然だろう。そういえば叔父に言われたこともあった。


「あら、そうなの? そういえばあたしらに手付けようとしなかったわね」

「まあな。無理やり襲ったりなんかせんよ」


 これは事実である。前回の自分は確かに好みの女を見たら強引に襲い掛かり、家の名と力を使って好き放題喰いまくっていた。勿論責任なんか取らない。カーティス家のような大貴族が他の弱小貴族や平民の女を犯そうが、力の差で捕まらずそもそも握り潰されるのだ。


 だが今回は無理矢理などしていない。別にそんな気になれなかっただけだが、女に不自由することが無いのも理由だ。カーティス家のような大貴族になら、そもそも金やコネ目当てで股を開く女なんていくらでもいる。だから、誘われたことはあるが自分から誘ったことは一度も無かった。


「そう? あたしは無理やりされたなんて思わないんだけどなぁ……」

「お、おい?」


 そう言うと、マータはレッドにその肢体をすり寄せてくる。


 マータの服装は露出が激しく、普段からもその豊満な胸もすらりと伸びた手足も簡単に見て取れる。いかにも扇情的で、女であることを誇りに思っているかがわかる姿だ。


 しなだれかかってきた胸がレッドの胸板で潰れ、柔らかい感触が伝わってくる。風呂に入っているはずなのに、甘い蠱惑的な匂いも漂ってきた。絡ませてくる脚や腕の滑らかさが心地よくなってくる。


「ねえ、レッド……」

「…………」


 紅潮した頬と、潤んだような瞳が近づいてくる。赤い果実のような唇がゆっくりとレッドの唇を捉え――


「…………」


 ようとした直前に、レッドの両手によってぐいと押されてマータの裸体は引き剥がされた。


「あら」

「――するとしても後にしろ。今はあくまで待機中だ」


 目を逸らして湯船に首まで沈めたレッドに、マータは呆れたような声を出した。


「つれないわね。ここまでしてくれた女に恥かかせるなんて遊び人失格よ?」

「よしてくれ。そこまで時と場所も選ばない猿の気は無いよ」


 などと半目がちに否定する。どの口で言ってるんだろうなあと頭の中で笑いながら。


 ――前はこの体にのめり込んでたクセに。


 実は、前回の旅の時はマータを抱いていた。かつての女に狂っていた自分が、こんな魅惑的な体を持った女に欲情しない訳が無かったのだ。それこそ時も場所も選ばず発情し、猿の如くまぐわっていた。マータもそれに応じ体を預けてくれた。まあ金も宝石も報酬としてだいぶ渡していたが。


 対して、ラヴォワには何もしなかった。恐ろしいほど身が固く絶対に体を許さなかったというのもあるが、一番にあの凹凸に乏しい肉体が貧相に見えて、興味をそそられなかったというのもある。……本人に言ったら殺されそうだが。


 だが、今回のレッドはどちらも抱きたいとどうしても思えなかった。レッド自身が今はそれほど女に関心が無くなったというのもあるが、それだけじゃない。


 やはり、こびり付いているのだ。前回の記憶が。

 アレンを追放後崩壊していった、勇者パーティの末路が。

 互いに喧嘩やもめ事ばかり起こし、リカバリーする者が居なくなったためギスギスした状態のまま関係が悪化し続け、ついには無茶をした結果全員が大怪我し破綻した。


 そんな自分や彼女たちの最後を知っているからこそ、思い出してしまうとどうしても性的興味が湧いたりしなくなってしまうのだ。


「変な奴ね。噂と全然違う。あたしのこのやらしい体に魅了されなかった男なんかいなかったのに、女としての自信無くすわ。

 それとも、向こうに愛しの彼女でも残しているの?  

 あ、もしかしてラヴォワみたいなロリ体型の方が好みかしら?」

「冗談言うなよ。別にあのちびっ子体型にそそられるってわけじゃ……」


 そこまで言ったところで、レッドは風呂の中で硬直した。

 何故なら、ドアを開けて入ってきたラヴォワが、目の前に立っていることに気付いたからだ。


「……ラヴォワ?」

「…………」


 ラヴォワは相変わらず無表情で、感情一つ読み取れない普段のままであった。

 しかし、今の彼女の感情は、表情が変わらずとも容易に理解できた。


 怒ってる。

 メチャメチャに怒ってる。

 薄目がちにこちらを睨んでくる瞳が、仮面の如く変わらない顔からも分かるほどの憤怒を表現していた。

 命の危機まで感じてしまい、しどろもどろになりつつもレッドは宥めようとした。


「違う、違うんだラヴォワ。別に俺は何もしてないって。あ、違うか? 俺はお前が子供っぽいとか言いたいわけじゃ……」

「……早く、上がって」


 そんなレッドの動揺しきった言い訳など聞かず、ラヴォワは二人に出るよう促す。


「ラヴォワ? どうしたんだ?」

「……解析の結果が出た。すぐにでも話したい」


 レッドとマータは顔を見合わせた。ラヴォワの様子からすると、やはりただ事ではないらしい。


「わかった、すぐ行くから待っててくれ」

「……ん」


 ラヴォワの招集に応じて、レッドたちは急いで風呂から上がり家へ戻ることにした。


あれ、今回初のサービスシーンに挑戦するつもりがあんまエロくないような……(ぉ

まあ、自分にエロは無理だよな。良く分かった。

しかしなろうの規制の基準知らんから大丈夫かな……消されたらどうしよ

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