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事件の前触れ ④

 おかしいわね、もうどちらかが取得なさっている筈ですわ。まさか、授業をサボってらっしゃる?


「まさか、リフリード様が?」


「それならそれで問題だが、残念ながら、リフリードも治癒魔法が使えるようになっていない。」


 ジョゼフ殿下の髪と目はまごうことなき王族のモノ。混じった私とは違い、王位継承権のある色をなさっている。なら、潜在的能力も高い、なのに何故?何か忘れている気が致しますわ。


 治癒魔法が使えるようにならない、ジョゼフ殿下とその相手のリフリード様。リフリード様と一緒の師匠を持つジュリェッタ嬢。まさか、ジュリェッタ嬢がリフリード様の…。


 あっては、ならないわ。そのような恐ろしいこと。


「まさか…」


 フリードリッヒは苦い顔をしている。


「ああ、多分そうだろうね。そして、宰相はそのことに気が付いていらっしゃる。だから、敢えて勇者であるバルク男爵の評判が地に落ちるのを、何の手助けもせずに傍観していらっしゃる。」


「あっ」


 ジュリェッタ嬢を死刑にした場合、市民の怒りが正常に彼等に向くように。


「ただ、証拠がないため、現状はそのまま放置だな。それより、戦争に勝つことに国を挙げて挑まねばならない。」


 そうね、国民に被害がでるのを最小限に食い止めなければならないわね。オーランド国の従国になどなったらと考えるだけで恐ろしいわ。


「はい」


「春までには戦争を終わらせ、私達の結婚式がつつがなく取り行えるように頑張らなければね。」


 マリアンヌはフリードリッヒの言葉に頬を染めた。



 店の奥で書類に目を通しながら、キャサリンさんを待つ。ドレスの売れ行きは好調だが、平民用の少しお洒落なワンピース類は余り売り上げが伸びていないようね。


「どうされました、お嬢様。」


 書類と睨めっこしているマリアンヌに店長が声を掛けた。


「ワンピース類の売り上げが思わしくなくて」


「ここで売っているような、上等な服を買える庶民が少ないですからね。大抵は、皆、古着を買って着てます。それか、自分で縫います。で、サイズが合わなくなったら、古着屋に売って、また、別の古着を買う。」


 ここの服は高価なのですね。


「では、ここでの服をご購入下さるお客様は?」


「平民ですと、豪商、ランクの高い冒険者。後は、結婚式など特別な日の服ですかね。殆どは騎士家や男爵家のお嬢様達ですね。」


 はあ、また思い違いをしていたわ。庶民が手軽に入れる店のつもりでしたのに。だから、昔、店長の店の主なお客様は騎士団だったんですね。


「あっ、お嬢様、キャサリンさんがいらっしゃいましたよ。私がこちらへ呼んでまいりますね。」


 卓の上の書類を片付けて、キャサリンを待つ。店長と共に快活な気の強そうな娘が入って来た。


「貴女が、キャサリンさん?」


「はい、ローディア商会会長の娘、キャサリンです。本日は、マリアンヌお嬢様にお会いできて嬉しく思います。どうぞ、キャサリンとお呼び下さい。」


 キャサリンは庶民とは思えない、美しいカーテシーで挨拶をした。


「私も貴女に興味がありましたの、お会いできて嬉しいわ。どうぞお掛けになって。」


 礼儀正しい挨拶、ジュリェッタ嬢よりよっぽど貴族らしいわ。


「有難う御座います、お嬢様。私をお招き頂いた理由をお聞かせ下さい。まさか、こちらを贔屓にしていますから、その礼をとは思っておりませんので。」


「全く、せっかちですわね。貴女をこの部屋へ呼んだのは、うちの店長が勧めて来たからよ、楽しい話が聞けるとね。」


 マリアンヌの言葉にキャサリンはしてやったりとにぱっと笑みを浮かべる。


「では、私の話をお買い上げ下さるのですね。」


 うん?話を買い上げる?


 もしかして、店長に話したのは私を釣り上げるための、撒き餌のようなものなのかしら?


「あら、私を満足させられるような話をお持ちなのかしら?」


 キャサリンは自信たっぷりに商売人の顔をして、マリアンヌをしっかりと見据える。


「勿論でございます。なんたって、うちは、ローディア商会でございますから。」


「ふふふ、では、本日の商品は?」


「では、手始めに魔法学園でのジュリェッタ嬢の様子はいかがですか?暇つぶしには、持ってこいですよ?最初は無料です。まず、無料分をお聞きになり、その後、お金を払う価値があるかお考え下さい。」


 ジュリェッタ嬢の話を勧めてくるということは、ジュリェッタ嬢が、フリードリッヒ様に付き纏っていた事実を知っているのね。


「では、聞かせてくれるかしら?」


「はい。」


 無料分のジュリェッタ嬢の話は、耳を疑うものだった。教師への反抗。マナーを無視した行動。入学して一月もしないうちに、彼女は学園で浮いた存在となった。ただ、あの顔と懐っこい性格から、男子生徒たちの受けは良いが親しくしたいと考える人はいなかった。だが、今は男子生徒達からは好かれて、ジョゼフ殿下の舞踏会のパートナーすら許された。


「経緯を金貨2枚でいかがでしょうか?」


 金貨2枚、決して安くはない金額ですが、このままタネをしらないとスッキリしませんわ。


「ふふふ、では、購入いたしましょう。」


 ユリが、テーブルに金貨を2枚カチャリと置いた。


「理由は簡単です。ルーキン伯爵が、ジュリェッタお嬢様を養女に迎え入れられ、私を彼女のお友達として在学期間ご購入なさったからです。」


「えっ、キャサリンを購入?」


 奴隷制度はこの国では、禁止されてますわ。それを我が一族の分家が行っていたなんて!


「ルーキン伯爵のご注文は、在学期間中のジュリェッタお嬢様の学習相手兼お友達でございました。私が丁度、学園にいました、そして、努力でカバーできるほどの魔力を生まれながらにして保持しておりましたので、私がジュリェッタお嬢様の友達兼、学習相手の業務を請け負っているのです。」


「流石、なんでも用意できる、ローディア商会ね。」


 はー、びっくり致しましたわ。ルーキン家が取り潰されるかと肝を冷やしましたわ。


「後は、ハンソン様の従者の努力でございます。」


 ユリがジュリェッタ嬢がナタリーと一緒にいる所を見たと言ってたわね、なら、その従者はナタリーね。


「どうして、この話を売ろうと?」


 キャサリンはニカッと町娘らしい人懐っこい顔で胸を張った。


「保身です。ジュリェッタお嬢様は、なんと言ってよいか、危ういんですよね。そんな方と、仕事とはいえ友達として過ごさなければなりません。なら、これが仕事である、ということを知っている方がいることはよいことです。ですが、ただで話せば、我が商会の信用問題になりますので。」


 商品であれば問題ないってことですか。で、ルーキン家の親家の娘である私に。


「わかりました。危ういとは?具体的に教えてもらえるかしら?必要なら、お金を払うわ。」


「では、金貨1枚。」


 マリアンヌが目配せをすると、ユリが金貨を1枚テーブルに置いた。


「なんと言ったら良いかしら?先のことがわかっているような行動をとっていらっしゃるんですが、その行動がなんといいますか、よくわからないのです。例えば、今日のこの時間に廊下をジョゼフ殿下が通られることを知っている。で、何故かジュリェッタお嬢様の行動は、偶然を装ってぶつかる。持っていたケーキを落としてダメにするといった具合です。一時が万事こんな風なので、何をなさりたいのかさっぱり。」


 ケーキを持ち、ジョゼフ殿下がいらっしゃるのを待ち、わざとぶつかり、ケーキを落として駄目にする?何をなさりたいんでしょう。意図がわからないわ、ただ、何かを狙っている。釈然としないわね。


「ジュリェッタ嬢がその、待ち伏せ?をして行動を起こしているのは、何か共通点はございますの?特定の方に関わることとか?」


 キャサリンは少し考え込むと、自信無さげにマリアンヌの顔色を伺う。


「これも、不可解な共通点なのですが、美しいと人気の殿方にかかわっているといいますか、その方々の前でのみ不自然に転んだり、ぶつかったり、物を落としたりしているような…。」


 ジュリェッタ嬢は元冒険者、他の令嬢方とは比べ物にならないくらい運動神経が良い。なのにもかかわらず、転ぶ、ぶつかるはありえないですわね。それも美形の殿方限定とは…。頭が痛くなりましたわ。


「で、他に変わった点は?」


「そういえば、ひとりでぶつぶつと、そろそろ王都で、ポーション事件が起こるとかなんとか言ってました。」


 ポーションとは物語に出てくる回復薬。実在はしないものですわ。回復薬!王都の回復薬の噂。それを知っているジュリェッタ嬢。お父様が命を狙われているのを知っていたジュリェッタ嬢。やはり、彼女は先読みの力があるの?それとも、犯罪組織に関わっているの?どちらにしても危険だわ。大きな出来事を当てるのが二度目となれば、戯言では済まされないわ!


「他に、何か言っていたかしら?」


「戦争が起こるとかなんとか…。」


「そう、ありがとう。そのような情報どこから仕入れているのかしら?彼女、魔法学園で貴女以外のお友達はいらっしゃるのかしら?」


 マリアンヌは酷く驚いたが、なんてことはないような顔を作り、クッキーを勧める。


「私以外の同性の方と仲良く話されている姿を存じ上げません。殿方ですと沢山いらっしゃるみたいですが…。」


 頭が痛くなるお話ですわね、未婚の令嬢の周りが殿方のみとは恐ろしい状態ですわ。まるで、クシュナ夫人。まあ、かの方は未亡人ですので…。


 それは、鍛錬相手をお金で頼む他ない状態ですわね。ルーキン伯爵、いえ、ハンソン様のご苦労が手に取るようにわかりますわ。


 これ以上のジュリェッタ嬢への詮索は危険ね、これは娯楽ですもの。


「そうですの。ジュリェッタ嬢以外で面白い話はございませんの?」


 後は、誰がお洒落だの、どの令嬢は計算が苦手だの。誰が人気だのたわいのない話に花を咲かせた。


「ジョゼフ殿下は相変わらずおもてになるのね。」


「はい、皆様、話しかけて欲しいとチラチラ視線を送っていらっしゃいますね。」


「学園を卒業なされたら、正式に婚姻なさることになってますものね。皆様、必死なんですわね。」


 ただ、殿下は治癒魔法を習得されていない。皇太子になる道はない。良かった、治癒魔法を習得されていたら、私かジュリェッタ嬢以外、殿下の婚姻相手がいない可能性がありましたわ。それこそ下手をすればフリード様との婚姻が取り消される可能性がでてきますわ。


 全く、ちゃんと幼い頃に治癒魔法を習得なさっていたら、このような要らぬ心配をしなくて良かったのに!でも、ジョゼフ殿下が治める国も不安でしかないので、結果的に良かったのかしら?


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