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乙女ゲー 二章 ①

 放課後、馬車乗り場の前でジョゼフ殿下を待つ。手には、洗濯されたマントにジョゼフ殿下が大好きなジンジャークッキー、頑張って刺繍したハンカチ。準備は万端よ!ここで、上皇陛下の使者が来るまでジョゼフ殿下と粘る!


 売り言葉に買い言葉という感じで、そこにたまたま居合わせたジュリエッタはジョゼフ殿下のクリスマス夜会のパートナーの座をゲットした。


 取り敢えず、ミッション成功ね。ジョゼフ殿下の好感度が70%くらいかしら?ドレスを贈るよって言葉がなかったから。


 ドレスを用意する必要があるわね、帰ってナタリーに相談しなきゃ!


 ブルーグレーのドレスを入手しなきゃね。これは、全てのキャラの好感度を上げる必須アイテム、不遇のデザイナーがデザインしたもので本当は表に出る予定はないものなのよね。確か最高級ドレス店マダムの店に買いに行ったときに、そこに勤めているそのデザイナーに会ってゲットできるの。


「ナタリー、ジョゼフ殿下のクリスマス夜会のパートナーになったの!」


 興奮気味に話すジュリエッタにナタリーは嬉しそうに両手を胸の前で合わせた。


「まあ、宜しかったですね。早速、ドレスを手配いたしませんと!マダムの店の予約は取ってあるので、次の日曜日の午前中に行きましょう。」


 ほら、ナタリー、すっごく喜んでくれた!その上、マダムの店の予約までゲットしてるなんて、流石ナタリー!


「ナタリー、いつの間に予約なんてしたの?」


 最高級ドレス店だから、中々予約できないんじゃあ?何せ、機械がないから、全て、手縫いか足踏みミシンで作業をしているんでしょ?レースなんて全て手編みだし!リフリード様にドレスを買って頂いた時、高っ!って、思ったけど、これを聞いたら相応だと分かったよ、量産できないし、その分の時間と手間が掛かってるんだね。ほら私、ユニ○ロとか、しま○らとか知ってるからさ。


「ジュリエッタお嬢様のお世話を仰せつかったその日でございます。それでも伝を頼りまして、頼み込んで代わって頂きました。」


 ヒェーっ。そんなに?半年弱前だよ?それでも予約が取れないんだ。マダムの店、恐るべしね。


「ねえ、ドレスを注文してから出来上がるのにどれくらいかかるの?」


 流石に一週間ってことはないだろうけど…。


「一月位です」


 一月?


「えっ、そんなに?」


 ははは、ルーキン家の養女になったことにこんなに感謝したことはないよ。私一人なら、クリスマスの夜会のドレス、確実に用意出来なかったよ。




 マダムの店は貴族商業街の一等地にあった。


 あれ?看板が文字のみ。


 慌てて、辺りの店を見渡すが全ての看板は文字のみだ。


 そっか、貴族にお父さんみたいに文字を読めない人はいないんだ。


 ナタリーに促されてキョロキョロしながら店に入ると、入り口に品の良い中年の女性が二人の若い女を従えていた。


「本日は、当店をご利用下さり誠に有難うございます、ルーキン伯爵令嬢。お待ちしておりましたわ。」


 見事なカーテシーで挨拶される。


 城の侍女達に挨拶くらい出来なければ、人前に出られませんって言われたことを思い出した。


 マダムはわからないけど、後の二人は確実に平民よね。


 完璧な礼儀作法に城の侍女達のような身のこなし、魔法学園の教師に言われた、『貴女があまりにも非常識ですので…』という言葉が、フラッシュバックする。


 奥の部屋へ案内される間、他の客を見かけることすらない。


 あれ、繁盛店で予約が取れないんじゃなかった?これじゃ、閑古鳥も良い所じゃない!ナタリーが恩着せがましく言っただけ?


 キョロキョロ、不思議そうにしているジュリェッタにマダムが声を掛ける。


「どうされました、ルーキン伯爵令嬢。」


「あっ、いえ、あのー。他のお客さんに会わないなぁなんて…」


 しどろもどろになりながら、馬鹿正直に疑問を口にしたジュリエッタに、マダムは嫌な顔一つせずにニッコリと笑って説明をしてくれた。


「当店をご利用くださるお客様は皆様、高位な方々でございますの。ルーキン伯爵令嬢は冒険者をなさっていたとか、ご存知ないのは仕方ありませんが、ドレス一枚作るにも時期やデザイン等が漏れますと命取りになる場合がございます、ですから、こうして、絶対にお客様同士が顔を合わせないように配慮しておりますのよ。」


 マダムが冒険者だから仕方ないと言う言葉を発したときに、ナタリーの眉尻がピクリと動いたのを、ジュリェッタは見逃さなかった。


 冒険者だったから仕方ないって、免罪符ではなく、常識知らずって言う侮蔑の言葉だったんだ。急に、今まで、免罪符のように使っていたことが恥ずかしくなった。

 

 カーテンで仕切られた空間に通されると、あれよあれよと言う間に、先程の若い二人の女に採寸される。マダムはナタリーと何やら話し込んでいるようだ。


「ドレスのデザインですが、こちらはどうでしょう?ルーキン伯爵令嬢。」


 マダムがいくつかのデザイン画を見せてくれる。どれも美しいものだが、何故か、ブルーとシャンパンゴールド、黄色のもののみだ。


 ブルーグレーのドレスが欲しかったからいいけど、何でこんなに偏った色ばかり?


 その中の一枚に淡いブルーのドレスのデザイン画を発見した。


 ふわっとした淡いブルーのスカート部分に、ゴールドの糸で所狭しと刺繍を施した胸元。肩と背中が開いたデザインで、開いた背中をスカートと同じ生地で編み上げ大きなバックリボンで留められていた。


 ヒロインのドレスに似ている!でも、何か少し違うような?何せ死ぬ前のことだから記憶がはっきりしてないんだよね、こんなドレスだったことは確かなんだけど…。

 

「こちらのドレスがお気に召しましたでしょうか?少しお待ち下さいませ、これをデザインしたデザイナーを呼んで参りますわ。」


 マダムが、若い女性にこそっと耳打ちをすると、若い女性はサッと部屋を出て行った。入れ違いにお茶とお菓子をトレーに乗せたジュリェッタよりだいぶ幼い女の子が入って来て、ジュリェッタとナタリーの前に置き、一礼して出て行く。


 城の侍女達と違いここで働く人は皆平民。その事実が、ジュリェッタに重くのしかかる。自分は生まれながらに貴族じゃないから出来なくて当然!だから、周りは大目に見て当たり前!それが通用しないことをまざまざと目の当たりにした。


 ジュリェッタは下唇を噛み締め下を向く。その様子にナタリーは目を細くして口元に笑みを浮かべた。ナタリーはジュリェッタに追い討ちをかけるべく、マダムに問う。


「先程、お茶を運んで下さった可愛い方は?」


「無作法ですみません。先月より、ここで働き始めた者ですのよ。布を買い付けに行った者が、両親を亡くして路頭に迷っているあの子を拾って来ましてね。ウチで雇うことに致しましたの」


 自分より年下の孤児、それが一月あまりであの所作を身に付けた事実。自分は何ヶ月専用の講師を付けて貰った?


 城の侍女達が言わんとしていたことが、此処に来て初めて身に染みた。


「そう言えば、マダムの店の店員は、皆、孤児でございましたわね。所作など、我がルーキン家の家令達に引けを取りませんわ。素晴らしいですわ。」


 ナタリーのその言葉がジュリェッタのプライドを粉々に打ち砕いた。


「皆ではありませんわ。ですが、殆どの子達がそうですわね。両親を亡くしているのに真っ直ぐに育ってくれて、皆、私の可愛い子供達ですのよ」


 ナタリーに褒められて、マダムは嬉しそうにコロコロと笑った。

 

 不遇のデザイナーって、ここで働いている人の殆どが不遇じゃない!


「失礼致します」


 30歳手前くらいのデザイナーが入って来ると共に、沢山の生地と糸が運び込まれる。


「さ、ルーキン伯爵令嬢、この者と先程のデザイン画を元にドレスの生地と刺繍を施します糸をお選び下さい。デザイン画の修正もお気軽にお申し付け下さいませ。」


 マダムが見守る中、ナタリーとデザイナーがジュリエッタに青系の生地を当てて、ああでもないこうでもないと真剣に選んでいる。


 はあ、なんだか疲れちゃった。もう、目がチカチカして全ての生地が同じに見えちゃうよ。


「お嬢様、こちらとこちらどちらが宜しいですか?」


 なんて、ナタリーに聞かれても、もう、違いなんてよくわからない。


「ナタリーが似合うと思うものを、デザイナーと相談して決めて」


 と言うのがやっとだった。


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