【異端者】の視る日常。
オレが目覚めてから真っ先にしたことは、『夜』について調べることだった。
わかっているのは『夜』という名前と、『朝』という兄がいること、深い海のような蒼い髪くらいだった。
もしかしたら別の世界の存在なのかもしれない。
そう思いながらも、オレは『夜』を探し続けた。
……そしてオレは、一つの真実に辿り着いた。
オレが事故に遭う数週間前に、『蛹海 夜』という少年が神隠しにでも遭ったかのようにこの世界から消えてしまったこと。
彼には死産だった双子の兄がいたこと。
……実の両親に、虐待を受けていたこと。
自身の友達に見せてもらった、彼らの中学時代の卒業アルバムに載っていた『蛹海 夜』は、紛れもなくオレが異世界・フェントローゼで出逢った『夜』と同じ顔で。
(じゃあ、死産だった兄……ってまさか……?)
『朝』に関することは、何一つわからなかった。
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「それで、貴方は彼らのことを知ってどうしたいの?」
黒い服と星空のエプロンを身に着けた金髪の少女が、首を傾げる。
「別に……どうしたいとかじゃなくて。
オレがフェントローゼから還ってきたのなら、あいつらだって還ってきてるのかと思ったんだ」
「彼らは……いえ、貴方も他のみんなも元々『取り込んで』はいなかったわ。
私は彼らの奥底にある『願い』や『祈り』であの世界を織っただけだもの。……魂の欠片を、基にしてはいたけれど。
『世界』と称するには、あまりにも歪だわ」
【世界樹】もいないのに、と苦笑いを浮かべながら彼女はそう言った。
「そ、そうなのか? でも、夜はオレの世界から消えたって……」
「夜も朝も、今は貴方の世界でもフェントローゼでもない別の異世界にいるの」
「別の異世界?」
さらりと言い放った彼女に、今度はオレが首を傾げた。
「そう。彼らをそこへ連れて行ったのは私じゃなくて……【創造神】アズール・ローゼリア。私なんかより遥かに上位の神ね。
彼らは今、彼らの使命を果たすためにそこにいるわ」
「使命……。……セリロス、オレもその異世界に行けるかな?」
行ってどうするのかということは考えず、単純に自分も行けるのかという興味本意で目の前の彼女に尋ねてみた。
しかし少女は首を振って、困ったように笑む。
「無理ね。私のチカラでは貴方をあの世界に送ることは無理だし、そもそも今の私はただの思念体。
あの世界に貴方が行く方法があるとすれば、アズールに連れて行ってもらうくらいだわ」
「そうか……」
何だか少し残念だ。
まあオレはごく普通の男子高校生なわけだし、異世界に行ったところできっと何にもならない。
オレに出来ることは、ただ平凡に日々を生きることくらいだ。
「……そろそろ起きる時間ね、遅刻しないようにね」
「もうそんな時間か。大丈夫、行ってきます!」
少女との逢瀬の時が終わり、直に夜明けが訪れる。
彼女に手を降ると、意識が浮上していく。
「行ってらっしゃい、マユカ」
優しく笑む愛おしい彼女の声を聴いて、そこでオレは目が覚めた。
(今日は『夜』が通っていた高校に寄ってみよう)
オレはまだ気付かない。
『蛹海 夜』という存在が、オトナたちの都合で抹消されたことを。
この世界に残っている『彼』の欠片は、子どもたちが持っている卒業アルバムと、少しの思い出だけだということを。
……『彼』の両親が、『彼』の行方を探していないことを。
(知ったらきっと、繭耶は絶望するんだろう、この世界に)
(オレの、ように――)
不意にそんな『彼』の声が、聞こえた気がした。
【異端者】の視る日常。
(この世界は、どこか歪んでいた)
(それに気付くことなく、オレは日々を生きる)
「こんばんは、セリロス」
「こんばんは、マユカ」
ゆめの中で重ねる逢瀬、それすらも歪んでいて。




