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事件の前触れ ③

 ロベルトとサンドラが帰った後、マリアンヌは自室で一人考える。


 サンドラとキャサリンさんの仲は、サンドラの今日の様子からみて、事前に調べていた通り良くないわね。キャサリンさんと交友関係を築く場合、そのことは触れず兄妹間が不仲と言うことは極力気が付かないふりをするべきね。


 リフリード様とキャサリンさんの関係も気になる所だわ、キャサリンさんはジュリェッタ嬢と魔法学園で一緒に鍛錬されている、なら、ジュリェッタ嬢と恋仲のリフリード様との仲は悪くない。人間関係が見えて来ないわね。慎重にいかなければいけないわね。


「お嬢様、今日はフリードリッヒ様が早目に帰って来られるようですよ。」


 ローディア商会の二人を見送ったユリが、嬉しそうに部屋へ入って来た。手には、白いクリスマスローズの小さな花束を持っている。


「これは、フリードリッヒ様の使いの方が持って来られました。良かったですね、お嬢様。お部屋に飾っておきますね。」


 ユリはクリスマスローズを部屋に飾りながらニッコリと笑った。


「今日は、一緒に夕食を食べられますわね。ユリ、きっと慣れない連日の業務でおつかれのはずよ。お帰りになられたら、すぐに食事ができるようにして、後、お風呂の用意も!」


「良かったですわね。でも、フリードリッヒ様、なぜ根に毒のある花をプレゼントされたのでしょうか?」


 根に毒のある花、クリスマスローズの花言葉は「不安を和らげて」


「ユリ、急いで、近くにいる者にセルロスを呼んで来るように伝えて!お風呂に入っている時間はないわね、化粧を落とす準備と、夜着を急いで用意して!」


 マリアンヌの慌てる様子に、ユリは急いで外に待機していたメイドにセルロスを呼びに行くように伝えると、隣の部屋から、湯の入った洗面器を持って来て、マリアンヌの顔をオイルでマッサージして、化粧を落として行く。


 程なくして、部屋をノックする音がした。セルロスだ。


「お嬢様、いかが致しましたでしょうか。」


「セルロス、そのまま聞いて頂戴。」


「はい」


 セルロスは、声が良く聞こえるようにドアを5ミリ程度開く。


「多分、お爺様が、フリード様と一緒にいらっしゃるわ。私は、結婚式の準備に追われて疲れて寝たと伝えて頂戴。お食事は、兄様の分のみを食堂に用意して、後、兄様のお風呂の用意も。帰る前に孫の顔が見たいと言われたら、この部屋へ通してもいいわよ。お爺様が帰られたら。そうね、クロワッサンが焼けたと言って起こして頂戴。」


 お爺様のことですから、私を起こすように言ってくる可能性がありますわ。お爺様に、ユリやセルロスが背くなんてできませんからね。


「承知したしましたお嬢様。焼きたてのクロワッサンと共に起こします。」


 そう言うと、セルロスはフリードリッヒが帰って来る準備に取り掛かった。


 マリアンヌはネグリジェに着替え終わると、ベッドに横になる。


「お爺様がフリード様について来てないことをいのるばかりね。後は、宜しくね。ユリ。お爺様が帰って私が寝たままでしたら、ちゃんと起こしてねユリ。」


「承知致しました、お嬢様。でも、本当に上皇陛下がいらっしゃるんですか?」


 ユリはマリアンヌの言葉がいまいち信じられないようすだが、仕方ないわね、とでも言いたそうだ。


「お爺様は私を砂漠の国に嫁がせたいみたいなの、お父様が一度お断りになっているわ。なら、お父様が居ない時に、私へ砂漠の国へ嫁ぐように説得しにくるはずだわ。」


「わかりました。では、天蓋を下ろしておきますね。」


 そう言って、紐を引き部屋から出て行った。


 数分経った頃、ドアを控えめにノックする音と、数名の人が中に入って来る気配がする。マリアンヌはドキドキしながら寝たふりを続けた。


 天蓋に人が入って来る気配がして、ユリの声が聞こえる。


「お嬢様、フリードリッヒ様がお帰りです。」


 それから、天蓋からユリが出て行く気配がした。


「お嬢様は連日お一人で結婚式の準備を進めていらっしゃるため、非常にお疲れでいらっしゃいます。」


 ユリの嫌味が聴こえる。矢張り、お爺様がいらしていたのね。全く、部屋にまで確認しに入ってらっしゃるなんて!


「そうか、疲れているのに押し掛けてすまんかったの。マリーが起きたら、城に遊びに来るように伝えてくれ。」


 お爺様の声がして、部屋のドアが閉まる音がした。


 私が結婚式の準備で疲れているってユリは言いましたわよね、ですのに、城に遊びに来いって!まあ、結婚式の準備はお母様が殆ど勝手に済ませて下さってますので、あまりやることはございませんけれども。どうして、王族ってあんなに自己中心的なのかしら?お爺様といい、お母様も、ジョゼフ殿下も、あっ、ですが、陛下は違いますわね。一括りにすると陛下に失礼ですわね。


 私が城へ一人で遊びに行ったら、偶然を装って砂漠の国の皇太子に会わせる気なんでしょう。全く、ジョゼフ殿下の時と同じ手口ですわね。そのせいで、ジョゼフ殿下には、毛虫のごとく嫌われてしまいましたわね。


 半刻したくらいに、又、ノックの音と人の入って来る気配がした。天蓋が上げられ、目の前にやって来た人は、優しく頬に触れると、おでこへ唇を落として耳元で囁く。


「マリー、クロワッサンが焼けたよ。一緒に食べよう。」


 先ほどまで、そっと息を潜めていたマリアンヌは、ガバッと起きあがった。フリードリッヒはその様子に少し驚いた様子だったが、クックと楽しそうに笑い声をたてる。


「フリード様?お爺様はお帰りになられたのですわよね?何と仰ってました?」


 矢継ぎ早に尋ねるマリアンヌを宥めるように髪をすく。


「ユリがもうすぐ、夕食とマリー御所望の焼きたてのクロワッサンを持って来てくれるから、一緒に食べよう。話はその時に。」


 フリードリッヒはマリアンヌにガウンをかけて、ソファーに座るように促すと、丁度、ユリがメイドを従えて入って来た。テーブルの上に夕食が手際よく準備されていく、焼きたてのクロワッサンもあった。


「ユリ、みんな、ありがとう。」


 正直、すっごくお腹が減っていたのよね。


 マリアンヌが熱々のスープに口を付けている間に、フリードリッヒがユリに軽く目配せをした。


「一刻後に紅茶をお持ち致します。どうぞ、ごゆっくり。」


「有難う。」


 フリードリッヒが礼を言うと、ユリが頭を下げて、メイド達を引き連れ部屋から出て行った。部屋のドアが閉まるのを確認すると、フリードリッヒはゆっくりと話し出した。


「マリー、食べながらでいいから、聞いて欲しい。」


「何ですか、フリード様」


 口へ食べ物を運んでいた手を止めると、ディナーから視線をフリードリッヒに向けた。


「花の意味を理解してくれて助かったよ。宰相から聞いていると思うけど、もう少しで戦争が始まる。それで、砂漠の国の皇太子が明日、自国に帰られる。上皇陛下は君と皇太子の婚姻を口約束だけでも纏めたいとお考えでね。今日、急遽訪問されたって訳さ。」


 戦争が起こる。砂漠の皇太子が予定を早めて帰られたらと言うことは、近日中に開戦する可能性があるということですわね。


「砂漠の国からの援護を私を餌に引き出す算段でしたのね。そんなに、砂漠の国は甘くないのに…」


 焼きたてのクロワッサン、美味しいわ。


「その通りだ。かの国の王は、皇太子の意見など聞かない。良くて、我が国を有事の際に攻めないくらいだ。開戦するなら、我が国としては早い方が助かるな。マリー、君も耳にしたことがあるかもしれないが、傭兵達の素行が住民に与える影響が大きくてね。だが、上司を替えるわけにはいかない。彼より、彼らを統率できる者がいないからね。」


 店長の言っていたバルク男爵のことね。


「宿泊所付近の方々は本当に困ってらっしゃるみたいよ。どうにもならないものなの?」


「彼等はもうすぐ国境付近に向かうことになる。それまでの辛抱さ。後、十日もないよ。」


「そんなに早く戦争が始まるんですか?」


 お父様の口振りでは、春になってからと言った雰囲気でしたのに。


「宰相が、早目に開戦するように誘導なさった。傭兵達の管理と、砂漠の国の人質はそう長くはもたないからね。」


 砂漠の国の人質とは、皇太子の弟。我が国の魔法学園に在学中に戦争の片をつけたいとお考えね。でも、そんなに管理の難しい傭兵達の進軍、道中の村々に影響はでないのかしら?


「ミハイルがバルク男爵の上司として一緒に同行するよ。彼はソコロフ侯爵家の息子だから侮られる心配が少ない。ソコロフ家の彼直属の者も同行する予定だ。」


 顔に出てたみたいですわね。

 

 ソコロフ家の公子っぽくない、軟派な優男風のミハイルの顔が浮かぶ。


 荒い傭兵達の指揮官がミハイル様だなんて、大丈夫かしら?


「私の誕生日を祝いに来て下さった、ミハイル様ですわよね。」


「ああ、ソコロフ侯爵閣下の部隊に傭兵部隊も編成されるからね、今回の戦争の舞台は、ソコロフ侯爵家と縁のある、ディユラン辺境伯とハンソン様の婚姻相手であるアーバン辺境伯の領地だ。」


 ソコロフ侯爵閣下が前線の指揮を執られるなら、自然とそうなりますわね。


「ジョゼフ殿下の付き人は?」


「ジョゼフ殿下も出陣される。上皇陛下がそれをご希望だ。」


 ですが、ジョゼフ殿下が治癒魔法を取得なさったと言う話は聞いていませんわ、なら、メープル騎士団を率いることはできない筈ですわ。


「ジョゼフ殿下はいつ治癒魔法を?」


 フリードリッヒは首を横にゆっくりと振る。


「ジョゼフ殿下は治癒魔法を取得されていない。あくまで、上皇陛下の補佐だ。」

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