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スミス侯爵の夜会 ①

 スミス家主催の夜会にお母様は行くのかと確認しましたら、お母様は今から国賓として上皇陛下とアーシェア国に行かれるそうです。どうりで、スタージャ様が私に参加するように強要なさるはずですわ。


 お母様の従姉妹が婚姻なさるそうでとてもウキウキしてらっしゃいます。なんとしてもクリスマス舞踏会までには戻ってくるわと言ってらっしゃいますが、魔馬でいかれるのでしたら、片道6日もかからないはずなのですが?クリスマス舞踏会までに1ヶ月以上ありますわよね?何日滞在される予定なんでしょう?


「ユリ、そう言うわけで、スミス侯爵主催の夜会に出席することになりましたの。」


 マリアンヌの言葉に刺繍糸を準備しているユリの手が止まる。


「お嬢様、どうしてそう言う大切なことをお帰りになってすぐに仰らないのですか?ああ、ドレスはどれに致しましょう。髪飾りは?靴は?あまりお日にちがありませんね。あっ、お嬢様、その日、テイラー伯爵はいらっしゃるんですか?」


 だから気が重いのよ、間違いなく親子で御出席なさるわ。

会場で会わないことを祈るばかりね。


「いらっしゃるわよ。」


「でしたら、フリードリッヒ様と揃いの衣装が宜しいですね。今から、新しくご用意する時間もございませんし、お嬢様の誕生日の日にお召しになったドレスに致しましょう。フリードリッヒ様と揃えてお作りしたものですし。」


 兄様の服と生地まで揃え、その上、兄様の紋章である青薔薇がスカートに大きく入っている、この上なく恥ずかしいドレスです。まさか、兄様の紋章が青薔薇だったなんて!あの日の私は全身薔薇…。


 で、現に今、刺繍しているのがその青薔薇。兄様にお渡しするハンカチです。婚約者なのですから、それらしく紋章と名前を刺繍したハンカチをお贈りしようと準備中なのです。


「今回はスミス家主催の夜会ですし、あのドレスでなくても…。」


 頬を染めておずおずと伺うマリアンヌに、ユリはバッサリと言い捨てる。


「テイラー伯爵がいらっしゃるんですから、あのドレスを着て行くべきです。あのドレスは、フリードリッヒ様のお見立てですので、後、誕生日にいただいたジュエリーもお付けくださいね。」


 ユリの目がキラッと光った。


 うっ、全身で兄様が大好きとアピールしているみたいで居た堪れないわ。


 一人で真っ赤になってブツブツ言っているマリアンヌをユリは見据えてピシャリと言い放つ。


「お嬢様、何を勘違いなさっているのか存じ上げませんが、ドレスは戦闘服でございます。フル装備で闘いに挑まれるべきかと存じますが。」


 そ、そうよね、テイラー伯爵親子に兄様目当ての令嬢達、相手に取って不足はないわ。しっかりと、兄様がだれの婚約者か理解して頂く必要がございますわね。特に、テイラー伯爵令嬢!やられたらやり返すのがリマンド家ですわ。


「ユリ、そのドレスを用意して頂戴、フリード様にもその旨伝えて。」


「畏まりました。」


 そうとなれば、この刺繍もちゃっちゃと済ませてしまわなければ!兄様のハンカチは、早目に全て私が刺繍したものに入れ替える必要があるわね。俄然やる気が出てきました。


 衣装部屋で夜会で着る予定のドレスとアクセサリーのチェックをしていたユリが神妙な顔をして部屋へ戻って来た。


「どうしたのユリ?」


「お嬢様、最近、薔薇のチョーカーをお付けになられましたか?」


 薔薇のチョーカーは兄様に頂いたものだ。首に巻く部分はヌメ革で真ん中に薔薇の硝子細工が着いている。春夏向きの涼やかなデザインの為、最近は使用していない。


「使ってないわ。あれは硝子細工ですから、今の季節は…。」


「そうでございますわよね…。」


 ユリの顔が浮かない。


「ユリどうしたの?」


「それが、無くなっていたのです。ガラスケースに他のアクセサリーと共にしまっておいたのですが…。」


 無くなっている?


「他のアクセサリーやドレスは?」


 物取りの犯行かしら?なら、他の高価なものも狙われるはずなんですけど…。


「それが、無くなっているのはそのチョーカーのみなんです。」


 チョーカーのみ?確かに質の良いものではありますが…、それよりもダイヤ等の宝石のほうを盗んだ方が還金率は高いですわよ?


「横に落ちているとかは無い?」


「はい、下も、他の棚も確認したのですが見つかりません。物取りの犯行としても、良い品ではあるのですが、なにぶん硝子細工ですので売っても二束三文にしかならないと思うんですけど…。リサにも見なかったか聞いておきますね。他のアクセサリーでしたら気にも致しませんが、フリードリッヒ様から頂いたものですし」


 ユリも何故、それだけが無くなったのか、皆目見当がつかないようだった。


「ええ、お願いね。」


 部屋の隅にでも落ちていたらいいんですけど、ユリやリサがそんなミスをするとは思えませんし…。後、あの部屋に入ったことがあるのはリンダだけですわ。


「あっ、リンダが間違えて他の所にしまったとか?」


「リンダに宝飾品をしまうように頼んだことはございませんが、今リンダは一週間暇を貰って実家に帰っておりますので、帰って来たら一応確認しておきますね。」

 

 犯人は一応クシュナ夫人とオルロフ伯爵ということで、リンダの疑惑も晴れましたしね、疑惑の所為で実家にも帰せていませんでしたしね。


 それに、今は社交シーズンですものね、リンダも夜会に出席する為に帰っているのかしら?確か、婚約者は居ないと言っていましたわ。なら、良き相手を探しに夜会に行かなければなりませんわよね。リサは平民ですから夜会に出席する必要はありませんが、ユリは騎士家の令嬢ですわよね。


「ユリは夜会に出席しなくても、良いの?」


「私は決まった方がおりますので、ご心配なさらないで下さい。」


 マリアンヌの言わんとしていることが、わかったのか、にっこりと返事をした。


 やっぱり相手はセルロスですわよね?


 マリアンヌの視線にユリは咳払いをして、フリードリッヒ様に衣装の件を伝えて、衣装の確認もして来ますわね。と言って部屋からそそくさと出て行った。


 いろいろ聞きたかったのに逃げられたわ。


 

 




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