乙女ゲー 三章 ①
はあ、クリスマス舞踏会は散々だったよ、ジョゼフ殿下のエスコートでクリスマス舞踏会に参加できたのは良かったけど、本来ならダンスを申し込んで頂けるはずのフリードリッヒには邪険にされるし、いつの間にか、悪役令嬢の婚約者になってるし!聞いてないんですけど?それに、なんで悪役令嬢がヒロインのドレスを着ているのよ!あのドレスは私が着るはずでしょう?
でも、マリアンヌはヒロインじゃないからドレスを着てても砂漠の国の第二王子からのダンスの誘いは無かったけど、その代わりに皇太子からのダンスの誘いなんて!あー、もう!ゲームでは顔が出てこなかったからノーマークだったけど皇太子すっごいイケメン!黒い髪に白い肌!長身で冷やかな瞳!もう、フリードリッヒと同じくもろタイプ!こんなに可愛いのに私のことは眼中に無いってどういうこと?私、ヒロインなんですけど!皆、ヒロインに恋焦がれるんじゃないの?
「お嬢様、ハンソン様がもうすぐ迎えにいらっしゃいます。さあ、ルーキン伯爵領へ帰りましょう。」
滅多に感情を表に出さないナタリーが、ご機嫌でジュリェッタを急かす。
「わかったわ、私も兄様に会えるのを楽しみにしていたのよ、それに、ルーキン領に行くのも!」
久しぶりだな、ルーキン領、ギルド職員のゲラスおじさん元気かな?お父さんが男爵になってから全く会ってないもんね。私が、ルーキン伯爵令嬢になったって聞いたらすっごくびっくりするよね、時間があったらギルドに行ってみようかな。
「お嬢様はルーキン領にいらしたことがあるんですか?」
「そう、昔、冒険者をしてた時に、ルーキン領のダンジョンに行ったの、でも、私、まだ子供だったからダンジョンに潜れなかったんだけどね。」
そこで、ルーキン伯爵と初めて会ったんだよね、そのお陰でこうして養女に迎えて貰ったんだよね。そのこと、ナタリーは知らないのかな?
「お嬢様、ルーキン領のギルドにお知り合いがいらっしゃるのですか?」
「そう、時間があったら会いに行こうと思ってるの。」
ナタリーは目を伏せ少し考えるような仕草をした後、ジュリェッタをしっかりと見据えた。
「お嬢様、忠告致します。その者に会うのは止されるべきです。」
「どうして?ゲラスおじさんはとても良い人よ?おかあさんが死んだときも何かと面倒をみてくれたの。」
ちょっとギルドに顔を出して、元気?って声をかけるくらいいいじゃない!
「お嬢様にこんな事を申し上げるのは心苦しいのですのですが、バルク男爵が休みの度に冒険者時代のお友達とお過ごしになっているとか。その飲食代を全てお支払いになっているご様子です。失礼ながら、男爵様の給金ではそれらを払ってしまえば、後は僅かしか残らないのが現実でございます。何故、そのお金でお嬢様にドレスや靴、宝石の一つでも贈られないのかと心を痛めておりました。私がお嬢様の侍女になって手紙の一つも送って下さったことがないとは…。」
ナタリーはお父さんが、冒険者時代の仲間にお酒を集られて苦労してると思ってるのかな?
「お父さんは、字が書けないから手紙は送れないから仕方ないよ。」
「ですが、代筆してくれる者は城には沢山おります。役所に行けば、お金さえ払えばやってくれる部署もございます。たった一人の家族なのに手紙の一つもお出しにならないとは、そのせいでお嬢様がどれだけこの学園の人々に軽んじられているか、平民でさえ、頻繁に手紙を送られているというのに…。」
あっ、このセリフ、本来ならマリアンヌが言われるのよね。それを私が言われるとはね。お父さんの性格上仕方ないんだけどなぁ、全く気が利かない人だから。
実家からの手紙の一つも来ないって、それで、侯爵令嬢にも関わらず軽んじられるの、本来ならちやほやされるべきなのに、侯爵の病気を隠してるからマリアンヌまで手が回らないのよ、確か、皇女であるマリアンヌのお母様は侯爵家の事業に携わって無かったから、侯爵家はてんやわんやなのよね。
もしかして、ルーキン伯爵の養女になるまで、先生方の当たりが悪かったのはお父さんからの手紙や贈り物が無かったから?それなら、先生の親の常識が無いってセリフが理解できるわね。
「お父さん、ほら、冒険者からいきなり貴族になったでしょ?慣れるのに大変で、手紙やプレゼントに気が回らないんだよ。元々、手紙とかそんな習慣がないからさ。」
「ハンソン様の方が多忙でございます。ルーキン伯爵様がご病気で伏せっておいでですので、普段の騎士としての業務の他に、慣れない伯爵としての業務も行ってらっしゃいます。ですが、お嬢様が軽んじられてないか、この学園で健やかに過ごされているかと手紙を送ってくださるではございませんか?行事ごとに必要な物を調べて送ってくださるではございませんか?本来なら、バルク男爵様がご心配なさることではございませんか?ハンソン様には子供などいないのですよ、それを病床で気にかけることが出来ない、ルーキン伯爵様の代わりに行ってらっしゃるのですよ、慣れてらっしゃらないのはハンソン様の方です。」
ナタリーがお父さんのことを良く思っていないわけだよ、飲み歩いて娘に手紙一つ寄越さない。友達に奢るお金はあっても、娘にドレスを贈るお金はないって思われてるんだから、っていうか、実際そうだよね。ここでの必要な物は全て、ハンソン兄様が送ってくれているんだからさ。確かに、ルーキン家の養女になったからハンソン兄様が用意してくれるのはわかるけど、足りない物は無いか?って、心配くらい普通するよね。
はぁ、私って自分で思っているよりお父さんに大事にされてないのかな?悲しくなってきたよ。
「返す言葉もないよ。わかった、冒険者時代の知り合いに会いに行かない。」
「その言葉を聞いて安心しました。バルク男爵様が飲み歩きをされているのも、旧友の誘いを断れないからかもしれませんからね。」
「そうだね、冒険者時代の知人のせいでハンソン兄様に迷惑をかけるかも知れないのは申し訳ないもんね。ハンソン兄様には本当に感謝しているよ。忙しい中、わざわざ私を寮まで迎えに来て下さるんだもん。」
本来なら、迎えの馬車を寄越せばいい所を、わざわざ赴いてくれる。ナタリーの言葉を借りれば、私がこの学園で軽んじられない為の牽制、私は養女だから実子より蔑ろにされやすい立場だけど、ルーキン家では実子と同じように大事にされているってアピールが必要ってことなんだよね、睡眠時間を削ってまで私の事を考えてくれているハンソン兄様、それに比べてお父さんは休みの度に飲み歩きだもん、ナタリーが怒るのも無理ないわ。
「お嬢様、馬車が到着致しました。さっ、急いで馬車へ向かいましょう。ハンソン様は、先生方へご挨拶に行かれる筈です。その間に、荷物を積んで置かなくては。」
そうね、これ以上ハンソン兄様のご迷惑になるわけにはいかないよね。
「わかったよ。急ごう。」
荷物を積み終え、ナタリーと馬車に乗り込んだ所にハンソン兄様がいらっしゃった。
「ジュリェッタ、暫くぶりだね。元気にしていたかい?」
「はい。クリスマス舞踏会のドレスありがとうございました。無事に参加することができました。」
ハンソン兄様が代金を支払って下さったんだもん、お礼ちゃんと言わなきゃだよね。
「ジョゼフ殿下にエスコートして頂いたと聞いたよ。凄く名誉なことだ、兄として誇らしいよ。」
この言葉だけで、ジョゼフ殿下にエスコートして頂いて良かったって思えるから不思議だよね。
「そう言って頂けると嬉しいです。」
「それでだ、ジュリェッタ、よく聞いてくれ。実は、ジョゼフ殿下との婚姻の話がでている。後、砂漠の国の第二王子との婚姻の話もだ。両方とも、まだ、打診の段階なので何の確約もない話なのだがどうだろう?」
やっぱり、私、ヒロインだよ!だって、攻略対象者との結婚の話がでるんだもん!なんだ、第二王子、素っ気ない振りしてしっかり私に気があったんだ。ゲームだと分かりやすかったんだけど、現実だと全く気が付かなかったよ。あーあ、学校でのラブラブイベント楽しみたかったなぁ。悪役令嬢がいないから、やっぱりイベント起こらなかったのかな?
「私には、勿体ない話です。でも、私、フリードリッヒ様と結婚したいんです。」
「フリードリッヒ殿かい?そう言えば、以前、君がフリードリッヒ殿のことをえらく気に入っていると聞いたことがあるな。ジュリェッタ、申し訳ないがその望みだけは叶えてやることができないんだよ。」
えーどうして?ジョゼフ殿下や第二王子との婚姻が可能でフリードリッヒが無理なの?やっぱり、彼が、ジョゼフ殿下の従者にならなかったから攻略対象者になってないってこと?
「何故ですか?」
「ジュリェッタ、君は学園にいたから知らないかもしれないが、我が家の仕えるリマンド侯爵家のマリアンヌ様と正式な婚姻が済んでいて、この春に式を挙げられることになっているんだ。」
はあ、フリードリッヒエンドはもう無理ってこと?
「わかりました。フリードリッヒ様は諦めます。」
ひとまずはね、もしかしたら、新たなルートが開けるかもしれないしね。ポーション事件で!大丈夫、仕込みは完璧なはず。さて、どうやって穏便にギルドへ行くかだね。
「わかってくれて嬉しいよ。私としては、ジョゼフ殿下との婚姻の方が安心なのだが、クリスマス舞踏会のパートナーとして誘って下さるくらいだ。気に入って下さっているのだろう。勿論、砂漠の国の第二王子でもいいよ?」
第二王子か、そんなに話した事がないんだよね。階段でぶつかるイベントで名前を覚えて貰って、通り雨で濡れて建物に入った時にハンカチを渡すイベントは済んだんだけど…。何せ、一番好感度の上がる悪役令嬢絡みのイベントが起こらないからなんとも言えないんだよ。まあ、それはジョゼフ殿下も同じくだけど…。
「あの、兄様。少し考える時間を貰っても…。」
「ああ、いきなりのことで驚いただろう。ゆっくり考えなさい、と言いたい所だがそうも言えなくてね。どちらとも候補はいくらでも居る。対象年齢の侯爵家の令嬢は居ないが、伯爵家の令嬢は何十人と居る。そういう事だ。」
なるほど、私が時間を掛ければそのチャンスが他の令嬢に移ると言うわけなのね。
「第二王子と婚姻する場合は、砂漠の国に嫁ぐことになるんですよね?」
「ああ、そうだね。」
「では、ジョゼフ殿下と婚姻した場合は、私は城で暮らすんですか?」
ジョゼフ殿下が皇帝になるためには、戦争が起こって、今の陛下が死ぬ以外に方法はないもんね。現時点では戦争は起こってないし、シナリオが変わっている以上確認する必要があるよね。
「いや、ジョゼフ殿下は婚姻後領地を与えられる予定だ。婚姻相手によってその領地が異なるが、もし、君と婚姻した場合は、私と私の妻の父となるアーバン辺境伯、そして、リマンド侯爵が後盾となり、アーバン辺境伯領の一部と我がルーキン領の一部をジョゼフ殿下が辺境伯として治めていくこととなる。その代わりに、我がルーキン家と、アーバン辺境伯は新しく開拓された土地を分け合うことになる。」
じゃぁ、陛下が死ななかったら辺境伯夫人なのね。うん、悪くないかも?皇后って大変そうだもんね。
「いつまでに返事をしたらいいですか?」
「冬の休暇が終わる前には報告する必要がある。後、両方とも候補になるだけで、選ばれない可能性があることも念頭に置いて欲しい。ジョゼフ殿下が学園を卒業と同時に式を挙げ、辺境伯として新しい名を得ることになっている。」
この国では、結婚しないと爵位を継げないんだっけ、どちらがいいか考えられる時間は一週間も無いわけね。




