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Un conte de fees.-御伽噺-  作者: 創音
Un Conte de fees.
2/5

2.動き出す者たち

「あらあら……会っちゃったんですネェ、彼らに」


 庭園の別荘から戻ってきたマユカにそう声をかけてきたのは、白い髪に紅い瞳の少女だった。


「え……?」


 見知らぬ少女に話しかけられマユカが戸惑っていると、少女は ああ、と頷いた。


「すみません、はじめましてでしたネ。

 私は深雪(ミユキ)と申します。以後お見知りおきを」


 深雪、と名乗った少女は髪と同じ真っ白なドレスをつまみ優雅に一礼をした後、優しく微笑んだ。


「それにしても困りましたネェ……。いえ、予想の範囲内ではあるのですが」


 微笑んだまま、深雪は首を傾げる。


「え……っと……?」


 わけがわからずマユカが困惑した表情をすると、彼女は今度はにこりと笑った。


「彼らの……夜くんと朝くんという双子の兄弟のことですヨ、【異端者(エレティック)】マユカさん」


「あいつら……が、何なんだ……?」


 なぜ二人に会ったことを知っているのか、と思いながらも話が見えずなおも戸惑うマユカに、深雪は不意に真面目な顔つきになる。


「いいですか、マユカさん。あの二人は特殊なんです。いわゆる国家機密というものですネ」


「こ……国家機密!?」


 アルビノの少女の言葉に、マユカは驚愕に目を見開いた。

 とてもそんな風には見えなかったからだ。


「ええ。詳しい事情はお話できませんが……あまり、関わらないように」


 と言ってもまあ、貴方は【異端者(エレティック)】ですからそれは無理でしょうけどネ、と付け足しながら深雪は立ち去ってしまった。


「国家機密……【異端者(エレティック)】……。何なんだこの国……?」


 呆然と呟くマユカ。その今更のような疑問が、最初の一滴となるとも知らず。


 +++


「いたいた! 探したぞ、マユカ!」


 その後あてもなくふらふらと城内を彷徨っていたマユカだが、途中で声をかけられた。


「あ……ユナ」


 声の主……ユナは、自分の方に振り向いたマユカを見て首を傾げる。


「……どうした? なんかあったのか?」


 心配そうな彼に、マユカはただ大丈夫、と首を振った。


「……大丈夫だ。この城の中、広いから迷子になって疲れただけ!」


 そう明るく返すマユカだが、脳裏には先ほどの双子と深雪が浮かんで消えなかった。


「……なあ、ユナ。深雪、って女の子……知ってる?」


 ただなんとなくユナは知っているのだろうか、と思い尋ねたマユカに、当の本人は驚く。


「ええ!? お前、なんで深雪のこと……!

 あ、もしかして会ったのか!?」


「うん、さっき……って、知ってるんだ」


 その反応にマユカがぽかんとした表情で返すと、ユナは当たり前だ、と頷いた。


「深雪はこの国の大臣の一人娘だしな。

 それに歌が上手で、歌姫としても活躍してて……国民人気が高いんだ」


 自慢げに笑うユナに、マユカは更に疑問を深める。


「お前ってさっきの王子様といい深雪といい、王族関係者と仲いいんだな」


「ああ……まあ、リーフェと深雪は幼馴染だしな」


「幼馴染!?」


 さらりとすごいことを言ったユナに、今度はマユカが目を見開いた。


「ユナって……何気にすごい奴?」


「え? そんなことないだろ」


 いつものように笑う彼を見て、マユカは脱力する。

 聞けばユナ自身も貴族の子息だが、訳あってイオに面倒を見てもらっているらしい。


 ――けど、じゃあ……夜と朝って、一体……?


 +++


 ――どこかの世界。


 悲しそうな表情で眠る金髪の少年に、空色の髪をした少女がそっと近づく。


「……ごめんね。また君に辛い思いをさせてしまうけど」


 そう言って少年の髪を優しく撫でる少女。


「……構わないよ。それが僕の、生まれた意味だから」


 眠っていた少年は彼女の声で目を覚ましたのか、痛みを堪えたような小さな声で答える。


「ありがとう……。早く、この御伽噺を終わらせなくては。

 でなければ……【本】は、彼らを取り込んでしまうから……」


「わかってる。僕は……行くよ」


 立ち上がる少年。その手には、神を殺す剣……【神剣】デイブレイク。


「行ってくるね。……アズール」


「気をつけて。……ディアナ」



 全ては、歪んだ御伽噺を止めるために。


 +++


「マユカ!」


 城の奥、庭園に佇む白亜の別荘。マユカは再びそこを訪れていた。

 特に理由があるわけではなく、今回もまた迷子になった果てに辿り着いただけなのだが。

 マユカの姿が見えると、夜が彼の元へ駈けてきた。


「夜、久しぶり」


「マユカ、またきてくれたんだ」


 嬉しそうに笑う夜にマユカもつられて笑顔になるが、ふと辺りを見回した。


「……マユカ? どうしたの?」


「いや……朝はいないのか?」


 夜の問いかけに、マユカは夜の双子の兄だという朝について尋ねる。


「おにいちゃん? えっとね……」


 夜が言いかけた時、別荘から怒鳴り声が聞こえた。


「また来たのか、【異端者(エレティック)】ッ!!」


 二人が声の方向を見ると、水色の髪の少年……朝がマユカを睨んでいた。


「あ、おにいちゃん!」


 朝の険悪な雰囲気に気づいていないのか、夜がのんびりとした空気のまま朝に手を振る。


「……夜、そいつから離れて。そいつは“この世界”にいちゃいけない存在だ」


 マユカを睨んだまま夜にそう告げる朝。

 夜は首を傾げながら、おにいちゃんが言うなら、と彼から離れた。


「……オレがこの世界にいちゃいけないってどういうことだよ」


「そのままの意味だ。お前はこの世界を壊す」


 ムッとした表情を浮かべたマユカを、朝は相変わらず冷めた瞳で答える。


「世界を……壊す?」


 わけがわからない、という声音でマユカは更に問うが、朝はそれ以上話すことはないとでも言うかのように彼に背を向けた。


「まっ待てよ!! お前ら何なんだよ、この世界は何なんだよッ!?」


 そんな朝の後ろ姿に、マユカは慌てて今まで思っていたことを叫ぶ。


「【異端者(エレティック)】だとか、こんな場所に住んでるお前らとか!

 だいたい……そうだ、オレがこの世界に来たのは……!」


 そこまで叫んで、マユカはふと思い出す。



『私は【夢繋ぎ(セリロス)】。貴方を御伽噺の世界へ送る存在』



 それは、マユカをこの世界……フェントローゼへ送り飛ばした少女の言葉。



 ――セリロス……本……“御伽噺”……――



「もしかして……この世界って……!」


 嫌な予感がマユカの脳裏を駆け巡る。

 もし……自分の予想が当たっていたら……?

 しかしそんなマユカの考えをかき消すかのように、ふいに庭園に悲鳴が響き渡る。


「う、わあああああ――――ッ!!」


「夜!?」


 朝が声の主……夜を見る。突然叫び出した彼は、何かに怯えるような表情をしていた。


「夜、どうしたのっ!?」


 焦ったような兄の声も届いていないのか、夜はなおも絶叫する。


『あ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!

 ごめ……っなさ……っ! 生まれてきて……っごめん……なさい……っ!!』


「……え?」


 その声に、マユカは呆然とする。

 なぜなら、夜の声が()()()()()()()()()だ。


「夜……ッ! ちがう、夜は何も悪くないよ!!」


 小柄な弟の身体を抱き締めて宥める朝には、先ほどの二重の声が聞こえなかったようだ。


「どういう……ことだ……?」



「まったく……こんなに早いなんて思わなかったわ」



 ぽつりと呟いたマユカに答えるかのように、不意に彼の背後から声が聞こえた。


「……リウ?」


 そこにいたのは金髪を風に靡かせた【予言者】の少女……リウと深雪、そしてユナとイオだった。


「ユナにイオさんまで……なんでここに……」


「リウがこの状況を予言していたんだ」


 呆然とするマユカに、ユナが優しく笑う。


「……もともと、この世界は歪な御伽噺だったの。だけどそれはたった一人の【異端者(エレティック)】によって崩される。

 ……その言い伝え通り……私は崩壊する世界を予言した(視た)の」


「……そのたった一人の【異端者(エレティック)】が……マユカさん、アナタなんです」


 リウと深雪がひどく抽象的な説明をする。

 その視線は怯える夜と、彼を庇うかのように抱き締めている朝に向けられていた。


「あの二人がここにいる理由は……数年前、自分たちの故郷を壊したからなんだ。

 もともと強い魔力を持っていて危険だったから保護したってのもあるけどな」


 故郷を壊した罰として、二人はここに閉じ込められているのだと言う。

 イオの言葉に、マユカは【夢繋ぎ】に出逢う前に見た夢を思い出した。

 燃え盛る炎の中から聞こえてきた、誰かの声。


 ――あれは……夜と朝だったのか……――


 マユカが納得すると同時に、不意に朝が声を発する。


「お前が、いるから……ッ!!」


「え……?」


 聞き返したマユカに突き刺さるのは、強い狂気と殺意が宿った紅い瞳。


「お前がいるから……ッ!!

 この御伽噺は、終わらせはしない……【異端者(エレティック)】ッ!!」


 +++


「フェントローゼ……“偽りの薔薇”、か」


 夕陽が照らす、フェントローゼの草原。

 そのオレンジ色の光に金糸の髪を反射させながら、少年……【神殺し(ディーサイド)】ディアナは、呟いた。


「“御伽噺”には相応しい名前だな……【夢繋ぎ(セリロス)】」


 彼が見つめるその先に、深紅の本を持った金髪の少女……【夢繋ぎ】がふわりと現れた。


「……【神殺し】……何をしに来たの? 貴方はこの世界に招待していないわ」


 少女の睨み付けるような視線に、ディアナは無表情のまま剣を構えた。


「……【創造神】アズール・ローゼリアの意思の元に、お前を(ほふ)りに来た」


「……私を屠りに……? そんなことはさせないわ」


 セリロスが持っていた本を広げる。


「幸せな“御伽噺”。貴方も、その中に取り込んであげるわ」


 それが眩い光を放ち、ディアナを包む。

 次に目を開くと、そこには長く青い髪をした青年がいた。


「…………リ、シュア……!」


「……ディアナ、久しぶりだね……」


 動揺したようなディアナの声に、青年……【龍神】リシュアは優しく笑った。

 心優しい、たったひとりの親友だった彼。

 けれど……彼は、もう――


(違う……リシュアじゃない)


「リシュアはあの時……確かにこの手で……」


 首を振りながら呟いたディアナの頭を、リシュアは宥めるように優しく撫でた。


「大丈夫だよ、ディアナは何も悪くないよ……ごめんね……ごめん……」


 優しい声。優しい笑顔。優しいてのひら。

 全て、あの日亡くした『リシュア』のそれと同じで……――


「やはり人の子ね、【神殺し】。

 それが貴方の弱さ……トラウマであり、貴方が望む“幸せ”」


 ふと、セリロスが満足そうに微笑んだ。


「その甘くて優しい“御伽噺”に、抱かれたらいいわ……この世界のみんなみたいに」


 どこまでも優しいセリロスの声に、ディアナは俯いて拳を握る。


 ――そうだ……これは【夢繋ぎ】の見せる幻想――


 ぎゅっと左手に【神剣】を握り直す。


 ――何をやっているんだ、僕は……――


 自嘲気味に、彼は笑う。



 リシュアはあの時、確かにこの手で……殺したじゃないか。



 剣が身体を貫く音が、草原に響く。

 驚いた顔をした『リシュア』とセリロスがそちらを見ると、ディアナが持っていた月を模した変わった形の剣……【神剣】デイブレイクが、『リシュア』の身体に突き刺さっていた。


「な……っ!」


「ディ、アナ……どう、して……」


 セリロスと『リシュア』が同時に声を発する。

 ディアナは黙ったまま、その剣を引き抜いた。


「……知っているからだ」


 ぽつりとディアナが呟く。


「リシュアはもう“いない”と……僕が殺したんだと、知っているからだ」


 【龍神】リシュアは、全ての世界を呑み込む邪龍と化す定めを負った神だった。

 神を殺すために生まれたディアナは、たったひとりでその運命に抗う彼と出逢い、親友となった。

 けれど……リシュアは運命に抗えず、最期はディアナに自身を殺すように頼み、その生命を終えてしまった。


 消えていく『リシュア』の幻影。

 それにすら目を向けず、ディアナは【神剣】デイブレイクを……遠き日に親友を殺した神の剣を、セリロスに向けた。


「【夢繋ぎ】……いいや、【夢神(ユメガミ)】。

 こんな馬鹿げた幻想は、終わらせるんだ」


 強い【神殺し】の視線に、セリロスはたじろぐ。


「どうして……? 私はただ、幸せな夢を」


「幸せだけれど所詮はただの夢ならば……辛いけれど確かな現実を、僕は……選ぶよ」


 決意を秘めたディアナの瞳。

 セリロスは押し黙ってしまい、しばらくして姿を消した。


『それでも、終わらせないわ……この“御伽噺”は、終わらせない。マユカの、ためにも……――』


 風に紛れて、そっと届くセリロスの祈り。

 やがて静かになった夕焼けの草原に、ディアナの嗚咽が響く。


「……僕は……また君を……殺したのか……」


 草むらにディアナの涙が静かに落ちる。


(肉体こそ幻想で創られた紛い物ではあったけれど、魂は間違いなく彼のそれの欠片だった)


 大切な親友を再び殺したという罪悪感が彼を苛む。

 やがて迫り来る夕闇が、ディアナの痩せた体を包み込んだ。




 Un conte de fees 2 終。 

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