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スタージャのお茶会

 スタージャ様のお茶会に招かれ、スミス邸にお邪魔しています。


「マリアンヌ、よく来てくれたわね。紹介するわ、こちらテイラー伯爵令嬢。マリアンヌに会いたいのでこの場を設けて欲しいとおっしゃったの。で、こちらが、エリオット伯爵令嬢、今、魔法学園にお通いになってらっしゃいますの。」


 スタージャはニコニコ、本日同席の二人をマリアンヌに紹介した。


 話の内容は、エリオット伯爵令嬢の魔法学園のことが中心だ、マリアンヌも、次の初夏入学する魔法学園の話を興味津々に聞いている。


「クリスマス舞踏会のパートナーを婚約がいない者達は、必死で探さねばなりませんの。ただ、女性が自分からパートナーを申し込むことははしたないでしょう、かと言って、下位の貴族が上位の令嬢を誘うことも容易ではありませんし、難儀致しますわ。」


 エリオット伯爵令嬢は、ほう、と溜息を漏らした。


「エリオット様はお兄様とご参加なさるのよね。兄が申しておりましたわ、妹に頼み込んでクリスマス舞踏会のパートナーにして貰ったって喜んでいたと。」


 スタージャはニコニコと楽しそうに、エリオット伯爵令嬢に視線を向ける。


「そうですの、私には婚約者がおりませんでしょう。お父様は、ジョゼフ殿下に嫁がせたいみたいなんですけど…。マリアンヌ様はジョゼフ殿下と幼馴染とか?」


 お父様がと仰ってますけど、エリオットさんご自身がジョゼフ殿下と婚姻したいと、で、私にジョゼフ殿下の情報を流して欲しいということでございますわね。


「ええ、幼少期よりジョゼフ殿下は存じておりますわ。ですが、反りが合いませんのよ。ジョゼフ殿下、私と正反対の女性がお好みらしくて。」


 リフリード様と同じで、ジュリエッタ嬢みたいな天真爛漫な方がタイプみたいですわよ。ジュリエッタ嬢といえば、確か魔法学園にエリオットさんと一緒に入学されていましたわね。


 エリオット伯爵令嬢はマリアンヌの言葉に思い当たる節があるのか、口を閉ざし考え込んでしまった。


「正式な婚約もお済みになりましたし、クリスマス舞踏会、今年はマリアンヌ様は行かれるのでしょう?」


 スタージャの言葉に、沈黙を貫き通していたテイラー伯爵令嬢がピクリと反応した。


「ええ、招待状を頂きましたのでフリード様と参加致しますわ。」


 マリアンヌの口から出た、フリードという言葉にテイラー伯爵令嬢の顔色が変わる。


「マリアンヌ様はフリードリッヒ様と幼少期にご兄妹のようにお過ごしになられたとお伺い致しましたわ。マリアンヌ様は家のためとはいえ、フリードリッヒ様との婚約にご不満はございませんの?」


 テイラー伯爵令嬢は挑むような目付きをマリアンヌに向ける。


「ございませんわ。フリード様との婚約は私もお父様も満足しておりますの、フリード様は既にお父様の仕事を手伝っておりますのよ。それにお母様ったら、正式な婚約もしていないうちに、フリード様にお義母様と呼ぶように強要なさる始末ですの。」


 マリアンヌの言葉にスタージャがクスクスと笑う。


「流石皇女様ですわ。フリードリッヒ様がお気に召したからって、お義母様呼びの強要なんて、聞いたことがございませんわ。まあ、皇女様はもとより、リフリード様よりフリードリッヒ様をマリアンヌ様の婚約者にと望んでいらっしゃいましたものね。」


 お母様が兄様を私の婚約者にしたいとお考えだったとは知りませんでした。


「そうでございましたの?」


「ええ、お姉様に散々愚痴ってらっしゃいましたわよ。」


 お母様、皇后陛下にそんなことを言う為に、ここを訪れてらっしゃったんですね。


「マリアンヌ様は、巷の噂話をお聞きになったことはございませんの?」


 テイラー伯爵令嬢は意味深長な言葉を吐き、伺うようにマリアンヌを見る。


「巷の噂でございますか?」


 なんのことでしょう?私がブスすぎて社交に顔を出せないというアレでしょうか?


「ええ、マリアンヌ様が権力を笠に見目麗しいフリップ家の兄弟を弄んでいるというものですわ。私は、そんなことは無いと信じていますわ、ですが、世間では…。ほら、フリップ家の三兄弟は、皆様見目麗しい方々でございますでしょう?婦女子の間で話題に登るのは必然でございますわ。」


 テイラー伯爵令嬢はさもマリアンヌを心配するような口振りだ。


「まあ、そんな噂がございましたのね、全く存じ上げませんでしたわ。」


 兄様の、テイラー伯爵令嬢は外堀から緻密に埋めて行くタイプと言う言葉を思い出した。


「あくまでも、噂でございますが、ね?」


 で、貴女がその噂を流した張本人というところでしょうか。


「あら、そんな噂がございましたのね。存じ上げませんでしたわ、市井ではフリードリッヒ様がマリアンヌ様にベタ惚れだと噂されていますわよ。学園でも、そのように聞き及んでおりますわ。」


 エリオット伯爵令嬢は嘘でしょうと言う顔でテイラー伯爵令嬢を見る。エリオット伯爵令嬢としてはマリアンヌとフリードリッヒの婚約が流れると都合が悪い、上皇陛下がジョゼフ殿下とマリアンヌの婚姻を強く望んでいることは周知の事実だ。


「マリアンヌ様があまりにも、夜会に出席なさらないから要らぬ噂が立つのですよ、テイラー嬢の仰る通り、これを機会に夜会に出席なさいませ。はい、これ、来週うちで開かれる兄主催の夜会の招待状、是非、フリードリッヒ様といらして下さいね。」


 この場を収めるようにスタージャがマリアンヌを夜会に誘う。


 スタージャ様、断れないようにこの流れで招待状を渡されたわね。


「でも、フリード様の都合が…。」


「フリードリッヒ様は非番になるように兄が手を回すと言ってましたわ。」


 これで、何か他に不都合でもございます?とでも言うようだ。


「でしたら、是非。」

 

 マリアンヌの返事に気を良くしたスタージャは、あとの二人を見てにっこりと笑顔を浮かべた。


「皆様も是非いらして下さいね。」


 コンコンとノックをする音がして、スミス家の執事がドアを開け、フリードリッヒが入って来た。


「マリアンヌお嬢様、フリードリッヒ様がお迎えにいらっしゃいました。」


「まあ、マリアンヌ様ったら、フリードリッヒ様をまるで従者のように御使いになって、可哀想なフリードリッヒ様。」


 テイラー伯爵令嬢は目に涙を浮かべてフリードリッヒを見るが、フリードリッヒはそれをまるっきり無視して、椅子に座っているマリアンヌの後ろに立つと腰を折り、マリアンヌの蟀谷に唇を落とす。


「スタージャ様、お楽しみの所申し訳ございませんが、そろそろ私のマリーをお返し頂けないでしょうか?」


「様でなくて、嬢で結構よ。正式にマリアンヌ様と婚約なされ、いずれは私の夫の上に立たれる方ですもの。」


 スタージャはフリードリッヒの行動に呆れ顔だ。


「いえ、それでも、義姉には代わりはございませんので。」


「わかったわ、では、呼び方はそのままで。来週の我が家の夜会にマリアンヌ様をお連れ下さるのなら、すぐにお返し致しますわ。はあ、市井での噂の原因を今垣間見ましたわ。」


「わかりました。スミス侯にもお誘いいただきましたので、是非伺います。さあ、マリー、スタージャ様の了承も得られたことだし御暇しよう。」


 フリードリッヒはスタージャの返事をまたず、立つことを促すようにマリアンヌの椅子を引き手を取る。


「そちらのテイラー嬢が、マリアンヌ様が貴方方兄弟を手玉に取っているという噂を教えて下さいましたわよ。お気を付けあそばせ。」


「ご忠告ありがとうございます、テイラー伯爵御令嬢。」


 フリードリッヒは冷たい視線をテイラー伯爵令嬢に向けると、マリアンヌの腰に手を回し部屋から出て行った。


 部屋に残されたのは、顔を真っ赤にして手で覆っているエリオット伯爵令嬢と、顔面蒼白のテイラー伯爵令嬢、そしてそれをどう収めようと思案するスタージャだ。


「スタージャ様、あの方が本当に鉄仮面と噂のフリードリッヒ様ですの?すっごく笑顔で、みている私が恥ずかしくなってしまいましたわ。」


 しどろもどろになりながら、エリオット伯爵令嬢はまだ恥ずかしそうに頬を押さえたままスタージャに視線を向ける。


「あれはマリアンヌ様の前限定ですわ。」


 呆れ顔のスタージャに、エリオット伯爵令嬢はキャーッと黄色い悲鳴を漏らした。


「巷の噂は全く当てになりませんわね、あれは、間違いなく、フリードリッヒ様がマリアンヌ様にベタ惚れじゃ無いですか!ああ、ロマンチックですわ。」


 エリオット伯爵令嬢はうっとりとまるで芝居でも観ているようだ。それとは対照的に、テイラー伯爵令嬢は先程の仕打ちに怒りで打ち震えていた。


 対照的な二人にスタージャは


「どうしたものか」


 と、ボソリと呟いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変面白く拝読しています。 [気になる点] 誤字を見つけたので、ご報告させていただきました。 『スタージャのお茶会』の最後、スタージャ嬢の名前が『スジャータ』になっています。 機会があ…
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