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乙女ゲー 二章 ②


 マダムの店を後にし這々の体で馬車に乗り込むジュリエッタにナタリーはニッコリと追い討ちをかけた。


「さ、お嬢様、次は宝石を見に行きましょう。」


 もう、疲れた。帰りたいよー!


 なんて、本音を言えるはずもなく、ジュリエッタは引き攣った笑みを浮かべるのがやっとだった。


 宝石を選び終えて、ぐったりとしているジュリエッタにナタリーが声を掛ける。


「お嬢様、遅目のランチでも召し上がりませんか?この先に、美味しいサンドイッチを出す店があるんです。近くに馬車を停めることができませんので少し歩きますが、いかがでしょう?」


 美味しいサンドイッチ!


「食べたい!デス。」


 元気よく答えるジュリエッタにナタリーはクスクス笑うと、承知致しましたと言い、御者にその旨を伝えに行く。二人は馬車に乗り、平民街へと向かった。


 馬車を降りて、ナタリーに案内されるがまま歩く。


 あっ、ここは噴水公園の近くだ。側にマルシェがあるのよね。マルシェには、ギルド市が開かれる場所があって、お父さんとお目当ての素材が無いか足繁く通ったんだよね。


 マルシェの裏にあるお洒落なレストランで、サンドイッチを食べながらナタリーのことを聞く。


 ナタリーは、ハンソン兄様の乳姉弟で魔法学園の卒業生だ。魔力の量が少なく、一番下のクラスですけどねって、恥ずかしそうに話してくれた。それから、ハンソン兄様が魔法学園に入学した時、従者として付き添ったそうだ。


 それで、魔法学園のイベントや勉強に精通してるのね。


 ハンソン兄様には、母の違う兄弟がいらっしゃって、仲が良く無い!むしろ敵って!今は家督を争ってらっしゃって、昔から仲が悪いらしい。ナタリーとナタリーの弟さんはハンソン兄様の両腕で、ルーキン伯爵はハンソン兄様に家督を譲りたいんだけど、家来?にそれを快く思ってない人が多いみたいな?そんな中、私に片腕のナタリーを貸してくれていると聞いた。ハンソン兄様が下二人と決別した理由は、ナタリーを魔法学園に行く際に貸すことを強要されて断ったことが原因だそう。


 私なんかにナタリーを貸してる余裕も、構ってる余裕も全くないじゃん、ハンソン兄様!


「ナタリー、私、何かハンソン兄様に恩返し出来ないかな?」


「なら、何があっても、誰に何を言われてもハンソン様をお信じ下さい。これが一番の恩返しです。」


 なるほど、兄様を悪く言って裏切るように仕向けてくる人達が沢山いるのね。了解!何があっても、私はハンソン兄様を信じるよ。


 食事を終え、ナタリーが雑貨の購入をすると言うので一緒に行きたいと言うと、


「本来なら、伯爵令嬢が侍女の買い物に付き合うことはございませんが、色々な物に触れる良い機会かもしれませんね。」


 と言ってくれた。


 ナタリーといろんな店に立ち寄りながら歩いていると、一軒の洋服屋の前で見知った人物を見かけた。


 あっ、悪役令嬢の侍女だ。


 引っ詰め髪に、濃紺のお着せ、ピンと伸びた背筋。正しくそうだ。


 侍女はなんの躊躇いもなく、その洋服屋に入って行った。


 自分の服を買うのかしら?でも、お着せだったから勤務中のはずだし…。なら、悪役令嬢の服?


「ナタリー、あの店は?」


「あそこは、リマンド侯爵令嬢の経営される洋服店でございます。下級貴族や、平民を対象となさっておいでだと伺いました。しかし、流石、侯爵令嬢、趣味の良い商品をお揃えだと評判ですよ。」


 あっ、私が踏んで破いたドレスが展示してある。


 なんだか嫌味だよね。


「ふうん。」


 その店を気にしているジュリエッタにナタリーが再び声を掛ける。


「入ってみられますか?」


 敵のリサーチは大切だよね…。


「うん。」

 

 中に入ると品の良いぽっちゃりとした年配の女性の店員と若い店員、そして客であろう若い女の子達がいる。


 あれ?悪役令嬢の侍女は?


 店内を見回すが、それらしき人物の姿は見当たらない。


 どこへ行ったんだろう、絶対この店に入って行ったんだけど…あっ、同じクラスのイヤミなエリオット伯爵令嬢。いつも、無視されてるし、声掛けないでいいよね。


 エリオット伯爵令嬢はお付きであろう侍女とドレスを見ている。


「ねえ、店長、このドレス見せて貰えるかしら?」


「かしこまりました、こちらへどうぞ。」


 店長に促されて、エリオット伯爵令嬢は奥の部屋へ入って行く。店長は指定のドレスと他に3点のドレスを手に取り後に付いて奥へと行ってしまった。


「ナタリー、さっきの人、同じクラスの…。」


 ジュリエッタはナタリーにそっと耳打ちする。


「エリオット伯爵御令嬢でございますね。」


「そう、ドレス選んでたんだけど…。」


 クリスマスの夜会用のだよね?


 ナタリーは頷いた。


 やっぱりそうだ、ふーん。ここで購入するんだ。


 ジュリエッタもドレスを見て回る。確かに洗練されたデザインでマダムの処に引けを取らない。


 あれ、町娘が着る服には値段の表示があるのに、ドレスには値段の表示がない。


 ジュリエッタは、若い定員になぜドレスには値段の表示がないのかを聞いた。


「ドレスは貴族の女性にとって戦闘服でございますので。」


 なるほどね、マダムの店の配慮と同じなんだ。


 あー残念、あの伯爵令嬢のドレスのランクが知りたかったんだけどなぁー。あんなに馬鹿にしてくるから、どれくらいの金額のドレスを作るんだろうって。


横を見ると、ナタリーも言わんとしていることをわかってくれたみたい。


「お嬢様、ドレスを一枚ご購入なさりませ。」


 購入すれば、店の相場はわかるもんね。


「でも、ナタリー、さっき購入したばかりだし、宝石だって買ったわ。」


 全ての請求がハンソン兄様に行くと思うと申し訳なくて…。かと言って、自分で購入できるだけのお金は無いし…。


「大丈夫ですよ、お嬢様。これくらいの甲斐性はハンソン様にございますので。」


「うん。じゃぁ…。」


 ジュリエッタが渋々頷くとナタリーは、ドレスを嬉々として選び出した、そこへ若い定員が側へすっと寄って来た。


「お客様、こちらのドレスは全て一点ものでございますのでご了承下さい。お気に召された物がございましたら、どうぞお呼び下さいませ。」


 それだけ言うと、また、すっと側から離れて行く。


 この店は、客が自分で選ぶタイプなんだ、で、質問があったら側に来て教えてくれるんだね。


 ナタリーと一緒にドレスを選ぶ。デザイン画より実際に形になっている方が、ドレスを作ったことのないジュリエッタにも選びやすい。


 可愛い!ワクワクする!


 真剣にドレスを選んでいると後ろから声がした。


「ナタリーさん、本日はお嬢様のお店をご利用頂きありがとうございます。」


 慌てて後ろを振り返ると、そこには、悪役令嬢の侍女の姿があった。それも、向こうから話しかけて来ている。ナタリーにだけど…。


 ナタリーは悪役令嬢の侍女と知り合いなんだ。


「当然ですわ、ユリさん。こちらではルーキン領の宝石や革を使ったドレスやアクセサリーを沢山取り扱ってらっしゃるんですもの。是非、うちのお嬢様にお召しになって頂きたいと寄らせて頂きましたの。」

 

 あっ、知り合いだけど仲良くは無いんだ。

 

「なら、こちらへどうぞ、こちらの品々はルーキン領のガーネットとシトリンをあしらったドレスです。」


 案内をされたドレスは淡い桜色の生地に、スカート部分の真ん中から下に大きな蝶を何匹もガーネットと絹の刺繍糸で描いたものだった。


 あまりの豪華さにジュリエッタは絶句した。


 隣にはシトリンを全体に散りばめたゴールドのドレスが展示してある。


 いったい幾らするの?ここって、平民と下位の貴族向けの店じゃなかった?


 ジュリエッタはこそっとナタリーの耳元で囁く。


「ナタリー、流石にこれは高すぎるって!兄様に迷惑だよ。」


「あら、お嬢様、寮のクローゼットをご心配ですの?なら、サイズの合わないドレスや、お顔映りのよろしくないモノを処分なされば良いではありませんか?」


 私のクローゼットのドレスは全て陛下から下賜されたものだって、ナタリーは知ってるよね?それを売ってお金にすれば買えるって言いたいの?でも、陛下に下賜されたドレスなんだよ?本当に売って大丈夫なの?というか、サイズの合わないドレスが混じってたなんて知らないよ。それは、本当なの?


「でも…。」


「大丈夫ですわ、ご用意下さった方は何を用意したかなんてお忘れですから!」


 これは、小声でジュリエッタのみに聞こえる声で囁く。


 勿論、見ず知らずの平民にあげるドレスを、陛下自ら選ばれるなんてないことは知ってるけどさ。


 煮え切らないジュリエッタの後ろから声がした。


「あら、ジュリエッタさん、こんなところでお会いするなんて!ジュリエッタさんもドレス選び?」


 ドレスを選び終わったであろう伯爵令嬢が声をかけてきた。


 忘れてた、エリオット伯爵令嬢もこの店にいたんだ。はあ、嫌な人こんな場面でわざわざ声を掛けるなんて、って、こんな場面だから敢えて声をかけたんだろうね。

 

「ええ、そうよ。」


「私はもう、選び終わりましたわ。まあ、なんて素敵なんでしょうこの二点のドレス。」


 ドレスを目にした伯爵令嬢は感嘆の声をあげ、うっとりとドレスを見つめた。


「我がルーキン領で取れた、シトリンとガーネットをあしらったドレスを見せて貰ってたの、ナタリー、両方とも見せて貰いましょう。」


 そうね、ナタリー、女には絶対に負けられない戦いがあるよね?


「どうぞ、ルーキン伯爵御令嬢、こちらへ」


 先程まで、エリオット伯爵令嬢を案内していた店長がジュリエッタとナタリーを店の奥に促した。


 悔しそうに顔を歪ませるエリオット伯爵令嬢を尻目に、ジュリエッタは気分良く奥の部屋へと入って行った。


 ユリさんは表情ひとつ変えないなんて、流石、悪役令嬢の侍女って所ね。


 奥には、部屋が幾つか設えてありその一つへと通された。ドアの向こうは、カーテンで二つに区切られていて、お針子が二名待っていた。奥がフィッティングルームになっており、手前には小さな二人掛けのソファーと小さなローテーブル、カーテン奥には、大きな鏡がありその前にはふわふわの絨毯が敷かれており奥のサイドの壁には、ハンガーを掛ける杭が3つ。


 お針子達がジュリエッタのサイズを測り始めるが、マダムの店より簡易的だ。


 店長がドレスの準備をしてお針子へ渡すと、さっと着付けられ、数カ所をピンで留める。


「いかがでしょう?ルーキン伯爵御令嬢。」


 あまりの手際の良さにビックリしてしまった。


 桜色のドレスはジュリエッタの髪の色とよく似合い、ガーネットが同じ色の瞳をさらに際立たせる。


「素敵!私のためのドレスね。ね、そう思うでしょうナタリー。」


「ええ、とてもお似合いです、お嬢様。」


 ナタリーはジュリエッタの姿に満足そうに頷いた。


 もう一枚のドレスも試着する。


 ああ、どうしよう、どちらも私の為にあつらえたものだよ。似合い過ぎて困っちゃう!でも、流石に本日だけで三着はね…。


 ジュリエッタはチラッとナタリーを見る、ナタリーも同じ気持ちだったらしく思案しているふうだ。


 コンコンとノックの音がして、ユリが入って来た。手には紙を持っている。


「ナタリーさん、こちらがこのドレスの値段になります。ですが、宝石は全てルーキン領のものですのでこの値段でいかがでしょう?」


 ユリが提示した値段が、思いの他安かったのだろう。ナタリーは即決した。


「なら、二着とも購入致します。いつ出来上がりますか?」


 ドレスに印を付けていたお針子が答える。


「一週間程お時間を頂けましたら大丈夫でございます。」


「一週間で!」


 ナタリーには衝撃的だったらしく、酷く驚いた様子だ。


「はい、このドレスはほぼ出来上がっておりますので、後はルーキン伯爵御令嬢の身体の形に合わせて補正をするだけでございます。今、その印を付けております。しっかりとフィットしたものにお仕上げいたします。」


 ホクホクと買い物をして、店を後にしようとした時、店の裏口から見覚えのある人物が入って行く様子が見えた。


 あれ、誰だっけ?見たことがあるような…。


 帰り道の馬車の中で思いを巡らせる。


 そうだ、見たのはゲームの画面越しにだ。あっ、不遇のデザイナー!人物を見るまですっかりその外見が抜け落ちていた。なんで彼女が悪役令嬢の店に?なら、マダムの店で私のドレスをデザインしたのは別の人物、全身からなんとも言えない嫌な汗が吹き出してくるのを感じた。


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