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第十五話 ブルードラゴンという魔物(3)

 レッドたちブルードラゴン調査団が地上へ戻った時、既に日が暮れかけていた。


「はあ、はあ、はあ、はあ……」

「はあ、はあ、はあ、はあ……」


 絶え絶えの息があちらこちらから聞こえてくる。ほとんど全員が疲労困憊状態であった。


 無理もない。ブルードラゴンが暴れ始めたところから全力で逃げてきたのだ。その間アレンが防御魔術を展開しつつ走り、崩れていく道をマータやラヴォワが吹き飛ばし開いていきながら走り、ロイは亜人たちを抱えつつ走り、レッドは聖剣に力を込め続け皆の力を増幅させながら走った。もしかしたら一番楽だったのはレッドだったかも知れないが、とにかく必死の思いでなんとか脱出できたのだ。


 唯一息が荒くなっていないのはラヴォワくらいだ。彼女は魔力で体力の補助をしているのかもしれない。しかしだとしても流石に腰を下ろしていた。何か考え事でもしているのか、俯きながらブツブツ呟いているが……


「はあ、はあ……なんとか、助かったな……」

「はい……皆さん、お疲れ様です……」


 アレンも応じてくれる。何気に様々な支援魔術をかけて一番苦労したかもしれない奴なのに、体力あるなと感心した。


「大変な目に遭ったわよ……何が調査よホント……」

「くっそ、流石にあそこまでデカい魔物とは戦ったことが無いぞ……」


 マータもロイも回復し出してきたらしい。なんとか喋れるくらいにはなった。


 落ち着いてきたところで、これからのことについて話すことにした。


「さてと、問題はこれからだが……この近辺に明らかな異常が起きてるのは分かったし、どう対処するかを」

「冗談じゃねえぞっ!」


 と、途中でいきなり怒声に遮られた。


 声の主は、言うまでもなく亜人たちのリーダーである。ついさっきまで大空洞の片隅で縮こまっていたのに、外に出ただけで急に元気になってしまった。


「対処ってなんだ、ブルードラゴン様を退治するって言うのか!?」

「……誰もそんなこと言ってないんですがね」

「うるせえ! てめえらは最初からそう言ってんろうが!」


 言ってないのだが。と呆れ果てた目でそう訴えるレッドだったが、向こうは察する目も聞く耳も持ってないらしくひたすら激昂するばかりである。

 もう嫌気が差していたのだが、仕方ないと自分に言い聞かせて説得を試みる。


「皆さんも見たでしょう? この森にも山にも、間違いなく普段とは違う何かが起きているんですよ? この異変を調査して、原因を解決することは必要……」

「ああ起きてるな! お前らみたいな薄汚い人族が来てるとかな!」


 胸倉を掴み、こちらに顔を押し付けんばかりに近づけて怒気を露わにするリーダー。もはや先遣隊だの正規軍の話は完全に忘れているのかもしれない。


「そうだそうだ、貴様らが悪いんだ!」

「神聖な住み処にお前ら腐った人族が来たから、ブルードラゴン様も怒ったんだよ!」

「やっぱり人族なんて連れてくるんじゃなかった、貴様らが全ての元凶なんだ!!」


 周りの取り巻きたちも騒ぎだす。ブルードラゴンの異常行動は自分らが来る前から起きていたはずだが、などと言っても、通じないのは明らかだ。怒りで我を失っているようでもはや滑稽に見えてしまい、レッドは思わず失笑してしまった。


「……へっ」

「ぁあん!? 何がおかしい貴様ぁ!!」


 笑ったのは少しまずかった。とうとう怒りの頂点に達してしまったらしく、拳を大きく振り上げて殴ろうとしてくる。

 避けるかな、防ぐかな、それともこのまま殴られた方がいいかなと遅いパンチを見ながら少し考えていたら、


「……がっ!?」


 突然、リーダーの頭が横から割って入ってきた手にガッツリ掴まれてしまった。


「が、が、がが……っ」


 掴んだ大きな右手で頭部を締め付けられてしまい、思わずレッドの胸倉を放し呻くことしか出来ていない。痛みと苦しさのあまり、手を放させようとすることすら無理らしい。


 ロイの大木のように太い腕から繋がる筋肉が、異界の言葉でいわゆるアイアンクローの状態で締め付けているのだ。


「が、がは、やめ……」

「……まったく、人がせっかく良くしてやったというのに」


 激痛に耐えかね助けを求めるリーダーになど意にも介さず、青筋を何本も立てて怒りをみなぎらせていた。


「助けてやったのに礼の一つも無しに騒ぎおって。何が汚らしいだ、貴様らこそ人の事が言えるのか、このケダモノがっ」


 言い様はともかく、ロイの怒りももっともである。

 あのままであれば生き埋めになっておかしくも無かったのに、わざわざ担いで助けてくれたロイや、そもそもビッグワームと戦ってくれた自分たちに、礼どころか勝手な怒りと責任の矛先を向けて責め立ててくるのだ。恩知らずと言われても仕方あるまい。


 しかし、このままだと本当にリーダーの頭を砕いてしまいそうだったので、その辺で止めとけと指示を出す。ロイもそれに従い、乱暴にリーダーを投げ捨てた。


 仲間に介抱されたリーダーは呼吸すらロクに出来なかったらしく肩で息をし出したが、反省の類はしていないようでまだこちらを睨んでいる。ここまで来ると褒めてやりたくなった。


 すると、そんなレッドたちと亜人たちの間に押し入る影があった。見かねたアレンである。


「皆さん、落ち着いてください! 僕たちが喧嘩してどうするんですか! この森に危機が迫ってるかもしれないんですよ!?」


 互いに冷静さを取り戻させようとして飛び込んできたアレンであったが、残念ながら相手は冷静になることを望んではいなかった。


「な、なんだ貴様、亜人のクセに人族の肩を持つ気か!?」

「違います、僕はただ……!」

「うるせえ犬コロがっ! 人族なんかに尻尾振った裏切り者がデカい口叩いてんじゃねえ!」


 完全に逆上した亜人の一人が、その場にあった石をアレンに向けて投げつけてくる。

 普段ならそんなもの防御魔術で咄嗟に障壁を張るか何かして問題ないアレンだが、今回はあまりに不意の出来事だったため、咄嗟に両腕で顔を庇うだけであった。


 そのまま当たる、とアレンは思ったはずだ。

 だがその石は、カキィンと高い音を鳴らし明後日の方向へ弾け飛んだ。


「……? あ……」


 何が起きたか分からないアレンが両腕を離すと、

 さらに両者の間に割り入ったレッドが、聖剣で石を打っていたのだ。


「勇者様……」


 何か言わんとしているアレンを制止させ、鞘から抜いた聖剣の切っ先を亜人たちに向ける。

 ひっ、という悲鳴を上げ怯える亜人たちに対し、レッドはこう告げた。


「――お前ら、今すぐ帰って村長たち、それと村人たちにこう伝えろ」

「な、なに?」

「「明らかに異常な事が起きている。ブルードラゴンのせいかは分からないが何が起きてるか俺たちは探る。そちらも異変が起きたらすぐ逃げれるよう準備だけはしとけ」ってな」

「さ、探るって、何を……」

「いいからとっとと行けっ!!」


 声を張り上げると、リーダーを担ぎ上げて亜人たちは走って去っていった。それにようやく安堵のため息を出すと、レッドは聖剣を鞘に収めた。


「――いいの? あれで」


 そうマータが聞いてくる。言わんとすることは理解できた。


「あいつらだけ行かせたんじゃ、あること無い事言いふらすに決まってるわよ? それこそ何の罪も無いブルードラゴン様を退治する気だとかさ」

「――いいさ。どうせこっちに不信感抱いているのは村の連中みんななんだ。どうせ同行しても変わらんよ。それに――それどころじゃないだろ?」


 レッドはラヴォワの方を見やる。先ほどまでブツブツ呟き何か考えていたようだが、それは終わったらしい。


「ラヴォワ、ブルードラゴンの様子から、何か分かったか?」

「……まだ、断言できない。推測はいくつか立ってるけど、もう少し調べる時間が欲しい……ただ」


 そこで言葉を区切った。普段無表情なラヴォワだが、今は無表情なのは変わらないがどこか焦りの色が見えるような気がする。


「……もし、推測が正しかったら、大変なことになる」


 ラヴォワの一言に四人は戦慄する。どうやらこの地で起きている異常事態は、相当に危険らしかった。


「分かった。拠点に戻ろう。ラヴォワはすぐにでも解析に取り掛かってくれ。俺たちは何が起きてもいいように準備と――体力回復も要るか」


 少し考えてそう決めた。先ほどの戦闘で五人とも消耗は激しい。拠点代わりに借りた家で疲れを癒やす必要を感じた。


「よし、とにかく戻るぞ。連中が何するか分からんからそれも気を付けて……アレン?」


 すぐに出発しようとしたところ、アレンが青白い顔をしたまま地面に座り込んでいるのに気付いた。


「どうした、アレン。大丈夫か?」

「あ、いえ、勇者様、大丈夫です……」


 とても大丈夫には見えない。酷く顔色が悪いので、どこかで傷でも負ったかと思うくらいだった。


「しっかりしろ。怪我でもしたか?」

「いいえ、ご心配には及びません。……ごめんなさい、勇者様」


 平気だと訴え続けるばかりだったアレンだったが、やがて消え入りそうな声で呟いた。


「うん? なんだよ?」

「いえ、悪いのは僕なんですが……」


 言い辛そうにしている姿に、ふとレッドはブルードラゴンの事だろうと思い至った。


「しっかりしろ。まだブルードラゴンのせいと決まったわけじゃないし、ラヴォワは解析次第で……」

「いいえ、そうじゃなくて……」


 だがこれはあっさり否定された。そうすると他に心当たりが無いため首を傾げてしまう。

 ところがそんな沈黙を少しの間していると、アレンがようやく口を開いた。


「申し訳ありません、勇者様……その、仲間が無礼を働いてしまって……」


 ――なるほど、そういう事か。


 レッドはようやく合点がいった。

 アレンはマガラニ同盟国出身で、同族とだけ暮らしていたというから、人族とのこうして生きるのは初めてだったはずだ。

 当然、人族から実際に冷遇され差別される経験も初めてだったろうが――亜人族が人族を差別し、どれだけ真摯にしても邪険に扱う姿も初めて見た筈だ。

 同族から聞かされてはいたろう異なる種族の対立を、まざまざと見せつけられてショックを受けているのだ。


「気にするな、お前が悪いわけじゃない」

「でも……」

「とにかく、今は目の前の問題が先だ。早く戻って、対策しないとな」


 そう言ってアレンを起き上がらせ、拠点への道を進む。アレンもなんとかついて行くくらいは出来ていた。


 ――かつては、こんな絶望をしたのかな。


 ふと、道中レッドはそんなことを考えてしまった。


 前回の旅でレッドたち勇者パーティは、マガラニ同盟国には訪れなかった。自分を差別し冷遇し、最後は追放したレッドたちと人族の醜い様に絶望しただろうことは、させた自分が一番よく知っている。


 だが亜人族にはどうだったのだろう? 恐らく自分と出会うまでの彼の一生に変化は無いはず。あの当時と今の彼がほとんど一緒なら、亜人族の醜い様は勇者パーティに在籍していた頃は経験しなかったはずだ。


 結局のところ、レッドは自分が死ぬ時までの記憶しか無い。アレンを追放しアレンに殺される半年の間彼に何が見たか、自分を殺した後彼が何を知ったかなど知りようが無いのだ。


 自分が、偽勇者レッド・H・カーティスが死んだその後で、

 真の勇者アレン・ヴァルドがどんな勇者になったのか?

 それを知る方法を、レッドは持っていなかった。


あれー、今回でその次のシーンまで行くつもりだったのに、予想以上に伸びちゃった……反省だわ。

というわけで次はサービスシーンの予定(ぇ

いや、あくまで予定だから全然サービス無いかもだけどw 更新いつできるかなぁ

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